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第4話「BALANCE」

last update publish date: 2026-07-10 09:36:51

さあ、影光&フレイヤとサイラスの料理が出揃った。いよいよ、審査員の実食開始!

まずは影光側から料理を出す。

皿の中央には、三日月のように弧を描く半熟オムレツ。その下には、赤く艶めくチキンライスが大地のように広がっている。

影光曰く…名付けて『黄金の三日月ゴールデン・クレセント』!

審査員A曰く:「ふおおっ…溶ける!フォークを入れただけで卵が溶けるぞ!黄金に輝く半熟のオムレツに色鮮やかなチキンライス…なんと鮮やかな色彩のバランスだ!」

審査員B曰く:「味も申し分ない!味の強いチキンライスを卵の優しき甘さが包む!力強くも大地を踏みしめる勇者と、それを優しく見守る姫のようだ!世界を救う僕たちの旅はここから始まる、と言っているようだ!!」

審査員C曰く:「かつて高級料亭で勤めていた私だが、これほどまでに調和の取れたオムライスはなかなかお目にかかれん…味、色彩、温度…全てにおいて非のつけようがない!」

審査員D曰く:「ラーメンじゃないので0点」

最後の評価に少しため息を吐く影光だが、審査員の反応は上々のようだ。その分、なんで審査員Dのラーメンおじさんは許されているんだろうと考え込んでしまう。

(でも…誰も文句を言わないのなら、仕方ないのかもしれない。何か凄い人なのかもしれないし…)

ともかく、影光は相手のサイラスの反応を見るが…。

なんと、サイラスはまったく動じず静かに笑っている。まるですべて予想済み、こちらは掌の上だとでも言いたげな余裕だ。

(あの人、まったく動じていない…なぜだ?自分の料理にそれほど自信があるのか?)

フレイヤもまた別の意味でサイラスのことが気になっていたようで、彼の方を見る。

「あれほどの人が、なんで地上げ屋の専属シェフなんてやってるんだろうね?お金で動くような人でもなさそうだし」

と、やっぱりそこは疑問に思っているようである。おそらく、会場の人間みんながそれを思っているのではないだろうか。

――次に、サイラスが前に出る。

「では、私の番だな。ご覧いただこう。これがこのサイラスの卵料理…その名も『卵貫全席らんがんぜんせき』だ」

そこに出された皿は五品…それを見て観客がうおおおっ!?と声を上げる。

第一の品はまるで小籠包…しかし、卵白を皮のように薄く焼き、中には卵黄の餡あん。

第二の品は黄身の低温固め…まるで黄身漬けのようだ。

第三の品はメレンゲの雲…卵白からメレンゲを作り、焼いたらしい。

第四の品は卵の麺…卵焼きを薄く細く切り、その上に卵黄のソース。

そして中心に王者のごとく位置する皿は半熟卵。

「なんだアレは!?卵…本当に卵のみであんなものを作ったのか!?」

「イ、イカレている、狂気だ…しかし、天才的だ!」

「し、信じられん!人間業じゃない…!」

観客がどよめいている中、影光とフレイヤも驚愕する。

「ありえない、完璧に技術の頂点だ…。火入れや温度差を完璧に見極めなければあんな料理は作れない!あの人…天才だ!!」

「卵にはいろんな調理法があるけど、それを全部持ってきたって感じだね。ホント、なんで地上げ屋の専属シェフなんてやってるんだろう…」

むしろその狂気に感心してしまう中、審査員たちも実食を開始する。

審査員A曰く:「な、なんだこれは…卵のみで…本当に卵のみでこんな料理を作っている!他の食材も調味料もない!だが…美味い!」

審査員B曰く:「おおよそ卵でできる調理法、そのほとんどを持ってきたということか!味も美味い!卵のみなのに…まるで魔法だ!料理とはここまで恐ろしいものなのか!?まさに料理界の魔王!」

審査員C曰く:「かつて高級料亭で勤めていた私でもこの技術は狂気の極み…しかし天才的だ!この技術の前では私も兜を脱ぐしかない…完敗だ!」

審査員D曰く:「ラーメンじゃないので0点」

Dのラーメンおじさん以外はみな口々に技術を賞賛している。影光たちもあれほどのものが作れるかと問われれば、悔しいながらも首を横に振るしかない。

「フレイヤさん、ごめん。やっぱりバイト初日でクビになるかも…」

「別にあのおじさんは店の権利持ってないんだけど…。あ、いいこと考えた。店の名前変えればOKじゃない?『かがやき』から『猫うさぎ』とかにしようよ」

などと影光とフレイヤも負けた後のことをもう話している。はっきり言って、『卵貫全席らんがんぜんせき』はそれほど衝撃的な料理だったのだ。

だが…。

「この闘いの勝者は…影光!影光側の勝利と宣言する!」

「えっ?…なんで?どうして?」

審査員の結果発表に影光が疑問を口にするが…。サイラスは動じず、ただ静かに笑っているだけだった。

――審査員が決着の理由を説明する。

『卵貫全席らんがんぜんせき』は素晴らしい料理…技術の極みだった。だが、やはり卵のみでこの量はどうしても飽きが来てしまう。

その点、『黄金の三日月ゴールデン・クレセント』はオムライスという料理をさらに発展させた料理…。料理の根本…すなわち『味』の一点で影光の勝利を決定したという。

確かに、食材一つのみではいかに調理法を凝らそうと味は単調になる。そのために他の食材との組み合わせや、調味料があるのだが…。

そんなことにサイラスが気づかないわけがない。彼はまるでわざと負けるようにそう仕組んだのではないか?だが…いったいなぜ?

そう考える影光だが…そんなサイラスが、影光とフレイヤに近づき笑顔で軽く手を振る。

「…影光君、フレイヤ嬢。才能あふれる二人の知恵と力が結集された素晴らしいオムライスだった。まだ先の話になりそうだが、いずれまた対戦したいものだね。その時こそは…私も本気でお相手しよう」

そう言ってサイラスは去っていった。

おんどりゃあ!何を負けとるんじゃワレィコラァ!と地上げ屋のおじさんが怒鳴りその後を追いかけるが…。

やはり影光は釈然としない。あの発言と余裕ではやっぱりわざと負けたのではないか…。だが、そんな影光を気遣うようにフレイヤがその肩を軽く叩き微笑む。

「まあ、勝ちは勝ち。今日からよろしくね、新人バイトくん」

――そんな二人を、超絶高級車であるマイバッハGLSに乗った男たちが見ていた。まず運転手の二十代中盤ほどの若い男が感慨深く言う。

「影光様…お見事です。思惑はどうあれ、あれほどの強敵に勝つとは…。ううっ、見違えるほど成長しておりますな!!この影真えいしん、感動いたしましたぞ!」

「たわけ。家を出てからたったの二日であろうが。成長も何もあるものか」

しみじみとボケている…いやおそらく本気で言っている運転手の男―影真えいしん―を窘たしなめるように後部座席の暗黒食王クッキング・オブ・ダークネスが言う。

それでも彼もだいぶ子煩悩なのか、嬉しそうに影光を見ながら言った。

「ふ、まだまだ未熟なれど道は始まったばかりよ。我を越え、我に挑みに帰って来る日を楽しみに待っておるぞ、影光。…よし、影真。そろそろ車を出せ」

「はっ!名残惜しいですが…。影光様!この影真、どこにいてもご活躍を願っておりますぞ!」

名残惜しそうに影真がアクセルを踏み…二人を乗せた車は去っていった。

――――――――――

一方、地上げ屋をうまくまいたサイラスがスマホを操作している。連絡先に『リリス』と書かれた人物をタップして電話を掛け、待つこと数コール。

電話がつながると、彼は『リリス』に嬉しそうに話しかけた。

「リリスか、私だ。まず、いいニュースと悪いニュースがある。どっちから聞きたい?」

『え~?じゃあいいニュースから』

「うむ…お前の睨んだ通りあの少年は相当な腕だな。そして彼とフレイヤとの相性も良さそうだ。まったく、お前にゾッコンなあの地上げ屋の懐に潜り込んで、うまく勝負をそそのかした甲斐があったよ。だいぶ急な話になってしまったがね」

『でしょ~?私、人を見る目だけは昔から自信があるのよ。それより、ワザ負マケ(わざと負けるの意)とかお願いしちゃってごめんなさいね』

リリスと呼ばれた女性…すなわち、フレイヤの母であるゆるふわ系店主が電話の向こうで嬉しそうにそう言うが…。

サイラスは声色と表情を切り替えて、もう一つのニュース…『悪いニュース』を伝える。

「では次に、悪いニュース。昔の伝手つてから最近聞いた話だ。我々がかつて所属した料理組織『Genesisジェネシス-Ofオブ-Dishディッシュ』が、十年前に逃亡したお前たち母娘をいまさら議題に挙げたらしい。上程者は『ラミア』だが、お前はまだ覚えているか?」

『ラミア?あ~、昔の部下ね。優秀だったわね~あの子。でもそれは困ったわねえ。見逃してくれないかしら』

「十年も放置していたわけだし、すぐに来ることはないだろうが…。わざわざ議題に挙げた以上、見逃す可能性は低いだろうな。仮に奴らが来た場合、今の影光君とフレイヤでは為す術もないだろう。お前が護るしかないが…その時は私も力になろう」

そう言ってサイラスは電話を切り…ため息を吐く。

「やれやれ…私もしばらくこの町に滞在した方が良さそうだな」

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