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幼馴染

Author: 雫石しま
last update publish date: 2026-04-13 15:44:18

三人は、いつも一緒にいた。

小さな頃から、瑞希、真希、陸斗の三人は、近所の公園の大きな桜の木の下が定位置だった。

瑞希は活発で、木に一番高く登るのはいつも彼女だった。

スカートをたくし上げ、笑いながら「見て見て!」と手を振る。

真希は足が弱く、地面に座ったまま姉の姿を羨ましそうに見上げていた。

陸斗は、そんな真希の隣にいつも座り、「瑞希、危ないぞ」と声をかけながらも、結局は真希の肩に自分の上着をかけてあげていた。

 

「陸斗くん、真希の足、今日はどう?」

「うん、大丈夫だよ。瑞希が元気すぎるだけさ」

「俺、大きくなったら医者になって真希の足、直してやるよ」

 

そんな会話が、毎日のように交わされた。

真希が小学校でいじめられた日、最初に駆けつけたのは瑞希だった。

けれど、真希を抱きしめて泣いている姉の背後で、陸斗はそっと真希の手を握っていた。

「大丈夫だよ、真希。俺がいるから」

 

その瞬間、瑞希は初めて胸に小さな棘が刺さるのを感じた。

自分は守る側なのに、守られているのはいつも真希。

そして、真希を守るのはいつも陸斗。

中学生になる頃には、関係は少しずつ形を変えていた。

 

瑞希は陸斗と同じバスケ部に入り、汗だくになってボールを追いかけた。

真希は観客席の車椅子から、二人を静かに見つめていた。

試合が終わると、陸斗は必ず真希のところへ行き、水筒を渡し、タオルを肩にかけてあげた。

瑞希が近づくと、陸斗は笑って言った。

 

「瑞希、お前は強いから大丈夫だろ。真希は俺が守ってやるよ」

 

その言葉が、瑞希の心に深く突き刺さった。

「強いから大丈夫」——それは、守らなくていいという意味に聞こえた。

 

高校生になると、三角関係はより明確になった。瑞希は陸斗に告白した。

桜の木の下、夕焼けの中で。

「ずっと好きだった。陸斗の彼女になりたい」

 

陸斗は少し困った顔をして、こう答えた。

 

「……ごめん、瑞希。俺、真希のことが好きなんだ。

 あいつ、足が悪い分、俺がいないとダメなんだよ」

 

瑞希は笑った。無理やり笑った。

「そっか……じゃあ、仕方ないね。私も真希のこと、大好きだから」

 

その夜、瑞希は一人で公園の桜の木の下で泣いた。

枝の隙間から見える星が、ぼやけて二重に見えた。

 

それから陸斗と真希は付き合い始めた。

瑞希は「いいお姉ちゃん」でいようとした。

真希の車椅子を押してあげ、陸斗とデートに行く真希の髪を結ってあげ、二人で出かける日の弁当を作ってあげた。

みんなが「瑞希ちゃん、優しいね」と褒めるたび、瑞希の胸はぎゅっと締め付けられた。

 

大学を卒業して数年後。

陸斗が真希にプロポーズしたと聞いたとき、瑞希は初めて本気で取り乱した。

けれど、結局は笑顔で祝福した。

「よかったね、真希。おめでとう」

 

ところが、陸斗の両親は難色を示した。

 

『真希ちゃんは足が悪いから......瑞希ちゃんでもいいでしょ?』

『そうだ。顔は同じなんだから』

 

陸斗は瑞希に結婚を申し込んだ、その顔は明るいものではなかった。

 

 

───そして、結婚式当日。

 

「どうしてそんなに聞き分けがないんだ!」

 

陸斗の平手が瑞希の頰を打った瞬間、十年以上積もり続けた棘が、一気に表面に浮かび上がった。

瑞希は床に倒れながら、ようやく理解した。

自分は最初から、この三角関係の中で「余り物」だったのだと。

 

真希は車椅子から陸斗を見上げ、小さく、けれど確かに微笑んだ。

その笑みは、幼い頃からずっと瑞希だけが見てきた——妹が「勝った」ときに見せる、静かな勝利の表情だった。
ウェディングケーキのクリームが、ゆっくりと溶けていく。

白い雫が、テーブルの上を伝い落ちる。

まるで、瑞希の心が溶けていくように。

 

瑞希は腫れた頰を押さえながら、震える声で呟いた。

 

「……私も、足が悪かったら……

 陸斗は、私を選んでくれたのかな……」

 

その言葉は、誰にも聞こえなかった。

ただ、桜の木の下で泣いたあの日の風が、

今、会場に冷たく吹き抜けていくような気がした。
三角関係は、今日、完全に決着がついた。

勝者と敗者が、はっきりと分かれた。

けれど、瑞希の胸に刺さった棘は、まだ、抜けていなかった。

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