-52 女子会の夜は更けて- ナルは語り続けた。ナル「あの日、新聞の配達係が風邪で欠員し、最後に勧誘を兼ねて訪れたのがここでしたね。玄関を開けて下さったのがその時まで見たことも無い様な綺麗な女性の光さんでした、それから大食いと聞いて無茶だと言える量の食事を作ってみましたがそれにも関わらず完食してしまった事には驚きました。私が作ったただの男料理を綺麗に食べてくれたので本当に嬉しかったです。それをきっかけに家庭菜園をお手伝いさせて頂いたり、一緒に料理したり遊んだり銭湯にいったりと本当に楽しくて幸せでした。会う度に私を幸せにして下さる貴女に一生かけて恩返しがしたい。 先程申し上げました通り、私はヴァンパイアです。貴女がこの国にやってくる数年前まで私は一族共々、吸血鬼が故に恐れられ忌み嫌われていました。元々暮らしていた村を追われ王国の山の隅に追いやられ、逃げる様に引っ越しを繰り返していました。誰も味方がおらず、食料を得る事も困難で生きる事で精一杯でした。 後に私の家族は全員、ヴァンパイアを忌み嫌う人の手により殺され1人逃げ出した私は天涯孤独の身となりました。 生きる為とは言え、人の血を吸っていたのは確かです。しかし、私自身好きで吸っていた訳ではありません。当時まだ子供だった頃から料理とトマトが大好きだった私を温かく家に招き入れ我が子の様に育てて下さった恩人であるリッチ、ゲオルさんのお陰で今はこの様に姿を変え人に混じり平然と暮らせていますが、正直まだ、家族を殺された事は悔しくてなりません。今でも家族を思い、一晩中1人悔し涙を流す日々です。 そんな中、改めて私に嬉し涙を流させて下さった貴女に心から伝えたい。くどくどと長くなりましたが吉村 光さん・・・、大好きです。私とお付き合いしてください!」 光は躊躇いながらも答えた。光「お気持ちにお答えする前に貴方にお伝えせねばならない事があります。私は元々この世界の人間ではありません、林田警部や車屋の珠洲田さんと同じく異世界から転生して来た者です。 最初は右も左も、言葉も全く分からないこの地でナルさんと同じくゲオルさんに助けて頂きネスタさんのご厚意で林田警部のお宅に数泊させて頂いた後、この世界に連れてきた神様に与えられた財産でこの家を買い、沢山の方々に支えて頂きながら生活を始めて行きました。 実は生まれる前に父親を
-53 翌朝を迎えて- 窓から差し込む柔らかな朝日と共に光は目が覚めた。昨夜は珍しく呑みすぎたのだろうか、少し頭痛がする。 正直自宅での女子会で呑み始め、玄関前でナルリスに告白され受け入れてキス・・・、キス?!光「嘘でしょ?!私ナルリスとキスしちゃったの?!・・・、ファーストキス奪われちゃった。」 それからの事を思い出そうとしていた、恥ずかしくなってヤケ酒して確か何度かリバースして・・・、そこから思い出せない。 周囲をチラリと見回すと自分とナルリスが脱ぎ散らかした・・・、ん?! いや、待て、落ち着こう。そんな訳がないじゃないか・・・。落ち着いて確認しよう。ほら、ベッドの上には衣服を何も着ていない自分とナルリスが寝転んで・・・、え?!光「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああ!!!!!!!」 とにかく急ぎ服を着て落ち着こう、それから深呼吸して確認。ベッドのシーツから濡れていてそこら辺から異臭がするし少し赤色っぽいけど大丈夫だろう・・・、ん?!光「確定じゃない・・・、酔った勢いって怖い・・・。ヴァンパイアと初キスに初夜・・・、何て滑稽なの・・・、ハハハ・・・。実はもっと血が出ててナルリスに吸い取られたって?はぁ~・・・。」 異世界にいるが故に出来る想像まで浮かび上がり始めた。そんな時、自室の出入口の扉越しにネスタとドーラがこちらを覗き込んでいる。ネスタ「どうぞ、続けて続けて。」ドーラ「いやぁ奥様、貴重な物が見えましたね、私この上なく感動してます。」光「覗いてたんですか?!心の準備も出来てないんだから見物してないで止めて下さいよ!!」ネスタ「良いもんだね、朝早くだけどこれを肴に呑めるさね。」ドーラ「私も呑んで良いですか?」光「本当に朝から缶ビール呑んでるし・・・、っていい加減にして下さいよ!!」 その時、林田警部と利通親子が立て看板を持ち勢いよく入って来た。林田親子「テッテレー!!ドッキリでした!!」ネスタ「ごめんねぇ。まさか昨日の夜、2人の初キスシーンまで見えると思わなかったからさ、悪戯したくなっちゃって。」ドーラ「魔法で睡眠状態を出来るだけ継続させている内にシーツ等をすりかえたりして事後をそれなりに再現してみました、テヘ。」光「え・・・?」ネスタ「ナルリスが仕掛け人をするのにノリ良い子で助かったよ。」
-54 国境を越えたビッグイベント- 今朝のリベンジを心に誓いながら光は自宅の家庭菜園でサラダに使うレタスやキュウリといったシャキシャキで瑞々しい野菜を収穫していた。 ドッキリのお詫びとしてネスタが朝ごはんを作ってくれるそうなので横に添えようと張り切って採っている時、ふといつも使っているゴマダレが切れている事を思い出した。 散歩がてらゲオルのお店に向かう、横には彼氏となったナルリス。光に歩幅を合わせて歩いてくれているので自然と笑みがこぼれた。その光景を陰から利通が眺めている。利通「羨ましいな・・・、恋人か・・・。」林田「心配しなくてもいずれは良い人が現れるさ、ただ俺みたいな失敗はするなよ。」ネスタ「誰が失敗だって?」林田「か・・・、母ちゃん、違うんだって。」 林田警部が奥さんから大き目の雷と拳骨を喰らわされている頃、付き合いたてのカップルは街の中に差し掛かろうとしていた。ただ、先程から違和感を感じる。 改めて道路が舗装しなおされ、平らにならされている。ゆっくり歩いていると数人のリッチが分担して道路を舗装し直していて、その中にゲオルもいた。ゲオル「ふう・・・、道幅も申し分ないはずなのでここはこんなもんで大丈夫ですかね。確か・・・、この辺りに地下のトンネルを掘るらしいのですが、そこは大工さん達の腕の見せ所ですかね。おや、光さんとナル君では無いですか、おはようございます。」光・ナルリス「おはようございます、ゲオルさん。」ゲオル「あら、お2人揃って昨日の今日で早速おデートですか?」光「あはははは・・・・まぁ、ね。」 リッチには何もかもお見通しらしい、今朝の事を話題にしないでくれたら助かるのだが。 ただ気になる事は、どうしてリッチが数人集まって道路の舗装を直していたのかという事だ。 何かを思い出し察したかの様にナルリスが声を掛けた。ナルリス「もしかして『アレ』の時期ですか?」ゲオル「そうなんですよ、この後別の人たちが街中に柵や観客席、あと関係者席などを設置する様になってるんです。」光「ナルリス、『アレ』って何?」ゲオル「おやおや、もうお互いを名前で呼ぶようになっているんですね。」光「それより何なんですか?」ゲオル「おっと失礼。毎年ネフェテルサ、ダンラルタ、そしてバルファイの3国を1つのコースとして繋いでのカーレースが行われるんです
-55 レース当日を迎え- レース当日を迎え、光達は南側の山にレース用に掘られているトンネルの前に特設された観客席で、ビール片手に選手たちがトンネルから出てくるのを今か今かと待っていた。 レースコースを挟み向かい側に魔術で作られたと思われる巨大なオーロラビジョンに映るレース模様を観客皆がドキドキしながら注目している。 ホームストレートに各国から常連として毎回出場しているチームが各国3チーム、新規の参加チームが3チーム、そして各国の王宮で選ばれた選手達が集まる選抜チームが3チームで、毎年通り合計21チームが出場する事になった。 前日に行われた予選の結果、今年からバルファイ王国代表で新たに出場する事になったブルーボアが1位のポールポジションを獲得し優勝候補として名乗りを上げている。 規定通り皆と同じ珠洲田のカフェラッテを使用していたがエンジンの開発に余念の無い研究を重ね加速と最高速度に特化した物が完成し、メンバー全員が意気揚々としている。 予選ではバルファイ王国の王都に設置された18kmものホームストレートを1番速く走り抜けたチームからポジションを取っていくルールなので全力で車を走らせた結果だった。 色とりどりのカフェラッテにゼッケンのプレートが貼り付けられ各々のポジションに付き準備万端で15分後のスタートを待っていた。 涼し気な気温、そして眩しい程の晴天によりドライとなった路面により絶好のレース日和となっている。 各国の各所に観客席が特設され、満員御礼となっていた。レースのスタートが近づく度に観客たちの熱気が高まって行く中、光は1人、ナルリスとゲオルの席を取り待っていた。光「2人とも遅いな・・・、どこ行っちゃったんだろ・・・、トイレかな?」 光に席の確保を頼んでから40分程戻って来ないので心配になって来た、一応確保した席は連絡したはずなのだがちゃんと伝わっているのだろうか。 心配する光の前をビールの売り子が横切ったので、熱気による暑さも手伝い欲しくなってしまい思わず手を挙げた。光「お姉さん、ビール!!大サイズで!!」売り子「400円でーす、毎度ー。」 渡されたビールを一気に煽り息を吐く、まるで1人公園で缶チューハイを呑むおっさんの様だ。ただ、周りにも同じ様にビールを呑む女性達が数人いたのですぐに意気投合していた。乾杯を交わし塩味のポテチ
-56 レース開始直前だが- 光は出走表の場所をナルリスに聞き車券を購入しに向かっていた、まるで国民の祝日の様に老若男女が右往左往していて大混雑している。 先程1杯呑んだビールの影響か光はトイレに行きたくなったので車券売り場への道中で探すことにした。 トイレは意外過ぎるほど早く見つかり全く混雑していなかったので光はすぐに駆け込み用を済ませた。 トイレを出て車券売り場を目指す、ぷらぷらと歩いているとふんわりと優しい香りがして来たので近くを通った時少し寄ってみるかと意気込んだ。 何軒か日本に似た食べ物屋の屋台が出ている様でその内の1軒を覗いてみる事にした。光「『龍(たつ)の鱗(うろこ)』ね・・・、こんな名前の店あったかな。」 ただ一際行列が目立っており、その上光を誘った香りがその屋台からだったので光は一切迷う事無く飛び込んだ。 店の中では皆が一心不乱に丼に入った麺を啜っている。店主「いらっしゃいませ、お一人様ですか?お好きなお席へどうぞ。」 どうやらここはラーメン屋さんの屋台のようだ。他のお客さんが食べているラーメンはスープが綺麗に透き通った金色のもので、細麺。トッピングはカイワレ大根と何かを揚げているチップスらしい。(※作者が大好きなラーメンの1つです、店名は変えてますが。) カウンターにお品書きがあったのでチラリと見てみると「鯛塩ラーメン」の文字がある。光「『魚介ベースのスープで鯛の皮のチップスをトッピングした美味しいラーメンです』・・・か。」店主「お決まりですか?」光「あっ、鯛塩ラーメンをお願いします。」店主「少々お待ちください。」 屋台の隅に探していた出走表をみつけた。光「出走表頂いてもいいですか?」店主「勿論どうぞ、ラーメンが出来るまでゆっくり予想していて下さいね。」光「助かります。」 光は店の隅に行き出走表を1枚取って席に戻った、①~㉑までの車番の横にチーム名やホームストレートで行われた予選の計測タイム、スタートポジション等が書かれていた。光「確かポールポジション取った⑰ブルーボアが1番人気で、18kmのホームストレートはダントツ、ただガソリンの積載量が比較的少ない気がするな・・・。」 ピットでの給油は認められているがピットストップの回数が多いとその分逆転を許してしまう可能性が大きくなる。光「コーナリングの図を
-57 誘われるがままに-店主「では、スープを残したまま少々お待ちください。」 屋台にて店主による誘惑の言葉に迷う事無く鯛塩飯を注文した光は、ゾクゾクしながら店主を待っていた。車券の事など頭の隅にもない様子だ。ただ大食いなのでここのラーメンだけで自分の腹が満たされるかどうかを心配し始めた。 大食いの人間特有の心配をする光をよそにニコニコしながら店主が茶碗1杯のご飯を手に近づいてきた。店主「お待たせ致しました、鯛塩飯です。残ったスープにぶっこんでお召し上がり下さい。」 光はご飯を1匙すくい、スープに入れて1口食べようとしたら店主が来て説明しなおした。店主「すみません、説明が足りませんでした。ご飯を全部入れっちゃって豪快に食べちゃって下さい、美味しいですよ。」光「全部ですか・・・?」店主「はい、お席が汚れても私は気にせず喜んでお掃除致しますので。」 光はご飯の入った茶碗をスープの入った丼の上でひっくり返し、ご飯をスープにどぽんと入れた。 ご飯の1粒1粒にスープが染み込みお茶漬けや雑炊の様にサラサラと食べれる状態に変身する。 そのご飯をカウンターやテーブルに蓮華代わりとして設置されたお玉でたっぷりとすくい1口・・・。光「嘘でしょ・・・、美味しい!!!」 サラサラと優しく口に流れ込むご飯がスープを引き連れて次々と胃に納まっていく、まるで飲み物の様に。(※食べ物ですのでちゃんと咀嚼しましょう。)光「ダメ・・・、無くなっちゃう。」 自分の意志に反して両手は食事を止めさせようとしない。気付いたときには既に丼の中身は無くなり、スープは1滴も残っていない。光「美味しかった・・・。」店主「フフフ・・・、ご満足頂けましたか?」光「はい・・・、お会計お願いします。」店主「それより、予想の方はお決まりになりましたか?確か⑮番車をお考えだったと思いますが・・・。」光「どうしてご存知なんで・・・。」 光が質問しようとしたら頭の中に声が直接流れ込んできた。声「光さん!!光さん!!どちらですか?!」光「へ?」店主「おや・・・、この声は・・・。」声「光さん、聞こえますか?ゲオルです!!念話の魔法で直接語り掛けています、返事をしてください!!どちらにいらっしゃいますか?!」 念話・・・?あ、そう言えばここ異世界だったわ・・・、と改めて感じた光。店主
-58 レース開始- とりあえず⑮番車に投票しようと決めた光は残りの2台、若しくは3台を歩きながら決める事にし、忘れないように出走表の⑮番車に「◎」印を付けた。 改めて出走表の全体を見回し、計測タイムが一際目立っていた⑰番車も考えていたがやはりネフェテルサ王国の市街地をコースとして使用するレースなのでバルファイ王国のストレートを過ぎてからの事を考慮し「×」印を付けて票は入れない事にした。 コーナリング重視でのチューニングである事を考え⑥番車は入れる、まぁ50週目になるまでだったら買い足しが可能だから大丈夫だろう、気楽に行こう。 とりあえず後1台か・・・、そう思いながら所々に設置されたモニターを見ていると他のチーム以上にピットスタッフとドライバーが入念に打ち合わせと練習を行い、連携が取れていそうなチームがあった。やはりピットがもたつくとコースに戻った時の順位に影響する。光「このチームは⑨番車ドッグファイトね・・・、これ入れてみようかな。このチーム初出場か・・・。来たら大きいかもね。じゃあ⑥⑨⑮のボックスにしよう。」 偶々空いていた券売機が目の前にあったので思ったよりすんなりとマークシートを記入して車券を購入できた。光「結構遠くまで来ちゃったから『瞬間移動』で良いかな。」 『作成』したばかりの『念話』でゲオルとナルリスの位置を確認する、どうやら光がすぐ戻ると言ってからずっと客席で待ってくれていた様だ。他の観客達を驚かせる訳にはいかないと思い近くのトイレの隅に『瞬間移動』した、そして客席に戻り近くの売り子からビールを3杯購入して待っていてくれていた2人に渡した。光「すみません・・・、あまりにもパルライさんのラーメンが美味しかったので。これで許して下さい。」ゲオル「いえいえ、それにしてもまさか私の弟子がラーメン屋をしているとは思いませんでしたよ、ずっと連絡をよこさなかったので何をしているのか心配していたんです。屋台だったんですって?」光「中は比較的広々とした屋台でしたよ、ただそこからの香りが凄くて。」ナルリス「俺も今度食べに行きたいな・・・、今度連れてってよ。」光「ごめん・・・、普段何処でお店をしているか聞いてなくて。」ゲオル「念話で今聞いてみては?」光「えっと・・・、こうでしたかね・・・。(念話)パルライさーん、聞こえますか?先程はありがと
-59 かなりのハンデと判断力の良さ- スタート地点で各車が和やかに過ごしていると実況のカバーサの声が響いた。カバーサ「ご連絡いたします、只今の点灯は故障によるものではなく正式なスタートでございます。繰り返します、只今の点灯は故障によるものではなく正式なスタートでございます。よって冷静な判断でスタートした⑨ドッグファイトが1位で独走しています。」ゲオル・ナルリス「嘘だろ、こんな事毎年あったか?!」カバーサ「ドライバーの冷静さを見る為に敢えて主催者が仕掛けたトラップでございます、これに引っかかった残りの各ドライバーが車に乗り込みスタートして行きました。ドライバーの皆さん、くれぐれもスタートする時、他のドライバーに影響を与える事の無いようにお願いします。事故は勘弁ですよー。」光「カバーサさん・・・、こんなキャラだったっけ・・・。」 隣の魔法使いと吸血鬼が口をあんぐりとさせていた頃、唯一光が投票した⑨番車は大差を付け悠々と走っていた。18kmのホームストレートを抜け第一コーナーに差し掛かり、冷静なコーナリングを見せた。立ち上がりも悪くない、どうやら光の判断は正しかった様だ。 ふとオーロラビジョン映像が車内に切り替わり、実況と一緒に2人の男性の声が流れ出した。男性①「お、おい・・・。大丈夫なのか?」男性②「ま、まぁ・・・、問題ないさ・・・。何せ俺達の車は予選をトップ通過した高性能なんだぜ・・・。」男性①「な・・・、ならいいが・・・、ってあれ?何か俺達の声響いてね?」男性②「本当だ・・・、どういう事だ。」カバーサ「お気づきでしょうか、説明し忘れてました、てへっ。今年からレース中の車内の映像が流れ、ドライバーとチームメイトとの通信の音声を実況席を通してお楽しみ頂ける様になりました。各車の皆さんは下手に作戦を漏らさないようにお願いしますねー。」⑰ドライバー「聞いてねぇよ、こんなの初めてだ。慎重に行こう・・・。」 ポールポジションに車を止めている⑰ブルーボアのドライバーは運転席に急いで乗り込み魔力を流し込んで車を発進させた、後続車を一気に突き放し⑨番車をトップスピードで追いかけ始めた。ギアを5速に入れ18kmものホームストレートで一気に差を付け先程⑨番車が冷静にコーナリングを見せた第一コーナーに差し掛かった。第一コーナーの周りは砂漠から飛んで来た砂に囲
-145 突然現れた恋人とお詫びの料理- 渚と光の2人は親子だけで「森伊蔵」を吞んでいたつもりだったが思った以上に減りが速いので周囲を見回した、飲食店と拉麵屋台を経営する兄弟と一は先程買ってきたばかりのビールでずっと楽しんでいる。瓶を見回したが傷1つない。 納得していない光をよそにどんどん酒を呑む渚、その後ろから男性の手が伸びて光の宝物を掴んだ。何の抵抗もなく酒を並々注いでいる男性の腕を掴んで見てみると・・・。光「あんたね・・・、了承も無しに勝手に人の高い酒呑んでんじゃないわ・・・、ってナルリス?!」 そう、先程から渚の陰でこそこそと「森伊蔵」を呑んでいたのは光の彼氏、ヴァンパイアのナルリスだった。腕を掴まれた恋人の手はずっと震えている。ナルリス「ごめん、美味くてつい・・・。」渚「あたしとシューゴさんが呼んだんだよ、3人でこれが呑みたかったんだろ?」 光が望んだ形では無かったが、一応光の目的通りになった。 光を驚かせ、喜ばそうと3人が結託して行ったドッキリだ、ただその場にいたレンカルドは一切関与していないので光の表情を見ておどおどしていた。驚いてはいたがどう見ても喜んではいない。レンカルド「みんな・・・、本人それどころじゃないみたいだけど。」 大切にしていた高級な酒を勝手に、しかも購入した自分以上にガバガバと呑まれているので光は今にもキレそうになっていた。しかしその事も想定の範囲内だ。ナルリス「お詫びと言っちゃなんだけどおつまみ・・・、ポテトサラダとロールキャベツを作って来たよ。」 最近光の家庭菜園でごろっとした新じゃが芋や新玉ねぎ、そしてふんわりと柔らかな春キャベツが採れる様になっていたのだがこれで料理を作ってみてくれないかと料理上手のナルリスにお願いしていたのだ。今に始まった事ではないのだが光はナルリスの料理が大好きであった。 酒と白飯の両方に合う様にポテトサラダはブラックペッパーで、そしてロールキャベツはトマトソースで味付けされている。どうやら肴が叉焼しかないので何か持って来てくれないかとシューゴがナルリスに頼んでいたらしい、2人は魔学校の先輩後輩の間柄だった。光「もう・・・、こんなんで私の機嫌が直る訳・・・、ない・・・、じゃない・・・。」 こう言う割には食が進んでいる光、よっぽど美味かったのだろうか。それを見て上手く行ったと顔
-144 親子の盃- ドーラに真実を聞いた後、兄弟を待たせては悪いと2人は急ぎ『瞬間移動』でレンカルドの飲食店へと向かった。ただこの世界の者に共通して言えるあの事を考えると・・・、と思っていたので光はそこまで焦ってはいなかった。一は不思議で仕方なさそうな表情をしている。一「やけに落ち着いているな、吉村。」光「何となく予感している事があるので。」 『瞬間移動』で到着した時、光は一瞬引き笑いをした。どうやら予感が当たったらしい。シューゴ「一はぁ~ん・・・、こっちこっちぃ~。」レンカルド「光さんも早く呑みましょうよぉ~。」 予想通り2人はもう出来上がっていていた、ただその横で見覚えのある人物が1人手酌酒を呑んでいる。光の母、渚だ。光「もう・・・、お母さんまで・・・。」 どうやら2人に誘われたらしく喜び勇んでやって来たらしいのだが、実はそれ自体は問題ではない。渚が呑んでいた酒を見て光は驚きを隠せなかった。光「ちょ、ちょっとそのお酒!!」渚「光ぃ~、どうしてこんなに美味い酒を隠してたのよ。勿体ない。」光「それは今度ナルリスを交えて3人で呑もうって大切にしていた「森伊蔵」じゃない、それ高かったんだけど!!」 すると完全に出来上がっているシューゴが即座に解決策を出すため光に聞いた。シューゴ「ナルリスってあのヴァンパイアのナルリス君かい?」渚「そうなのよ、この子の旦那。」光「お母さんが何で答えんの、それにまだ結婚してないし!!と言うか凄く打ち解けてるじゃん!!」 光の一言に引っかかった渚、今までの様子が嘘みたいに酔いがさめた様な表情をしている。頬が少し赤い以外、見た目は完全なる素面みたいだ。渚「光・・・、「まだ」って何だい?」光「まだ付き合って1年も経ってないの、結婚する訳ないじゃん。」渚「馬鹿だね、お母さんはお父さんと出逢って半年で結婚してあんたを産んだんだよ。」 光からの目線からすればかなりのスピード婚だが少し待とう、今思えば渚は完全に酔っているのだ。光「早すぎない?」渚「いやちょっと待って、半月だったかな?」光「全然違うじゃない・・・。」 いくら何でも記憶があやふや過ぎる渚、それを聞いていたレンカルドが提案した。レンカルド「だったら御家族みんなで集まれば良いのでは?」 渚は夫・阿久津が未だに見つかっていない事や、光が生ま
-143 一の疑問- 光と一はゲオルの雑貨屋へと到着し、呑み会の為の買い物を始めた。飲食店を経営している身であってもシューゴとレンカルドは2人共バーサーカーなので、多く呑みそうだなと想像してビール2ケースを中心に多めに用意しておくことにした。ただ、一は乗って来た車両(カフェラッテ)の大きさを考慮して「乗らないんじゃないか」という疑念を抱いていた。勿論『アイテムボックス』を使うので車両積載量は関係ないのだが、何もかもが初めての一は脳内で騒動が起こっている。一「吉村・・・、1つ聞くがどう運ぶつもりだ?」光「運ぶと言うより入れておくって言った方がよろしいかと。」 すると突然ゲオルが2人の真後ろに音も立てず現れ、声をかけた。気配を全く感じなかったので驚いた一は白目を向いていた。ゲオル「光さん・・・、また凄い量ですね。」一「だ、だ、だ、誰だ!!」光「ここの店長でリッチのゲオルさんですよ、この世界で一番お世話になっていまして。」 一は自分の中のリッチのイメージを思い浮かべた、目の前にいる店長の風貌は明らかにイメージとかけ離れている。一の思念を呼んだのかゲオルは手で頭の後ろを搔きながら言った。ゲオル「やはりそういうイメージをお持ちでしたか・・・。すみません、普段はこうやって普通の人間の姿をしていないと生活に支障が出るんですよ。」 一は自分の中のイメージを読み取られ驚きを隠せずにいる、日本に似ている異世界に来たはずなのに日本との違いをまざまざと見せつけられた気がした。一「いや・・・、本当に凄いお方なんですね。申し遅れました、私光さんの元上司の一と申します。以後、お見知り置きを。」 ゲオルは懐から名刺を取り出し一に渡した、勿論一には日本語での表記で見えている。ゲオル「これはご丁寧に、私ここの店長のゲオルです。それにしても驚きましたよ、男性の方とお買物されているので知らぬ間にナル君と別れて新しい彼氏さんが出来たのかと。」光「何か・・・、ごめんなさい。でも一さんは既婚者ですから。」ゲオル「おっと・・・、これは失礼。」 するとレジの方から店員に呼び出されたみたいなので、ゲオルは目の前からスッと消えて業務に戻って行った。 買い込んだ酒類を『アイテムボックス』に入れていると、一が羨ましそうに眺めていたのでスキルをさり気なく『付与』してあげる事にした。光「そ
-142 ば、バレた・・・。- 一のギルド登録が無事に終え、シューゴのもとへ戻ることにした2人。一の『瞬間移動』の練習も兼ねてそれで帰還する事にした。 まだ慣れていないみたいで、スキル使用の為前に差し出した右手がまだ震えていた。しかし、冷静になり丁寧に行った為か一発でシューゴのいる弟・レンカルドの経営する飲食店に到着した。シューゴ「あ、お帰りなさい。寄巻さんの登録も大丈夫そうですね。」光「そ・・・、それが・・・。」一「すみません、光さんにも言えてなかったのですが実は転生前に婿養子に入って「一」になったんです。」シューゴ「そうですか、でも大丈夫ですよ。まだ名札も作ってませんから。」 一は事が進みすぎて思考が追いついていない、拉麺屋台の一員として採用された事にいつ気付くのだろうか。光「大丈夫だったでしょ?お手伝いしてた時の一さん、生き生きとしてたじゃないですか。好きだったんでしょ、拉麺屋さんのお仕事。」一「うん・・・。実は子供の頃から拉麺屋さんのお店を出す事が夢だったんだ。」 そう聞いたシューゴは安心した様子で笑みを浮かべていた、とても嬉しそうな顔だ。シューゴ「寄巻さん改め一さん、その夢私と一緒に叶えませんか?」光「という事は・・・、また屋台を増やすんですか?」 シューゴは首を横に振り笑顔で答えた。シューゴ「いえ・・・、実はそろそろ店舗を出しても良いかと思ってたんです。一さんにはその手助けをして頂ければと。」 心配していた仕事が即決まったので一は安心した様子で涙を流した。一「私で宜しければ・・・。」シューゴ「こちらこそ・・・、宜しくお願い致します。」光「あの・・・、感動している時に悪いのですが何か忘れてません?」 咄嗟に口を挟んだ光を2人はぽかんとしながらじっと見ていた。光「お店を経営する事になるから、一さんも一応商人兼商業者ギルドに登録する必要が無いのですか?」 数秒の間、静寂が続いた後シューゴが笑顔で自らの頭を撫でながら照れた様子で言った。シューゴ「ははは・・・、すみません。完璧に忘れてました。今日はもう遅いので明日にしませんか?渚さんと一さんの歓迎会を兼ねて一緒に呑みましょう。実は叉焼を作りすぎちゃいまして、ビールを買って来ますのでお待ちください。」レンカルド「兄さん・・・、ビールならお店にもあるよ。」光「丁度良か
-141 寄巻の真実- 不動産屋で入居の手続きを終えた寄巻の横で、シューゴに1つ確認する事があったので渚を通して連絡先を聞いた。光「もしもし、2号車の赤江 渚の娘の光です。突然すみません、1つ聞いておきたいことがあるのですが。」 突然の連絡に驚きつつも、シューゴは快く通話に応じた。確認事項についても答えは「イエス」だったらしい。首を傾げる寄巻をよそに光は話を進めていった。光「ぶち・・・、寄巻さん。」 相変わらず昔の呼び方が抜けていない光、未だ「寄巻さん」と呼ぶのに少し抵抗があるみたいだ。寄巻「ん?どうしたの?」光「今シューゴさんに確認したのですが、本人に会う前に冒険者ギルドに登録しておいて欲しいとの事なんです。きっと部・・・、寄巻さんにとっていい結果を生むと思いますので行きましょう。」 改めて『瞬間移動』で寄巻を冒険者ギルドに連れて行くと、奥の受付カウンターにいる受付嬢兼ネフェテルサ王国警察刑事のアーク・エルフ、「ドーラ」こと新婚のノーム林田に声を掛けた。ドーラ「いらっしゃい、光ちゃん久しぶりね。」光「お久しぶりです、今日はちょっとお願いがあって。」 そう聞いたドーラは寄巻の方をチラ見したドーラ「そちらの方の事かしら?まさか不倫とか?」光「何言っているんですか、ナルに怒られちゃいますよ。」 一発ジョークをかますドーラを見て少々緊張している様子の寄巻。それもそのはずで、異世界(こっちの世界)に来初めての事なのだが自分の目と鼻の先にエルフがいる、日本(あっちの世界)にいた頃にアニメやマンガでしか見たことが無いエルフが。先程屋台の手伝いをしていた時に客として何人かいたかも知れないのだが、忙しすぎて全く気付かなかった。 寄巻が耳が長い事以外は普通の人間なんだなと思いながら受付カウンターの方をぼぉーっと眺めている間、傍にいたエルフ(ドーラ)がずっと肩を軽く叩いてくれていた事にやっと気付いた。ドーラ「だ・・・、大丈夫ですか?」寄巻「す・・・、すみません。」光「ドーラさんごめんなさい、この人こっちの世界に来たばっかりで。」ドーラ「よくある事よ、多分エルフをまじまじと見るの初めてだったからじゃない?」寄巻「正しく・・・、その通りです・・・。」 緊張しながら言葉を搾り出す寄巻、ドーラに促されるまま登録用紙に記入をし始めた。光の知る名前は「寄
-140 部下から先輩へ- 異世界と言っても神によって日本に限りなく近づけられた世界で、同じ様な拉麺屋台なので学生時代にバイト経験があったせいか寄巻部長はお手伝いをそつなくこなしていた。寄巻「拉麺の大盛りと叉焼丼が各々3人前で、ありがとうございます。注文通します!!大3丼3、④番テーブル様です!!」シューゴ「ありがとうございます!!おあと、⑦番テーブルお願いします!!」寄巻「はい、了解です!!」 寄巻の登場により一気に回転率が上がったシューゴの1号車は、今までで1番の売り上げを誇っていた。嬉しい忙しさにシューゴも汗が止まらない、熱くなってきたせいか寄巻はTシャツに着替えている。 数時間後、今いるポイントでの販売を終えシューゴが片付けている横で手伝いのお礼としてもらった冷えたコーラを片手に寄巻が座り込んでいた。シューゴ「寄巻さんだっけ?あんた・・・、初めてでは無さそうだね。」寄巻「数十年も前も話ですが、あっちの世界で拉麵屋のバイトをしていた事があったのでそれでですよ。」 いつも以上に美味く感じる冷えたコーラを一気に煽ると、寄巻はこれからどうしようかと黄昏ながら一息ついた。渚は隣に座り寄巻自身が1番悩んでいる事を聞いた。渚「部長・・・、家とかどうします?」寄巻「吉村・・・、さん・・・。こっちの世界では違うからもう部長と呼ばなくていいんだよ?それに君の方がこの世界での先輩じゃないか、お勉強させて下さい。」 寄巻は久々に再会した部下に深々と頭を下げた、渚は焦った様子で宥めた。渚「よして下さいよ。取り敢えず不動産屋さんに行ってみましょう、即入居可能なアパートか何かがあるかも知れません。」シューゴ「おーい、寄巻さんにまた後で話があるから連れて来て貰えるか?」 シューゴの呼びかけに軽く頷いた渚は寄巻を連れて『瞬間移動』し、ネフェテルサ王国にある不動産屋に到着した。以前渚もお世話になったお店だ。 寄巻は『瞬間移動』に少々驚きながらも目の前のお店に入ろうとした渚を引き止めた。不動産屋で契約出来たとしてもお金が・・・。渚「そうでしょうね、でも安心して下さい。部ちょ・・・、寄巻さんも神様にあったんでしょ?」寄巻「それはどういう事だ?「論より証拠」って言うじゃないか、分かりやすい形で見せて欲しいんだが。」渚「では、場所を移しましょう。」 渚は再び『
-139 懐かしき再会- その眩しい光は渚にとって少し懐かしさを感じる物だった、ただ花火か何かかなと気にせずすぐに仕事に戻った。今いるポイントで開店してから2時間以上が経過したが客足の波は落ち着く事を知らない。 2台の屋台で2人が忙しくしている中、渚の目の前に『瞬間移動』で娘の光がやって来た。スキルの仕様に慣れたのか着地は完璧だ。光「お母さん、売れてんじゃん。忙しそうだね。」渚「何言ってんだい、そう思うなら少しは手伝ってちょうだい。」光「いいけど、あたしは高いよ。」渚「もう・・・、分かったから早く早く。」 注文が次々とやって来ている為、調理と皿洗いで忙しそうなのでせめて接客をと配膳とレジを中心とした仕事を手伝う事にした。2号車の2人の汗が半端じゃない位に流れている頃、少し離れた場所から女性の叫び声がしていた。先程眩しく光った方向だ。女性①「大変!!人が倒れているわ!!誰か、誰か!!」 大事だと思った屋台の3人も、そこで食事をしていたお客たちも一斉にそちらの方向へと向かった。一応、火は消してある。男性①「この辺りでは見かけない服装だな、外界のやつか?」女性②「頬や肩を叩いても気付かないわよ、死んでるんじゃないの?」男性②「(日本語)ん・・・、んん・・・。何処だここは、俺は今まで何していたっけ。」 どうやら男性が話しているのは日本語らしいのだが、まだ神による翻訳機能が発動していないらしい。男性①「(異世界語)こいつ・・・、何言ってんだ?やっぱり外界の奴らしいな。」男性②「(日本語)ここは・・・?この人たちは何を言っているんだ?」 しかし光の時と同様にその問題はすぐに解決され、光達が現場に到着した時には雰囲気は少し和やかな物になっていた。すぐに対応した神が翻訳機能を発動させ、男性は皆に今自分がいる場所などを聞いていた。ただ、男性の声に覚えがある光はまさかと思いながら群衆を掻き分け中心にいる男性を見て驚愕した。光「や・・・、やっぱり!!」男性②「その声は吉村か?!何故吉村がここにいるんだ?!」渚「あんた・・・、ウチの娘に偉そうじゃないか?」 光は男性に少し喧嘩腰になっている渚を宥める様に話した。光「母さん、この人は向こうの世界にいた私の上司の寄巻さんっていうの。」渚「え・・・、上司の・・・、方・・・、なのかい?」寄巻「そう、今
-138 事件後の屋台では- 事件が発覚してから1週間後、人事部長がバルファイ王国警察に逮捕され、お詫びとして受け取った温泉旅行から帰って来て笑顔を見せるヒドゥラの姿が渚の屋台の席にあった。渚「良かったですね、これで安心して働けるんじゃないですか?」ヒドゥラ「あれもこれも店主さんのお陰です。」渚「何を言っているんですか、私は何もしていませんよ。」ヒドゥラ「いえいえ、ここで拉麺を食べてなかったら社長に会う事は無かったんですから。」 その時、渚が屋台を設営している駐車場の前を1組の男女が歩いていた、貝塚夫妻だ。結愛「良い匂いだな、折角の昼休みだ。俺らも食っていくか?」光明「いいな、俺も腹が減っちったもん。」結愛「よいしょっと・・・、ヒドゥラさん、ここ良いですか?」 夫妻は前回と同じ席に着き、拉麺と叉焼丼を注文した。その時渚は既視感と違和感を半々で感じていた。渚「あれ?この前来たおばあちゃんと同じセリフな様な・・・。」結愛「き・・・、気のせいですよ、店主さん。やだなぁ・・・、嗚呼お腹空いた。」 結愛は光と渚が親子だという事を知らない、それと同様に渚は結愛と光が友人だという事を知らない。まぁ、この事に関してはまたいずれ・・・。 貝塚夫妻は以前とは逆に麺を硬めにとお願いした、前回は老夫婦に変身していたので仕方なく柔らかめにしていたが好みと言う意味では我慢出来なかったのだ。次こそは絶対硬めで食べると堅く決意していた、別に駄洒落ではない。 結愛達が注文した拉麺がテーブルに並び、3人共幸せそうに食べていた。やはり同様に転生した日本人が作ったが故に結愛と光明は何処か懐かしさを感じている。ヒドゥラ「おば・・・、理事長も拉麺とか召し上がるんですね。毎日高級料理ばかり食べているのかと思っていました。」結愛「何を仰っているのですか、私はドレスコードのある様な堅苦しい高級料理よりむしろ拉麺の方が好きでしてね。それと貴女、先程私の事・・・。」ヒドゥラ「て、店主さーん、白ご飯お代わりー。」渚「上手く胡麻化しちゃって、あいよ。」 数時間後、渚は屋台の片づけをして次の現場へと向かう事にした。実はシューゴに新たな地図を渡されていたのだが、2か所目のポイントを変更したというのだ。そこでは屋台を2台並べて販売する予定だと言っていた。 指定されたポイントはダンラルタ
-137 人事部長の悪事- 夫婦は重い頭を上げヒドゥラにソファを勧めた、先程の入り口前にいた女性にお茶を頼むとゆっくりと話し始めた。夫人「初めまして、普段は学園にいるからお会いするのは初めてですね。私は貝塚結愛、この貝塚財閥の代表取締役社長です。隣は主人で副社長の光明です。」光明「初めまして、これからよろしく。」ヒドゥラ「しゃ・・・、社長・・・。そうとはつい知らずペラペラと、申し訳ありません。」結愛「何を仰いますやら、貴重なお話を頂きありがとうございます。」 実は最近の異動で人事部長が変わってから、やたらと人件費が削減されているので怪しいと思っていたのだ。削減された人件費の割には利益が昨年に比べて悪すぎると思っていた折、ヒドゥラの話を聞いた結愛は人事部長が怪しいと踏み、部の社員数人にスパイを頼み込んで調べていた。光明の作った超小型監視カメラを数台仕掛けて証拠を押さえてある。 調べによると金に困った人事部長が独断でありとあらゆる部署から人員を削り、余分に出た利益を書類を書き換えた上で自らの口座へと横流ししていたのだ。結愛「今回発覚した事件により貴女を含め大多数の社員に迷惑を掛けてしまった事は決して許されない事実です。人事部長は私の権限で以前の者に戻し、迷惑を掛けた皆さんには賠償金を支払った上で私達夫婦からお詫びの温泉旅行をプレゼントさせて頂きます。」光明「そしてヒドゥラさん、貴重なお話を聞かせて下さった事により我々にご協力下さいました。我々からの感謝の気持ちもそうなのですが、業務に対する責任感を感じる態度へと敬意を表し今の部署での管理職の職位を与え、勿論貴女にもお詫びの温泉旅行をプレゼント致します。」 ヒドゥラは今までの苦労が報われたと涙を流すと、全身を震わせ崩れ落ちた。2人に感謝の気持ちを伝えると自らの部署に戻り暫くの間泣いていたという。 問題の人事部長についての調査なのだが、以前から魔学校の入学センター長を兼任しているアーク・ワイズマンのリンガルス警部に結愛が直々にお願いしていた。そしてこういう事もあろうかと様々な魔術をリンガルスから学んでもいたのだ、屋台で使用した『変身』もその1つである。そのお陰でネクロマンサーとなり、多くの魔術が使える様になった結愛は魔法使い特有の念話も使える様になっていた(光は『作成』スキルで作ったが)。結愛(念話