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料理の時間~Cooking Showdown Begins!~
料理の時間~Cooking Showdown Begins!~
Author: 笹上パン工房

第1話「GALAXY」前編

last update Petsa ng paglalathala: 2026-07-10 09:36:08

「はあ、お腹すいたなあ。どこかに食べるところないかなあ…」

時は七月ある夏の日。

腹を空かせた一人の少年が、寂れた町のこれまた寂れた商店街を歩いている。

見た目からするに十代中盤ほどであろうか、顔つきにまだ幼さを残したその少年は空腹を抱えて見知らぬ街を歩いていた。

どこかの飯屋で定食でも食べたいと思っているのだが、どこもシャッターが下り営業していないようだ。

まだ昼下がりなのに、この辺りではよっぽど商売にならないのだろうか。

…彼は言わば『家出少年』だった。

色々あって家を出て、縁もゆかりもないこの都内S区の『花宮町はなのみやちょう』に来たのだが、まったく知らない場所で右も左もわからない。今夜泊まる場所もない始末である。

――それでも、腹は減る。こればっかりはどうしようもない。そんなわけで冒頭のつぶやきを発し、歩きながらなんとか開いている食堂を探す彼だが…。

(う~ん、どこかに…あ!開いてるお店があった!)

路地の隅っこの方に、これまただいぶボロボロの建物が見える。一見廃屋かと思ったが、きちんと食堂の看板を掲げているのが見えた。入り口も開いているようで、ちゃんとやっている店のようだ。

もしかすると入り口さえぶっ壊れた廃屋なのかもしれないが…。

ともかくお腹と背中がくっつきそうな少年には、もうワガママを言ってる余裕はない。少し…いやとても不安はあるが、その店に入ることに決めたのである。

(…え~い、ここでいいや、もう入ろう。いざとなれば、食材を使って僕が作ればいいだけだし)

と意を決して、ただの飯屋に入るのに無駄に勇気を使いながら少年はその店…『町食堂 かがやき』に入った。

――――――――――

店に入った少年だが…内装は普通のようで、ちゃんと清掃や整理が行き届いている。

もっと建物をちゃんとすればいいのに、と思いながら席に座る少年だが…店の奥から店主と思おぼしき若い女性がのんびりとした笑顔で話しかけてきた。

「こ~んにちは~。珍しいわねえ、一見いちげんさんなんて。旅行客かしら?あんな建物の外観でよく入ってこれたわね~」

いわゆる『ゆるふわ系』の店主のようだ。見た感じ、二十代中盤ほどの綺麗で穏やかそうな女性といったところか。なんだか感性がちょっとズレた人のようだな…と少年は考えるが、まあそれはともかく腹が減ったと彼はメニューを眺めた。

…品ぞろえも値段も普通の食堂のようだ。どうやらアブない店ではないらしい。

「あっ、えっと…じゃあ、この天丼をお願いします。あとお味噌汁とお新香」

「は~い。フレイヤちゃん、天、汁、漬いっちょ~」

と店主は厨房の方に声を掛けて奥に消えていく。先の発言から、調理は別の人間がするらしい。

しばらく待ち…少年の前に天丼と味噌汁、お新香が運ばれてくる。

味噌汁は赤だしに豆腐と三つ葉、お新香は白菜の漬物。しかし、やはり主役は天丼だろう。

少年がふたを開けると、ふわっという香りが漂い…腹ペコの少年の食欲を誘う。天ぷらは大きな海老が一つに、かき揚げ、茄子、蓮根、ししとう…まさに天丼のド定番といった天ぷらオールスターズである。

いただきますと少年はまず海老をかじるが…これは実に見事だ。食感、風味、油切れ…かなりのレベルでタレと調和している。タレも店のオリジナルであろうか独自の甘辛さで、天ぷらを支える白米との親和性も申し分ない。

まさかこれほどまでの味とは、あの店の外観からはとても想像がつかなかった。なぜこれでほかに客がいないんだろう…とも。

「これは美味しい!天ぷら、白米、そしてタレのバランスが取れている。かつお昆布出汁をベースに、少し酢橘すだちも混ざっているのかな?気づくか気づかないか…この量の見極めは凄いな。市井しせいの料理人にもここまでできる人がいたんだ」

美味いと言いながら食べ続ける少年だが…。

厨房の中にもその発言が聞こえたようで、料理した者がそこから少年を興味深そうに見つめていた。

――――――――――

完食し満足した少年は、ゆるふわ系店主にお会計をお願いする。御馳走様でした、とても美味しかったです、と。

店主も満足そうに、そうでしょう、うちの子は世界一なのよと笑顔で会計するが…その時、少年は財布がないことに気づく。

(さ、財布がない!いつ!?どこで落としたんだ!?駅を降りた時はあったのに…!?)

財布の中にはお金はもちろん、身分証や亡き母の形見も入っている。絶対に探し出さなければいけないが、まずは目の前のこのお会計だ。

家出したその日に家族に頼るというのもみっともないが、そんなことを言っている場合じゃない。お金を持ってきてもらわないといけない。

少年は冷や汗を流しつつ店主にその旨を説明した。

「あら~財布落としちゃったの?大変ね、じゃあいいわよお代は」

「いやっ、よくないですよ、それは。今家族に連絡しますので」

そんなことを言いながら少年は自らのスマホを取り出し姉に電話しようとするが…その前に、厨房から先ほどの天丼の料理人であろう人物が姿を出してきた。

年の頃は自分と同じくらい…十五、六歳の、ポニーテールで後ろ髪を縛った、可愛いながらも気の強そうな女の子だ。

その子が興味深そうに少年を見ながら言う。

「何?食い逃げ?それはちょっと困るんだけど?ほら、建物見てわかる通りただでさえウチ潰れそうだし。経営的にも物理的にも」

「いや食い逃げじゃないです。本当に財布落としちゃって」

どうやら女の子も本気で責めているわけではなさそうだが、それでも少年にとっては死活問題である。取り急ぎ電話しようとするが、厨房の女の子は少年を興味深そうに見つめながら言う。

「ところで…さっきの天丼の評価、なかなか的確だったじゃない。酢橘を使ってるのを見極めた人間はなかなかいないわよ。あなたもけっこう、調理やる側の人間みたいね」

「え?ええ、家がそういう系の家だったので」

「よし!じゃあ決まり!私と料理勝負よ!あなたが勝ったら料理の代金はタダでいいわ!そのかわり、私が勝ったらあなたは一週間ここでタダ働き!」

その言葉に少年は絶句する。天丼ほか合わせた料金はせいぜい1,300円程度だが…いくら暇そうな店とはいえ、それで一週間タダ働きはあんまりだ。

店主も少し心配そうに、いくらなんでもそれは条件がひどいのではないかとその女の子に言うが…女の子は引かないようである。

「で、調理やるの?調理やらないの?やらないんなら警察に突き出すだけだけど?」

ああ、こういう店だったのか。どうりで味のわりに客がいないわけだ…と少年はため息をつき、女の子を睨み返し言う。

「いいでしょう、調理やってやりますよ」

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