LOGINさてさて、影光とフレイヤの天丼対決から一夜明け、次の日の朝。
朝の支度を済ませたフレイヤが、店を開ける準備を始める。
店主である母は朝早くに出かけて行った。『ちょっと雲の流れでも見てくるわね』と相変わらずよくわからないことを言いながら。
(まあ、どうせお客さんは来ないんだけどね)
テーブルを綺麗に拭きながら、フレイヤがそんなことを考える。
この町食堂、料理の味は絶品そのものながら、来る客すべてに片っ端から料理勝負を仕掛けたせいか、いつしか客は来なくなってしまった。
噂を聞きつけ勝負を挑みに来る者もいたが、フレイヤはそのことごとくを返り討ちにし、いつしか店は『修羅が集う町食堂 かがやき』という異名まで付けられている。
口コミサイトでも
『料理は絶品。ただし決して気軽には行くな』
『何が起きても責任は取れない』
『廃墟には鬼が住む』
『Eat & Die』
という心霊スポットのようなレビューさえ書かれる始末である。
フレイヤとしては自業自得とはいえ不本意であったが、母である店主は特に気にしていないようでその行動を咎めることはなかった。今日もどうせ客は来ないだろうな、と思い店の椅子に座っていたところ…。
「おはようございます!」
――と、元気に挨拶してくる少年がいた。見ると、昨日料理勝負をした影光である。
「あれ?どうかした?忘れ物?」
「えっ?いえ、昨日店主の方からここでしばらく働いたら?って言われたので」
「えっ?」
不思議に思ったフレイヤが影光から事情を聞くと…。
どうやら、影光はしばらくこの
とはいえ何もしないわけにもいかずどうしようか考えていたところ、ゆるふわ店主から『しばらくウチで働いたら?変な奴ばっかり来るからいい特訓になるわよ』と言われたとのことだ。
フレイヤとしてはそんな話は一切聞いていないし、母はいま出かけているので聞きようもないが…まあ、あの母なら言いかねないな、と考える。どうにも昔からあの母は言うべきことを言うべき時に言わず、なんで今それを言うの?ということを不意に言い出すタイプの人間なのだ。
それに、フレイヤとしても負けた悔しさはあるものの、店の手伝いが増えるならそれはありがたいことだ。
「まあ、ママなら言いかねないか。でも…。たぶんここにいてもあんまり得るものはないよ。お客さんは来ないし、来ても変なのばっかりだから。あなたの腕は確かだし、いてくれるならうれしいけどね」
「料理の特訓になるなら。…というかあの店主さん、お母さんだったんですね。姉妹だと思いました。若く見えたので」
「年齢より10~15は若く見えるからね、あの人」
――――――――――
さて、少し会話をしていた影光とフレイヤだが…さっそくその『変なの』が店に現れる。
ギラギラとした下品なスーツ、禿げ上がった頭、妙に整えたヒゲに似合わないサングラス…そんなファッションをした小柄な五十代ほどの男性だ。その男はニヤニヤと下品に笑いながら店に入ってくる。
「あ、さっそく来た。変なのが」
退屈そうにそう言うフレイヤに、彼は何者なのか尋ねる影光だが…フレイヤ曰く、あの男は近所の地上げ屋らしい。
「いや地上げ屋って」
なんでなのかよく知らないが彼はここの土地を買い取りたいんだとか。
「いやだから地上げ屋って」
だが、どうしても母とフレイヤが承諾しないため、たまに訪れては交渉しつつ諦めてカレーを食べて帰っていくのだという。
「地上げ屋って。なんなんですかこの町。令和じゃなくて昭和なんですか」
――さて、そんな地上げ屋のおじさんが無理をした笑顔でフレイヤに話しかける。
「お~、久しぶりじゃの~フレイヤちゃん。お母さんおるか~?」
「いない。どこか行った」
つっけんどんな返事のせいか、それとも母がいなかったせいか、ちょっとショボーンとした顔をする地上げ屋の彼だが…その場にいた影光に気づき、忌々しげに睨む。
「お~!なんじゃワレ!?何モンじゃ!?ワシへの挨拶無しにこの店に居座ろうたぁふてえやろうじゃの!?」
「あ、今日からこの店のバイトに入った影光と申します。よろしくお願いします」
「バイトォ? どの口が言うとんじゃワレ!その顔、その立ち姿、その妙な自信…どう見ても店を乗っ取りに来た
言葉の意味はわからないが、なにか地上げ屋のおじさんが妙に怒っているようだ。さっぱりわけがわからない影光に、彼はさらに言葉を畳みかける。
「勝負じゃワレィ!
別にこのおじさんが店の権利を持ってるわけじゃないから相手しなくていいよ、というフレイヤを制して影光はその勝負に乗る。彼自身、そもそもそれがこの店に来た目的だったからだ。料理勝負で腕を磨く、それこそが。
勝負に乗った影光を見て、地上げ屋のおじさんが笑う。
「ふふふ、乗ってきたかこの三下のチンピラが。お前みたいなガキこそこういうのに引っかかりやすいんじゃ。じゃがな、ワシには専属シェフがおる!!こいつがお前の相手をする!さあ来い、サイラス!!」
その言葉を受けて…地上げ屋の後ろから長身の男が姿を現す。
銀色の長髪に蒼い瞳、不敵な笑みを浮かべた美形の青年…。彼が地上げ屋の言う『サイラス』なのだろう。
「子供が相手とは少々不本意だが…まあ、いいだろう。全力でかかってきたまえ、少年よ。君の若さ…受け止めてやろう」
「いや地上げ屋の専属シェフって」
どうしてもツッコまずにはいられない影光だった。
――――――――――
さあ料理勝負が決定した直後、昨日と同じように観客と審査員たちがまたいつの間にか湧いて出てきている。相変わらず不思議に思う影光だが…もう慣れているフレイヤが影光のアシスタントにつき、彼にアドバイスする。
フレイヤとしてもせっかく入った腕のいいバイトが難癖付けられては放っておくわけにはいかないし、いつかリベンジもしたい。いきなりいなくなられても困るのである。
「地上げ屋のおじさんはともかく、あのサイラスって人…けっこう
「ええ、ありがとうございます」
そんな二人が仲良さそうに見えたのか、地上げ屋のおじさんが忌々しそうにサイラスに怒鳴りつける。
「なんじゃイありゃ!フレイヤちゃんはいずれワシの娘にして結婚式のときに泣きながら謝辞を読む予定なのに…。ワシの娘を奪うなど絶対に許さんぞ!!ええかサイラス!あのガキはきっちり潰せ!」
「…もともとあんたの娘じゃないし、そうなる未来も見えないが。それにそんな不純な動機で発破をかけないでくれ…やる気がなくなりそうだ」
そうは言いながらも…サイラスは横目で影光を見て静かに笑う。彼はある人物から聞いていた。
この少年はあの『
(この闘い、勝負はすでに決まっている。だが…君の力を余すところなく見せてもらうぞ、少年よ)
さあ、審査員が今回のテーマを発表する。
今回は…『卵料理』!!
影光&フレイヤ、そしてサイラス…調理開始!
さて、影光がこの町『花宮町』に来てから二週間が経った。かつてとは変わり、多くの客が訪れている『町食堂 かがやき』でのアルバイトは忙しくも楽しく、研鑽の日々でもあった。一応アルバイトの期間は影光が花宮町に留まる一か月間と決めていたが、延長してもいいかな…と考え始めてもいた。そんなある日…店に、ある因縁の人物が現れる。ギラギラとした下品なスーツ、禿げあがった頭、妙に整えたヒゲに似合わないサングラス…そんなファッションをした小柄な五十代ほどの男性。そう、いつもの地上げ屋のおじさんだ。「お~う、フレイヤちゃん。お母さんおるか~?」「いない。帰ったら?」その姿を見るなりフレイヤがそう発言するが、地上げ屋のおじさんは今日は客として来たと言い張る。それでも帰れと言うフレイヤに対し、影光がなだめるように言う。「まあまあ、お客さんとして来たんだから。で、ご注文は?」「おう、カレーじゃ。普通のカレー。坊主、ワレが作ったカレーを食わせてもらおうかい」まるで何かを企んでいるかのようにニヤニヤと笑うおじさんだが…。まあそのくらいなら別にいいやとカレーを作る影光と、なんか変なことを言い出したら代金を百倍、いや五百倍にしてやるからねと思うフレイヤであった。当然ながら、この時はまだほとんど誰も気づいていなかった。闇の料理組織『G.O.D.』の魔の手は静かに伸びており、それが『町食堂 かがやき』の面々を大きな陰謀の渦に巻き込んでいくことを。――――――――――目の前に運ばれた『普通のカレー』600円を一口食べる地上げ屋のおじさん。だが…彼はその一口で食べるのを止め、店員の影光を呼んだ。「ふん、お勘定や。もう食う価値もないわ。これならワシが新たに雇った専属シェフのカレーの方が圧倒的に美味いわ。坊主、才能無いのう?ワレ」「えっ…」唐突にされたダメ出しに思わず声が出る影光。しかしすかさずフレイヤが…。「はいどうも。お勘定、迷惑料込みで300万円になりまーす」「えっ」地上げ屋のおじさんに対し、何の脈絡も
調理タイム終了!まずは影光の冷やしうどん。キリリと冷えたうどんに、いりこ出汁と醤油ベースの冷たいつゆ、薄切りの酢橘と白髪ねぎ、最後の仕上げに乗せたミニトマトという清涼を感じるうどんである。影光曰く、名付けて『香徳』。讃岐うどんの『香川』と酢橘の『徳島』を合わせた、ちょっとした言葉遊びである。さて、審査員実食!審査員A曰く:「うむむっ!コシが強く、うどんの茹で方シメ方ともに不足なし!うどんの旨味を十二分に引き出している!なんと見事な見極めだ!」審査員B曰く:「むふう、このツユも見事だ!醤油といりこ出汁をベースに酢橘の爽やかさが駆け抜ける!梅肉の酸味がほのかに香り、そこにミニトマトのアクセント!これは夏にはたまらない爽快感の贈り物だ!」審査員C曰く:「かつて高級料亭で勤めていた私だが、私の店では出ないタイプの料理だ。だが、味は申し分ない!毎日食べたい料理と言えるだろう!」審査員D曰く:「ラーメンじゃないので0点」「うどんでもダメなんだ。同じ麺料理なのに。妥協しないなあ、あのラーメンおじさん」そんな審査員Dに対する影光の皮肉を流して、フレイヤの料理が出される。熱いうどんにほのかに赤いツユ、その上には堂々と座るかしわ天と、それに寄り添う温玉と大根おろし。名付けて『 C . F . H . 』!「何その名前」「え?昔漫画で見たから」そんな影光とフレイヤの会話を横目に、さあ審査員実食!審査員A曰く:「むほー!熱い!辛い!しかしこれはどうしたことだ!箸が、箸が止まらない!旨味が!辛いだけではないツユの旨味がコシの強いうどんと見事に調和している!夏でも辛さはやっぱり欲しい!」審査員B曰く:「むむむ、ただの麺とつゆの調和ではないぞ!まるで両者が宿命のライバルの如く高め合い上昇気流に乗り、より高みへ上っているのだ!そこにこのかしわ天が両者を助け、大根おろしと温玉が辛みを優しく包み、味全体をまろやかにまとめている!ま、まさにうどんの三種の神器!!」審査員C曰く:「かつて高級料亭で勤めていた私だが、このバランスは見事!一つでも味が強く、また弱ければすべてブチ壊しになる!うむむ、この若さで恐ろしいバランス感覚だ…!」審査員D曰く:「ラーメンじゃないので0点」さて、両者の料理
さて、影光が『町食堂 かがやき』に来てから一週間後…。店は、今まで閑古鳥が鳴いていたのが嘘のようにお客さんであふれ返り、大繁盛していた。近所の住民はもちろん、ちょっと離れた隣町や隣県からも来ている様子である。影光やフレイヤも今までとは打って変わって朝から夕方まで大忙しの様子だ。母のリリスはあんまりいつもと変わらない様子であるが。――ここまで急に客が押し寄せるきっかけになったのは、影光のたった一つのアイデア。『お客さんには喧嘩を売られない限り、無意味に勝負を吹っ掛けない』それだけである。それをわざわざ店の前に張り紙までして周知したところ…敬遠していた客が押し寄せたのだ。もともと味は絶品で値段もわりと安く、実年齢より十歳から十五歳は若く見えるゆるふわ系美人店主(三十五歳)が適当に接客してくれるので、そりゃ来るわ来るわの大騒ぎであった。「とほほ~こんなに忙しくなるなんて思わなかったよ」などとフレイヤもこぼすほどである。また、たまに喧嘩を吹っ掛けてくる腕自慢の修羅がいても、以下のように正当な理由を付けて断っていた。『他のお客さんの対応で忙しいから今は無理。どうしてもやるならまず食べて待ってて』客も修羅も優先度は同じ、先着順というわけである。さらに地上げ屋のおじさんも来たが『帰れ』の一言でショボーンとして帰っていった。さてそんな中、影光はというと…実は少し困っていた。店が繁盛するのは良いことだ。文句を言いながらもイキイキとしているフレイヤやその母リリスを見ると嬉しいのは事実である。だが、せっかくだからやはり料理勝負をして腕を磨きたい気持ちもある。腕自慢の修羅が勝負を断られてショボーンとして帰っていくのは、やっぱりちょっと成長の機会が失われてもったいない気がした。もっともその修羅たちも店で影光やフレイヤの料理を食べて『うう、負けた…』と諦め帰っていくので、そもそも勝負をするまでもないのかもしれないが。…そんな影光を見てフレイヤも何か思うところがあったのか、昼休憩中に影光に話しかけてきた。「勝ち負けの条件はなしで、料理勝負しようか?ほら、私もお客さんに勝負を吹っ掛けられなくてつまらないし」フレイヤが影光に気をつかっているのか、それともとにかく喧嘩をしたいバーサーカーなのかは知らないが…フレイヤなら相手に不足はない、とその申し出をありがたく承諾す
さあ、影光&フレイヤとサイラスの料理が出揃った。いよいよ、審査員の実食開始!まずは影光側から料理を出す。皿の中央には、三日月のように弧を描く半熟オムレツ。その下には、赤く艶めくチキンライスが大地のように広がっている。影光曰く…名付けて『黄金の三日月』!審査員A曰く:「ふおおっ…溶ける!フォークを入れただけで卵が溶けるぞ!黄金に輝く半熟のオムレツに色鮮やかなチキンライス…なんと鮮やかな色彩のバランスだ!」審査員B曰く:「味も申し分ない!味の強いチキンライスを卵の優しき甘さが包む!力強くも大地を踏みしめる勇者と、それを優しく見守る姫のようだ!世界を救う僕たちの旅はここから始まる、と言っているようだ!!」審査員C曰く:「かつて高級料亭で勤めていた私だが、これほどまでに調和の取れたオムライスはなかなかお目にかかれん…味、色彩、温度…全てにおいて非のつけようがない!」審査員D曰く:「ラーメンじゃないので0点」最後の評価に少しため息を吐く影光だが、審査員の反応は上々のようだ。その分、なんで審査員Dのラーメンおじさんは許されているんだろうと考え込んでしまう。(でも…誰も文句を言わないのなら、仕方ないのかもしれない。何か凄い人なのかもしれないし…)ともかく、影光は相手のサイラスの反応を見るが…。なんと、サイラスはまったく動じず静かに笑っている。まるですべて予想済み、こちらは掌の上だとでも言いたげな余裕だ。(あの人、まったく動じていない…なぜだ?自分の料理にそれほど自信があるのか?)フレイヤもまた別の意味でサイラスのことが気になっていたようで、彼の方を見る。「あれほどの人が、なんで地上げ屋の専属シェフなんてやってるんだろうね?お金で動くような人でもなさそうだし」と、やっぱりそこは疑問に思っているようである。おそらく、会場の人間みんながそれを思っているのではないだろうか。――次に、サイラスが前に出る。「では、私の番だな。ご覧いただこう。これがこのサイラスの卵料理…その名も『卵貫全席』だ」そこに出された皿は五品…それを見て観客がうおおおっ!?と声を上げる。第一の品はまるで小籠包…しかし、卵白を皮のように薄く焼き、中には卵黄の餡。第二の品は黄身の低温固め…まるで黄身漬けのようだ。第三の品
さあ、卵料理バトル、調理開始!まずはサイラスが鶏卵を一つ手に取るが…。「教えてやろう。このサイラス、料理において一切の不得手はない。中でも卵料理は、食材に敬意を持って我が腕を振るうにふさわしい。卵こそ料理の基礎基本にして最重要とも言うべき食材だからだ!」そう言うと、彼は手にした鶏卵を一つ空中に放り投げ、人差し指で軽く突く。すると卵が勝手に割れ…黄身と白身が一瞬のうちに分離し、別々のボウルに流れ落ちた。それを見た影光とフレイヤも、目を見合わせながら驚愕し大声を出してしまう。「うえええええ!?何あれ!?」「あ、あれほどの技術…というか超能力?そんな人が、なんで地上げ屋の専属シェフなんかやってるんだ?」「あと、卵放り投げるのって食材に敬意持ってるのかな…」驚く二人をよそにサイラスはさらに次々と卵を割り、ボウルに中身を注いでいく。驚いている影光とフレイヤだが…ハッと我に返り、自分たちの調理の準備を始める。調理タイム終了までに料理が完成しなければ不戦敗…その時点で敗北が決定するのだ。何はともあれまずは動かなければならない。(しかし卵料理と言っても広範だ…何を作ればいい?あのサイラスという人、生半可な相手じゃなさそうだぞ。そんな人に対抗できる卵料理と言えば…なにがある?)オムレツ、キッシュ、目玉焼きに卵焼き、スクランブルエッグ…卵料理はあまりにも多種多様だ。解釈によってはベーコンエッグトーストやマカロン、スポンジケーキ、T.K.G.も含まれるかもしれない。創作料理まで含めればその数はもはや膨大だ。サイラスが言った『卵こそ料理の基礎基本にして最重要』というのは、決して言い過ぎではないだろう。影光が思案している中…彼のアシスタントとして入っているフレイヤは卵を割っている。どのみち卵を使うのだから今から割っておいても問題はない。だが、それを見た地上げ屋のおじさんは審査員にクレームをつける。「コラァ!審査員ども!目ン玉ついとんのかワレコラァ!!二対一でこっちが不利になっとるやろがい!!」しかし審査員はすぐにその意見を却下する。アシスタントは二名まで認められるのがルールだからだ。特に料理勝負に詳しくなかった地上げ屋のおじさんは、悔しそうに地団太を踏むが…。「ええい、ならばわしがサイラスの助っ人に入ってやる!」「なっ!?…バ
さてさて、影光とフレイヤの天丼対決から一夜明け、次の日の朝。朝の支度を済ませたフレイヤが、店を開ける準備を始める。店主である母は朝早くに出かけて行った。『ちょっと雲の流れでも見てくるわね』と相変わらずよくわからないことを言いながら。(まあ、どうせお客さんは来ないんだけどね)テーブルを綺麗に拭きながら、フレイヤがそんなことを考える。この町食堂、料理の味は絶品そのものながら、来る客すべてに片っ端から料理勝負を仕掛けたせいか、いつしか客は来なくなってしまった。噂を聞きつけ勝負を挑みに来る者もいたが、フレイヤはそのことごとくを返り討ちにし、いつしか店は『修羅が集う町食堂 かがやき』という異名まで付けられている。口コミサイトでも『料理は絶品。ただし決して気軽には行くな』『何が起きても責任は取れない』『廃墟には鬼が住む』『Eat & Die』という心霊スポットのようなレビューさえ書かれる始末である。フレイヤとしては自業自得とはいえ不本意であったが、母である店主は特に気にしていないようでその行動を咎めることはなかった。今日もどうせ客は来ないだろうな、と思い店の椅子に座っていたところ…。「おはようございます!」――と、元気に挨拶してくる少年がいた。見ると、昨日料理勝負をした影光である。「あれ?どうかした?忘れ物?」「えっ?いえ、昨日店主の方からここでしばらく働いたら?って言われたので」「えっ?」不思議に思ったフレイヤが影光から事情を聞くと…。どうやら、影光はしばらくこの花宮町にいることにしたらしい。一か月ほどビジネスホテルの部屋を借りたということだ。家出中にもかかわらず親の金で。とはいえ何もしないわけにもいかずどうしようか考えていたところ、ゆるふわ店主から『しばらくウチで働いたら?変な奴ばっかり来るからいい特訓になるわよ』と言われたとのことだ。フレイヤとしてはそんな話は一切聞いていないし、母はいま出かけているので聞きようもないが…まあ、あの母なら言いかねないな、と考える。どうにも昔からあの母は言うべきことを言うべき時に言わず、なんで今それを言うの?ということを不意に言い出すタイプの人間なのだ。それに、フレイヤとしても負けた悔しさはあるものの、店の手伝いが増えるならそれはありがたいことだ。「まあ、ママなら言いかね







