LOGIN富裕層が住む街、リシェスには、様々な家庭がある。 5人の少女達は、教育ママからの虐待に怯える日々を過ごしていた。 そんな少女達に手を差し伸べたのは、リシェスで唯一の独身女性、ジャスミン。 彼女はおもちゃすら買い与えられないが達のために、リシェスから少し離れた場所にある別荘を貸し、フランス人形やお菓子を置いた。 少女達はフランス人形にエリーと名付けて可愛がっていたが、別荘にいるところを教育ママ達に見つかってしまい……
View More豪邸が並ぶ街、リシェス。ここには多くの富裕層が暮らしている。お金さえあれば幸せだと思う人が一定数いるが、どうやらそうではないらしい。
アンダーソン家の音楽室に、美しいピアノの音色が流れる。音色は少女の悲鳴と鞭の音で途切れてしまった。
「グレイス! 何度言ったら分かるの!? そこ、少し遅れてるわ。指の運びが絶望的に遅い!」
「ごめんなさい、ママ……」
グレイスと呼ばれた幼い少女は、鞭で叩かれた手を擦りながら、涙目で母のオリヴィアに謝罪する。
グレイスはまだ7歳だが、元ピアニストのオリヴィアの英才教育で、毎日ピアノの練習をさせられているのだ。ピアノ自体は好きだったが、母の厳しすぎる罰が恐ろしく、今ではピアノの前に座ることすら苦痛でしかない。
「このグズ! しっかりしなさい! 本当にママの子なの?」
「ごめんなさい、ごめんなさい! 頑張ります!」
グレイスは息を整えると、再びピアノに向かった。美しい音色が再び音楽室に流れる。だが……。
「遅い!」
「ぎゃああっ!!!」
あろうことか、オリヴィアはピアノの蓋を閉め、グレイスの手を挟んでしまった。
「痛い! 痛い痛い! ママ、助けて!」
「うるさい!」
オリヴィアはグレイスの頬を叩くと、ピアノの蓋を開けた。小さな手は赤く腫れ上がって痛々しい。
「ママ、ちょっと出かけてきますからね。練習サボったら、ただじゃおかないんだから」
「はい、ママ……」
オリヴィアは音楽室から出ると、自室に戻って化粧直しをし、高級ブランドのコートを羽織り、家を出る。
グレイスは耳を澄ませ、母の車が遠くに行ったのを確認すると、キッチンに行って水で手を冷やす。本当は氷で冷やしたいが、冷凍庫は高いところにあるため、今のグレイスでは届かない。
痛みが引いてくると、グレイスは音楽室に戻ってピアノの練習を再開する。美しい音色は、最後まで完璧に奏でられた。
「ひとりの時は、ちゃんとできるのに……」
グレイスは自分の小さな手を見てため息をつく。母の前だと恐怖心でいっぱいになり、気をつけなきゃと思っている場所で、毎回ミスをしてしまう。
「頑張らないと……」
先ほどオリヴィアに指摘された箇所を、何度も何度も練習する。どんなに完璧に演奏しても、不安が拭えない。
「これでいいんだっけ? わかんない、頑張らないと」
グレイスは怯えながら、ひたすらピアノの練習をする。小規模ではあるが、コンクールが近い。だからグレイスは、死に物狂いで練習をする。遊びたい気持ちや泣きたい気持ちをぐっとこらえ、ピアノに向き合い続ける。
オリヴィアが求めるのは、金賞だけではなかった。圧倒的な差をつけての金賞を望んでいた。グレイスはまだ4年しかピアノに触れていない。それなのに、自分より3つ4つ上の相手にも圧勝しろというのだから、頭が痛い。
もし金賞を取っても、僅差であったり、ちょっとしたミスがあると、鞭で何回も叩かれた挙げ句、ごはんを食べさせてもらえない。
「頑張らなきゃ……」
グレイスは呪文のように繰り返しながら、ピアノを弾き続けた……。
「うぅん……」 眩しい陽射しに、グレイスは目を擦って起き上がる。「あ、あれ?」 周囲を見回し、眠気が吹き飛んだ。昨晩、自分達はあの恐ろしい懺悔室に押し込まれたはずだ。それなのに、ジャスミンがこっそり貸してくれたあの小屋にいたのだ。 ソフィ、アリス、ルーシー、リリーも一緒だ。彼女達はグレイスと共に並んで寝ていたらしい。自分と彼女達に、1枚の大きなタオルケットがかけられていた。「皆、起きて! 起きてってば!」 グレイスは全員を揺り起こす。少女達は不機嫌そうに目をこすりながら起きる。「なぁに?」「まだ眠いよぉ……」「皆、私達、ジャスミンの小屋にいるみたい」 グレイスの言葉にあたりを見回し、彼女達も目を見開く。「確か私達、グレイスの家にある、変な箱に閉じ込められてたよね?」「なんでここに?」「分かんない……」 少女達が困惑していると、ドアが開いた。もしかしたら、ママ達が来たのかもしれない。恐る恐る振り返ると……。「よかった、皆起きたのね」 小屋の持ち主であるジャスミンが、大きな紙袋を抱えて立っていた。「ジャスミン!」 少女達はジャスミンに駆け寄り、彼女を囲む。「皆、お腹すいてない? パンとジュース買ってきたの。よかったら食べて」 ジャスミンは座って紙袋を床に置くと、少女達に焼きたてのパンとオレンジジュースを配っていった。「わぁ、ありがとう!」 少女達は無我夢中でパンを頬張り、オレンジジュースを飲んだ。焼き立てのパンをにこにこしながら食べていた少女達だったが、お腹が落ち着くと、暗い顔でそわそわしだした。「どうしたの?」「ママに怒られる……」「私達、ちっちゃい部屋に閉じ込められてたの……」「でも、起きたらここにいて……」「どうしよう、また怒られる。怖いよぉ……」 ひとりが泣くと、全員が泣き出した。ジャスミンは少女達を優しく抱きしめる。「大丈夫、ママ達はもう来ないわ」「本当に?」「どうして?」「その、言いづらいんだけど、皆のママは、お空にいったの……。どうしてかは分からない。けど、今リシェスは、その話題で持ち切りになってて……」 ジャスミンがオブラートに包みながら言うと、子供達は見る見る笑顔になっていった。「ママに怒られない!」「もういっぱい勉強しなくていいんだ!」 子供達はやったやったと手を取り合い、はし
「皆、どうして私を無視するの!? どこに行ったの!?」 孤独のあまり正気を失ったデイジーは、モニターにしがみつく。最初は4人映っていたモニターも、今じゃ誰もいない。モニターの真下には1枚の紙が貼り付けられており、紙には「デイジーの課題は全員が課題をクリアするか死ぬまで、静かに待っていること」と書かれていた。 だが、序盤から情緒不安定になっていたデイジーは、その紙に未だ気づけていない。「ねぇ、お人形さん! あなたでもいいの! 声を聞かせて! 私とおしゃべりして! お願いよぉ!」 デイジーは必死に訴えかけるが、誰も彼女の声に応えない。あの人形でさえ。 人形を映していたモニターが、少しずつ切り替わっていく。人形の姿はすっかり消え失せ、「ゲームオーバー」の文字が浮かび上がる。だが、デイジーは気づかない。「あああああああっ! どうして誰も返事しないのよおぉ!!! 無視しないでよおぉ! あああああっ!!!」 孤独に耐えきれなくなったデイジーは、何度もモニターに頭突きをする。狭い部屋で勢いをつけた頭突きは、後頭部も壁にぶつけた。 モニターは頭突きの衝撃で、落ち、剣山が出現する。デイジーの真後ろには、鋭利なアイスピックが伸び始める。「ぎゃ、あああっ!」 無数の棘がデイジーの額や目、鼻に刺さる。勢いよく壁に頭を打ち続けたデイジーはその痛みで止まることも出来ず、今度は後頭部を後ろの壁にぶつける。「あ、がっ……!」 アイスピックが喉に刺さり、口からコポコポと血液を流す。デイジーは痙攣しながら声にならない声を発し、そのまま失血死してしまった……。 翌朝、愛犬家の資産家であるジョセフが、ゴールデンレトリバーのジョンを連れてリシェスを散策していた。「うぅ、わん、わんっ!」「おいおい、どうした、ジョン」 アンダーソン家の前を横切ろうとすると、ジョンがしきりに吠え、アンダーソン家の敷地内に入っていく。ジョセフは必死に止めようとするが、膝の悪いジョセフでは止められず、一緒に敷地に入ってしまう。「おい、アンダーソンさんに怒られるだろう!」 ジョセフの叱責も聞かずに、ジョンは奥にある小屋に進んでいく。小屋の前まで来ると、人間のジョセフでも異臭がしていることに気づいた。「生臭いな……。なんだ?」 小屋を開けてみると、異臭は更に強くなる。ジョセフは口元を覆いながら中
終盤になると盤上はめちゃくちゃで、駒は無秩序に動き続ける。「あっ……!」 ロボットのルークが、イザベラのキングを吹き飛ばしてしまった。カラカラと音を立てながら、キングは床に転がる。『イザベラの負け♪ イザベラの負け♪』 機械じみた少女の声は、歌うように彼女の敗北を告げた。「あ、あぁ……! こんなの、こんなのって! おかしいわ!」『不正をしたのはお互い様。はい、女王様』 少女の声が告げるのと同時に、頭に何か被せられる。対戦相手のロボットがテーブルを持ち上げる。チェス盤や駒が床に落ち、不快な音を立てる。テーブルの裏は鏡になっており、イザベラの姿が写った。 自慢の髪はボサボサで、肌もガサガサ。頭には、クイーンの駒をかたどった白い帽子がのせられていた。帽子の両サイドには紐が垂れ下がっている。「な、なによ、これ……」 ロボットはテーブルを投げると、イザベラの前に進んで帽子の紐を顎下で縛った。『試合開始♪ 試合開始♪』 機械じみた少女の声が、楽しそうに笑う。天井からアームが伸びてきて、イザベラの帽子を掴んで持ち上げた。「ぐええぇっ!」 喉が締まり、視界がチカチカする。息苦しさからはすぐに開放された。息を整えて周囲を見ると、チェスの駒が並んでいる。どうやら配置についたようだ。 正面を見ると、イザベラが座っていた椅子も、床に散らばっていたチェス盤と駒も消えている。 天井からもう1本アームが伸び、相手の黒い駒を動かしていく。イザベラを配置に置いたアームも動き、巨大なチェス盤の上で試合が始まる。(私はいつ動かされるの? なんでこんなことしてるの?) 呼吸が正常に出来ない。息を吐くことはできても、酸素を取り込めない。そんな状況でも、どうにか逃げ出す術はないかと、盤上を睨み続ける。(これって……!) イザベラはあることに気づいた。この試合は、先程イザベラとロボットがしていた試合の再現だ。「じゃ、じゃあ……! そろそろ、私も……!」 アームはイザベラを掴んで持ち上げる。「あがっ! ぎいぃ……っ!」 必死にもがいたり、紐を解こうとするが、アームも紐もビクともしない。そして……。「ぎゃああっ!」 クイーン・イザベラは、相手の駒を弾き飛ばした。全身に激痛が走り、一瞬、息が止まる。(駄目、死んじゃう!) イザベラは恐怖した。クイーンはイザベ
全部吐き終えたイザベラは、口をゆすいだ。片付けでもしているのか、外からは物音が聞こえる。(もしかしたら、誰かいるかもしれない。うまくいけば、出られるかも!) そう思ってトイレから出ようとするが、ドアは開かない。「どうして!?」『お片付けしてるから、待っててね。いいものあげるから、いい子でね』 あの機械じみた少女の声がした直後、鏡が反転し、ケーキと紅茶。そしてブランケットが出てきた。「トイレでお茶しろってこと!? どこまで私を馬鹿にするの!?」 例えようのない屈辱を感じたが、深呼吸して気持ちを落ち着かせた。トイレでケーキなど食べたくはないが、これはチャンスだ。 今までまともな食事は出なかった。少しでも栄養を取っておきたい。何より今は、糖分が欲しい。 イザベラは自分が何をやらされるのか、だいたい察しがついていた。(元ピアニストのオリヴィアはピアノ、絵画教室に通ってたジェシカは絵……。だったら私は、きっとチェスね) チェスは頭を使う。だからこそ、糖分が必要だ。「怒ってごめんなさいね。気が動転してたの。ケーキ、ありがたくいただくわ」 イザベラは天井に向かってお礼を言うと、ブランケットを腕にかけ、トレーを持って便器に向かう。スカートを履いたまま便器に座り、膝にブランケットを置いてからケーキを食べる。(なんて屈辱的なの……) トイレでケーキを食べて思い出すのは、高校で同級生だったリズという少女のこと。リズは内気でいつもおどおどしていた。そんなリズを、イザベラ達はからかい、トイレに追いやった。彼女はいつも、トイレで泣きながらランチを食べていたのだ。 バカにしていたリズと同じように、トイレで食事をさせられる屈辱に腸が煮えくり返る。だが、ここで冷静さを欠いてはいけない。 ケーキを食べ終える頃にはドアの向こうの音も止み、ガチャリと音がする。ブランケットを持ってドアノブを回して押すと、ドアが開いた。「これは……!」 イザベラは眼の前の光景に目を見開いた。中央には巨大なチェス盤が置いてあり、駒が並んでいる。中央の空いたスペースにはテーブルがあって、テーブルの上には普通サイズのチェス盤が置いてある。黒い駒の前には、人形のロボットが座っていた。 イザベラは呼吸を整えると、ロボットの向かいに座る。トイレの前からは見えなかったが、椅子の横にはサイドテーブ