LOGIN最後のページ。筆跡はひどく乱れ、幾つもの涙の痕が残っていた。そこに記された一文字一文字の真実が、鋭い刃のように柊真の心臓を深く抉った。莉乃は日記帳に、とうの昔に真相を綴っていたのだ。もう少し気を配っていれば。もう少し莉乃の言葉を信じていれば。この死の結末を覆す方法は、いくらでもあったはずなのに、自分は何一つ真剣に受け止めなかった。ただ思い込んでいた。莉乃も、今まで群がってきた女たちと同じだと。金が目当てなのだと。妻の座という地位が目当てなのだと。そう思い至った瞬間。男は、もう自分を抑えきれなかった。「あああああーーっ!」柊真は日記帳を抱きしめ、体を丸めて床に倒れ、のたうち回った。喉の奥から絞り出される嗄れた絶叫は、もはや人の声には聞こえなかった。「俺はなんて馬鹿だ……俺は畜生だ!俺が夢を殺した、俺の子供を殺したんだ!俺が!」ドンッ!彼は思い切り頭を床に叩きつけた。ドンッ!ドンッ!額はたちまち割れ、血が目に流れ込み、視界が真っ赤に染まった。痛みなど感じない。心の痛みは、その一万倍も深かった。泣き叫んだ末に、彼は不意に立ち上がり、私の日記帳に向かってふっと笑った。「夢、君の望み通りにしてあげる」柊真は狂った。葬儀場から私の遺骨を引き取った後、なんと私の遺骨と籍を入れようとしたのだ。彼は二人の書類を握りしめ、区役所の入り口に立ち塞がった。結城家の両親が駆けつけた。彼の頭を張り飛ばし、鼻先を突きつけて激しく罵った。「いい加減にしろ!これ以上目を覚まさないなら、結城家にお前という息子はいない!」柊真は何も言わず、ただ無表情のまま懐から短剣を取り出した。カチャリ。錆びた刃が跳ね出した。あの日、私が自身の心臓に突き立てた短剣だ。べっとりとこびり付いていた鮮血は、もう褐色に変わり、黒ずんでいた。周囲が、一瞬で凍りつくように静まり返った。結城家の両親はその刃を見て、血走った柊真の狂気じみた目を見て、思わず一歩後ずさった。職員が恐る恐る一歩前に出た。「お客様、落ち着いてください。刃物を下ろして……」だが男には何も聞こえなかった。ただ念仏のように繰り返し呟いている。「夢と結婚するんだ、夢と籍を入れるんだ、籍を……」後から駆けつけた白石
絶叫の果てに、柊真は膝から崩れ落ちた。再び床に倒れ込み、額をぶつけて鮮やかな血が滲む。それでも諦めなかった。必死に這いずりながら、私を探し続けた。結局、駆けつけた医師に鎮静剤を打たれ、そのまま意識を失った。目を覚ました後の柊真は、正気を取り戻したかのように見えた。昼間は、狂ったように働いた。以前よりも、はるかに異常なほどに。以前は結城家のためだった。今は、自分を麻痺させるためだ。彼は疲れを知らない機械のように、朝から晩までオフィスに籠もり続けた。私のことを一切口にしなくなり、スマートフォンさえ見なくなった。まるで桜井夢という人間が、彼の人生に存在したことなどなかったかのように。ある大雪の夜のことだった。街角で、一つの後ろ姿を見かけた。キャメル色のトレンチコート。ストレートのロングスカート。肩まで流れる長い髪。私によく似ていた。その瞬間、柊真は我を失った。アクセルを踏み込み、狂ったように何ブロックも追いかけた。「夢!夢!」目を見開き、喉が裂けるほど叫びながら、車で道端の屋台に突っ込みかけても構わなかった。ようやくその女性の前に車を止め、ドアを飛び出し、腕を掴む。女性が振り返った。全く見知らぬ顔だった。柊真の目から、光が消えた。彼はただ、目の前の人を見つめていた。捨てられた子供のように。大雪の中、呆然と立ち尽くした。周囲の人々が指を差し、狂人だと罵っても、何も聞こえなかった。聞こえるはずがない。彼はただ頭を抱えて地面にひざまずき、涙で前が見えなくなるまで泣きじゃくった。「夢!桜井夢!出てきてくれ!俺は君に、結婚式をしてやれなかった。籍だって、まだ入れてない……顔を見せてくれないか……」雪は降り続け、彼の肩に厚く積もっていく。けれど、無数に瞬く街の灯りの中に。笑顔で応え、優しく「柊真……」と呼んでくれる人は、もうどこにもいなかった。かつて陽光に満ちていた、あの花に囲まれた家に戻ってから。彼の精神状態は、さらに悪化した。私が死んだ後、彼は一人でそこに住み、使用人も執事もすべて追い出した。幻覚を見るようになった。私が家で待っていると、信じ込んでいた。食事の時は箸を二膳並べ、コーヒーを淹れる時は一杯多く淹れた。砕け散ったウェディング
私は男の目に浮かぶ涙を見つめた。激しく泣きじゃくり、荒く喘ぐ胸元を。一瞬、心が揺らいだ。彼は本当に私を愛していた。本当に私を大切に思っていた。けれど――死の間際の哀願。引き裂かれた診断書。そして、あの極限まで馬鹿げた結婚式。そのすべてが、この男の身勝手で薄情な本性を物語っていた。五年間、彼を愛したのは私の過ちだ。攻略任務に失敗したのも、私の過ちだ。だから、罰として私と子供が共に死ぬのが、最良の結末なのだ。だから、今の彼の悔恨も、罪悪感も、私から見れば滑稽でしかない。私は冷たく、どこか虚ろな声で言った。「柊真、無駄よ。私はもう死んだの。なぜ私が、たった一刺しで致命傷を負ったのか不思議だったでしょう?私は攻略者で、あなたは私の攻略対象だったからよ。あの日、あなたが私と一緒に区役所に行って、籍を入れてくれていれば――攻略は成功して、私と子供は助かったの。でもあなたは拒んだ。偽りの愛で誤魔化して、なぜ『たかが紙切れ一枚』のためにそこまで取り乱すのかと、私を責めた」私はしゃがみ込み、惨めな笑みを浮かべた。「今、私と子供は死んだわ。これで満足?」「違う!夢!知らなかったんだ!本当に知らなかった!君が本当に妊娠していたことも、君の正体も、俺は……」私の目の奥の冷たさに射抜かれ、その先の言い訳は喉に詰まった。「柊真、その偽善に満ちた愛情は、もうしまっておいて。任務は失敗した。私は死んだ。子供も死んだわ。もう籍を入れてほしいとあなたに縋る人はいない。奥さんと息子のところへ帰りなさい」そう言い残すと、私の体はふわりと浮かび上がり、空へと漂っていった。「夢!行くな!行かないでくれ!」彼の絶望に満ちた叫びが、虚空に木霊した。次の瞬間。心電図モニターが、再び鼓動を刻み始めた。手術台の上で、柊真は猛然と目を見開いた。溺れた人間のように、胸を激しく上下させながら荒い息を吐く。彼は目を覚ました。終わりのない苦痛と後悔を抱えて。けれど、彼の「夢」は――永遠に消え去ってしまったのだ。そのことに気づいた瞬間、彼は完全に狂った。心拍が安定するや否や、体に繋がれた管を乱暴に引き抜いた。針が抜け、点々と血の滴りが白いシーツに飛び散った。構いもせず、ベッドから飛び降りる
結城家の両親は慌てて駆け寄り、身をかがめて二人を抱き起こした。「大丈夫?痛くない?可哀想に……」そして振り返るや、柊真を厳しく責め立てた。「死んだ女のために自分の息子を傷つけるなんて、頭がおかしくなったんじゃないのか!」男は歯を食いしばり、血を吐くように言葉を絞り出した。「ああ、狂ったさ!お前たちが俺を狂わせたんだ!失せろ!全員、俺の前から消えろ!」柊真は最後の力を振り絞って吠えた。百人以上の記者のフラッシュが、彼に向かって一斉に焚かれた。蒼海市が誇る若きカリスマの狂乱する姿を、冷酷にレンズへと収めていく。私が医療スタッフに囲まれ、遠ざかっていくのを見た瞬間。柊真は突然白目を剥き、血だまりの中にまっすぐ倒れ込んだ。そのまま意識を失う。途端に、現場は再び悲鳴に包まれた。助けを呼ぶ声、怒号、ざわめきが、雷雨前の空みたいに途切れなかった。私は、それをただ冷ややかに見つめていた。柊真が取り乱そうと、倒れようと、心の底からはもう何の感情も湧かなかった。ただ彼が救急処置室に運び込まれるのを、じっと見下ろしていた。手術室のランプが灯り、眩しい赤色を放っている。中では医師たちが慌ただしく動き回り、心電図モニターが「ピッ、ピッ」と急迫した警告音を発していた。柊真は手術台に横たわり、目を閉じている。その顔色は、死んだ私よりも青白かった。突然、心電図の波形が一本の平坦な直線を描いた。ピーーー……医師が除細動器を手に取り、電気ショックを開始する。バンッ!バンッ!衝撃で男の体が跳ね上がり、またベッドに沈む。その時、私は突然、見えない強い力にぐんと引き寄せられた。再び目を開けると、柊真がいつものように私の目の前に立っていた。「夢!」男の目に狂喜が走り、叫びながら私に飛びついてきた。「夢!君が俺を置いていくはずがないと思っていた!」ようやく私を見つけたという安堵の笑みを浮かべ、抱き上げようとする。しかし、彼の両手は空を切り、私の体をすり抜けた。浮かんだばかりの笑みが、柊真の口元で凍りついた。目を見開き、自分の両手を呆然と見つめ、それから再び私を見る。その引きつった笑顔は、泣き顔よりもずっと痛々しかった。「夢……俺はまだ、悪い夢を見ているんだよな。そうだろう?
柊真は、耳元で落雷が轟いたかのような衝撃を受けた。心臓が血まみれに砕け散る。全身の震えが止まらない。声のトーンはすっかり変わっていた。「夢が……本当に妊娠していた、本当に……」彼は独り言のように呟き、みるみるうちに目を赤く血走らせていく。突然、猛然と立ち上がり、医師の腕を掴んでむせび泣きながら哀願した。「頼む、彼女を助けてくれ!彼女と子供を……助けてくれ……」医師は困ったように首を振った。「結城さん、助けたくないわけではありません。ですが……こちらの女性は、もう息がないのです」「でたらめを言うな!」柊真は信じられないという顔で、私の体を指差しながら声を荒らげた。「ちょっと自分で刺しただけじゃないか。死ぬわけがないだろう!もう一度よく診てくれ、もう一度!」医師は何も言わず、ただ彼の手を取り、私の鼻先にそっとかざさせた。確かに、呼吸は全く感じられない。柊真は喉を強く締め付けられたように息を呑み、喉仏を動かしたが、言葉は何も出てこなかった。医師はその隙に私へ白い布を被せ、担架で運び出そうとした。その白い布が私の顔を覆い隠すのを見た瞬間、柊真は完全に崩れ落ちた。結城家の両親の制止も聞かず、必死に振り払って担架の後を追いかけながら、私の名を絶叫し続けた。「夢!行くな!俺たちはまだ結婚してない!式も挙げてないじゃないか!目を覚ませ!起きてくれ、一緒に籍を入れに行こう!何でも君の言うことを聞くから!」絶望に染まった彼の悲痛な顔を見て、血を吐くような叫びを聞いて。私はふと、笑いたくなった。私が籍を入れようと必死に足掻いていた時、彼は私が財産目当てで離婚を迫っているのだと嘲笑った。妊娠の証拠を目の前に突きつけた時、彼は私が目的のためなら手段を選ばない嘘つきだと言った。私と子供が共に死んで、ようやく籍を入れる気になったのだ。残念だけれど、もう遅すぎる。私と子供は死んだ。そんな紙切れ、もう必要ないのだ。激しい自責の念が、彼の骨の髄まで蝕んでいく。柊真の心は千々に引き裂かれ、狂ったように何度も何度も謝り続けた。「ごめん、夢……ごめん……」柊真は頭を抱え、苦しげに呻いた。床一面の血と、運び出されていく私を見て、莉乃は子供を抱えたまま腰を抜かし、その場にへたり込んでい
その瞬間、時が止まった。柊真は声も出ないまま口を半開きにし、顔に生温かい血を浴びて、自分が悪夢でも見ているのだと思った。しかし周囲の悲鳴と、目の前に広がる真っ赤な血の海が、彼に無情にも告げていた。これは幻覚ではない。彼の愛する夢が、彼の目の前で、満席の参列者たちの目の前で、自らその胸に短剣を突き立てたのだと。喉の奥から、獣のような呻き声が漏れた。大きく目を見開き、全身が石のように硬直する。次の瞬間、悲痛な絶叫が会場に響き渡った。「夢ーーっ!」彼は猛然と飛びつき、崩れ落ちるように私の足元にひざまずいた。震える手で私に触れようとするが、触れられない。抱きしめたいのに、これ以上私を傷つけてしまうのが怖いかのように。ただ声を枯らして叫ぶことしかできなかった。「医者を呼べ!早く医者を!」その叫びは披露宴会場を貫き、外の雨をも突き抜けるかのようだった。「夢……頼む、驚かさないでくれ……目を開けてくれ……眠るな……約束する……君の言うことなら何でも聞くから……」彼は支離滅裂な言葉を吐き出し、大粒の涙がポロポロと頬を伝い落ちた。背後の莉乃はこの時ようやく我に返り、子供を抱きながら男の傍に歩み寄った。そして彼女は小声で囁く。「柊真、今日は翔ちゃんの誕生日なのよ。血を見るなんて縁起が悪いわ。吉時が近いのよ。お医者さんも来るし、彼女のことは任せて行きましょう」そう言いながら、魂の抜けた柊真を引き戻そうと手を伸ばした。以前なら、翔(かける)を口実にすれば、柊真を思い通りに動かすのは容易いことだった。しかし今回、男は彼女を完全に無視した。莉乃は小賢しく目を巡らせると、翔をこっそりつねった。翔は空気を読み、次の瞬間わっと泣き出した。「パパ……怖いよ、あっちへ行こう!誕生日のお祝いしたい!」子供の甲高い泣き声が会場に響き渡る。だが、無駄だった。柊真は耳が聞こえなくなったかのように、何の反応も示さない。その目には、血だまりの中に横たわる、青白く冷たく、もう息をしていない女しか映っていなかった。「パパ!」「柊真!」莉乃と息子の叫び声が同時に頭上から降ってきた。男はようやく反応した。ゆっくりと頭を上げ、暗く冷たい目で二人を睨みつけた。そして怒りに満ちた声で吠え