ログインまだ7歳の少女、ソフィが帰宅すると、母のイザベラは父のベルトを片手に待ち構えていた。
「ただいま、ママ。今日学校でね」
バシッという音が、ソフィの言葉を遮った。イザベラがベルトを鞭のようにしならせ、床を叩いたのだ。
「学校でのことなんて、どうでもいいの。何回も同じこと言わせないでくれる?」
「ごめんなさい、ママ……」
「荷物を置いてきなさい」
「はい……」
ソフィは荷物を置きに自室に行く。ドアを開けると、ベッド、クローゼット、本棚、テーブルのみの殺風景な部屋があった。7歳の少女の部屋だというのに、可愛らしい小物やおもちゃはひとつもない。家具もすべて落ち着いたデザインで、子供の、それも少女の部屋だとは、誰も思わないだろう。
本棚に並んでいる本は、参考書が申し訳程度と、残りはすべてチェスに関する本ばかりだ。
ソフィは荷物を部屋に置くと、イザベラが待つ書斎に入った。
書斎の中央に置かれたテーブルには、チェス盤が置かれている。本棚には、チェスに関する本と、心理学、ゲーム理論などの本がずらりと並んでいる。
「さぁ、座って」
「はい」
ソフィはイザベラの向かいに座る。この時間がソフィは大嫌いだ。チェスに興味などないのに、父とイザベラがチェスのプロだからって自分までやらされるのは、苦痛でしかない。本当は友達と遊びたい。テレビを見たり、お菓子を食べたりしたい。
そんなことを言ったら、何をされるか分かったものではない。だからソフィは、今日も本音を押し殺してチェスの駒を握る。
「先行は譲るわ」
「はい」
ソフィからゲームを始める。駒をひとつひとつ慎重に動かし続け、ソフィが有利になっていたが……。
「あの、ママ……」
「なぁに、ソフィ」
イザベラは意地悪な笑みを浮かべて、ソフィを見下ろす。
「それ、動かし方間違ってる……」
イザベラが先程動かした駒はルーク。ルークは縦と横にしか動かせないのだが、イザベラはルークを斜めに動かしたのだ。
「いいのよ、これで」
「でも……」
ソフィが粘ると、イザベラはうんざりしたようにため息をつく。ソフィは恐怖で肩を震わせた。
「いい? ソフィ。試合を見てるのも、アビーターも人間なの。人間はミスをする。中には自分のミスを認められない人もいるのよ。これはそんな人達に囲まれてしまった時の訓練よ。分かったら続けなさい」
「はい、ママ」
ソフィは仕方なくうなずき、試合を続行する。ソフィには、イザベラが何故こんなことをするのか、分かっていた。彼女が天才少女とチヤホヤされていた頃、対戦相手が先程のイザベラのように、本来とは違う駒の動かし方をした。イザベラは指摘したが、対戦相手はもちろんのこと、ギャラリーも、審判であるアビーターも、イザベラの勘違いだと言って、試合を続行させた。
その後も不正が何度もされ、精神的に追い詰められたイザベラは惨敗したのだ。
現在は試合中にカメラが回っているため、そのような不正は起きないが、イザベラにとって、あの出来事は強いトラウマとなり、娘に同じ思いをさせまいと、厳しく指導をしている。
(もうやだ……。こんなのチェスじゃないよ……)
ソフィは涙をこらえながら駒を動かす。だが、イザベラが何度も不正をするせいで、一気に不利になってしまった。立て直そうとしても、心が折れてパニック寸前だ。
ここで泣いたらお仕置きされる。その恐怖が、涙を押さえ込んでいた。
結局、ソフィの負けで終わってしまった。ソフィは恐怖でイザベラの顔を見ることすらできない。
「あなたの負けね。この程度で動揺して泣きべそかくなんて、がっかりよ」
(どうしようどうしよう! また酷いことされちゃう……!)
「ソフィ、雨戸を閉めてきて」
「は、はい……」
それはソフィにとって、死刑宣告のようなものだった。だが、ここで泣きわめいたり叫んだりしたら、これから起こるであろう地獄が、更に悲惨になるだけというのは、嫌と言うほど分からされてきた。
立ち上がって雨戸を閉めたのとほぼ同時に電気が消され、ドアが閉められる。
「や、やだぁ! ママ! これだけ早めて! 怖いよぉ!」
真っ暗な部屋で、必死に訴えるが、ドアは固く閉ざされたまま。
「本当に情けない子ね。いい? これはあなたのためなの。暗闇に慣れなさい。そして弱い心を叩き直すの。次開けた時に泣いてたら、今夜のごはんは抜きだからね」
「そんな……」
「返事は?」
「はい、ママ……」
「いい子ね。そのまま強い子になりなさい。そしたらママ、もっとソフィが好きになるわ」
遠ざかる足音に絶望した。
「ママは、私が嫌いなの? もうやだよ……」
暗闇の中でひとり、少女は恐怖に震えるのだった……。
「うぅん……」 眩しい陽射しに、グレイスは目を擦って起き上がる。「あ、あれ?」 周囲を見回し、眠気が吹き飛んだ。昨晩、自分達はあの恐ろしい懺悔室に押し込まれたはずだ。それなのに、ジャスミンがこっそり貸してくれたあの小屋にいたのだ。 ソフィ、アリス、ルーシー、リリーも一緒だ。彼女達はグレイスと共に並んで寝ていたらしい。自分と彼女達に、1枚の大きなタオルケットがかけられていた。「皆、起きて! 起きてってば!」 グレイスは全員を揺り起こす。少女達は不機嫌そうに目をこすりながら起きる。「なぁに?」「まだ眠いよぉ……」「皆、私達、ジャスミンの小屋にいるみたい」 グレイスの言葉にあたりを見回し、彼女達も目を見開く。「確か私達、グレイスの家にある、変な箱に閉じ込められてたよね?」「なんでここに?」「分かんない……」 少女達が困惑していると、ドアが開いた。もしかしたら、ママ達が来たのかもしれない。恐る恐る振り返ると……。「よかった、皆起きたのね」 小屋の持ち主であるジャスミンが、大きな紙袋を抱えて立っていた。「ジャスミン!」 少女達はジャスミンに駆け寄り、彼女を囲む。「皆、お腹すいてない? パンとジュース買ってきたの。よかったら食べて」 ジャスミンは座って紙袋を床に置くと、少女達に焼きたてのパンとオレンジジュースを配っていった。「わぁ、ありがとう!」 少女達は無我夢中でパンを頬張り、オレンジジュースを飲んだ。焼き立てのパンをにこにこしながら食べていた少女達だったが、お腹が落ち着くと、暗い顔でそわそわしだした。「どうしたの?」「ママに怒られる……」「私達、ちっちゃい部屋に閉じ込められてたの……」「でも、起きたらここにいて……」「どうしよう、また怒られる。怖いよぉ……」 ひとりが泣くと、全員が泣き出した。ジャスミンは少女達を優しく抱きしめる。「大丈夫、ママ達はもう来ないわ」「本当に?」「どうして?」「その、言いづらいんだけど、皆のママは、お空にいったの……。どうしてかは分からない。けど、今リシェスは、その話題で持ち切りになってて……」 ジャスミンがオブラートに包みながら言うと、子供達は見る見る笑顔になっていった。「ママに怒られない!」「もういっぱい勉強しなくていいんだ!」 子供達はやったやったと手を取り合い、はし
「皆、どうして私を無視するの!? どこに行ったの!?」 孤独のあまり正気を失ったデイジーは、モニターにしがみつく。最初は4人映っていたモニターも、今じゃ誰もいない。モニターの真下には1枚の紙が貼り付けられており、紙には「デイジーの課題は全員が課題をクリアするか死ぬまで、静かに待っていること」と書かれていた。 だが、序盤から情緒不安定になっていたデイジーは、その紙に未だ気づけていない。「ねぇ、お人形さん! あなたでもいいの! 声を聞かせて! 私とおしゃべりして! お願いよぉ!」 デイジーは必死に訴えかけるが、誰も彼女の声に応えない。あの人形でさえ。 人形を映していたモニターが、少しずつ切り替わっていく。人形の姿はすっかり消え失せ、「ゲームオーバー」の文字が浮かび上がる。だが、デイジーは気づかない。「あああああああっ! どうして誰も返事しないのよおぉ!!! 無視しないでよおぉ! あああああっ!!!」 孤独に耐えきれなくなったデイジーは、何度もモニターに頭突きをする。狭い部屋で勢いをつけた頭突きは、後頭部も壁にぶつけた。 モニターは頭突きの衝撃で、落ち、剣山が出現する。デイジーの真後ろには、鋭利なアイスピックが伸び始める。「ぎゃ、あああっ!」 無数の棘がデイジーの額や目、鼻に刺さる。勢いよく壁に頭を打ち続けたデイジーはその痛みで止まることも出来ず、今度は後頭部を後ろの壁にぶつける。「あ、がっ……!」 アイスピックが喉に刺さり、口からコポコポと血液を流す。デイジーは痙攣しながら声にならない声を発し、そのまま失血死してしまった……。 翌朝、愛犬家の資産家であるジョセフが、ゴールデンレトリバーのジョンを連れてリシェスを散策していた。「うぅ、わん、わんっ!」「おいおい、どうした、ジョン」 アンダーソン家の前を横切ろうとすると、ジョンがしきりに吠え、アンダーソン家の敷地内に入っていく。ジョセフは必死に止めようとするが、膝の悪いジョセフでは止められず、一緒に敷地に入ってしまう。「おい、アンダーソンさんに怒られるだろう!」 ジョセフの叱責も聞かずに、ジョンは奥にある小屋に進んでいく。小屋の前まで来ると、人間のジョセフでも異臭がしていることに気づいた。「生臭いな……。なんだ?」 小屋を開けてみると、異臭は更に強くなる。ジョセフは口元を覆いながら中
終盤になると盤上はめちゃくちゃで、駒は無秩序に動き続ける。「あっ……!」 ロボットのルークが、イザベラのキングを吹き飛ばしてしまった。カラカラと音を立てながら、キングは床に転がる。『イザベラの負け♪ イザベラの負け♪』 機械じみた少女の声は、歌うように彼女の敗北を告げた。「あ、あぁ……! こんなの、こんなのって! おかしいわ!」『不正をしたのはお互い様。はい、女王様』 少女の声が告げるのと同時に、頭に何か被せられる。対戦相手のロボットがテーブルを持ち上げる。チェス盤や駒が床に落ち、不快な音を立てる。テーブルの裏は鏡になっており、イザベラの姿が写った。 自慢の髪はボサボサで、肌もガサガサ。頭には、クイーンの駒をかたどった白い帽子がのせられていた。帽子の両サイドには紐が垂れ下がっている。「な、なによ、これ……」 ロボットはテーブルを投げると、イザベラの前に進んで帽子の紐を顎下で縛った。『試合開始♪ 試合開始♪』 機械じみた少女の声が、楽しそうに笑う。天井からアームが伸びてきて、イザベラの帽子を掴んで持ち上げた。「ぐええぇっ!」 喉が締まり、視界がチカチカする。息苦しさからはすぐに開放された。息を整えて周囲を見ると、チェスの駒が並んでいる。どうやら配置についたようだ。 正面を見ると、イザベラが座っていた椅子も、床に散らばっていたチェス盤と駒も消えている。 天井からもう1本アームが伸び、相手の黒い駒を動かしていく。イザベラを配置に置いたアームも動き、巨大なチェス盤の上で試合が始まる。(私はいつ動かされるの? なんでこんなことしてるの?) 呼吸が正常に出来ない。息を吐くことはできても、酸素を取り込めない。そんな状況でも、どうにか逃げ出す術はないかと、盤上を睨み続ける。(これって……!) イザベラはあることに気づいた。この試合は、先程イザベラとロボットがしていた試合の再現だ。「じゃ、じゃあ……! そろそろ、私も……!」 アームはイザベラを掴んで持ち上げる。「あがっ! ぎいぃ……っ!」 必死にもがいたり、紐を解こうとするが、アームも紐もビクともしない。そして……。「ぎゃああっ!」 クイーン・イザベラは、相手の駒を弾き飛ばした。全身に激痛が走り、一瞬、息が止まる。(駄目、死んじゃう!) イザベラは恐怖した。クイーンはイザベ
全部吐き終えたイザベラは、口をゆすいだ。片付けでもしているのか、外からは物音が聞こえる。(もしかしたら、誰かいるかもしれない。うまくいけば、出られるかも!) そう思ってトイレから出ようとするが、ドアは開かない。「どうして!?」『お片付けしてるから、待っててね。いいものあげるから、いい子でね』 あの機械じみた少女の声がした直後、鏡が反転し、ケーキと紅茶。そしてブランケットが出てきた。「トイレでお茶しろってこと!? どこまで私を馬鹿にするの!?」 例えようのない屈辱を感じたが、深呼吸して気持ちを落ち着かせた。トイレでケーキなど食べたくはないが、これはチャンスだ。 今までまともな食事は出なかった。少しでも栄養を取っておきたい。何より今は、糖分が欲しい。 イザベラは自分が何をやらされるのか、だいたい察しがついていた。(元ピアニストのオリヴィアはピアノ、絵画教室に通ってたジェシカは絵……。だったら私は、きっとチェスね) チェスは頭を使う。だからこそ、糖分が必要だ。「怒ってごめんなさいね。気が動転してたの。ケーキ、ありがたくいただくわ」 イザベラは天井に向かってお礼を言うと、ブランケットを腕にかけ、トレーを持って便器に向かう。スカートを履いたまま便器に座り、膝にブランケットを置いてからケーキを食べる。(なんて屈辱的なの……) トイレでケーキを食べて思い出すのは、高校で同級生だったリズという少女のこと。リズは内気でいつもおどおどしていた。そんなリズを、イザベラ達はからかい、トイレに追いやった。彼女はいつも、トイレで泣きながらランチを食べていたのだ。 バカにしていたリズと同じように、トイレで食事をさせられる屈辱に腸が煮えくり返る。だが、ここで冷静さを欠いてはいけない。 ケーキを食べ終える頃にはドアの向こうの音も止み、ガチャリと音がする。ブランケットを持ってドアノブを回して押すと、ドアが開いた。「これは……!」 イザベラは眼の前の光景に目を見開いた。中央には巨大なチェス盤が置いてあり、駒が並んでいる。中央の空いたスペースにはテーブルがあって、テーブルの上には普通サイズのチェス盤が置いてある。黒い駒の前には、人形のロボットが座っていた。 イザベラは呼吸を整えると、ロボットの向かいに座る。トイレの前からは見えなかったが、椅子の横にはサイドテーブ
「な、なに? どういうこと? 何が始まるの?」 ジェシカは笑っちゃうほど震える声で言い、モニターを見つめている。画面が切り替わり、チャットルームになる。『なにこの絵』『ゴッホと並べるなんて失礼過ぎない?』『子供の落書きの方が上手い』『これで絵画教室通ってるって嘘でしょ?』『なにをどうしたら、これがひまわりになるの?』 チャットルームは、ジェシカの絵を非難する言葉で溢れかえる。「ま、待ってよ! 私は追い詰められて描いたの! それに、ゴッホと比べるなんて、あんまりだわ! 素人よりゴッホのほうが上手いのは当たり前じゃない!」 ジェシカの声は向こう側に届いていないのか、好き勝手な品評はしばらく続いた。「いや! こんなの不当よ! やり直しさせて!」 自分の死を悟ったのか、ジェシカは喚き始める。イザベラは耳を塞いで数歩下がった。これ以上頭の悪い女の喚き声を聞きたくなかった。「助けて、イザベラ!」 イザベラの存在を思い出したジェシカは、イザベラに腕を伸ばす。ジェシカの手がイザベラに届く前に、天井から伸びてきたアームがジェシカの足を掴む。「いやああっ!」 ジェシカは全身をバタつかせたが、アームはジェシカを離さない。 ジェシカの作品を否定するかのように、大きなキャンバスが彼女の作品を潰した。バケツいっぱいのペンキも出てきて、室内は一気にペンキ臭くなる。 アームはジェシカをペンキに沈めた。「んぶぅ!?」 出てきたジェシカはペンキで真っ黒だ。アームはジェシカを筆代わりにして、絵を描いていく。イザベラは何が出来上がるのか見守っているが、巨大なキャンバスは床に置かれているため、何を描いているのかはイザベラからはよく見えない。「や、やめ、あぶっ! 痛い痛い! ぎゃああっ!」 ジェシカは持ち上げられるたびにペンキを吐き、筆として使われている間は悲鳴を上げた。体を床に押し付けながら動かされて、痛いのだろう。色とりどりのペンキに何度も顔を突っ込まれたせいで元の顔色は分からないが、ずっと逆さまにされているのだ、きっと赤紫になっているだろう。 絵が完成したのか、ジェシカは床に置かれる。それでもアームは彼女の足を離そうとしない。 ワイヤーが巨大キャンバスを引き上げ、壁際に飾る。ようやく見えた絵は、ダーツの的だった。カラフルな的は、ポップで可愛らしい。 アー
ガチャッと音がし、ドアが開く。懺悔室から出てみるも、やはりデイジーはいない。イザベラより少し遅いタイミングで、ジェシカが出てきた。 怯えきったジェシカは、生まれたてのヤギのように震えていて、懺悔室に手を添えて立つのがやっとといった感じだ。顔色も悪く、今にも倒れそうだ。「ジェシカ、大丈夫?」「イザベラ……。私、どうしよう……。こんなの耐えられない……」 泣きながら弱音を吐くジェシカに、イザベラは苛ついた。彼女の気持ちも分からなくもないが、取り乱したら終わる。ここは文字通りそんな世界だ。ジェシカのような人間は、すぐに消えるだろう。(そういえばあなた、何も無いものね。なら、仕方ないか) イザベラはジェシカの背中を擦りながら、内心彼女を見下した。オリヴィアもイザベラも、過去に大舞台に立っていた。オリヴィアはピアノ、イザベラはチェスと、大舞台に立てるほどの実力と精神力を持っていたのだ。 だが、他の3人はどうだろう? 夫の収入に頼り切りで、過去に何かを成し遂げたことすらない。そんな3人が、同じグループにいたという事実は、イザベラにとって不愉快でしかない。 自分とオリヴィアは、経験を元に子供を躾けている。だが3人は、自分の理想を子供達に押し付けているだけだ。この3人が死ぬのはいい。だが、オリヴィアと自分が一緒にされている現状は耐え難く、冒涜されている気分だ。「食べたくないでしょうけど、まずは食べないと」「そうね……。ありがとう、イザベラ。あなたは強いのね」 親切なフリをすれば、ジェシカは力なく微笑む。 中央に視線を向けると、食事がのったテーブルの隣に、布にかけられたなにかがふたつある。少なくとも、チェスの道具ではない。(あれは、画材かしら?) イザベラは、以前ジェシカが絵を習い始めたと言っていたのを思い出す。それなら次は、ジェシカが指名されるはずだ。 案の定、食事とトイレを済ませ、時間になると、あの機械じみた少女の声はジェシカを指名した。『めくってごらん。なにかな、なにかな』 機械じみた少女の声は、楽しそうに、歌うように言う。ジェシカが震える手で大きい方の布を取る。そこにはイザベラの予想通り、真っ白なキャンバスがあった。もうひとつをめくると、絵の具やパレットといった画材と、花瓶に挿してあるひまわりだった。『綺麗な綺麗なひまわり、見せて。制限