LOGINこれは、遠い未来か遥かな過去かはたまたこの現代か、地球にとってもよく似た宇宙のどこかの星のお話。もしかしたら地球かもしれない。 主人公の少年『影光』は父を超えるべく家出した先で、様々な料理バトルに巻き込まれる。そして彼はいつしか大きな陰謀に巻き込まれ始め、それは料理界を揺るがす大きな渦に…。 お粥を正拳突きで米に戻し、急にどこかから幻のトンデモ食材を取り出し、音速の包丁で空を切る料理人たちのバトル!料理バトルというか少年漫画バトルかもしれない。 「いくらなんでもそれはないだろう」と言われたいハイパー料理人たちの常識を投げ捨てた荒唐無稽な料理バトルが今始まる!
View More「はあ、お腹すいたなあ。どこかに食べるところないかなあ…」
時は七月ある夏の日。
腹を空かせた一人の少年が、寂れた町のこれまた寂れた商店街を歩いている。
見た目からするに十代中盤ほどであろうか、顔つきにまだ幼さを残したその少年は空腹を抱えて見知らぬ街を歩いていた。
どこかの飯屋で定食でも食べたいと思っているのだが、どこもシャッターが下り営業していないようだ。
まだ昼下がりなのに、この辺りではよっぽど商売にならないのだろうか。…彼は言わば『家出少年』だった。
色々あって家を出て、縁もゆかりもないこの都内S区の『
――それでも、腹は減る。こればっかりはどうしようもない。そんなわけで冒頭のつぶやきを発し、歩きながらなんとか開いている食堂を探す彼だが…。
(う~ん、どこかに…あ!開いてるお店があった!)
路地の隅っこの方に、これまただいぶボロボロの建物が見える。一見廃屋かと思ったが、きちんと食堂の看板を掲げているのが見えた。入り口も開いているようで、ちゃんとやっている店のようだ。
もしかすると入り口さえぶっ壊れた廃屋なのかもしれないが…。
ともかくお腹と背中がくっつきそうな少年には、もうワガママを言ってる余裕はない。少し…いやとても不安はあるが、その店に入ることに決めたのである。
(…え~い、ここでいいや、もう入ろう。いざとなれば、食材を使って僕が作ればいいだけだし)
と意を決して、ただの飯屋に入るのに無駄に勇気を使いながら少年はその店…『町食堂 かがやき』に入った。
――――――――――
店に入った少年だが…内装は普通のようで、ちゃんと清掃や整理が行き届いている。
もっと建物をちゃんとすればいいのに、と思いながら席に座る少年だが…店の奥から店主と
「こ~んにちは~。珍しいわねえ、
いわゆる『ゆるふわ系』の店主のようだ。見た感じ、二十代中盤ほどの綺麗で穏やかそうな女性といったところか。なんだか感性がちょっとズレた人のようだな…と少年は考えるが、まあそれはともかく腹が減ったと彼はメニューを眺めた。
…品ぞろえも値段も普通の食堂のようだ。どうやらアブない店ではないらしい。
「あっ、えっと…じゃあ、この天丼をお願いします。あとお味噌汁とお新香」
「は~い。フレイヤちゃん、天、汁、漬いっちょ~」
と店主は厨房の方に声を掛けて奥に消えていく。先の発言から、調理は別の人間がするらしい。
しばらく待ち…少年の前に天丼と味噌汁、お新香が運ばれてくる。
味噌汁は赤だしに豆腐と三つ葉、お新香は白菜の漬物。しかし、やはり主役は天丼だろう。
少年がふたを開けると、ふわっという香りが漂い…腹ペコの少年の食欲を誘う。天ぷらは大きな海老が一つに、かき揚げ、茄子、蓮根、ししとう…まさに天丼のド定番といった天ぷらオールスターズである。
いただきますと少年はまず海老をかじるが…これは実に見事だ。食感、風味、油切れ…かなりのレベルでタレと調和している。タレも店のオリジナルであろうか独自の甘辛さで、天ぷらを支える白米との親和性も申し分ない。
まさかこれほどまでの味とは、あの店の外観からはとても想像がつかなかった。なぜこれでほかに客がいないんだろう…とも。
「これは美味しい!天ぷら、白米、そしてタレのバランスが取れている。かつお昆布出汁をベースに、少し
美味いと言いながら食べ続ける少年だが…。
厨房の中にもその発言が聞こえたようで、料理した者がそこから少年を興味深そうに見つめていた。
――――――――――
完食し満足した少年は、ゆるふわ系店主にお会計をお願いする。御馳走様でした、とても美味しかったです、と。
店主も満足そうに、そうでしょう、うちの子は世界一なのよと笑顔で会計するが…その時、少年は財布がないことに気づく。(さ、財布がない!いつ!?どこで落としたんだ!?駅を降りた時はあったのに…!?)
財布の中にはお金はもちろん、身分証や亡き母の形見も入っている。絶対に探し出さなければいけないが、まずは目の前のこのお会計だ。
家出したその日に家族に頼るというのもみっともないが、そんなことを言っている場合じゃない。お金を持ってきてもらわないといけない。
少年は冷や汗を流しつつ店主にその旨を説明した。
「あら~財布落としちゃったの?大変ね、じゃあいいわよお代は」
「いやっ、よくないですよ、それは。今家族に連絡しますので」
そんなことを言いながら少年は自らのスマホを取り出し姉に電話しようとするが…その前に、厨房から先ほどの天丼の料理人であろう人物が姿を出してきた。
年の頃は自分と同じくらい…十五、六歳の、ポニーテールで後ろ髪を縛った、可愛いながらも気の強そうな女の子だ。その子が興味深そうに少年を見ながら言う。
「何?食い逃げ?それはちょっと困るんだけど?ほら、建物見てわかる通りただでさえウチ潰れそうだし。経営的にも物理的にも」
「いや食い逃げじゃないです。本当に財布落としちゃって」
どうやら女の子も本気で責めているわけではなさそうだが、それでも少年にとっては死活問題である。取り急ぎ電話しようとするが、厨房の女の子は少年を興味深そうに見つめながら言う。
「ところで…さっきの天丼の評価、なかなか的確だったじゃない。酢橘を使ってるのを見極めた人間はなかなかいないわよ。あなたもけっこう、
「え?ええ、家がそういう系の家だったので」
「よし!じゃあ決まり!私と料理勝負よ!あなたが勝ったら料理の代金はタダでいいわ!そのかわり、私が勝ったらあなたは一週間ここでタダ働き!」
その言葉に少年は絶句する。天丼ほか合わせた料金はせいぜい1,300円程度だが…いくら暇そうな店とはいえ、それで一週間タダ働きはあんまりだ。
店主も少し心配そうに、いくらなんでもそれは条件がひどいのではないかとその女の子に言うが…女の子は引かないようである。
「で、
ああ、こういう店だったのか。どうりで味のわりに客がいないわけだ…と少年はため息をつき、女の子を睨み返し言う。
「いいでしょう、
さあ、各地で始まった第一回戦!毎週繰り広げられる日本全土を巻き込んだ料理対決は、次のように進んでいた。――――――――――第二試合、千葉県千葉市中央区。包丁の『伊蔵』対オーディンの末子こと焔王『スルト』。伊蔵が惨敗したうえ、スルトからは相当な暴言を吐かれたらしい。フレイヤ曰く:「うわ~態度悪い。戦いたくないね」影光曰く:「でも、強い。伊蔵さんがあんなにあっさり敗れるなんて…」――――――――――第三試合、香川県高松市。八傑衆にしてかつて『町食堂 かがやき』で勤務していた不真面目な天才『影時』対モブの『田中田中男』。まあ言うまでもなく影時が圧勝したらしい。哀れ田中田中男、出番さえなかった。影光曰く:「さすが影時さん。…あんまりさすがって言いたくないけど」フレイヤ曰く:「いや、それより田中田中男って…」――――――――――第四試合、岐阜県岐阜市。八傑衆若頭にしておなじみ熱い男『影真』対オーディンの正妻『フリッグ』。だが、フリッグは試合会場に来なかったらしい。何かの策略かと訝しがる影真だったが…来ない以上、彼の不戦勝が決まったようだ。影光曰く:「フリッグ…オーディンの正妻だっけ。何か企んでいるのかな?」フレイヤ曰く:「寝坊しただけなんじゃないの?」――――――――――第五試合、秋田県鹿角市。サイラス対八傑衆の一人『影風』。期せずして味方同士の戦いとなったが、サイラスはフリー参加なので組み合わせ上は同陣営とみなされなかったようだ。そして、やはり地力の差でサイラスが順当に勝利した。影光曰く:「影風さんだってかなり強いのに、やっぱりサイラスさんは強いな」フレイヤ曰く:「サイラスさん、鹿角市まで車で行ったらしいよ。遠っ」――――――――――第六試合、石川県金沢市。八傑衆の一人
さて、札幌予選から三日後…影光とフレイヤは、地元の都内S区花宮町へ帰ってきていた。札幌予選は勝ち抜け二名。影光(とフレイヤ)、そしてロキ。予選では勝ち抜け二名が決まれば終了のため、この両者の直接対決は行われず、本戦へ持ち越しとなった。次は各地の予選を勝ち抜いた総勢二十四名で本戦一回戦を始める…というわけだ。――――――――――ここは影光が拠点とする花宮町のマンションの自室。そこで、新千歳空港で買ったお土産のバターサンドを食べながらフレイヤが言う。「でも良かったよね、ロキと戦わなくて。あんなの絶対勝てるわけないし」そう、それは影光もわかっていたことだ。影光自身、一回戦も二回戦も変な相手だった。一回戦は『羅美麗栖・芭明日』、二回戦は『ジャスティス仮面』。正直、料理勝負以前の相手たちだった。まあラッキーだったと言っていいだろう。反面、ロキは一回戦はチョンチー、二回戦は影羅。この二人相手に真っ当に勝って予選を突破してきたのだ。類稀なる腕と言っていい。仮に影光がロキと当たっていれば、確実に負けていただろう。「本戦で当たったらどうしよう。正直、勝ち筋が全然見えないよ…」帰ってきてからずっとそんなことを考えていた影光だった。「そうだねえ。本戦で当たったら麻酔銃でも撃つ?ジャスティス仮面みたいに」「…それが一番勝ち目がありそうだけど、なんかそれも通用しなさそう」――――――――――さて、TVでは全国各地の予選の戦いが流れている。何といっても料理勝負はこの世界の最大の娯楽、料理戦争は放送し続けているだけで視聴率を稼げる番組だ。そして時折流れる予選突破者、つまり本戦出場者の紹介もされている。まず、G.O.D.からの推薦者は十人。その全員が予選突破したらしい。そして闇食倶楽部からの推薦者も十人。予選でロキと戦った影羅以外は全員予選を突破したようだ。
さあ、長かった戦いもついに最終盤。影羅対ロキ…いよいよ最後の一手である!まずロキは、ついに冥帝鰹のサクを超高速で切り始める。おそらくは味や歯応えを楽しめる種々のベストサイズをマイクロ単位…いや本人が豪語するナノ単位で切り出しているのだろう。そしてそれを、すでに他の刺身や酢飯を盛ったどんぶりに並べていく。対する影羅は、彗星鮎のシャワーを浴びた酢飯を均等に混ぜ始める。そして器に盛り分け、静かに、そして綺麗に白身魚の刺身を乗せ始めていた。二人の対照的な、しかし美しい所作に観客たちは見惚れている。同じように観ていた影光も、ふと声を漏らした。「信じられない…なんて速さ、そしてなんて整った動きなんだ。姉さんが凄いのは知っていたけど、これほどのレベルだったなんて…」思わず口を突いたそんな言葉だが…。隣にいた暗黒食王がそれを聞いてフッと笑った。「昨日までの影羅なら、あそこまではできん。宿敵の存在が、己の力量をこの一時で驚異的に上達させたのだ。 まったく…あのわがままな娘がよくここまで育ったものよ。もしかすると、今の影羅なら我に並ぶかもしれんな」己の娘が一人前になったことを確信したのか、少し寂しそうに暗黒食王がそう呟く。それが聞こえたかどうかはわからないが、調理場の影羅は少し笑いながら仕上がった海鮮丼に薬味を乗せタレをかけ、宣言した。「調理終了!完成したわ!」対するロキも冥帝鰹のタタキから切り落とした端身を空中に放り投げ、一瞬でみじん切りにする。そしてその欠片と塩を海鮮丼にまぶし、最後に薬味とわずかなタレを海鮮丼にかけて宣言した。「フン、俺も調理完了だ!」…こうして、ついに両者の海鮮丼が出揃ったのである。――――――――――さあ、審査員の下に丼が運ばれていく。そんな一時の休憩の中…フレイヤが、まだ調理場にいるロキを見て、不思議そうに言った。「ロキ、今
『あの男は、俺の母を殺した』…。突然の告白に、その場にいた全員が驚く。…その中で、一番最初に反論したのが影光だった。「あ、ありえないそんなこと!父さんが、人を殺すなんて…!!」大声でそうロキに異議を申し立てるが…ロキは、何も言わず腕を組んだままだ。そして、答えの代わりとばかりに言い放った。「俺が言うのはそれだけだって言ったろ。経緯や理由なんて言うつもりはねえ。知りたきゃお前の親父から聞け。…まあ、きっとお前には教えねえと思うがな」その言葉を受けて、影光は慌てて近くにいた父を見るが…。父、暗黒食王は静かに目を瞑り、腕を組んでいた。そして…。「…そうか。お前は、あやつが遺した子だったのか…」――とだけ呟いた。「と…父さん!いったいどういうこと!?まさか本当に…」影光は慌てて必死に父に問うが…父は言葉少なく影光を見て、こう言った。「…影光よ。あやつのいうこと、すべてが偽りではない。だが、断じて我が殺したわけではない。それだけは言っておく。だが…すべてを知るには、まだお前は幼すぎる」「そんな!なんで…」必死に食い下がる影光だが…。そんな中、調理場から大きな声が響く。「影光!父さんを信じなさい!父さんは、人を殺すような人間じゃない!」…そう発したのは、影羅だった。そう、それは影光もわかっていたことだ。父は、決して人を殺すような人間ではない。そんな人間なら、自分も影羅も、闇食倶楽部の人間もここまで慕っていない…と。しかし、それでも何かの間違いで、と考える影光だが…。フレイヤが、影光の肩に軽く手を置き、優しく諭す。「影光。私は|暗黒