ANMELDENそんなこんなで入社1年ほどたったある日。
部長から呼び出された。
めったにないことなので緊張する。「申し訳ないけど今期末で契約満了とさせてほしい」
どうも新しい人を入れるために派遣社員を減らすらしい。
「高橋君も頑張っていたんだけど、上がどうしても新卒じゃないと駄目と言ってね」
「そうですか……わかりました」けっこう居心地の良い職場だったのに残念。
でも彼は私がいなくなったら泣いちゃうんじゃないかな。少し早いけど送別会が開かれることになった。
他にも転勤や退職する人がいるのでまとめてやるらしい。「宮本さん、お疲れ様」
「おつかれさまです」いつものように彼が話しかけてくる。
「ごめんね、頑張って交渉もしてみたんだけど……」
肩を落としてしょんぼりした様子で話している。
藍さんから「正社員を増やすなら宮本さんを正社員にすればいい!!」と啖呵きっていたと聞いた。 まあ派遣社員をわざわざ正社員にする会社なんて珍しいよね。「まあ飲みましょうよ」
「ああ」頑張ってくれたみたいだし最後ぐらい構ってあげよう。
最後だからなのか私が構ってあげてるからなのか普段より明らかにお酒を飲むペースが速い。「いつ見ても綺麗な髪だよね」
「ありがとうございます」こらこら。
私はいいですけど、同じノリで他の人にやったらセクハラになりますよ。飲み会もそろそろ終了。
彼は大分酔っぱらっているみたい。 私も今日は大分飲んじゃった。 次行く所もこういう居心地いい所だといいなぁ。清算が終わって店の外に出ると、アルコールが入っていてもまだ少し寒い。
道で寝たら風邪ひくどころか死んじゃうかもしれないなぁ。 そんなことを思っていると、藍さんが彼に肩を貸しながら出てきた。「本人は歩けるって言うけどちょっと心配なので送っていこうかと」
たしかに途中で倒れちゃったら大変だもんね。
……藍さんにも彼にもお世話になったし、最後ぐらいもう少し付き合ってあげようか。「藍さん、私が送っていきますよ」
「あ、いいの?じゃあお願い。でも狼に食べられちゃうかもよ」 「狼はぐでんぐでんになってますよ」藍さんに変わって、彼に肩を貸す。
うーん、私がちっちゃいせいで逆に歩きづらそうだ。 まあ、いいか。道を教えてもらいながら彼の家に到着する。
普通の一軒家で一人暮らしにしては広そう。 玄関のドアの前まで来たので声をかける。「ここまでくればもう大丈夫ですよね?」
反応がない。もしかして酔いつぶれちゃった?
そう思っていると突然彼が私を抱きしめた。「宮本さん、かわいい、かわいすぎるよ」
「ちょ、ちょっと」いきなりのキス。
その上ギュッと抱きしめられたのに怖さより安心感がある。「ずっと好きだったんだ、もう会えなくなるなんて嫌だ」
愛の告白をしてまたキスをしてきた。
私もお酒が入ってるせいかあんまり怒ろうと思えない。 むしろ(ようやく私のことを好きって言ったね)って気分。「奏、愛してる」
そんなことを考えていたら突然の名前呼びと愛してるのコンボ。
それをキスしながら言うのはずるいと思う。 一生懸命唇を合わせてくるけど舌は入れてこないなぁ。 ……こっちから入れちゃえ。舌を入れると彼が目を見開き、すぐに私の舌を舐め回し始めた。
あ、お酒の味がする。甘くておいしい。玄関でキスしているこの状況、どう見ても恋人同士だよね。
彼が私を抱きしめる力も強くなってる。嬉しそうだ。 でもやっぱり外は少し寒いな。「今、鍵を開けるから」
彼も寒いと思ったっぽい。
私を抱きかかえたままドアの鍵を開けて中に連れていかれる。 そしてそのままベッドに押し倒された。「奏、奏」
ずっと私の目を見て名前を呼んでキスをしてくる。
でもキスばっかり。普段あんなに見ていた胸は触ってこない。 なので彼の目に語りかける。「いいよ」って。「奏!!」
・・・
行為が終わった後。
「もう離さない、奏」
そういって、そのまま覆いかぶさったまま動かなくなった。
「あれ?おーい」
……寝ちゃってる。大分お酒入ってたもんね。
語彙力がなくなったんじゃなくてお酒で思考力がなくなって本能のままだったんだね。 ふふ、本能のままなのに私を気遣ってたのが彼らしい。そういえば子ども出来たらどうしよう。
まあその時は責任取ってもらいますか。・・・
退職日が迫ったある日。
藍さんが心配そうに声をかけてくれた。「転職先は決まったの?」
私はニコっと笑って婚約指輪を見せる。
「決まりました、永久就職です♪」
そんなこんなで入社1年ほどたったある日。 部長から呼び出された。 めったにないことなので緊張する。「申し訳ないけど今期末で契約満了とさせてほしい」 どうも新しい人を入れるために派遣社員を減らすらしい。「高橋君も頑張っていたんだけど、上がどうしても新卒じゃないと駄目と言ってね」 「そうですか……わかりました」 けっこう居心地の良い職場だったのに残念。 でも彼は私がいなくなったら泣いちゃうんじゃないかな。 少し早いけど送別会が開かれることになった。 他にも転勤や退職する人がいるのでまとめてやるらしい。「宮本さん、お疲れ様」 「おつかれさまです」 いつものように彼が話しかけてくる。「ごめんね、頑張って交渉もしてみたんだけど……」 肩を落としてしょんぼりした様子で話している。 藍さんから「正社員を増やすなら宮本さんを正社員にすればいい!!」と啖呵きっていたと聞いた。 まあ派遣社員をわざわざ正社員にする会社なんて珍しいよね。「まあ飲みましょうよ」 「ああ」 頑張ってくれたみたいだし最後ぐらい構ってあげよう。 最後だからなのか私が構ってあげてるからなのか普段より明らかにお酒を飲むペースが速い。「いつ見ても綺麗な髪だよね」 「ありがとうございます」 こらこら。 私はいいですけど、同じノリで他の人にやったらセクハラになりますよ。 飲み会もそろそろ終了。 彼は大分酔っぱらっているみたい。 私も今日は大分飲んじゃった。 次行く所もこういう居心地いい所だといいなぁ。 清算が終わって店の外に出ると、アルコールが入っていてもまだ少し寒い。 道で寝たら風邪ひくどころか死んじゃうかもしれないなぁ。 そんなことを思っていると、藍さんが彼に肩を貸しながら出てきた。「本人は歩けるって言うけどちょっと心配なので送っていこうかと」 たしかに途中で倒れちゃったら大変だもんね。 ……藍さんにも彼にもお世話になったし、最後ぐらいもう少し付き合ってあげようか。「藍さん、私が送っていきますよ」 「あ、いいの?じゃあお願い。でも狼に食べられちゃうかもよ」 「狼はぐでんぐでんになってますよ」 藍さんに変わって、彼に肩を貸す。 うーん、私がちっちゃいせいで逆に歩きづらそうだ。 まあ、いいか。 道を教えても
入社から数か月。もう完全に仕事には慣れた。 いつものように出社したけど彼の姿が見えない。 あれ?今日は有休じゃないよね? きょろきょろと辺りを見渡していると藍さんから声をかけられた。「高橋君、コロナに感染したみたいよ」 なんと休みの内にコロナ感染が発覚したらしい。 今の規定だと濃厚接触者とかにはならないので私は大丈夫。 でも仕事はどうなるだろう? 聞くと彼に変わって藍さんが一時的に上司となってくれるそうだ。 女性の上司は初めてだったけど、今まで飲み会ではよく話していたのであまり緊張はない。 いつも彼とするように雑談しつつ仕事をしていると、ふと藍さんが爆弾発言をした。「雑談はほどほどにね、といっても高橋君の影響でしょうけど」「本人いないので言っちゃうけどあなたには甘々だからね」「あなたが困らないように先回りしてトラブル取り除いてたりとか。飲み会の時もあなたが他の男に絡まれないようにしてたでしょ」 そういえば飲み会の時、毎回彼はずっと私の隣にいる。 あれはそういう理由だったんだ。「本人には内緒だけどきっと高橋君は宮本さんのこと好きよ」 は? それは本人に内緒で言っちゃっていいことなの? 彼が私のことが好き……?いやいや、そんなこと……。 待てよ、そういえば……。----------------------------------------------------------------- 今週はなぜか測定機器の使用予定がかぶる。 普段ならこんなことはないのに、と思って聞いてみた。「ああ、ごめん。今使ってるからもう少し後でお願い」 「普段かぶったことがないのに珍しいですね」 「ああ、高橋さんが事前に調整してたからね」 なんと、私が使う時に予定がかぶらないようにしてくれていたらしい。 一度もそんなそぶりを見せたことがなかったので気づかなかった。 また今週は測定機器の調子が悪い。 彼がいないので他の人に見てもらうと驚くことを言われた。「これ、作業前に調整してもらった?」 「してもらってないです」 「なら調子が悪いのはそれが原因だね」 「今まで一度もそんなことなかったのに」 「あれ?結構な割合で調整が必要になるものなんだけど」 「一度もなかっ
こうして私の新しい職場での仕事が始まった。 彼は非常に話しやすい人だった。 説明が分かりやすいし気軽に質問しても答えてくれる。 彼はかなり優秀な人のようで周りから相談や問題解決を頼まれている。 私には関係ないから(大変そうだなぁ)と思いながら見てるけど。 ただ良く分からないのが仕事中に雑談してくること。 彼はよく私の仕事を監督するんだけど、作業の待ち時間に雑談してくるの。「休日は小説とか読んでいてね」 「そうなんですか」 「最近読んだのだとジョージ・オーウェルの一九八四年とか」 「名前聞いたことがあります」 「宮本さんは小説読んだりする?」 「そうですね」 「例えばどんなの?」 適当に相槌うってたけど、面倒な質問が来た。 こういう人が言う"小説"っていうのはあんまり読まないんだよね。 かといって答えないわけにもいかないし……。「……本好きの下剋上です」 「ごめん、聞いたことない」 「いえ、構いません」 ここで会話は終了した。 まあ、やっぱり知らないか。 難しい小説を読む人って変に見下してくることが多いから、特に何も言われなかっただけましだと思うことにしよう。 でもこうやって上司から雑談を振られても答えに困る……。 変なことを答えるとまずいだろうし無視する訳にもいかないし。 とまあ、このように若干気になる点はあるけれども、総じて言うとそこまで悪くない職場だと思う。 ここなら長く勤められるかもしれないなぁ。・・・ こうして一か月が過ぎた。 大分作業には慣れたし彼が雑談してくるのにも慣れてきた。 雑談については要は当たり障りのないことを答えていればいい、そう思っていた矢先のことだった。「前言ってた本好きの下剋上買って読んでみたけど面白かったよ」 私が前に言ってた本を読んだらしい。 わざわざ買って読むとは頑張るなぁ。図書館とかにもあるのに。「大分時間がかかってしまったけど全巻読めたよ」 は? あれ一巻がだいぶ分厚い上に36巻あるんですけど? しかもまとめて買ったらお値段も4万近く行くと思うんですけど? 適当に誤魔化してるんじゃないの?「最推しはアンゲリカかな。あの取捨選択のすごさと天然のかわいさが良いね」 あれれ、意外と読み込んでる!? いや、アンゲリ
今日からまた新しい職場かぁ。 これが派遣社員のつらい所であり楽な所である。 嫌な職場から逃げられるけど新しい職場が良い所かは分からない。 なので初出社はどうしても憂鬱な気分になる。 面倒な人がいないといいなぁ。 会社に到着してそうそうに上司となる人を紹介される。「初めまして、高橋です。一応君の上司となります」 「こちらこそ初めまして。宮本です」 30代前半で優しそう。でも髪の毛はぼさぼさでなんか冴えない感じ。 私より一回り上だけど大人しそうで怖くはないかな。 機嫌が悪いとすぐ怒り出すような人は嫌だからね。「じゃあ、さっそく仕事の説明を説明するね」 私に任されるのは液晶?製品の性能評価だった。 どうやらそれの明るさとか色とかを測るらしい。「わかったかな?」 「はい」 説明を聞きながら簡単にメモを取ったけど特にややこしい手順はない。 教えられた通りにセットしてボタンを押す。 装置が動いて何か数値が出た。「液晶の動作原理は~~~」 なんか難しいこと話し出した。 それ、明らかに作業と関係ないよね。 ただの派遣に何を期待してるんだろう。 どうさげんりとか言われても何も興味ないんだけど。「光が透過しないのはこの偏光板の効果、液晶に電気をかけることで光が透過するんだ」 「はい、わかりました」 意味わかんないや。 つらつらと専門用語を並べて説明した気になられても困る。 ついでに言うと私の目を見て話してくるのも何なんだろう。 ちゃんと聞いてるのかチェックでもしてる? まあ聞いてるふりしていればいいか。「じゃあ、なにかあったら呼んでね」 一通り説明を終えると彼は去っていった。 さあ、初仕事始めますか。・・・ いくつかの種類のサンプルの測定は終了した。 それはいいんだけど残っているこいつが問題なのよね。 こいつだけさっき聞いた説明と違っている。 何もしなかったら画面が真っ黒と言ってたけど、これは画面が真っ白だ。 壊れてるの?それとも私の理解が間違ってるの? 嫌だなぁ、理解が間違っている場合大体2パターンの対応なんだよね。 ・同じことを説明される。 ・理解しなくていいから言われた通りやれと言う。 どちらにしても怒られるんだよなぁ。 でも壊れてるんだったら言







