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第1312話
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慌てて元旦那を高嶺の花に譲った後彼が狂った 第1320話
こっちはもう構えてたのに、それかよ！紀香はこれが清孝のわざとだと気づき、足を上げて蹴りを入れた。そのまま背を向け、布団を奪い取って丸ごと体に巻きつける。背中全体が恨みがましさでいっぱいだった。清孝は気にもせず、彼女ごと布団を抱き寄せる。耳元で低く笑い声をもらした。「そんな顔をされると……欲求、不満にしか見えないな」わざとらしく間を置き、からかいが明らかだった。紀香は肘を突き出した。だが布団に絡まって、力を出せなかった。耳元で響く男のくぐもった笑いは、明らかに彼女を笑っている。それがまた彼女を怒らせた。込み上げた感情は一気に溢れ、涙がこぼれ落ちた。清孝は腕に伝わる熱い滴を感じ、すぐに体を起こした。彼女に涙もろい癖があるのを知っていた。それでも、涙を見ると胸が締め付けられる。親指でそっと目尻の涙を拭い、低い声で謝った。「悪かった、泣くな。君がどうしたいか、俺は従う」布団が緩んだ瞬間、紀香は身を翻し、彼をベッドに押し倒した。清孝は彼女が倒れないように支えながらも、完全に「されるがまま」の姿を見せた。紀香は涙を拭い、訴えた。「あなたって本当に悪い人。わざと餌をぶら下げて、決してはっきりさせてくれない。裸で私の前をうろついて。挙げ句の果てには、わざとあそこへ導いておいて、何もせずに余計な想像だけ残して、最後は私に先に動かせる。そうやって高みから、『君が望んだんだ』って言えるでしょう！」言っていることは的確だった。確かに彼女は成長して、賢くなっていた。清孝は満足げに彼女を見て、優しく問いかけた。「じゃあ今、君はどうしたい？」紀香の手に伝わるのは、燃えるように硬い筋肉。心の中は千々に乱れていた。――食べてしまうか。もし自分から食べてしまえば、彼は得意げになるだろう。そしてこれからずっと、この件を引き合いに出すに違いない。彼の策謀は、きっともっと多くのことに彼女を巻き込んでいく。だが……ここまで来て食べないとなれば、それもまたもどかしい。きっと今夜、眠れなくなる。清孝は、彼女の眉間にしわを寄せた美しい顔をじっと見つめていた。声を出すことなく、両腕を頭の下に組み、余裕たっぷりに観察していた。夜はまだ長い。今夜がだめでも、復縁の夜には必
慌てて元旦那を高嶺の花に譲った後彼が狂った 第1319話
「あなたが泊まる場所なんてないはずがないよ」清孝は彼女の体をくるりと向かせ、目を閉じているのを見て吹き出した。「前は必死になって見ようとしてたくせに、今はどうした？」「……」紀香はかつて、ドラマや小説の影響を強く受けていた。藤屋家に守られ、清孝に見張られていた彼女の周りには、彼以外に男はいなかった。仮にいたとしても、腹筋なんて見られるはずもない。だから当時は、彼が訓練をしている時や服を脱ぐ場面でしか、こっそりと覗くことができなかった。春香もそんな彼女を何度か助けてくれた。若い頃、清孝が彼女を助けて肩を怪我し、入院した時。薬を塗るのに服を脱がざるを得ず、その数日間、彼女はどうしても世話をしたがって、少なからず目にしたものだった。だがそれも十八歳までの話。子供の遊びのようなもので、大人が深刻に取り上げることではなかった。それ以降、彼女にはそんな機会は訪れなかった。今は……見てはいけない。心を乱すだけだった。「清孝、あなたって最低」清孝は苦笑して、「うん、どうせ全部俺のせいにするんだろ。だったらもう言い争わない。何もかも俺が悪いってことでいい」と言った。「でも一つだけ聞く。あの雲海の写真が賞を取ったら、俺と復縁するって言ったのは本当か？」紀香はまた彼の仕掛けに乗せられるのを恐れて、答えなかった。「ちゃんと録音してある」彼女は慌てて目を開け、流れるような筋肉の線を見てしまい、すぐにまた目を閉じた。閉じるのが遅れていたら、視線がどこに落ちていたか分からない。「変態！」清孝は弁解した。「また雲海を見逃すと困るから、たくさん機材を設置しただけだ。あんなサプライズが撮れるとは思わなかった」「……」紀香は、やっぱり彼の術中に落ちているのを感じた。「そう言ったのは確かよ。でも、まだ賞を取ってないでしょ」「ならつまり、君は俺と復縁したい――つまり俺を好きってことだろ」清孝は畳みかけた。「俺も君が好きだ。なら今の俺たちは恋人同士、そういうことでいいな」「……」紀香は黙り込んだ。何も言わなければ、間違いを言うこともない。彼に振り回されることもない。けれど彼女は清孝を甘く見ていた。彼は相手が降参するまで決して攻める手を緩めない。相手を膝から崩れ落ち
慌てて元旦那を高嶺の花に譲った後彼が狂った 第1318話
清孝の目に、意味深な笑みが一瞬よぎった。彼は平然と言った。「俺が駆け引きした？本気で話してるだろう。ただ昔のことを聞いただけだ。何も企んでない。君が勝手に考えすぎてるんじゃ……心当たりでもあるのか？」紀香はすぐに反論した。「あるわけないでしょ！」そして弱々しく続けた。「私は間違ったことなんてしてない。あの時の告白は本当だったし、おばさんに言ったことも、あなたのためだった。その後連絡しなかったのも、あなたの態度が冷たくて怖かったからよ。だから悪いのは全部あなた！」清孝は笑った。「わかった、全部俺が悪かった」そう言って彼女を放し、立ち上がってバスルームへ向かった。紀香は呆然とその場に取り残され、どうして急に話が終わってしまったのか理解できなかった。結局、会話は何も解決しないままだった。けれど今はそれが問題じゃなかった。彼女はバスルームのドアの前まで追いかけて、軽くノックした。「清孝、お風呂入るの？」返事はなかった。耳を当てると、水の音がかすかに聞こえた。――たしかに、今は恋人同士。でも恋愛をしてきたわけじゃないし、長く続いたすれ違いもある。隔たりが全くない、なんてあり得なかった。普通のカップルのような自然な親密さとは程遠い。さっきの近さだって、全部清孝に引き込まれた結果。彼は昔から図太かった。……清孝がシャワーを浴びている間、紀香は手持ち無沙汰で、とても眠れる気分ではなかった。そこで実咲の部屋へ行ってみた。だが中には何も残っていなかった。まるで実咲が最初から存在していなかったかのように。兄との間に何があったのかは分からない。それでも、この間実咲は確かに彼女を助け、優しくしてくれた。「はぁ……」ため息をつきながら部屋を出た。思考が散漫で、注意もおろそかになっていた。ドアを閉めて振り返った瞬間、硬いものにぶつかり、冷気までまとった感触に鼻先が濡れる。「ぼんやりして。お兄さんのこと？それともあの助手のことを考えてた？」声を聞いて顔を上げた瞬間、紀香は目の前の光景に呆然とした。「どうして私のバスタオル使ってるの！」清孝は平然と答えた。「バスルームにタオルはこれしかなかった。これを使わなきゃ裸で出るしかないだろう」ぐっと彼女に
慌てて元旦那を高嶺の花に譲った後彼が狂った 第1317話
「わたし……」紀香は彼の肩に身を預け、声を柔らかくした。「直接言ってくれない？」「いいよ」清孝は素直にうなずいた。「君はあの時こう言った――よく考えたら、清孝を好きだって気持ちは勘違いで、兄妹の情を恋だと思い込んだだけ。本当は、私は彼のことを好きじゃないのかもしれない――」「……」「だいたいそんな意味だったな。細かいところは、時間が経ちすぎて覚えてないけど」紀香は、彼が忘れているわけがないと確信していた。もし本当に気にしていなかったなら、あの後の彼の態度は説明できない。一通のメッセージすら寄こさず、藤屋家に呼び戻す時でさえ部下を通じて連絡してきた。「あなた、本当に根に持つんだから」清孝はふっと笑い、彼女をさらに引き寄せた。唇の端にキスを落とし、「ああ、俺は根に持つ」と囁いた。「君に悪かったことは謝って償う。でも君に対して正しかったことは全部覚えてる。それは必ず君から取り返す」紀香は慌てて彼の手首を掴み、早口になった。「清孝、あの言葉にはちゃんと説明があるの！」「うん、話してごらん。聞いてる」「……」紀香は彼の膝から降りようと身をよじった。けれど彼に低い声で制された。「香りん、これ以上動かないほうがいい」紀香は硬直したまま、必死に説明した。「だって、あの時のあなたの態度が……私のことを好きじゃないって思わせたの。それで、おばさんが無理にでも私と結婚させようとしたら、あなたがもっと怒るんじゃないかって怖くて。だから、あんな嘘をついて誤魔化したの」そこまで言うと、ふとひらめいたように目を見開いた。「じゃあ……あなたが結婚に応じたのは、私がその言葉を言ったからで？その後、三年間も冷たくしたのも、あの言葉のせい？」「清孝、あなたの器は針の穴よりも小さいわ」清孝は笑った。「俺は確かに怒ってた。だって、ついさっき『好きだ』と断言しておきながら、次の瞬間には『勘違いだった』なんて言う奴がいるか？それに、俺が連絡しなければ、君は自分からもしない。そんなの、本当に好きって言えるのか？」「……」紀香の混乱した頭は、ますます混乱していった。「違うの、私は……私はただ、あなたを怒らせるのが怖かったの。あなたから連絡が来なければ、きっと私を嫌ってるんだ
慌てて元旦那を高嶺の花に譲った後彼が狂った 第1316話
紀香は呆れたように言った。「今夜はお酒なんて飲んでないでしょ。どうしたの、ジュースで酔ったの？」清孝は彼女を放し、勝手に知ったる家のように靴を履き替え、シャツのボタンを外してソファに腰を下ろした。「？」紀香も靴を履き替えてついて行き、彼の正面、テーブルの上に腰を下ろし、真剣な顔で言った。「ちゃんと説明してよ！」清孝は背もたれに体を預け、気だるげに構えた。「何を説明すればいい？」「私は――」言い終わる前に、男が突然身を乗り出してきた。紀香は言葉を飲み込み、目の前の端正な顔に目を見開いた。彼のシャツはすでに四つのボタンが外されていて、動くたびに鍛えられた筋肉のラインがちらつく。自然と視線が襟元へ吸い寄せられ、喉がからからに渇いていくのを感じた。「香りん、言葉には責任を持てよ」「わ、私……」細い腰をしっかりと抱え込まれ、気づけば彼女は彼の膝の上に座らされていた。驚きで身動きが取れない。「な、なにを……」清孝の瞳は深く沈み、それでも家のことについて語り出した。「大阪に家を買ったのは、もともと俺の最初の勤務先がここだったからだ。けど購入した直後に異動になり、別の都市へ行くことになった。もう売却して買い直す余裕はなかった」紀香は信じ切れずに言った。「部下はたくさんいるのに、任せればよかったんじゃない？」「結婚の家は自分で用意したかった。しかも君が一度でもあの家に足を運んだ以上、もし俺が売って別の家を買ったら、何の説明もなしに君は二度と来ないだろう」清孝は手を伸ばし、彼女の頬を優しく撫でた。「俺にとっては、それも一つの記念なんだ」紀香は言葉を失った。「それから、君が言っていた件……君に告白された時に見せた怒りが本物だったかどうか――」彼の手はすでに彼女の腰へと滑り、声は低くかすれていった。「表ほど怒ってはいなかった。むしろ、心の中ではすごく嬉しかった」その瞬間、紀香は冷静さを保てなかった。彼の指先が火を点け、五感すべてを奪われていく。何を言っているのかさえ、もうまともに耳に入らなかった。最後の理性を振り絞り、彼女は問うた。「じゃあ、どうしてあの時……」清孝はふと、あの午後を思い出した。「本当は意外だったんだ。君に告白される前、俺は兄妹から夫婦
慌てて元旦那を高嶺の花に譲った後彼が狂った 第1315話
車が地下駐車場に入ろうとした時、紀香は再び口を開いた。「地下は道がややこしいから、私のマンションの前で降ろして、そこでUターンして帰っていいわ」だが清孝はそのまま地下駐車場へと入り、彼女が契約している車庫に車を停めた。「……」紀香はシートベルトを外して降り、彼も車を降りたのを見たが、深く考えはしなかった。「ここまででいいから」清孝は落ち着いた声で言った。「部屋まで送る。君が中に入るのを見届けたい」「ここは安全よ」結局、彼女は彼に押し切られ、部屋まで送られることになった。指紋認証で玄関を開けながら、紀香は言った。「もういいでしょ」「君が入るのを見てからだ」彼の執念に根負けし、鍵を開けて中に入った。振り返って別れを告げようとした瞬間、背中を軽く押され、扉が閉まる音がした。次の瞬間、背後から彼に強く抱きしめられていた。「……」その時ようやく彼女は気づいた。彼がここまで送ってきたのは、最初から計画していたことなのだと。「清孝、やめて。まだそういう関係じゃないでしょ」清孝は彼女の耳元に軽く口づけ、囁いた。「君が『過去はもう水に流す』って言ったんじゃないか。なら、今の俺たちは恋人同士だろう？」「……」紀香は顔を青ざめさせ、必死に言い返した。「恋人だからって、必ずそういうことをするわけじゃない」耳元で、低くくすぐるような笑い声が響いた。彼女の耳を掠めるようにして、心をくすぐる。実のところ、紀香には彼を拒む力がなかった。かつての反発は、彼の行いが嫌悪感を抱かせたから。そして、彼と二度と関わりたくなかったからだ。だが今は、互いに腹を割って話し合い、復縁を控えている。確かに今は「恋人同士」。ほんの少し彼に翻弄されただけで、彼女は崩れ落ちそうになる。だめだ！まだ簡単に許してはいけない。「清孝、私……怒ってるから」耳元にため息が落ちた。仕方なさを含みながらも、甘やかな響きだった。「わかった、君の言う通りにする。ただ、俺には泊まる場所がない。この大阪にいる間、ここで世話になってもいいか？」「？」紀香は耳を疑った。「さっき、あなたの家から来たばかりじゃない！」「それは俺の家じゃない」彼の堂々とした声に、紀香は思わず苦笑いした
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