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星散る夜、手遅れの愛に凪ぐ心
星散る夜、手遅れの愛に凪ぐ心
Autor: 縁の神無月

第1話

Autor: 縁の神無月
「これまでの私の未熟さゆえの失礼を許してください。お詫びの印として、来見田さんにお祝いの品を用意しました」

言い終えると凪紗が手を叩き、ボディーガードたちが次々と引き出物を運び込んできた。百を超える品々が、あっという間に山のように積み上げられた。

会場は水を打ったように静まり返り、真斗すらも意外そうに目を見開いた。

だがその時、凪紗の視界に広がるコメントが沸き立った。

【やめて!凪紗ちゃんこそがこの恋愛小説のヒロインで、あの来見田は悪役よ。ヒーローの真斗は彼女のことなんてこれっぽっちも愛してないの!】

【来見田は真斗の亡き恩師の生き別れの娘なの!彼女がA市でしっかり生きていけるように守るためだけに結婚するんだよ!1ヶ月後、彼女が父親の遺言通り25歳の誕生日を迎えて遺産を相続したら、真斗はすぐに別れるつもりなの!】

【もう焦れったい!凪紗ちゃん、お願いだから真斗を見て!彼、今にも崩れ落ちそうなんだから。冷たく接してるのは、ボディーガードがちゃんと面倒を見ずに、傷が治りきってない凪紗を連れ出したことに怒ってるだけ!

凪紗ちゃんが撃たれた時の大出血で、彼、自分の血がなくなる寸前まで輸血したんだよ!ううっ、手塩にかけて育てた凪紗ちゃんを愛してないわけないじゃん……】

びっしりと流れる文字を、凪紗は胸の痛みを押し殺し、見なかったフリをした。

彼女はおどけて真斗に手を差し出し、目頭を熱くしながら微笑んだ。

「これから来見田さんは私の叔母になります。だから、叔父さん、あの宝石のブレスレットを返してください」

コメントが再び悲鳴を上げた。

【凪紗ちゃん、どうして18歳の時にあげたあの告白のブレスレットを取り戻そうとするの?真斗がどれだけ大切にしてるか知らないの?他の誰にも触らせないくらいなのに!】

だが次の瞬間、千晶のおずおずとした声が響いた。

「……花森さんが言っているのは、このブレスレットのことでしょうか?」

彼女が取り出したスマホのケースには、あのブレスレットが、誇らしげにぶら下がっている。

凪紗は、まるで頭を強く殴られたかのような衝撃を受け、耳の奥で激しいキーンという耳鳴りが響いた。

いつも騒がしかったコメントすら、ピタリと止まった。

凪紗が口を開くより早く、千晶の目元が赤くなった。彼女は慌てふためいた様子で訴えた。

「本当にごめんなさい、花森さん……もし私が触るのを嫌なら、今すぐ外して返します。だから怒らないでください……」

そう言いながらブレスレットを外し、差し出す仕草を見せたが、次の瞬間に手を滑らせた。

ガシャン。

ブレスレットが床に落ち、宝石が粉々に砕け散った。

会場にいる全員が、一斉に息を呑んだ。

なぜなら、あの華々しい告白の場で、18歳の凪紗は真斗に永遠の誓いを立てたからだ。

「このブレスレットを身につけたなら、叔父さんは私のものです。絶対に大切にしてください。もしこれを壊したら、別れて永遠に仲直りしませんからね!」

凪紗は顔色を失い、砕けた宝石をただじっと見つめて黙り込んだ。

千晶は怯えたように真斗の袖を掴み、ボロボロと涙をこぼした。

「ごめん、真斗……またやってしまった……すぐに修復できる方を探す……」

震える手で破片を拾おうと屈み込んだが、指先を切ってしまった。

血が砕けた宝石の上に滴り落ちた。

「やめてください!」

凪紗は思わず手を振り上げた。

だが次の瞬間、真斗がその手を力強く掴んだ。険しい表情で眉をひそめ、厳しい口調で言った。

「凪紗、いい加減にしろ!千晶はわざとやったわけじゃない。たかがブレスレットのために手まで上げるつもりか……」

陰を帯びた眼差しで睨みつけた彼だったが、凪紗の虚ろな、けれど静かに赤く腫れた瞳と視線が交わると、ふと言葉を詰まらせた。

「凪紗……どうして……」

「叔父さん、誤解しないでください」

凪紗は込み上げる切なさを押し殺し、笑ってみせた。手を引き抜き、手のひらを広げると、そこには一枚の絆創膏がある。

「たかがブレスレットですもの、壊れても構いません。それより、来見田さんが怪我したんですから、叔父さん、早く手当てをしてあげてください」

真斗の胸が、かすかに締めつけられた。

凪紗は激怒して暴れ出し、自分以外の女と結婚するなと脅してくるだろうと思っていた。しかし、これほど素直に従うなど予想だにしていなかったのだ。

そんな凪紗の様子はどこか見知らぬ人に思え、不安を彼に抱かせた。

まるで、かけがえのない宝物が手からこぼれ落ちていくかのように。

彼は思わず、声を少し柔らげた。

「医者は凪紗に静養が必要だと言ってたはずだ。部屋に戻って休んでくれ」

凪紗はさらに笑みを深めた。

「ええ、お気遣いありがとうございます、叔父さん」

そう言い残し、彼女は背筋をぴんと伸ばして背を向けた。

中庭の庭園へと足を踏み入れ、婚約披露宴の賑わいが完全に遠ざかるまで。

たった一人になった瞬間、凪紗の目から堪えきれない涙がとうとう溢れ出した。

耳元に、使用人の後藤ゆり(ごとう ゆり)のため息が届いた。

「花森様、それほど悲しまれるのでしたら、どうしてもう一度お気持ちをぶつけなさらないのですか?これまで真斗様が花森様に注いでこられた愛情に、少しの偽りもなかったのですから」

確かに、凪紗が13歳の時に両親を亡くし、三上家に引き取られてからの10年間、真斗の彼女に対する愛情は紛れもなく本物だった。

他人には冷徹でプライドの高い男が、彼女にだけはどこまでも優しく、ありのままの彼女を受け入れてくれた。

だからこそ、前世の彼女はあのコメントの言葉に煽られ、狂ったように披露宴を台無しにし、亡き父の名まで持ち出して泣き叫んだのだ。

その結果、真斗は心を動かされ、千晶と別れて凪紗との結婚に応じた。

だが挙式当日、千晶は父親の遺産を狙う酷悪な親族に追い詰められ、海へ身を投げて命を落とした。

その悲報に、どんな時でも冷静で意志の強かった真斗は打ちのめされ、完全に壊れてしまった。

恩師が残した唯一の子供を守れなかった自分を責め、嫉妬に狂った凪紗を憎んだ。

だから、彼は二度と彼女に言葉をかけなくなった。

彼女が泣き喚こうと自殺で脅そうと、氷のように冷たくあしらった。果ては、凪紗がお腹に子を宿したと知っても、墓地の近くに引っ越して毎日千晶の墓に寄り添い続けたのだ。

凪紗はついに心を病み、朦朧とした意識の中で階段から転げ落ちた。その結果、お腹の子は死産となった。

だが知らせを聞いた真斗は眉ひとつ動かさず、むしろ肩の荷が下りたかのように呟いた。

「……これで千晶への償いになったと思えばいい」

その時になってようやく、凪紗は自分がいかに愚かな過ちを犯していたかを思い知った。

その夜、彼女は我が子の亡骸を抱きかかえ、屋敷に火を放った。

再び目を覚ました時、彼女はあの日へと戻っていた。千晶がA市新聞社で正社員になるため、あえて三上家の機密研究機関の所在地を漏らし、殺し屋を呼び寄せたあの日に。

10年間育ててくれた恩に報いるため、凪紗はやはり真斗を庇い、身代わりとなって弾を受けた。

けれど、やり直しのこの人生では、執着を捨てて真斗と千晶を添い遂げさせようと決めたのだ。

……

我に返った凪紗は涙を拭い、掠れた声で言った。

「お祖母さんが今どこに?案内してちょうだい」

書斎で、一恵は静かに本を読んでいる。

凪紗はまっすぐにひざまずき、深く頭を下げた。

「お祖母さん、林原家との政略結婚は、他の子ではなく、私に受けさせてください」

一恵がページをめくる手を止め、痛ましさと諦めが入り混じった声を漏らした。

「これは凪紗の運命かも……」

彼女は一枚のカードを取り出し、凪紗に手渡した。

「ここにはご両親の400億円の遺産が入ってる。さらに私から600億円を上乗せしておいた。彼を手放すと決めたのなら、これからは……幸せにお暮らし」

凪紗の目頭が再び熱くなり、もう一度深く額を床につけて声を詰まらせた。

「お祖母さんと叔父さんには、長年のご恩を心より感謝します。どうか……林原家へ嫁ぐことは、まだ叔父さんには伏せておいてください」

一恵は頷いて承諾した。

凪紗はそこでようやく立ち上がった。

だが、振り返って書斎を出た途端、高い背の影がドアのそばに立っていた。

真斗がじっと彼女を見つめ、低く掠れた声で問い詰めた。

「……俺に伏せておけとは、何のことだ?」

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