Masuk真琴のその問い返しに、信行は慌てて弁解した。「分かってるだろう、俺は……」信行が言い終わるのを待たず、真琴は再び冷静な声で言葉を継いだ。「それに、友達になる気なんて全くないわ。はっきり言わせてもらうけど、仕事でどうしても避けられない場合を除けば、本当は顔も見たくないし、これ以上どんな関わりも持ちたくないの。だから、私の気持ちを分かってほしい。お互い、仕事上で顔を合わせるだけの付き合いで十分よ。これ以上、お互いに惨めな姿を晒すような真似はしたくないわ」友達?真琴は心の中で呆れて笑いそうになった。信行は本当にただの友達になりたいだけなのだろうか?彼はひどく傲慢だ。真琴が諦めたことも、自分の元から去ったことも受け入れられないから、また一からやり直そうとしているだけなのだ。もしかしたら、ほんの少しは自分への情があるのかもしれない。けれど……それは愛なんかじゃなく、単なる罪悪感からきているものだ。あの三年間の結婚生活を経た今となっては、信行が自分を愛しているなんて、真琴には到底信じられなかった。これからも、絶対に信じることはない。たとえ彼に何度命を救われたとしても、それと愛情や恋愛感情とは全く無関係だ。真琴にここまで言い切られ、信行の瞳は目に見えて暗く沈んだ。どこか傷ついたような信行の眼差しから、真琴は淡々と視線を外した。これ以上言葉を交わす気はなかったし、わざと悲しませたいわけでもない。ただ、はっきりと言葉にして残酷なまでに突き放しておかなければ、この人はいつまでも希望を捨てきれない。目を逸らしてしばらく黙り込んだ後、真琴は無言のまま信行の横をすり抜け、自分の車へと歩き出した。今はただ、自分のこの態度を信行がしっかりと心に留め、過去への執着を手放し、本当の意味で過去と決別してくれることだけを願っていた。すれ違ってゆく真琴に対し、信行は無意識に両手をスラックスのポケットに突っ込んだまま、振り返ってその姿を見つめた。日はすでに傾き、柔らかな夕陽の余韻が真琴の華奢な背中に降り注ぎ、風がその服の裾と髪をふわりと揺らしていた。昔も今も、真琴の後ろ姿はいつもひどく孤独で、たまらなく寂しげだった。幼い頃からずっと独りきりで、いつもあんな風に静かだった。辻本家にはもう彼女しか残っておらず、今は「
信行の言い訳に、真琴はかすかに微笑み、落ち着き払った様子で言った。「それはそっちの都合よ。私に釈明なんてしなくていいわ」まだ夫婦だった頃、信行が引き起こす厄介ごとに巻き込まれるたび、真琴はどれほど彼からの説明を待ち望んだことだろう。あれはすべて誤解なのだと、ほんの一言でいいから言ってほしかった。噂なんて信じなくていい、真に受けなくていいのだと。けれどいくら待っても、何年経っても、心がすっかり冷え切り、希望を失い、すべてを諦めるその日まで、信行は一度たりとも弁解してくれなかったし、慰めの一言もくれなかった。今となっては、もう完全に吹っ切れている。過去の出来事など、とうの昔にどうでもよくなっている。それなのに、信行は今更になって言い訳をしに来ている。自分と信行は、そもそも根本的に噛み合っていない。全く意に介さない真琴の態度に、信行は少し眉を寄せて彼女を見た。「真琴……」だが、そう名前を呼んだものの、何度か口を開きかけては、結局何も言えずに言葉を飲み込んだ。今さらどう説明しても分かってもらえないと悟った。見つめ合い、信行の深く沈んだ眼差しと、口ごもる様子を見て、真琴は軽く眉を寄せ、思わずふうっと息を吐いた。息をついた後、真琴は信行を見上げ、淡々と言った。「あれもこれも、何もかも欲しがるなんて無理よ。世界があなたを中心に回っているわけじゃないし、誰もがあなたを理解し、受け入れなきゃいけない理由なんてないの」真琴が言い終えると、信行の顔色は先ほどよりさらに沈み込んだ。彼女を見下ろし、どう説得すればそこまで気にせずにいてくれるのかと考えを巡らせていると、真琴がさらに言葉を継いだ。「二年前もあなたは、自分が内海家の面倒を見ることや、由美への曖昧な態度を私に受け入れさせようとしたわね。これだけ色々なことを経て戻ってきた今でも、やっぱりそんな自分を私に受け入れさせようとしている。あなたはいつまで経ってもあなたのままよ。これまでも、何一つ変わっていないわ。本当は、そのままのあなたでいることを選べばいいのよ。由美だって、成美の身代わりにされることを嫌がらないと思うし。でも、そんなあなたを無理やり私に受け入れさせようとしないで」そこで一旦言葉を区切り、真琴はまた続けた。「あなたのことが好きだった
真琴に「片桐社長」と他人行儀に呼ばれ、信行は頭から冷水を浴びせられたような気分になった。間の悪いことに、事実として自分は今、内海家の人たちと一緒にいて、成美の墓参りに来ている真っ最中だった。真琴のよそよそしい態度にもかかわらず、真弓はすかさず愛想よく声をかけた。「西脇さん、まだお昼は召し上がっていませんよね。ちょうどいいところでお会いしましたし、皆さんで一緒にお昼でもいかがですか?」真弓の熱心な誘いに対し、真琴は穏やかな声で答えた。「お昼は予定がありますので、お邪魔をしては申し訳ありませんし、ここで失礼いたします」続けてこう言った。「この後まだ用事がありますので、私はこれで」そう言い残すと、真琴はそれ以上留まることなく、くるりと背を向けてその場を立ち去った。背を向けて立ち去る真琴の姿を見て、信行は三、二歩で追いすがり、思わずその腕を掴んだ。「真琴」腕を掴まれた真琴は、焦る様子もなくゆっくりと振り返り、信行を見上げて感情の読めない声で言った。「片桐社長、何かご用ですか?」またしても「片桐社長」と呼ばれ、信行はたまらなく気が滅入った。だがそれを顔に出すわけにもいかず、また何か言える立場でもないため、ただ真琴を見つめて言った。「送っていくよ」信行の気遣いに、真琴はふっと笑って返した。「お構いなく、片桐社長。自分の車で来ておりますので」そう言って、真琴は信行の手をそっと外した。同時に、信行は相変わらず昔と同じで、あっちもこっちも、何もかも手に入れたがる人なのだと心の中で冷ややかに思っていた。そうして再び背を向け、そのまま駐車場へと歩き去っていった。去っていく真琴の背中を見送りながら、信行の心境はたまらなく複雑だった。浜野市から戻って最初の再会が、まさかこんな形になるとは思ってもみなかった。ただでさえ鬱陶しがられているというのに、内海家と一緒にいるところを見られては、ますます愛想を尽かされたに違いない。手を上げて額を押さえ、信行はひどく頭を痛めた。結局、昼は内海家の三人とは食事をせず、車を走らせて自分だけ先に市中心部へと戻った。一方の真琴はというと、墓園を後にしたその足で研究所へ向かっていた。夜の七時過ぎ、仕事を終えて研究所を出ると、信行が来ていた。黒のマイバッハの
「俺には俺の予定がある。待たなくていい」信行はそう答えた。だが由美は食い下がった。「やっぱり一緒に行きましょうよ。成美だって、その方が喜ぶわ」その言葉に信行は何も返さず、一方的に電話を切った。しかし……沈黙もまた一つの答えであり、行くという同意の証でもあった。つい先ほどまでは真琴のことばかりを考え、どうやって駆け引きし、どうすればもう少し距離を縮められるかと思案していたというのに。由美からの電話一本で、その考えはすっかりかき乱されてしまった。思わずあの事故の日のことを思い出す。自分を助けようと、必死に人を呼びに走っていった成美の後ろ姿を。あっという間に、成美がこの世を去ってから六年が経った。真琴との結婚生活、そして愛憎入り混じる日々からも、気づけば五年以上が過ぎている。スマホをポンとキャビネットに放ると、信行は両手をスラックスのポケットに突っ込み、わずかに眉を寄せて庭へ目を向けた。ライトに照らされた庭は美しく、昔、真琴がよくこの片桐家の屋敷で遊んでいた姿がふと思い浮かんだ。ただ今となっては、実家にご飯を食べに呼ぶことすら容易ではない。そして、成美の命日はこの金曜日だ。これほどの年月が経っても、信行と内海家との関係は、実のところ完全に断ち切れてはいなかった。……あの電話の後、金曜日当日になり、信行は結局、由美とその両親と共に成美の墓参りへ足を運んだ。墓前で、由美の母、真弓は墓石を磨き、花を手向けながら成美に色々なことを語りかけた。信行が内海家をとてもよく世話してくれていること、内海家が今どんどん良くなっていること、だから心配しないで安らかに眠ってほしいということなどだ。由美も成美にいくつか言葉をかけ、信行はただ傍らに立ち、何も口にすることはなかった。十時半、墓参りが終わった後。四人が連れ立ってゆっくりと駐車場へ向かって歩き出した時、真弓が口を開いた。「信行さん、お忙しいのに時間を作って成美に会いに来てくれて、本当にご苦労様」信行が口を開くより先に、真弓はさらに続けた。「お昼、一緒に食べていきませんか」真弓の誘いに対し、信行は前を見たまま淡々と答えた。「いえ、遠慮しておきます。まだ仕事がありますので」真弓は言う。「お仕事も大事ですけど、お食事も大事です
信行が口を開くより先に、祐斗はすかさず言葉を継いだ。「すでに真琴様には人をつけております。今は東都にいらっしゃいますので、しばらく浜野市へお戻りになることはないかと」祐斗がそう報告する間に、運転手がゆっくりと車を発進させた。信行はすっと視線を外し、それ以上祐斗を相手にはしなかった。ただ、真琴が自分を避けるために浜野と東都を行ったり来たりしているのだと思うと、どうしても胸の奥がざわついて気分が晴れなかった。本当は今すぐ真琴の様子を見に行きたかったが、時間も遅いため、押しかけるのはやめにした。運転手と祐斗に実家まで送られて帰ると、ちょうど克典も戻っていた。信行と同じく、今夜帰り着いたばかりのようだった。家にいる克典を見て、信行は何事もなかったかのように声をかけた。「兄さん、帰ってたのか」真琴が家を出てからの二年間、克典はほとんど休みを取って帰ってくることはなかった。たまに一、二度戻ってきた時も信行を完全に無視し、兄弟の間では挨拶はおろか、口をきくことすらなかった。最初のうちは、信行もなぜそこまで冷たくされるのかピンときていなかった。だが、後になってすべてを悟った。兄が実家に寄り付かず、自分を無視し続けていたのは、自分が真琴を蔑ろにしただけでなく、身を引いて二人の仲を成就させようとした兄の思いまでをも踏みにじったからだ。元を正せば、両家のお祖父様たちは真琴を兄の克典に嫁がせるつもりだった。信行の挨拶に対し、克典は淡々と短く返した。「ああ」もし真琴が生きて東都に戻ってきたと知らなければ、克典は今でも信行を相手にせず、決して許すことはなかったはずだ。二人の短いやり取りが終わると同時に、美雲が二階から降りてきた。信行が帰っているのを見て、声をかける。「信行、帰ってたのね」そして、続けてこう言った。「この前、お祖父様が真琴ちゃんのところへ行って、家にご飯を食べにいらっしゃいって誘ったのよ。その時は浜野へ戻っていたみたいだけど、ここ二日はまた東都にいるみたいじゃない。信行、近いうちに真琴ちゃんのところへ行って、実家で家族みんなで食事でもしようって伝えてちょうだい」先日、美雲も真琴のところへ足を運んでいたが、真琴の心はピクリとも動かず、片桐家に戻ることも、ましてや信行とよりを戻すことな
あっさりと「東都に戻った」と言い放たれ、信行の顔色は見るに堪えないほど曇った。一瞬のうちに、目まぐるしく表情が変わる。わざわざ浜野まで会いに飛んできたというのに、当の本人は一言の挨拶もなく東都へ帰ってしまっていた。足元まである大きな窓の前で、しばらく身動き一つせずに立ち尽くし、短くなった吸い殻の熱が指先に伝わって、信行はハッと我に返った。何事もなかったかのように吸い殻を灰皿でもみ消すと、信行は乾いた笑いを漏らして尋ねた。「いつ東都に戻ったんだ?」電話の向こうで真琴は仕事中らしく、キーボードを叩く音を響かせながら、焦る様子もなく淡々と答えた。「二日前よ」「……」信行は言葉を失った。今この瞬間、真琴の心の中には、自分の存在などもう欠片ほどの重みもなくなってしまったのだと痛感した。黙り込んだまま、信行はかつての出来事を思い出していた。「信行の好きな料理を作ったの。今日の夜は帰ってきてくれる?」「信行、少しだけでも帰ってこられない?」「信行、私……あなたに会いたい」過去の記憶が堰を切ったように押し寄せ、信行は左手でスマホを耳に当てたまま、右手でこめかみを揉んだ。あの時、彼女を大切にしなかった。その報いが今、ブーメランのように自分に突き刺さっている。眼前の真琴の落ち着き払った態度に、今の信行はどうすることもできなかった。電話の向こうでは、信行が電話を切る様子もなく、いつまでも黙り込んでいるため、真琴の方から口を開いた。「もう用がないなら、電話を切るわ。こっちはまだ仕事中だから」信行は答えた。「ああ、仕事に戻れ」信行の声に滲む疲れなど深く気にかけることもなく、真琴はあっさりと電話を切った。そして再びパソコンの画面に視線を戻し、仕事を続けた。……ホテル窓の前で、信行は深く息を吐き出したが、眉間のしわはいつまでも寄ったままだった。そうか、冷たくあしらわれるというのは、こんな気分なのか。無視され、疎まれ、好かれないことが、これほどまでに苦しいものだったとは。窓の外の街の景色に目をやりながら、かつて自分が真琴に散々冷たく当たり、疎んじていたことを思い出し、信行は思わず口角を上げて笑い声を漏らした。どうしようもなく、やるせない笑いだった。いい気味だ。全くだ、とことん







