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我が子の遺灰を撒き散らした夫
我が子の遺灰を撒き散らした夫
Autor: イール

第 1 話

Autor: イール
結婚して5年目、一ノ瀬尋(いちのせ じん)は、妻である私――千石栖(せんごく すみ)が変わったと言った。

尋は私に捨てられるのが怖いのだと言い張り、夫婦円満を祈願するためにわざわざ人里離れた山奥の神社へ参拝に行くと言い出した。

けれど1時間もしないうちに、彼は若い巫女を連れて引き返してきた。

その巫女は整った顔立ちをしていた。記憶を失い、一日中、山の中を当てもなく彷徨っていたのだという。

大きなお腹を抱え、むくんでやつれた私を前にしても、尋はその巫女の手首を握る手を離そうとはしなかった。

「出会ったのも何かの縁だ。彼女を放っておくわけにはいかない」

その後、友人が尋に尋ねた。私が怒るとは思わないのか、と。

尋は答えなかった。半ケース分の酒を煽り、午前2時に「迎えに来い」と私に電話を寄越した。

私がドアを押し開けた瞬間、尋の声が聞こえてきた。

「なあ、若い女のほうが、家にいる妊娠した雌豚より何千万倍もいいに決まってるだろ!

あいつが俺の妻なのは間違いない。でも、一度抱いたからって、一生あいつの足元に跪いてなきゃいけないのか?

俺だって血の通った人間だ。誰を好きになろうが、誰を愛そうが、誰と寝ようが、あいつには関係ない」

……

尋が帰宅したとき、私は書き終えたばかりの離婚協議書を棚にしまっているところだった。

「栖、今日はお前の誕生日だ。俺がどんなサプライズを用意したか、当ててみろ」

尋が言い終わるか否かのタイミングで、笹木美竹(ささき みたけ)がケーキの箱を抱えて入ってきた。眩しいほどの笑顔を浮かべて。

「栖さん、またお邪魔します!」

私はただ頷き、聞こえていることだけを示した。

けれど、座ったまま動くことはなかった。

気まずさを感じたのか、美竹は慣れた様子で私の夫の腕に絡みついた。

「家に食べるもの、全然ないんですね。お腹空いちゃった、尋さん。

栖さんもひどいですよ。毎日家にいるだけで、稼ぐ必要も外回りする必要もないのに、ご飯も作ってくれないなんて」

尋はなだめるように美竹の髪を撫でた。すぐにケーキの箱を開け、皿を並べたが、バースデーハットは無造作に脇へ放り捨てた。

「電気を消して!尋さん、お願い事もしなきゃ」

尋はようやく思い出したように照明を消した。

女というものは、もともと些細なことに気づきやすい生き物なのかもしれない。

尋がろうそくに火を灯すとき、その手が庇っていたのは、決して私の方ではなかった。

ろうそくを一本ずつ灯し終えると、尋は苛立たしげに私を一瞥した。

「俺と美竹が帰ってきてから、お前はずっとそんな顔だ。栖、いったい何を拗ねているんだ。

もう30歳だろう。母親になろうっていうのに、若い子よりも物分かりが悪いなんて……」

止まらない説教が耳障りで、私はろうそくを吹き消すために気持ちを落ち着けることすらできなかった。

目を開けたまま、暗くぼんやりした灯りの中で、美竹の雪のように白い頬に艶めいた赤みが差しているのが見えた。激しく口づけられたあとのような、そんな赤みだ。

彼女はずいぶん敬虔そうに振る舞っていた。

その瞬間、私は少し笑えてきた。

いったい誰の誕生日を祝っているのだろうか。

お腹にひきつるような痛みが走った。

尋に支えてもらって部屋に戻りたい。そう言いかけたときだった。

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