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第18話

Auteur: 鳳安
二人が病院に到着すると、月島南央は手術室から運び出され、意識を失っていた。

高橋菫はまだウェディングドレスを着たまま、ぼんやりとベッドの前に座っていた。

清水時佳を見つけると、彼女は突然飛びついてきて、鋭い爪で清水の顔を引っ掻きそうになった。

「どうして?どうして私と南央の結婚式を台無しにしたの?」

高橋は榊原北都に止められ、崩れ落ちるように泣き崩れた。

「南央があなたのせいで意識を失い、私と結婚することを拒んで、あなたのことを忘れられないでいるのを見て、嬉しいんでしょう?」

清水は彼女の泣き叫びを無視して、眉をひそめながら月島のベッドに近づいた。

彼の顔色はとても悪く、目を閉じていて、まるで死んだように見えた。

「手術が成功したら、もう大丈夫なの?」

「時佳、時佳」

月島は目を閉じたまま、清水の名前を呼んだ。

彼の表情は苦痛に満ちており、両手を空中で必死に振り回していた。まるで何かを掴もうとしているかのようだった。

高橋は急いで彼の手を取って、激しく震えながら叫んだ。

「南央、私がここにいるわ!」

「時佳、時佳じゃない!」

月島は高橋の手を振り払い、感情が高ぶり始めた。

看護師が部屋に入ってきて、驚いた表情で言った。「患者が『時佳』って呼んでるのが聞こえませんか?どちらが時佳ですか?早く行って、患者を落ち着かせてください!こんなに感情的になってるのに、見ていられないんですか?ほんとに彼が死んで欲しいんですか?」

清水は仕方なく月島の手を取った。

「ここにいる」

彼は清水の手を掴み、彼女の声を聞くと、ようやく落ち着きを取り戻した。

高橋はその光景を見て、目の色がどんどん曇っていった。

彼女は振り返ると、重い足取りで部屋を出て行った。

病室には三人だけが残った。月島はずっと清水の手を握りしめており、彼女は今夜、この場を離れることはできないと感じた。

「榊原さん、先に帰っていいよ」

「大丈夫、眠くない」

榊原は長い足を交差させ、隣のベットに横になった。

「今夜はここで時佳と一緒にいるよ」

清水は彼が横になったのを見て、目を閉じた姿を見て、特に無理強いはしなかった。

月島と一晩を過ごし、清水はベッドの脇にうずくまり、足がしびれてきたことに気づいた。

目を開けると、月島がすでに目を覚まし、彼女をじっと見つめていた。

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