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第2話「毒花リビドリア」

Autor: 真上悠
last update Fecha de publicación: 2026-08-26 20:41:58

 見上げるほどの巨大なシダ植物が群生し、苔生した遺跡が眠る秘境の森。

 先陣を切って鬱蒼とした獣道を駆け抜けるディーネの足取りは、羽のように軽かった。

 時折振り返る彼女の水色の長い髪が、木漏れ日を浴びてきらきらと跳ねる。

 未知の景色への興味だけが、彼女の視線を前へと押している。

 背後には、大柄で筋骨隆々の彼が、油断なく周囲を警戒しながら黙々と追従している。

 突如、足元で奇妙な植物の蕾が弾けた。

「えっ――」

 振り返るより早く、強い力で突き飛ばされた。

 地面に転がったディーネの視界を、むせ返るような甘い匂いを放つ紫色の花粉が覆い尽くす。

「ちょっと、何すんだい! 泥だらけじゃないか――」

 文句を言いながら身を起こした彼女の青い瞳が、一瞬にして険しさを帯びた。

 彼女を庇って花粉を真正面から浴びた彼が、地面に膝をつき、滝のような汗を流して苦悶していたのだ。

「……あんた、ちょっと大げさじゃないの? ただの花粉だろ?」

 呆れたように言い放ったディーネは、すぐに異常に気づく。

 熱量が明らかに“通常の毒反応”の範囲を超えていた。

 首筋に浮かぶ青筋、乱れた呼吸、そして筋肉の過剰な緊張。

(……反応が早すぎる。これは催淫系の毒か)

 ディーネは記憶を辿るように目を細めた。

「……はぁ。まさか、《催淫花リビドリア》か」

 古い文献で見たことがある。

 神経を強制的に興奮状態へ落とし込み、放置すれば心身の負荷で死に至る厄介な毒花。

「逃げ、ろ……。俺は、もう……っ」

 理性が崩れかけながらも、必死に地面を掴み、彼はなお彼女から距離を取ろうとしていた。

 その様子に、ディーネは小さく舌打ちをする。

「……ほんと、バカだねえ」

 彼女の胸の奥では、妙な計算だけが動いていた。

 放置すれば、この男は死ぬ。

 この森で戦力を失うのは単純に面倒だ。

 それに、元弟子である以上、無駄死にされるのも後味が悪い。

 それ以上でも以下でもない。

 ディーネはそう結論づけると、迷いなく歩み寄った。

「……ここで死なれたら、これからの旅の荷物持ちがいなくなって不便だろうが」

 揺れる心情を隠すように粗野に笑い、ディーネは彼の目の前でゆっくりと膝をついた。

 彼をじっと見据える青い瞳には、情ではなく、状況処理としての判断だけがある。

「……仕方ないね」

 ぽつりと呟き、ディーネは自らの衣服の胸元へそっと指先を掛けた。

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  • 愛を知らない女師範、愚直な弟子に愛を教わる ~最強の水の柱は今日も素直になれません~   第4話「覚悟の痛み」

     薄暗い岩の空洞。肌を刺すような冷気など、今の二人には全く感じられなかった。 ディーネは、荒く息を吐きながら蹲る彼の腰に跨ったまま、小さく震える己の膝を睨みつけていた。(どうして、あたしがこんなことを……) 込み上げるのは、理不尽な事態に対する純粋な怒りだった。 自分を庇ってこんな目に遭ったこの大馬鹿者にも腹が立つ。 放っておけば死ぬ。 それは分かっている。 こんな旅の始まりで終わられるのは気に入らない。 せっかく面白くなりそうだったのに。 ――だから助ける。 ただそれだけの話だ。 そう思っていた。 なのに。 すべてを曝け出し、今まさに男の熱を受け止めようとしているこの瞬間になると、経験したことのない居心地の悪さが胸の奥を掻き回した。「……ほんと、どこまでも世話の焼ける男だね」 吐き捨てるように呟く。 ここで逃げれば終わりだ。 なら、やるしかない。 ディーネは深く息を吸い込むと、限界まで熱を放つ彼の芯へと狙いを定め、一気に腰を沈め込んだ。「ッ――ぁぁっ!」 体を真っ二つに裂かれるような鋭い痛みに、ディーネは大きく顔を歪めた。 無意識に彼の広い肩にすがりつき、爪が食い込むほど強く握りしめる。 その悲鳴に近い声に反応したのか、毒に侵され朦朧としていた男の目に、一瞬だけ理性の光が宿った。「ディ、ネ……だめだ、俺は……お前を、傷つけ……っ」 かすれた声で彼女を突き放そうとする太い腕。その期に及んでまだ己を案じる不器用さに、ディーネの怒りが再燃する。「黙りな! 今さら引き返せるかよ……ッ」 彼女は痛みに震える足に力を込め、逃げようとする彼の腰を両手でガッチリと押さえつけた。 その必死さに応えるように、彼の腕が彼女の背中を折れんばかりの力で抱きしめ返す。「……すまない、俺の命……お前に、預ける……っ」「……当たり前さ。今さら死なれちゃ困るんだよ」 気丈な言葉をぶつけながらも、彼女の瞳からは生理的な涙がひとすじ零れ落ちていた。 男の本能が毒に急かされるように、下から荒々しく突き上げ始める。激しい痛みが走るたび、ディーネは奥歯を噛み締め、彼の首筋にしがみついた。 薄暗い洞窟が更なる湿気で満たされた頃――命を繋ぎ止めるための必死の行為で、彼の熱は少しずつ落ち着きを取り戻し始めた。 それを感じながら、ディーネは小さく息

  • 愛を知らない女師範、愚直な弟子に愛を教わる ~最強の水の柱は今日も素直になれません~   第3話「手中の熱」

     薄暗い岩肌に、荒々しい呼気がぶつかっては反響している。 這うようにしてたどり着いた洞窟の奥で、彼は壁に背を預けたまま苦しげに身を丸めていた。「……で。あたしは、何をどうすればいいんだい」 水色の髪を無造作に掻き上げ、ディーネは腕を組んで見下ろす。 戦う術ならいくらでも知っているが、これは戦闘でも治療術でもない。 ただ、毒の作用として“異常な生理反応”が起きているだけだ。「……教えるものか。頼むから、俺から離れろ……」 血が滲むほど唇を噛み締め、彼は掠れた声で拒絶する。 自らの状態を理解しながらも、なお彼女を遠ざけようとするその執着が、ディーネにはひどく歯痒く、苛立たしかった。「……ほんと、いい加減にしな」 舌打ちと共に手を伸ばし、彼を覆う布地を力任せに引き剥がす。 恥ずかしいけど今はそれどころじゃない。毒の影響範囲を確認するための処置だ。 抵抗する気力すら残っていない彼の身体を露わにすると、ディーネは自らの衣服にも手を掛け、次々と冷たい地面へ放り投げた。 ひんやりとした空気が、素肌を撫でる。 その刺激が、毒による過剰な反応をわずかに観察しやすくする。「あんたが言わないなら、自分で探り当てるまでさ」 彼に詰め寄り、その間近で反応を確認する。 初めて目にする男の身体に、ディーネは思わず眉をひそめた。(……これ、普通じゃないよね? リビドリア特有の症状か) 彼女は指先で慎重に触れ、反応の変化を観察するように動かす。 そこには意図も快楽もなく、ただ毒の作用点を探るための試行だけがある。「っ……ぁ……!」 彼の喉から、抑えきれない反応が漏れる。 それが刺激への反射であることを確認し、ディーネはわずかに目を細めた。(ちょっと触れただけでこれかい!? でもまだ……) 観察結果を更新するように、指の動きを微調整する。 やがて彼の身体が大きく跳ね、反射的な排出が起きる。 それによって一瞬だけ熱のピークが下がるのを確認し、ディーネは小さく息を吐いた。 だが、症状はまだ終わっていなかった。「……これじゃ、足りないってのかい……」 額の汗を手の甲で拭う。 一度落ち着いたように見えた熱は、まだ収まる気配がなかった。 自分にできる処置は、もう一つしか残されていなかった。 ディーネはゆっくりと身を起こし、荒い息を繰り返す彼の上に

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