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第2話「ideologue」

last update publish date: 2026-07-10 09:36:41

さてさて、影光とフレイヤの天丼対決から一夜明け、次の日の朝。

朝の支度を済ませたフレイヤが、店を開ける準備を始める。

店主である母は朝早くに出かけて行った。『ちょっと雲の流れでも見てくるわね』と相変わらずよくわからないことを言いながら。

(まあ、どうせお客さんは来ないんだけどね)

テーブルを綺麗に拭きながら、フレイヤがそんなことを考える。

この町食堂、料理の味は絶品そのものながら、来る客すべてに片っ端から料理勝負を仕掛けたせいか、いつしか客は来なくなってしまった。

噂を聞きつけ勝負を挑みに来る者もいたが、フレイヤはそのことごとくを返り討ちにし、いつしか店は『修羅が集う町食堂 かがやき』という異名まで付けられている。

口コミサイトでも

『料理は絶品。ただし決して気軽には行くな』

『何が起きても責任は取れない』

『廃墟には鬼が住む』

『Eat & Die』

という心霊スポットのようなレビューさえ書かれる始末である。

フレイヤとしては自業自得とはいえ不本意であったが、母である店主は特に気にしていないようでその行動を咎めることはなかった。今日もどうせ客は来ないだろうな、と思い店の椅子に座っていたところ…。

「おはようございます!」

――と、元気に挨拶してくる少年がいた。見ると、昨日料理勝負をした影光である。

「あれ?どうかした?忘れ物?」

「えっ?いえ、昨日店主の方からここでしばらく働いたら?って言われたので」

「えっ?」

不思議に思ったフレイヤが影光から事情を聞くと…。

どうやら、影光はしばらくこの花宮町はなのみやちょうにいることにしたらしい。一か月ほどビジネスホテルの部屋を借りたということだ。家出中にもかかわらず親の金で。

とはいえ何もしないわけにもいかずどうしようか考えていたところ、ゆるふわ店主から『しばらくウチで働いたら?変な奴ばっかり来るからいい特訓になるわよ』と言われたとのことだ。

フレイヤとしてはそんな話は一切聞いていないし、母はいま出かけているので聞きようもないが…まあ、あの母なら言いかねないな、と考える。どうにも昔からあの母は言うべきことを言うべき時に言わず、なんで今それを言うの?ということを不意に言い出すタイプの人間なのだ。

それに、フレイヤとしても負けた悔しさはあるものの、店の手伝いが増えるならそれはありがたいことだ。

「まあ、ママなら言いかねないか。でも…。たぶんここにいてもあんまり得るものはないよ。お客さんは来ないし、来ても変なのばっかりだから。あなたの腕は確かだし、いてくれるならうれしいけどね」

「料理の特訓になるなら。…というかあの店主さん、お母さんだったんですね。姉妹だと思いました。若く見えたので」

「年齢より10~15は若く見えるからね、あの人」

――――――――――

さて、少し会話をしていた影光とフレイヤだが…さっそくその『変なの』が店に現れる。

ギラギラとした下品なスーツ、禿げ上がった頭、妙に整えたヒゲに似合わないサングラス…そんなファッションをした小柄な五十代ほどの男性だ。その男はニヤニヤと下品に笑いながら店に入ってくる。

「あ、さっそく来た。変なのが」

退屈そうにそう言うフレイヤに、彼は何者なのか尋ねる影光だが…フレイヤ曰く、あの男は近所の地上げ屋らしい。

「いや地上げ屋って」

なんでなのかよく知らないが彼はここの土地を買い取りたいんだとか。

「いやだから地上げ屋って」

だが、どうしても母とフレイヤが承諾しないため、たまに訪れては交渉しつつ諦めてカレーを食べて帰っていくのだという。

「地上げ屋って。なんなんですかこの町。令和じゃなくて昭和なんですか」

――さて、そんな地上げ屋のおじさんが無理をした笑顔でフレイヤに話しかける。

「お~、久しぶりじゃの~フレイヤちゃん。お母さんおるか~?」

「いない。どこか行った」

つっけんどんな返事のせいか、それとも母がいなかったせいか、ちょっとショボーンとした顔をする地上げ屋の彼だが…その場にいた影光に気づき、忌々しげに睨む。

「お~!なんじゃワレ!?何モンじゃ!?ワシへの挨拶無しにこの店に居座ろうたぁふてえやろうじゃの!?」

「あ、今日からこの店のバイトに入った影光と申します。よろしくお願いします」

「バイトォ? どの口が言うとんじゃワレ!その顔、その立ち姿、その妙な自信…どう見ても店を乗っ取りに来たツラァじゃろうがい!ええか、この店はワシのシマじゃ!勝手に暖簾のれんくぐって玉座狙おうたぁ、百年早いんじゃコラァ!」

言葉の意味はわからないが、なにか地上げ屋のおじさんが妙に怒っているようだ。さっぱりわけがわからない影光に、彼はさらに言葉を畳みかける。

「勝負じゃワレィ!料理勝負タイマンじゃ!ワレが勝ったらワシがバイトを許す!!好きなだけ働け!じゃがワシが勝ったらワレは荷物まとめてとっととこの町から消え失せィ!」

別にこのおじさんが店の権利を持ってるわけじゃないから相手しなくていいよ、というフレイヤを制して影光はその勝負に乗る。彼自身、そもそもそれがこの店に来た目的だったからだ。料理勝負で腕を磨く、それこそが。

勝負に乗った影光を見て、地上げ屋のおじさんが笑う。

「ふふふ、乗ってきたかこの三下のチンピラが。お前みたいなガキこそこういうのに引っかかりやすいんじゃ。じゃがな、ワシには専属シェフがおる!!こいつがお前の相手をする!さあ来い、サイラス!!」

その言葉を受けて…地上げ屋の後ろから長身の男が姿を現す。

銀色の長髪に蒼い瞳、不敵な笑みを浮かべた美形の青年…。彼が地上げ屋の言う『サイラス』なのだろう。

「子供が相手とは少々不本意だが…まあ、いいだろう。全力でかかってきたまえ、少年よ。君の若さ…受け止めてやろう」

「いや地上げ屋の専属シェフって」

どうしてもツッコまずにはいられない影光だった。

――――――――――

さあ料理勝負が決定した直後、昨日と同じように観客と審査員たちがまたいつの間にか湧いて出てきている。相変わらず不思議に思う影光だが…もう慣れているフレイヤが影光のアシスタントにつき、彼にアドバイスする。

フレイヤとしてもせっかく入った腕のいいバイトが難癖付けられては放っておくわけにはいかないし、いつかリベンジもしたい。いきなりいなくなられても困るのである。

「地上げ屋のおじさんはともかく、あのサイラスって人…けっこう調理れそうだよ。油断しないようにね」

「ええ、ありがとうございます」

そんな二人が仲良さそうに見えたのか、地上げ屋のおじさんが忌々しそうにサイラスに怒鳴りつける。

「なんじゃイありゃ!フレイヤちゃんはいずれワシの娘にして結婚式のときに泣きながら謝辞を読む予定なのに…。ワシの娘を奪うなど絶対に許さんぞ!!ええかサイラス!あのガキはきっちり潰せ!」

「…もともとあんたの娘じゃないし、そうなる未来も見えないが。それにそんな不純な動機で発破をかけないでくれ…やる気がなくなりそうだ」

そうは言いながらも…サイラスは横目で影光を見て静かに笑う。彼はある人物から聞いていた。

この少年はあの『暗黒食王クッキング・オブ・ダークネス』の息子らしい。そして、その片鱗を見せてこの町では最強のフレイヤを倒したことも聞いていた。それほどの相手ならば、自らが腕を確かめるにふさわしい相手だ、と。

(この闘い、勝負はすでに決まっている。だが…君の力を余すところなく見せてもらうぞ、少年よ)

さあ、審査員が今回のテーマを発表する。

今回は…『卵料理』!!

影光&フレイヤ、そしてサイラス…調理開始!

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