分享

第2話

作者: 壽倉雅
last update publish date: 2026-11-06 12:40:03

 楓と涼太の結婚式は盛大な中で開催された。楓や涼太の学生時代からの同級生や職場の同僚が招待客として何十人も出席しており、両家の親族も顔を揃え、テーブル卓の数もそれなりに多かった。

 正装の楓と涼太が各テーブルを回ることもあれば、お色直しの間は、黒の留袖姿の真由美と千里、背広姿の康史という両家の親が瓶ビールを片手にテーブル卓を回り、挨拶などを交わし合った。

 披露宴が終盤に差し掛かると、新郎新婦がそれぞれ感謝の手紙を読む時間となった。涼太が読み終わると、次は楓の番である。涼太にワイヤレスマイクを持ってもらい、楓は何日も前に用意していた家族への感謝の手紙を読み始めた。

「お母さん。まずは今日まで、私を育ててきてくれたありがとうございました。保育園の時にお父さんが亡くなって、それからお母さんは私やお姉ちゃん、桜を女手一つで育ててくれました。私もこれから涼太さんと家庭を築いたら、お母さんのような人間になれるように頑張りたいと思います。お母さんは私のお手本です。本当にありがとうございました」

 二枚目の手紙には、姉の茜と妹の桜への感謝の内容が綴られていた。

「お姉ちゃんへ。昔からお姉ちゃんには何もかも敵いませんでした。成績も喧嘩も、何をやってもお姉ちゃんには負けてばかり。でもそれは今となっては良い思い出です。お姉ちゃんも今では一家の主婦として家庭を築いています。私もお姉ちゃんを見習って、涼太さんと協力して家族を作っていきます。桜へ。昔から甘えん坊だった桜が、これからどんな人間として成長していくのかを、私なりに見守っていきたいと思います。小さい頃からよく私に甘えてくれましたね。多分、今でも甘えることはあるよね。それがなくなってしまうのは寂しいけど、結婚してもずっと桜のお姉ちゃんであることに変わりはありません。だからいつまでも頼ってね。最後に家族みんなへ。畑山家の次女に生まれて本当に良かったです。今日までありがとうございました」

 鼻をすすりながら、ようやく楓は手紙を読み終えた。招待客の中には、もらい泣きをする者もいる中で、拍手喝采で披露宴は無事に終わりを迎えた。

 その後も楓と涼太にとってはハードスケジュールで、同級生たちの集まりや職場の同僚の集まりにはしごして、今日の出席のお礼に対する挨拶回りを行った。ファミレスや居酒屋など、それぞれが集まっている場所を何か所も移動していると、それだけでも体力の消耗が激しかった。

 挨拶回りが終わると、今度は両家の親戚一同が集まっていた料亭に足を運び、そこで楓と良太もようやく夕飯を口にすることができた。二階の和室には、既に親戚たちが集まって、食事をしながら談笑をして、それなりに盛り上がっていた。

 既に料理が運ばれていたため、冷めてしまった料理もあったが、料亭の懐石料理ということもあり、多少冷めても料理の味は落ちていなかった。

 披露宴の間もゆっくり食事ができなかったため、楓と涼太にとっては今日初めてゆっくりと食事ができた時間でもあった。

「それにしても、本当に良い式でしたね」

 千里が微笑ましく告げると、隣に座っていた康史も頷いた。

「いやあ全くだ。うちの息子が、こんなにも立派な式を楓さんと準備してたなんて、感慨深いよなぁ」

 男泣きをするように、康史はおしぼりで顔をぬぐった。

「親父。よせよ、みっともない」

 涼太が慌てて止めた。

「自慢の息子さんじゃありませんか。うちは娘三人で、主人も亡くなったものですから、女家族でしょう。頼もしい息子さんがいらっしゃって、羨ましいですわ」

 真由美は笑みを浮かべながら、涼太たちに告げた。

「私も結婚したいなぁ」

 瓶ビールを手酌で注ぎながら、桜がふと呟いた。

「桜ちゃんも良い人見つけて、結婚したら良いんだよ」

 涼太が微笑みながら言うと、桜はぼんやりと天井を眺めて、

「そんな人、見つかるかなぁ」

「桜、慌てることないの。私やお姉ちゃんが結婚したから、まあ焦りたくなる気持ちも分かるけどね」

 楓は桜の前に座り込むと、瓶ビールを桜のグラスに注いだ。

「楓姉ちゃんも飲んで」

「はいはい」

 桜が瓶ビールを、楓のグラスに注いだ。二人で飲み始めると、突然茜が立ち上がった。

「ごめん、私帰るわ」

「お姉ちゃん、もう帰るの?」

 楓は姉を見上げた。水色のドレスコードである姉は、ファッションモデルのような容姿端麗に見える。その美貌が、楓には羨ましいと思っている姉の特徴であった。

「琴音が待ってるからね。あまり遅くなるとダメだから」

「今日は倉木のお母さんと拓海さんが見ててくれてるんでしょう。だったら今日ぐらいゆっくりしときなさいよ」

 真由美が茜に座るよう促した。

「けど……」

「今日はおめでたい席ですので、まだいらしてください」

 千里が冷静に言うと、茜は諦めたように再び座った。

「お姉ちゃん、飲もうよ」

 楓は笑顔になって、姉に空のグラスを渡した。

 料亭の二階の突き当りに、男性用トイレと女性用トイレがあった。

 ビールを大量に飲んだ桜が出てくると、ちょうど男性用トイレからは涼太が出てきた。

「今日はいつも以上に飲んでるな」

「当たり前じゃん。おめでたいお酒でもあり、寂しいお酒でもあるんだから」

 しんみりと桜が呟いた。

「桜ちゃん……」

「ねえ、今度いつ会える?」

 桜はがっつりと涼太の腕に手を組んで、上目遣いでじっと見つめた。

在 APP 繼續免費閱讀本書
掃碼下載 APP

最新章節

  • 最低夫の不倫相手は、私の姉と妹でした。   第3話

     親族の集まりが解散した後、茜は夜遅くに帰宅した。 新興住宅地にある洋風建築の一軒家に、『倉木』と彫られた表札があった。茜は今五歳になる娘の琴音の子育ての真っ最中で、出産を機に退職するまではデザイン会社のグラフィックデザイナーをしていた。 出産してからしばらくの間は、子どもから目が離せなかったが琴音が保育園に通い始めてからは、少しでも生活費の足しになったらと、フリーのデザイナーとして細々と仕事を再開した。 夫の拓海は帝都中央銀行の営業マンで、仕事に専念すると家族のことが見えなくなるという欠点があった。もちろん仕事はできる男であり、いざという時には頼りがいのある夫であることに変わりはなく、決して満足していないわけではなかった。 しかし拓海の父が亡くなった後、拓海の母、つまり茜からいえば姑にあたる香代子との同居が始まったことで、茜の中で小さな孤独が生まれて来た。 地方にいる拓海の妹に頼ることができず、香代子は自慢の息子と一緒に暮らせることで幸せを見出していた。近所のスーパーマーケットでのパートも始め、今年で還暦を迎えるとは思えないほどタフで、町内会の活動や同世代の人たちと暇さえあればどこかへ出かけたりと、自由な暮らしをしている。そんな香代子に小遣いを渡しているのが拓海であり、何かにつけて母の肩を持っている。茜にはそんな夫の言動が許せないと思うことさえあった。もちろん実の母を大事にしたい気持ちは分かるが、いくら何でも甘やかしすぎである。 茜自身、嫁と姑の関係性が決して穏便なものではないことは分かっていた。「ただいま」 ゆっくりと茜が玄関のドアを開けて入って来た。リビングに灯りがともっているのが見える。誰かがまだ起きているのかと、茜は怪訝そうにそのままリビングに入って来た。「おかえりなさい」 老眼鏡をかけた香代子が、ソファーに座って編み物をしていた。「お義母さん、まだ起きてらしたんですか」「琴音に履かせる靴下を作ってたのよ。あの子も五歳になって、足も大きくなっていくのね」「ええ」 茜は曖昧に頷いた。香代子が作っている靴下の色は茶色と灰色の組み合わせで、五歳の琴音に履かせる靴下にしては色が地味であると内心思っていた。「今日は一日、琴音の面倒を見ていただいて、ありがとうございました」「別にお礼を言

  • 最低夫の不倫相手は、私の姉と妹でした。   第2話

     楓と涼太の結婚式は盛大な中で開催された。楓や涼太の学生時代からの同級生や職場の同僚が招待客として何十人も出席しており、両家の親族も顔を揃え、テーブル卓の数もそれなりに多かった。 正装の楓と涼太が各テーブルを回ることもあれば、お色直しの間は、黒の留袖姿の真由美と千里、背広姿の康史という両家の親が瓶ビールを片手にテーブル卓を回り、挨拶などを交わし合った。 披露宴が終盤に差し掛かると、新郎新婦がそれぞれ感謝の手紙を読む時間となった。涼太が読み終わると、次は楓の番である。涼太にワイヤレスマイクを持ってもらい、楓は何日も前に用意していた家族への感謝の手紙を読み始めた。「お母さん。まずは今日まで、私を育ててきてくれたありがとうございました。保育園の時にお父さんが亡くなって、それからお母さんは私やお姉ちゃん、桜を女手一つで育ててくれました。私もこれから涼太さんと家庭を築いたら、お母さんのような人間になれるように頑張りたいと思います。お母さんは私のお手本です。本当にありがとうございました」 二枚目の手紙には、姉の茜と妹の桜への感謝の内容が綴られていた。「お姉ちゃんへ。昔からお姉ちゃんには何もかも敵いませんでした。成績も喧嘩も、何をやってもお姉ちゃんには負けてばかり。でもそれは今となっては良い思い出です。お姉ちゃんも今では一家の主婦として家庭を築いています。私もお姉ちゃんを見習って、涼太さんと協力して家族を作っていきます。桜へ。昔から甘えん坊だった桜が、これからどんな人間として成長していくのかを、私なりに見守っていきたいと思います。小さい頃からよく私に甘えてくれましたね。多分、今でも甘えることはあるよね。それがなくなってしまうのは寂しいけど、結婚してもずっと桜のお姉ちゃんであることに変わりはありません。だからいつまでも頼ってね。最後に家族みんなへ。畑山家の次女に生まれて本当に良かったです。今日までありがとうございました」 鼻をすすりながら、ようやく楓は手紙を読み終えた。招待客の中には、もらい泣きをする者もいる中で、拍手喝采で披露宴は無事に終わりを迎えた。 その後も楓と涼太にとってはハードスケジュールで、同級生たちの集まりや職場の同僚の集まりにはしごして、今日の出席のお礼に対する挨拶回りを行った。ファミレスや居酒屋など、それぞれが集まっている場所を何か所も移動している

  • 最低夫の不倫相手は、私の姉と妹でした。   第1話

    「俺と結婚してください」 恋人である光島涼太からのプロポーズはシンプルではありながらも、ストレートなものだった。畑山楓にとって、爽やかながらも真っすぐに暑い涼太の眼差しは眩しいものだったが、断る理由など当然あるはずもなかった。「はい……よろしくお願いします」 個室のイタリアンレストランという雰囲気が、二人だけの空間を演出している。 男らしい大きな手で涼太がケースから婚約指輪を外し、楓は右手薬指に指輪をはめられた。「どう?」 キラリと光るダイヤモンドは小さいながらも存在感を放っている。楓はニコニコしながら、その指輪を涼太に見せた。「最高だよ、楓」「ありがとう、涼太」 楓は優しく微笑んだ。 大学卒業後に入社した大手広告代理店『広文堂』の総務部社員として勤務をして五年目の春であるこの瞬間、楓は人生の変化が訪れた時であった。自分は総務部で働き、恋人の涼太は同じ会社の営業部で日々顧客と向き合う営業マンとして働いている。 総務部は事実上営業部のサポートを担当する部署であり、必然的に楓と涼太は一緒に仕事をする機会が多かった。どちらからともなく声を掛け合うようになり、仕事においてもお互いに信頼を寄せていたことで、自然な成り行きで交際が始まった。 年齢は涼太のほうが三歳年上で、入社当時はそれこそ楓が敬語を使っていたが、月日と共にそれもなくなり、すっかりタメ口で会話をし、同僚たちからもまるで同期入社のようであると言われるほどだった。 婚約から結婚式までは、あっという間の一年半だった。 楓は早くに父が亡くなり、今は市役所の地域振興課の係長を務める母の真由美が、女手一つで楓と楓の姉、妹という三姉妹を育て上げてきた。 涼太が結婚の承諾のために畑山家を来訪した時には、真由美、三歳上の姉である茜、三歳下の妹である桜という女家族が出迎えたほどだった。 三姉妹の真ん中であることから、比較的幼少期から自由奔放な性格で、基本的には自分で何でも決めることが多かった。そのため家族たちも、楓の結婚にはそこまで大きな驚きを見せることはなかった。 一方涼太の実家は、小さい規模ながらも長年地元密着の企業として名高い印刷会社『光島印刷』を経営していた。涼太は一人息子であったが、社長であ

更多章節
探索並免費閱讀 優質小說
GoodNovel APP 免費暢讀海量優秀小說,下載喜歡的書籍,隨時隨地閱讀。
在 APP 免費閱讀書籍
掃碼在 APP 閱讀
DMCA.com Protection Status