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Ep.11 痛みの告白

Penulis: いろは杏
last update Tanggal publikasi: 2026-05-13 20:02:52

僕が女の子になってから――つまり、理子先輩との同居生活が始まってから、一週間ほどが経った。

朝、僕が朝食とお弁当を作り、学校に行って授業を受ける。放課後は部活で元に戻る方法を研究して、帰宅する。

そこから僕が夕食を作って、一日を終える――そんな疑似同棲のような日常のリズムが、少しずつ出来上がっていた。

でも、一つだけ、誰にも言えない深刻な問題があった。

「うっ……」

体育の授業中、持久走で走っている最中に、胸のあたりに鋭い痛みが走った。

「翼ちゃん、大丈夫?」

隣を走っていたクラスメイトが心配そうに声をかけてくれる。

「だ、大丈夫……っ」

僕は苦笑いを浮かべて手を振った。でも、実際は全然大丈夫じゃなかった。

走るたびに重い胸が上下に激しく揺れて、それがキツいブラジャーのカップに擦れて痛む。アンダーのワイヤーが肋骨にギリギリと食い込んでいるような感覚で、息も苦しくなってくる。

しかも、この痛みは今日だけじゃない。ここ数日の間、ずっと続いているのだ。

体育館から教室に戻る途中、階段を上がるときにもズキッと痛んだ。

「っう……」

思わず胸元を押さえてしまう。

教室に着いて席に座るとき、前かがみになった瞬間にも鋭い痛みが走った。大きすぎる胸が腕と机に挟まれて、下着の形に沿って圧迫されるような不快感があった。

「翼ちゃん、顔色悪いよ?」

隣の席の桜井さんが、心底心配そうな声で覗き込んでくる。

「あ、大丈夫。ちょっと疲れてるだけだから」

僕は慌てて誤魔化すように笑顔を作った。

でも、桜井さんの表情を見ていると申し訳ない気持ちになる。本当のことを話したいけど、中身が男の僕が胸が痛いなんて相談するのは、あまりにも気恥ずかしくて言えなかった。

「……何か困ったことがあったら、遠慮しないで言ってね。更衣室での約束、忘れてないからね」

「うん、ありがとう」

一緒に買い物に行こうと言ってくれた桜井さんの優しさが身に染みる。

でも、どうしても自分からは言い出せなかった。

* * *

夜、家に帰ってからも、痛みは続いていた。

夕食を作っているときも、まな板に向かって前かがみになるたびに、胸の谷間のあたりが擦れてヒリヒリと痛む。

「翼、大丈夫? なんだか動きがぎこちないし、痛そうに見えるけど」

リビングから理子先輩が心配そうに声をかけてくれた。

「あ、いえ……大丈夫です。ちょっと肩が凝ってるだけで」

僕は慌てて否定した。理子先輩になら相談できそうな気もするけど、やっぱり恥ずかしい。

夕食後、お風呂に入るときに服を脱ぐと、痛みの原因は明らかだった。

鏡で自分の胸を見ると、ブラジャーのワイヤーの跡がくっきりと残っていたのだ。赤い線になって、肌に深く食い込んでいる。

「これ……最初より、キツくなってないかな?」

女性の身体になってまだ一週間。何が正常で何が異常なのか、男の僕にはさっぱり分からないのだ。

そして、一番辛いのは夜だった。

ベッドに横になって、いつものようにうつ伏せで寝ようとした瞬間。

「あっ――っうぅ!」

激痛が走った。

胸の膨らみが自分の体重でベッドに押し付けられ、ブラジャーのワイヤーが肋骨を刺すように圧迫してくる。

慌てて仰向けになると少し楽になったが、それでも普通に寝返りを打とうとするだけで痛みが走った。

「痛い……」

仰向けのまま天井を見つめながら、僕は途方に暮れていた。

この痛み、いつまで続くんだろう。女の子はみんな、毎日こんな苦痛に耐えて寝ているんだろうか。

* * *

深夜零時を過ぎた頃、僕はベッドの上で身体を起こしていた。

鬱血しているような痛みと息苦しさで、一睡もできないのだ。

「うぅ……」

もう限界だった。

恥ずかしさから誰にも相談できずにいたけど、このままでは生活にも支障が出てしまう。

「理子先輩に……相談してみよう」

僕は意を決して、ベッドから立ち上がり部屋を出た。

廊下を歩いていくと、理子先輩の自室のドアの隙間から、まだ明かりが漏れているのが見えた。

きっと何かしらの研究でもしているんだろう。

僕は、そのドアをそっとノックした。

「理子先輩?」

「翼? どうしたの、こんな時間に」

ガチャリとドアが開き、理子先輩が顔を出した。パジャマ姿で、研究用のブルーライトカット眼鏡をかけている。

「あの……ちょっと、相談があるんです」

「相談?」

理子先輩が心配そうな表情になり、「こっちへ来て」と僕をリビングのソファへと促した。

「実は……」

隣に座った僕は、真っ赤になる顔を必死に堪えて、口を開いた。

「胸が……痛いんです」

「胸が?」

「はい。ここ数日くらい、ずっと。走ったりすると擦れて痛くて……さっきもうつ伏せで寝ようとしたら、すごく痛くて寝られないんです」

理子先輩の表情がハッとしたように変わった。

「翼、もしかして……寝るときも、昼間着けているワイヤー入りのブラジャーを着けっぱなしにしてるの?」

「えっ? は、はい……外すと重みで引っ張られるみたいで落ち着かなくて、それに外し方もよく分からなかったので……ダメなんですか?」

僕が小声で答えると、理子先輩は「あちゃー」という顔で額を押さえた。

「ダメに決まってるじゃない! ワイヤー入りのブラで寝たら、血流が悪くなって痛くなるし、形も崩れちゃうわよ」

「うぅ……すみません……」

「それに、いくらなんでも痛がりすぎよ。ちょっと、服を捲ってみて」

「えっ!? ここでですか!?」

「いいから。少なくとも今は、同じ女同士でしょう?」

理子先輩に促され、僕は恐る恐るパジャマのボタンを外し、前を開いた。

それを見た瞬間、理子先輩が息を呑む。

「これは……ひどい。ワイヤーが完全に胸の肉に食い込んで、赤くなってるじゃない」

「やっぱり、サイズが合ってないんでしょうか……」

「合ってないどころの話じゃないわ。ちょっと待ってて」

理子先輩は自室から裁縫用のメジャーを持ってくると、僕の背中に腕を回し、胸のサイズを測り始めた。同性の先輩とはいえ、元男としては心臓が飛び出そうなくらい恥ずかしい。

「アンダーがこれで、トップが……」

メジャーの目盛りを見た理子先輩の動きが、ピタリと止まった。

「理子先輩?」

「……女性化した初日に目測したサイズより、明らかに大きくなっているわね。これじゃあ、私の予備の下着が入るわけないわ」

理子先輩の声が、心なしか少しだけ低く、悔しそうに震えていた。

「――え? 大きくなってる?」

僕は驚いた。たった一週間で、そんなに変わるものなのか。

「ええ。これは……RG-47の影響が、まだ細胞レベルで進行しているのかもしれないわね」

理子先輩が深刻な顔をした。

「まだ身体が変化し続けているということですか?」

「その可能性が高いわ。継続的な観察が必要ね。……とりあえず、今夜はそのブラジャーを外して、ゆったりしたパジャマだけで寝なさい。解放してあげないと可哀想よ」

「はい……」

「とにかく、今の翼の暴力的なサイズに合うブラジャーを買いに行きましょう。明日は土曜日で休みでしょう?」

暴力的なサイズ、という言葉に少し引っかかったが、僕はこくりと頷いた。

「専門店で、きちんとフィッターさんにサイズを測ってもらいましょう」

理子先輩の提案に、僕は心の底から安堵した。これで痛みから解放されるかもしれない。

「あ、そういえば……」

僕はふと、教室での会話を思い出した。

「桜井さんからも、今度一緒に買い物に行きませんかって誘われてたんです。更衣室で、サイズが合ってないからって」

「桜井さんが?」

「はい。もしよろしければ、一緒に来てもらってもいいですか?」

理子先輩は少しだけ目を細めて考えるような素振りを見せた後、ふっと大人の余裕を感じさせる微笑みを浮かべた。

「もちろんよ。翼のお友達でしょう? 女性の買い物には、同世代の女性の友達がいた方が楽しいものね」

「ありがとうございます!」

僕はスマートフォンを取り出して、桜井さんにメッセージを送った。

『桜井さん、夜遅くにごめん。明日、理子先輩と下着とか服を買いに行くんだけど、もし時間があれば一緒に来ない?』

もう寝ているかと思ったが、数分後、すぐに返信が来た。

『喜んで。時間と場所を教えてくれる?』

「桜井さんも来てくれるそうです」

「よかったわね。それじゃあ、明日は三人で駅前のショッピングモールね。下着以外にも、普段着の服とかも買いましょう。……言っておくけど、お金の心配は一切しないで大丈夫だからね」

「はい! ありがとうございます」

僕はホッと胸を撫で下ろした。

明日、ようやくこの痛みから解放される。しかも、三人でショッピングモールに買い物に行くのだ。

不安と、少しの期待を抱きながら、僕の初めての女の子としの休日が始まろうとしていた。

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