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第4話

Auteur: ゆゆ
雅美はそっと目を閉じた。

ここ2年間、自分は渉の浮気を暴き、その場をめちゃくちゃにし、物を投げ捨てては、人として恥ずべきことばかりしてきた。

そのたびに渉は、自分が落ち着くのを待ってから適当な言葉でなだめ、自分が見ている前でその女たちを追い払うだけだった。

なのに今は、遥が翠に手を出したくせに、夫の方が自分に対して、「妻としての自覚」なんてと言ってくる。

「愛人を堂々と家に連れ込み、翠の誕生日パーティーでその姿をさらしといて、今さら顔だの『自覚』だの言う資格があると思ってるの?」

渉の顔色が曇りかけたその時、楓が口を挟んでそれ以上深追いするのを止めた。

入念に準備した誕生日パーティーは、後味の悪さを残して終わった。

招待客たちは気を遣ってそそくさと引き上げ、後には散らかった会場と重苦しい空気だけが残された。

翠がショックを受けてその晩熱を出したので、雅美は付きっ切りで看病した。

翠を寝かしつけた後、雅美は資産整理に取り掛かることにした。

しかし、渉の父親である原田宏(はらだ ひろし)が翠のために設立した家族信托を照合した時、異変に気が付いた。

口座から大金が臨時に引き出されており、その承認者はなんと渉だった。

金額は膨大で、信托金のほぼ全額にあたる額だった。

どうしてこんなことが……信じられない。

背筋が凍りつき、目の前が真っ黒になる思いがした。

雅美はすぐさま渉に電話をかけたが、何度かけても繋がらない。

電話を切ると、そのまま原田グループ本社へと車を走らせた。

最上階の社長室の前で、渉の秘書が止めるのを無視して詰め寄る。「奥様、社長は今取り込み中でして……」

雅美は構わず、ドアへと向かった。

手をかけた瞬間、ドアの向こうから女性の艶めかしい声と、男の荒い息遣いが聞こえてきた。

雅美は立ち止まり、吐き気を押し殺すように深呼吸をしてから、その扉を開けた。

社長室の中には、むせ返るような男女の営みの空気が漂っていた。

デスクの端には遥が半分服を脱ぎ散らかして座っており、スカートを腰までたくし上げた状態で入り口に向かっていた。

対して渉は入り口に背を向けていて、シャツを乱している。

遥は動じることなく雅美と目を合わせ、挑発的な笑みを浮かべた。

次の瞬間、わざとらしく悲鳴を上げ、渉の懐に飛び込んだ。

渉の手が一瞬止まり、わずかに眉間にしわが寄った。

妻に浮気現場を押さえられたという焦りは微塵もなく、彼は淡々と服を整え始めた。

背後に遥を隠すようにかばい、のんびりとタバコに火を点けてから、ようやく雅美に視線をやった。

「なんだ、急にどうした?」渉はけだるげに言った。「何か用か?」

雅美は2人を見るのも耐えられず、突き付けられた資産履歴を見せつけた。

「家族信託の金がほとんど引き出されているわ。あなたがやったの?」

渉が答える前に、その後ろに隠れた遥が小さく声を上げた。

「ごめんなさい、渉さん。私が抱える違約金のせいで翠ちゃんの金を使うことになって、それで雅美さんを怒らせてしまって……

私が悪いの……」

渉はなだめるように遥の手の甲を軽く叩き、それから視線を雅美に向けた。

「そんなに腹を立てるな。前のパーティーで大勢の前で遥を侮辱したから、彼女はずっと泣いていたんだ。

この金は翠の代わりに俺が払ったちょっとした、遥への補償だ。これで丸く収まるなら安いもんだろ?」

補償だと?娘のものを使って、愛人の尻ぬぐいをするつもりなの?

雅美は耳鳴りに襲われ、意識が一瞬遠のくのが分かった。

渉がどれだけ身勝手でも、翠にとって良い父親であり続けていると信じたかった。

だが現実は残酷にもその期待を粉砕し、自分に突きつけてきた。

その時、社長室の扉が叩かれた。

「社長、会議のお時間です」

渉は何気ない様子でシャツを整えると、遥を連れて外へと出ようとした。

雅美の側を通る際、一度歩を止めて言葉を投げた。

「まあ、そう不機嫌になるな。最新のジュエリーを注文しておいた。家に着いたら届くようにしてある。翠へのお詫び代わりだ」

そう言い放つと、彼は迷うことなく雅美の横をすり抜け、ドアを開けた。

がらんとした社長室に、男女の生々しい匂いだけが雅美とともに残された。

社長室のあちこちに見覚えのある装飾が残っており、ここでかつて渉と良い思い出を共有した時の光景がよみがえった。

今はただ、この社長室でどれほどの女と関係を持ったのかと思うと、ただ胸が悪くなるばかりだ。

あのかつて抱いた愛情も、今では嫌悪感以外何物も残っていない。

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