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7話

last update Date de publication: 2026-10-10 20:07:25

立ち上がった悠ちゃんは手をヒラヒラとさせながら休憩スペースへと歩いていった。

藍村はそれと入れ替わるように悠ちゃんの席にどさっと腰をかける。

「なぁ鈴宮さ、悠太と距離近くね?」

「え、そう?今のはたまたまディスプレイ覗いてたりしてたからじゃない?」

「ふーん⋯⋯」

「てか急になに?」

「んや、別に。悪かった変なこと言って」

奥歯に物が挟まったような言い方に少しだけ違和感を感じる。

何か言いたげにも関わらずそれを隠すように笑顔を見せてはぐらかされた。

自分のパソコンのディスプレイを見つめていると隣からジーッと視線を感じる。

なぜか藍村に見つめられているようで視線が気になって仕事に集中できない。

「そんなじっと見て何か用?」

「鈴宮さ、ゴールデンウィークは予定あんの?」

「まぁ特にやることは決めてなかったよ。高校の友達と会う約束してるくらい」

「ふーんそっか」

(⋯もしかして⋯⋯)

予定を聞いてくるということはもしかしたらお誘いなのかもしれない。

私たちはセフレでお互いの欲を発散させるための都合のいい関係だ。

ゴールデンウィークだろうが私たちには特に関係ない。

彼氏彼女がいれば話は別かもしれないが、私たちには残念ながらそういう人たちはいなかった。

「いいよ、しよう」

「は?え、何を?」

「え、夜会おうってことじゃないの?そのままするってことだよね?」

「あ、いや、その⋯⋯そりゃシたいけど、俺が言いたいのは別のことで⋯」

「じゃあなに?」

あー、と言いながら頭を搔くその姿はどこか可愛らしく見えて、クールな見た目のいつもの藍村とはどこか違った一面で思わずクスッと笑ってしまう。

今日の藍村はなんだか様子がおかしい。

「鈴宮って甘いもの好きだよな」

「うん。好きだけど」

「前に行きたいって言ってたカフェ、一緒に行かね?」

「え⋯⋯?」

思いもよらないお誘いに呆気に取られる。

まさか藍村にカフェに誘われるだなんて誰が想像しただろうか。

キョトンとしたまま藍村を見つめていると先に視線を逸らしたのは藍村だった。

そっぽを向いた藍村の耳元はほんの少しだけ赤くなっているような気がする。

「え、あの、私と?」

「そ。鈴宮と一緒に行きたいんだけど」

「⋯⋯えーと、私と?誰かと間違えてるわけじゃない、よね?」

「はぁ?誰と間違えるんだよ。俺をなんだと思ってんだほんと」

不機嫌そうに藍村は唇を尖らせあからさまに拗ねている。

藍村が私をカフェに誘うなんてどういう風の吹き回しなんだろう。

セフレへの気遣いだとしたらここまでくるとあまりにも完璧すぎて恐れ多い。

そこまで気遣ってもらわなくてもいいというのに。

「そんな気を遣わなくていいよ」

「気なんか遣ってないわ」

「ただのセフレにそこまでする必要ないと思う。他の人は知らないけど私は気にしないから」

「⋯⋯⋯」

私以外にもいるであろうセフレたちにはそういった気遣いは必要かもしれないが、私には正直無用だ。

セフレとしての立場を弁えているつもりだし、セックス以外の行為を藍村に求めるつもりはない。

私の言葉に藍村は眉間に皺を寄せたまま何も言わない。

ただ真っ直ぐ私を見つめたまま口を噤むその姿はどこか悲しそうにも見えて申し訳なささえ感じる。

「俺が単純に鈴宮と一緒に行きたくて誘ってるんだけど」

「優しくしなくていいのに」

「⋯同期なんだから別にいいだろ誘うくらい」

「まぁでも甘いものは好きだから行くけど」

そう言うと藍村はあからさまに嬉しそうに表情を明るくさせる。

そんな嬉しそうな顔をされるとは思ってもいなくて拍子抜けしてしまった。

(甘いもの、食べたかったのかな⋯)

甘いものが好きなのは事実だし、行きたいと思っていたのもまた事実のため純粋に行けるのは嬉しい。

だけどその話をまさか藍村が覚えていたことには驚いた。

「よく私が言ってたこと覚えてたね」

「そりゃ覚えてるだろ。俺も気になったし」

「藍村って甘いもの好きだったっけ?いつもブラックコーヒー飲んでるからあんまりイメージなかったんだけど」

「たまには糖分摂取したい時もあんだよ。日付はまた連絡するわ。当日は鈴宮の家の最寄り駅まで迎えに行くから」

「え、いいよ1人で行ける。藍村の家からうちまで来るとカフェ通り過ぎちゃうじゃん」

「別にそんなの気にしねぇよ。いいから黙って俺の言うこと聞いてろ」

藍村は変なところで頑固だ。

コミュニケーション能力も高く相手に合わせて話をすることなんて朝飯前のはずなのに、私相手にはやけに素直じゃない。

セフレとして都合良い関係だからこそ取り繕う必要がないためこれが藍村の素なのか。

それとも同期として心を許してくれているのか、私に知る術はなかった。

「じゃあ仕事戻るわ」

「うんまたね」

「楽しみにしてるから。鈴宮と出かけるの」

「うん?私も」

(そんなにカフェ楽しみなんだ⋯⋯)

相変わらず藍村のことはよく分からない。

同期として他の社員たちより仲はいいはずなのに、どうしても心の底を見せてくれないような気がして彼の本心は分からないままだ。

所詮同期だなんて表面上の関係で私たちは歪で都合のいいセフレに過ぎない。

だけど単純に藍村が誘ってくれたことを私はどこか嬉しいと思っていたんだ──。

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