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第5話

Author: 風塵
咲が目を覚ますと、鼻には嗅ぎ慣れた消毒液の匂いがした。

渉がベッドのそばに立っていた。その顔は憔悴しきっており、無精髭もうっすらと生えていた。

彼女が目覚めたことに気づくと、彼は安堵のため息をつき、優しい口調で言った。「咲、ようやく目が覚めたんだな。

麗奈を嫌っているのは知っている。だが、麗奈は病人だ。病人に対してあんなことをするのはダメだ」

目覚めた途端、頭ごなしに非難されて、咲は冷たく笑った。「そんなにも彼女を信じているの?」

その一言で、渉の顔は瞬時に曇った。

「君がかけたあのお粥のせいで、彼女の病気はさらに悪化した。まだ足りないのか?嫉妬にも程がある。

今回の麗奈の病気はかなり厄介なんだ」渉の声には、焦りの色が混じっていた。

「野生のマムシの卵を煮込んだスープを飲まないと、回復は難しいと医者が言っている」

彼は少し間を置き、重々しい口調で言った。「龍神山にいるそうだ。君が取りに行ってくれ。麗奈に対するお詫びとして」

咲は信じられないというように目を見開き、その瞳は涙でいっぱいになった。

「渉、気でも狂ったの?私は蛇を一番怖がるのを忘れたの?」

咲が蛇を怖がるようになったのは、かつて渉の異母兄が、愛人の子である渉を懲らしめるために、彼を蛇の巣穴に投げ込もうとしたからだ。

混乱の中、咲は追手を引きつけて渉を逃がし、代わりに自分が蛇の巣に投げ込まれたのだ。

救出された後、彼女は心的外傷後ストレス障害を患い、蛇に関するあらゆるものを恐れるようになった。

渉の頭に一瞬、過去の記憶がよぎり、少し気が揺らいだが、すぐに心を鬼にした。「咲、過ちを犯したからには罰を受けなければならない。麗奈は病気のせいで、もうずいぶん食事もとれていないんだ」

咲は彼の目をまっすぐに見つめて、「嫌よ」とはっきり言い出した。

渉の顔から最後の温かみも消え去った。「咲、若葉研究所を自分の手で潰したいのか?」

その言葉は、まるで強力な爆弾のように、咲を完全に打ちのめした。

若葉は父が生涯をかけて築き上げた心血の結晶だ。渉はそのことを知っているはずなのに!

今、麗奈のために研究所を脅迫の道具に使うというのか?

咲の瞳から光が完全に消えた。この男に対する最後の未練もそれと共に消え去った。

彼女は静かに頷いた。

咲の心が死んだような様子に気圧されたのか、渉は珍しく説明を付け加えた。「咲、プロの蛇使いも同行させるから、心配はいらない」

咲は何の反応も示さず、黙って病室を出ていった。

マムシは世界でも有名な蛇で、最も毒性の強い蛇として知られている……

渉はここまで非情になれるとは。

龍神山。

咲は目の前にそびえ立つ、雲を突くような山を見上げた。

深く息を吸い込むと、蛇使いと共に鬱蒼としたジャングルの中へと足を踏み入れた。

まもなく、蛇使いは竹林の中でマムシの痕跡を見つけた。

蛇使いがマムシを捕まえ、咲が素早く蛇の巣から卵を取り出した。

シューッ。

静かな竹林に、不意に音が響いた。

咲が注意深く目を凝らした。なんと……

蛇の巣のそばに、もう一匹のマムシが潜んでいた!

彼女は全身の毛が逆立ち、心臓が緊張で激しく鼓動した!

次の瞬間――

咲の右手の小指に、骨の髄まで染み渡るような鋭い痛みが走った。

マムシが飛びかかり、彼女の小指に固く喰らいついていた。

蛇使いはそれに気づくと、すぐさま駆け寄ってマムシを取り押さえた。

そして彼は咲を連れて、急いで最寄りの病院へ血清を打ちに向かった。

マムシに噛まれた場合、二時間以内に血清を打たなければ、命の危険がある。

しかし、彼らが病院の入り口にたどり着いた途端、一人の警備員に止められた。

「本日、当院は貸し切りとなっておりますので、患者の受け入れはできません」

咲は痛みをこらえながら言った。「公立病院を貸し切りにするのは違法です」

警備員はさも当然というように言った。「うちの越智社長がこの東都の法律そのものなんです」

「越智社長」という言葉に、咲ははっとした。彼女は諦めきれずに尋ねた。「どちらの越智社長ですか?」

警備員は軽蔑したような顔で言った。「この東都で絶大な権力を誇る越智渉社長に決まっているだろう。社長の大切な方が病気になって、社長がわざわざ病院を貸し切りにして、すべての医療資源をその方のために使っているんです。診てほしけりゃ、他の病院へ行った方がいいですよ」

自分がどうやってその場を離れたのか、咲には分からなかった。

別の病院にたどり着いた時、マムシに噛まれてからすでに一時間以上が経過していた。

病院に入るや否や、医者が治療を始めた。

しかし、医者は検査結果を見て、険しい表情を浮かべた。

咲は震える唇で尋ねた。「先生、何か……?」

医者はため息をついて言った。「もう少し、早く来ていれば……小指はすでに毒で壊死しています。切断するしかありません。もし、一時間以内に来ていれば、切断は免れたかもしれません。少し遅すぎました」

一時間以内……

私たちは間に合っていた。ただ、たどり着いたのが、あの貸し切りにされた病院だった……

病室で、冷たい注射針が咲の皮膚に突き刺さった。

彼女は、医者が自分の小指を切断するのをじっと見つめていた。

黒紫色になった小指が、冷たい鉄の皿の上に置かれた。手のひらの後半部は、がらんとしていた。

彼女は、包帯で巻かれた右手を静かに見つめた。

涙が絶えずにこぼれ落ちた。もう、小指はない。

これから自分は、身体的欠損がある人間として生きていくのだ。

心の一部も、えぐり取られたような気がした。

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