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2. 何気ない日常

last update publish date: 2026-05-25 19:16:25

 こうして私の新しい職場での仕事が始まった。

 彼は非常に話しやすい人だった。

 説明が分かりやすいし気軽に質問しても答えてくれる。

 彼はかなり優秀な人のようで周りから相談や問題解決を頼まれている。

 私には関係ないから(大変そうだなぁ)と思いながら見てるけど。

 ただ良く分からないのが仕事中に雑談してくること。

 彼はよく私の仕事を監督するんだけど、作業の待ち時間に雑談してくるの。

「休日は小説とか読んでいてね」

「そうなんですか」

「最近読んだのだとジョージ・オーウェルの一九八四年とか」

「名前聞いたことがあります」

「宮本さんは小説読んだりする?」

「そうですね」

「例えばどんなの?」

  適当に相槌うってたけど、面倒な質問が来た。

  こういう人が言う"小説"っていうのはあんまり読まないんだよね。

  かといって答えないわけにもいかないし……。

「……本好きの下剋上です」

「ごめん、聞いたことない」

「いえ、構いません」

 ここで会話は終了した。

 まあ、やっぱり知らないか。

 難しい小説を読む人って変に見下してくることが多いから、特に何も言われなかっただけましだと思うことにしよう。

 でもこうやって上司から雑談を振られても答えに困る……。

 変なことを答えるとまずいだろうし無視する訳にもいかないし。

 とまあ、このように若干気になる点はあるけれども、総じて言うとそこまで悪くない職場だと思う。

 ここなら長く勤められるかもしれないなぁ。

・・・

 こうして一か月が過ぎた。

 大分作業には慣れたし彼が雑談してくるのにも慣れてきた。

 雑談については要は当たり障りのないことを答えていればいい、そう思っていた矢先のことだった。

「前言ってた本好きの下剋上買って読んでみたけど面白かったよ」

 私が前に言ってた本を読んだらしい。

 わざわざ買って読むとは頑張るなぁ。図書館とかにもあるのに。

「大分時間がかかってしまったけど全巻読めたよ」

 は? あれ一巻がだいぶ分厚い上に36巻あるんですけど?

 しかもまとめて買ったらお値段も4万近く行くと思うんですけど?

 適当に誤魔化してるんじゃないの?

「最推しはアンゲリカかな。あの取捨選択のすごさと天然のかわいさが良いね」

 あれれ、意外と読み込んでる!?

 いや、アンゲリカはかわいいからそこだけ記憶に残ってるのかも。

「ちなみに男はアナスタージウスかな。ジルヴェスターと一緒で最初はマインに苦労をかけてきたのにいつの間にか苦労をかけられる側になってるのがおもしろい」

 なかなか渋い人選だ。これは本当に読んだのかもしれない。

 でも36巻を一か月もかからず……?

 どれだけ頑張って読んだんだろう。

「他にもお勧めとかあるかな?」

 え、そんな、何も準備してないよ。

 えーと。

「えっと、戯言シリーズとか」

「わかった、ありがとう」

 あ、とっさに思いついた小説言っちゃった。

 お堅い小説とかを読む人に紹介する作品じゃないけど……。

 言っちゃたものは仕方ないか。

 まあこんな感じに雑談はするけどちゃんと仕事の話もしている。

 手順は大体覚えたので、そこから気になる所、分からない所は質問している。

 愛想よく答えてくれるので気が楽だ。

 おかげで液晶とついでに有機ELについて大分詳しくなった気がする。

 家族とテレビを買いに行った時に知識を披露したら驚かれた。

 派遣先での飲み会にも初めて参加してみた。

 お酒の入った彼は普段と違って砕けた様子で周りと話している。

「宮本さん飲んでる?」

「はい」

「そっか、どう普段つらくない?」

「全然大丈夫です」

 派遣先の上司にそんなことを聞かれて、普通「大丈夫」以外言えるわけないじゃない。

 ただ今のところ本音でも「大丈夫」かな。

 そんなに居心地は悪くない。

「よーう、飲んでるかい?」

 課長が話しかけてきた。この人は正直話しづらい。

 悪い人ではないんだと思うんだけど、自分のことばかり喋るし胸を凝視してくるのが印象悪い。

 私は身長が小さいけど胸が大きい。

 そのせいで上から胸を覗き込まれることが多いの。

 課長もわざわざ話しかけてきてじっと覗いてるのはバレバレ。

 ちなみに彼もたまに視線を外して胸を見てるけどすぐ目を逸らす。

「注いであげますね」

「おお、すまんな」

課長のグラスが空になっているのでビールを注いでおいた。

早くどっか行ってくれるといいんだけど。

「課長、お酒の無理強いは駄目ですよ」

「わかった、わかった」

「そういえば以前聞いた~~~」

 彼が課長の相手をしてくれた。正直、助かる。

 おかげでこちらはご飯食べるのに集中できる。

 そう思っていた所に女性から声をかけられた。

「こんばんは、いつも頑張ってるね」

 そう声をかけてくれたのは同じ部署の女性の藍さん。

 正社員で主任。彼と同期らしい。

「高橋君が良く言ってるよ。よく頑張るいい子だって」

 褒められるのは嬉しい。

 しかも課長と違って女同士なので話しやすい。

 仕事の内容もけっこうかぶっていたので楽しくお話することが出来た。

 結局、彼はずっと私の隣でお酒を飲んでいた。

 といっても私とほとんど話すことはなくて、大体こちらに来た誰かと話していた。

 けっこう飲み会も楽しいんだな。

 今まで行ったことがなかったのは残念だったかも。

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