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第1話「GALAXY」後編

last update publish date: 2026-07-10 09:36:36

さて、料理勝負を受ける少年のその発言を受けて、店員少女が笑って外に出た時…。

そこには、寂れた通りにもかかわらず一瞬で人だかりができていた。

「えっ、なにこれ」

熱狂している人だかりを見て少年が面喰らったようにそう言う。何やら、『審査員席』と書かれた机に偉そうに座っている四人の男もいる。

観客も審査員もいったいどこから湧いて出たというのか。そして、いつのまにこんな準備をしたというのか。温室育ちの少年には…いや普通の感性を持っている人間にもまったく理解ができない状況だ。

そんな彼を見てゆるふわ系の店主が心配そうに言う。

「あなた、さてはかなりのお坊ちゃまなのね。これがこの世界のルールなのよ」

店主が言うにはこうだった。

この世界では料理勝負が最大の娯楽で、野球、バスケ、格闘技等その他の競技をぶっちぎりで超える人気を誇っていること。

公式大会のみならず料理対決は私人同士でも可能であり、調理やると決めたらどこからともなく観客と審査員が湧いてくること。

料理勝負を持ち掛けられた場合は正当な理由なくして断ることはできず、最初に決めた敗北時の取り決めを絶対に遵守しなければいけないこと…。

「滅茶苦茶じゃないですか…」

料理勝負というものがあることぐらいは家で聞いていた少年だが、そのあまりに大げさで過激なルールにこれまた閉口する。

…しかし、もう退くわけにはいかない。少年にも家で叩きこまれた調理技術がある。またそれほどまでにこの世を支配しているルールならば、家出してしばらく一人で生きていくためにも避けて通れまい。

ここまで来たら調理やるしかない、と少年も気合を入れた。

――――――――――

さて、外に設けられた調理場を前にして、審査員が料理のテーマを決める。

テーマは…『海老えび天丼てんどん』!

「天丼ね!得意中の得意だわ!」

テーマ発表を受けた少女、その名も『フレイヤ』が勇んで準備に入る。まずは米を炊く用意、そして海老の選別…どうやら先ほど作った天丼から海老のみを主役にするようだ。

ちなみにテーマを決めるのは審査員で、材料や調理器具も審査員が用意するらしい。しかしながら材料や器具の持ち込みも認められるとか。

「ううっ、さすが『花宮町はなのみやちょうの闘神オーガ』フレイヤ!準備があまりにも早い!」

「食べ終わった後にいきなり勝負を吹っ掛けられ代金を五倍に、機嫌によっては五十倍にされるからなかなか食べに行けないが、あの天丼は超絶品だぞ!」

「すべての客を討ち取るため『町食堂 かがやき』には訪れる客がもうほとんどいないという!それほどの腕前だ!」

と、フレイヤの手さばきを見た地域住民が口々に言う。どうやら彼らも少年と同じ目にあったらしい。

さてその少年も準備を始めるが…なんと、彼は用意された生米を、湯の沸く鍋に入れ、蓋をする。そして海老の選別とタレの作成へ…。

「うっ、なんだあの少年!お粥かゆ…いやリゾットでも作る気か!?」

「天丼にリゾットだと!?どう考えても合うとは思えないが…」

「うむむ、あの少年、料理というものを知らないのか?しかし腕裁きは見事だ!」

と、観客は騒いでいる。対戦相手のフレイヤも少し不思議に思っているようだ。しかしながら、それを気にせず少年は天ぷらを揚げていった。

ゆるふわ店主や審査員は少年の洗練されたその動きに感心するも、やはり鍋で煮た米が気になっている。天丼の土台の米がお粥というのは独創的ではあるが、天ぷらがお粥の水分を吸ってしまい、すぐにその味や食感を台無しにしてしまうだろう。

あれほどの腕を持つ少年がそんなことに気づかないわけがないし、天ぷら茶漬け…いわゆる『天茶てんちゃ』とも違う。疑問に思う周囲をよそに、少年はお粥になった米が煮える鍋を見て頷き言った。

「…よし、そろそろかな」

と少年は鍋の蓋を開ける。そのまま少年は拳を腰に構えて、大きく息を吸う。そして…。

「はああっ!!」

と、鍋に右拳の正拳突きをした。すると、カァン!という中身が入っている鍋には不似合いな、甲高い金属音が周囲に響く。

少年を除くその場にいた全員が呆気に取られていると…途端に鍋から大量の蒸気が噴き出し始めた。

鍋はしばらくもうもうと蒸気を噴いていたが…それが止まった後、少年は鍋の火を止め、丼に鍋の中のものを盛り始める。

それはお粥ではなく…まぎれもない、輝くような白飯だった。

「は!?」

「はあ!?」

「はああ!?」

「はああああ!!??」

周囲は大混乱だ。観客も審査員もゆるふわ店主も、果てには対戦相手のフレイヤも仰天している。

それはそう、当然だ。お粥を飯に戻すなんて聞いたことがない。というかできるはずがない。水分を飛ばして多少整えることはできるにしても、まさか炊いた白飯にするなんて…。

しかも、鍋に正拳突きというなにがなんだか、なぜそうなるのかさっぱりわからない方法で。

しばし呆然としていたフレイヤだが…ハッと我に返り、自分の料理の準備に戻る。どんな魔法や奇術であろうと結局は米を炊いただけ、気にすることはないと自分に言い聞かせながら。

そして少年とフレイヤ、両者は調理を進め…。

「調理タイム終了!そこまで!」

審査員の一人がそう告げた時には、両者ともすでに調理を完了していた。

――――――――

さあ、審査員実食開始。まずはフレイヤの天丼からである。

審査員A曰く:「うむっ、やはり絶品!歯応え、風味、食感!すべてにおいて非の打ち所がない!これならば五倍、五十倍の値段を取られても認めるしかない!」

審査員B曰く:「この丼の中の調和、やはり見事だ!海老天の旨味を引き出す甘辛タレに、それをしっかりと支える白米!まさに『楽園の丼ドンブリ・オブ・エデン』と言うにふさわしい!」

審査員C曰く:「かつて高級料亭に勤めていた私だが、この味は認めるしかない。あの若さでこの味…恐ろしい才能もあったものだ」

審査員D曰く:「ラーメンじゃないので0点」

最後の審査員Dの評価に少年は首をかしげるが…観客も、調理人のフレイヤも特に気にしていない。ゆるふわ店主が少年に言うには、最後の審査員Dはラーメン以外は全員平等に評価しないとのことだ。

「どういうわけだか、いっつもいるのよあの人。もう当たり前過ぎて誰も何も言わないの」

「なんで審査員にそんな人が混ざってるんですか?」

「なんでなのかしらね…誰も知らないし、全員平等に0点だからもう誰も気にしてないの。そういう妖怪みたいなものよ。なんだかこんな説明するのも新鮮ね」

――さあ、次いで少年の天丼である。

お粥から白米に戻した奇跡の料理ではあるが、さすがに審査員たちも戦々恐々としている。これ、食べられるんだよね?と言いながら。

しかし、審査員が一口食べたところ…彼らは口々にうおおっ!と声を上げた。

審査員A曰く:「な、なんだこれは!?白米が…白米が蘇っている!通常の炊き方とは明らかに違う!明確な意志と命を持っているようだ!こ、こんな…こんなことがありうるのか!?」

審査員B曰く:「ぐうっ、白米もそうだが…この海老天の見事なこと!ふんわりサクサクとしてはらりと衣がほどけ、海老の身がぷりっと弾ける…まさに天女のようだ!これぞまさに『銀河の丼ドンブリ・オブ・ギャラクシー』!」

審査員C曰く:「うぐぐ…高級料亭に勤めていた私もこの油切り、衣のバランスと揚げ方、タレの見極めは嫉妬してしまう…あの少年、どこでこれほどの技術を…!?」

審査員D曰く:「ラーメンじゃないので0点」

勝負は決まった。審査員Dを除く満場一致で少年の勝利である。観客も、おおっ、と声を上げる。まさかこの町一番のフレイヤの料理を凌駕するとは…と。

勝負後、審査員の一人が少年に尋ねる。君の名前は?どこであれほどの修練と技術を身につけたのか?と。

「僕の名前は『影光えいこう』と言います。

 父さん…暗黒食王クッキング・オブ・ダークネスを超えるため、色々あって家出をしてきました」

少年…『影光』は微笑みながらそう言った。

――――――――――

「むーっ…まさか私が料理対決、しかも天丼で負けるなんて…」

と悔しがっているフレイヤの頭を優しく撫でるゆるふわ店主。

そして彼女は影光に尋ねる。父を超えるとはどういうことか、家出して行く当てはあるのか…と。それに答えようとした影光だが…。

――その時そこに、一人の男が近づいてきた。

歳のほどは五十歳前後、黒の紋付羽織袴もんつきはおりはかまを着こなした白髪交じりの長髪の威風堂々とした男だ。その男は威圧感を放ち、影光に話しかけてくる。

「影光よ…」

ゆるふわ店主とフレイヤは確信する。これこそが暗黒食王クッキング・オブ・ダークネスなのだ、と。

いったい何の用なのか、というかどこにいたのか、今まで普通に勝負を見ていたのかと息を呑む二人だが…。

「…財布、道端に落としていたぞ。気を付けよ」

「あ、どうも。探してたんだ。ありがとう父さん」

と財布を渡して暗黒食王クッキング・オブ・ダークネスは帰っていった。どうやら用事はそれだけのようだ。

そんな一幕を見て、フレイヤが影光に尋ねる。仲が悪くて家出したんじゃないのか、と。

「そんな、『美〇しんぼ海原先生と山岡さん』じゃあるまいし。別に家族仲は悪くないですよ。単純に、外の世界を見てこいって言われただけです。父さんを超えるまで」

影光は笑いながら、そう答えたのである。

――――――――――

これは、遠い未来か遥かな過去かはたまたこの現代か、地球ととてもよく似た宇宙のどこかの星のお話。もしかしたら地球かもしれない。そんなお話が、広大な宇宙の片隅にある花宮町でのんびりと幕を開けたのである。

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