家同士の縁談によって、高瀬真帆(たかせ まほ)は、上流社会で「血も涙もない男」と恐れられる黒川恭介(くろかわ きょうすけ)との結婚を強いられた。恭介は冷酷非情で、情け容赦のない男だと噂されていた。幼い頃から誇りが高く、気の強かった真帆は、誰かに自分の人生を決められることが何よりも嫌いだった。ましてや、ろくに知りもしない、好きでもない男と結婚するなど、到底受け入れられるはずがない。だから真帆は、ことあるごとに反発した。恭介が最高級のジュエリーを贈っても、ろくに目も通さず金庫へ放り込み、「趣味が悪い」と言い捨てた。オークションへ連れていかれても、途中で席を立ち、親友の岸本奈緒(きしもと なお)と買い物へ出かけた。接待で酒を飲みすぎた恭介を迎えに来てほしいと秘書から連絡があっても、スマホの電源を切り、そのまま眠ってしまった。一度など、恭介が胃出血で入院したとき、真帆はパリにいた。奈緒とブランドショップを回っている最中にその知らせを聞いても、「そう」と一言返しただけで、何事もなかったように次の店へ入っていった。周囲の誰もが思っていた。ここまで好き勝手に振る舞っていれば、真帆はいずれ恭介から手痛い仕打ちを受ける、と。だが、恭介は何もしなかった。それどころか、真帆のわがままをすべて受け入れた。真帆がジュエリーを放り出せば、翌日にはさらに高価なものを贈った。オークションを途中で抜け出せば、秘書に会計を任せ、真帆が一度だけ目を留めた品を落札して届けさせた。迎えに来なかったときも、運転手を呼んで一人で帰宅し、責める言葉ひとつ口にしなかった。あの入院のときでさえ、旅行から戻った真帆を、退院したばかりの恭介が出迎えた。まだ顔色も戻っていないというのに、彼は新しく買ったダイヤモンドのネックレスを自ら真帆の首にかけ、低い声で尋ねた。「楽しかったか?」そのとき、真帆は思わず固まった。すぐ目の前にある恭介の顔を見つめる。彫りの深い端正な顔立ちに、冷ややかな目元。気品と近寄りがたさを併せ持ち、人混みの中にいてもひと目で視線を奪うような男だった。けれど、そのとき真帆を見つめる彼の目には、苛立ちも怒りもなかった。そこにあったのは、真帆には理解できないほど深い想いと、ひたむきな眼差しだけだった。その瞬間、真帆の胸
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