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29話

Author: 東雲桃矢
last update Last Updated: 2026-01-05 13:59:00

「小雪……! どうして、こんなことに……」

 座り込みそうになる明里を、花蓮が支えて椅子に座らせる。

 重苦しい空気の中、ピコンという、あまりにも場違いで間の抜けた音が成也のスマホから鳴った。

「ミアからだ」

 成也の言葉でふたりは素早く顔を上げる。

「明里に、自分の連絡先を教えておいてほしいって」

「そうね、是非そうして」

 明里はスマホを出し、成也からミアの連絡先をもらう。ミアにひと言、「明里です、連絡ください」とメッセージを送った。

「俺の連絡先も登録してほしい。今はこのザマで、大したことはできないかもしれないが……」

「分かった」

 成也と連絡先を交換していると、ミアからメッセージが届いた。

『明日、✕✕港の7番倉庫に11時にひとりで来て。警察に言ったり、誰かが同行してたり、盗聴、盗撮できるものがあったら、即座に小娘を殺すから』

「なんで、こんなことができるの……?」

 〝殺す〟の2文字が、明里の心拍数を一気に上昇させた。小雪が自分より先に死ぬなんて、考えたくもない。

「ミアは、なんだって?」

 明里が口を開こうとすると、こちらに向かってくる足音が耳につく。はやくしっかりしていて、苛立ちを感じさせる足音が。

 間もなくドアが乱暴に開けられ、怒りで目つきを鋭くさせた涼が、大股でズカズカと入ってきた。明里や花蓮には目もくれず、成也の前で立ち止まる。

「あんたの奥さん、ほんまにどうかしとるわ」

 軽蔑を孕んだ冷たい声と共にテーブルに投げられたのは、ミアが入院している小雪に渡した雪だるまのマスコットだ。マスコットはカツンと固いものがぶつかる音を出しながら、テーブルに着地する。

「これは……」

「GPS機能付きの盗聴器や。なんで小雪にこないなモン渡したん?」

「違う、俺は何も知らない」

「あんたが裏で糸を引いてるんとちゃう? 仕事やから言わんかったけど、あんたらには、明里を傷つけた前科がある」

「違う! 確かに昔、酷いことをした。反省してる。けど俺は何も知らないんだ!」

「ほぉん、そうやってシラ切るつもりなんか」

 明里は焦った。今の涼は冷静さを欠いている上に、成也を犯人と決めつけてしまっている。これでは解決するものもしなくなる。

「落ち着いて、兄さん。成也さんは本当に何も知らないの」

「なんで言い切れるん? 未練でもあるんか?」

「違う。会食始める前の会話を思い出
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