로그인広告代理店の総務部に勤める畑山楓(はたけやま・かえで)は、同じ職場の営業部社員である光島涼太(みつしま・りょうた)と結婚する。幸せな新婚生活が続くと思っていたが、涼太には不倫相手が2人いた。それは人妻である楓の姉・倉木茜(くらき・あかね)と、独身である楓の妹・桜(さくら)だった。夫の不倫相手が自分の姉妹であることに激しく動揺し自暴自棄になる中で、楓に手を差し伸べる救世主が現れる。その存在が、人妻である楓の気持ちを揺さぶることになってしまう。
더 보기「俺と結婚してください」
恋人である
「はい……よろしくお願いします」
個室のイタリアンレストランという雰囲気が、二人だけの空間を演出している。
男らしい大きな手で涼太がケースから婚約指輪を外し、楓は右手薬指に指輪をはめられた。
「どう?」
キラリと光るダイヤモンドは小さいながらも存在感を放っている。楓はニコニコしながら、その指輪を涼太に見せた。
「最高だよ、楓」
「ありがとう、涼太」
楓は優しく微笑んだ。
大学卒業後に入社した大手広告代理店『
総務部は事実上営業部のサポートを担当する部署であり、必然的に楓と涼太は一緒に仕事をする機会が多かった。どちらからともなく声を掛け合うようになり、仕事においてもお互いに信頼を寄せていたことで、自然な成り行きで交際が始まった。
年齢は涼太のほうが三歳年上で、入社当時はそれこそ楓が敬語を使っていたが、月日と共にそれもなくなり、すっかりタメ口で会話をし、同僚たちからもまるで同期入社のようであると言われるほどだった。
婚約から結婚式までは、あっという間の一年半だった。
楓は早くに父が亡くなり、今は市役所の地域振興課の係長を務める母の
涼太が結婚の承諾のために畑山家を来訪した時には、真由美、三歳上の姉である
三姉妹の真ん中であることから、比較的幼少期から自由奔放な性格で、基本的には自分で何でも決めることが多かった。そのため家族たちも、楓の結婚にはそこまで大きな驚きを見せることはなかった。
一方涼太の実家は、小さい規模ながらも長年地元密着の企業として名高い印刷会社『光島印刷』を経営していた。涼太は一人息子であったが、社長である父の
何も無理に家業を継ぐ必要はないというのが康史の考えで、まずは息子の結婚が決まったことを涙ながらに祝ってくれた。
両家とも何の問題なく結婚の承諾を得られたことで話は順調に進み、結婚式場が決まり、マリッジブルーになることもなく、晴れてプロポーズから一年半後、無事に結婚式を迎えることができた。
この日の早朝には二人で婚姻届を市役所に提出し、戸籍上でも楓と涼太は夫婦になった。
結婚式場の控え室では、純白のウェディングドレスに身を包んだ楓が、鏡台の前に座って待っていた。鏡に映る自分は、やや緊張気味で笑顔が引きつりそうなほどだった。妙に顔の筋肉に力が入ってしまっている。
大きな二重瞼に、くっきりとした鼻立ちも、衣装の効果もあっていつも以上にはっきりと見えた。ノック音が聞こえたのは、その時だった。
「はい?」
ドアが開き、親友の
「寧々」
「楓、今日は本当におめでとう。そして、私にヘアカットとメイクを任せていただき、ありがとうございます」
寧々が深々と頭を下げる。楓は中学時代からの親友であり今は美容師として活動している寧々に、今回のヘアカットとメイク全般を依頼していた。
「晴れて良かったね。結婚式日和で最高じゃん」
寧々は職人らしいハサミ捌きで、茶髪のロングヘアーである楓のヘアスタイルを変えていく。
「うん。てるてる坊主も、ちゃんと作ったから」
「昔から変わらないよね、楓のそういうところ。修学旅行とか、部活の大会とか、大事な時に晴れてほしいってなったら、絶対作ってたもんね」
「ああ、作ってた。懐かしいね」
寧々との会話の中で、当時の懐かしい記憶が楓の脳裏に思い浮かんだ。
中学と高校という六年間の間しか一緒ではなかったが、お互いに大学や美容専門学校に進学した後も交流は続き、中学時代の同級生で一番連絡を取り、心から信頼しているの寧々だった。
「そういえば、涼太さんは?」
「仕事の電話がかかってきたって、さっき出てった。涼太も今一番忙しいみたいだからね。だから正直、今日結婚式できるのか心配だったの。急な対応の連絡でもきたらどうしようと思って」
「まあ、そこは涼太さん、上手くやってくれるでしょ」
ヘアカットが終わると、寧々はヘアアイロンを取り出して、アレンジを加えていく。
鏡に映る自分が今日のヒロインであることを、楓はひしひしと実感していた。
結婚式場の駐車場は、地下にあった。
その一角に止まる軽自動車の中は、唇を重ね合う音だけが微かに響いている。
「ねえ、そろそろ戻らなくて良いの?」
女が、男の耳元に囁くように呟いた。
「あと一回だけ」
男はそのまま、奪うような勢いで女の唇に自分の唇を重ねた。逢瀬が終わると、男は助手席のドアを開けた。
「じゃあ、後ほど。お義姉さん」
黒いタキシード姿の涼太は、それだけ言うと去っていった。
「何がお義姉さんよ」
運転席から涼太を見送ったのは、楓の姉、茜であった。
親族の集まりが解散した後、茜は夜遅くに帰宅した。 新興住宅地にある洋風建築の一軒家に、『倉木』と彫られた表札があった。茜は今五歳になる娘の琴音の子育ての真っ最中で、出産を機に退職するまではデザイン会社のグラフィックデザイナーをしていた。 出産してからしばらくの間は、子どもから目が離せなかったが琴音が保育園に通い始めてからは、少しでも生活費の足しになったらと、フリーのデザイナーとして細々と仕事を再開した。 夫の拓海は帝都中央銀行の営業マンで、仕事に専念すると家族のことが見えなくなるという欠点があった。もちろん仕事はできる男であり、いざという時には頼りがいのある夫であることに変わりはなく、決して満足していないわけではなかった。 しかし拓海の父が亡くなった後、拓海の母、つまり茜からいえば姑にあたる香代子との同居が始まったことで、茜の中で小さな孤独が生まれて来た。 地方にいる拓海の妹に頼ることができず、香代子は自慢の息子と一緒に暮らせることで幸せを見出していた。近所のスーパーマーケットでのパートも始め、今年で還暦を迎えるとは思えないほどタフで、町内会の活動や同世代の人たちと暇さえあればどこかへ出かけたりと、自由な暮らしをしている。そんな香代子に小遣いを渡しているのが拓海であり、何かにつけて母の肩を持っている。茜にはそんな夫の言動が許せないと思うことさえあった。もちろん実の母を大事にしたい気持ちは分かるが、いくら何でも甘やかしすぎである。 茜自身、嫁と姑の関係性が決して穏便なものではないことは分かっていた。「ただいま」 ゆっくりと茜が玄関のドアを開けて入って来た。リビングに灯りがともっているのが見える。誰かがまだ起きているのかと、茜は怪訝そうにそのままリビングに入って来た。「おかえりなさい」 老眼鏡をかけた香代子が、ソファーに座って編み物をしていた。「お義母さん、まだ起きてらしたんですか」「琴音に履かせる靴下を作ってたのよ。あの子も五歳になって、足も大きくなっていくのね」「ええ」 茜は曖昧に頷いた。香代子が作っている靴下の色は茶色と灰色の組み合わせで、五歳の琴音に履かせる靴下にしては色が地味であると内心思っていた。「今日は一日、琴音の面倒を見ていただいて、ありがとうございました」「別にお礼を言
楓と涼太の結婚式は盛大な中で開催された。楓や涼太の学生時代からの同級生や職場の同僚が招待客として何十人も出席しており、両家の親族も顔を揃え、テーブル卓の数もそれなりに多かった。 正装の楓と涼太が各テーブルを回ることもあれば、お色直しの間は、黒の留袖姿の真由美と千里、背広姿の康史という両家の親が瓶ビールを片手にテーブル卓を回り、挨拶などを交わし合った。 披露宴が終盤に差し掛かると、新郎新婦がそれぞれ感謝の手紙を読む時間となった。涼太が読み終わると、次は楓の番である。涼太にワイヤレスマイクを持ってもらい、楓は何日も前に用意していた家族への感謝の手紙を読み始めた。「お母さん。まずは今日まで、私を育ててきてくれたありがとうございました。保育園の時にお父さんが亡くなって、それからお母さんは私やお姉ちゃん、桜を女手一つで育ててくれました。私もこれから涼太さんと家庭を築いたら、お母さんのような人間になれるように頑張りたいと思います。お母さんは私のお手本です。本当にありがとうございました」 二枚目の手紙には、姉の茜と妹の桜への感謝の内容が綴られていた。「お姉ちゃんへ。昔からお姉ちゃんには何もかも敵いませんでした。成績も喧嘩も、何をやってもお姉ちゃんには負けてばかり。でもそれは今となっては良い思い出です。お姉ちゃんも今では一家の主婦として家庭を築いています。私もお姉ちゃんを見習って、涼太さんと協力して家族を作っていきます。桜へ。昔から甘えん坊だった桜が、これからどんな人間として成長していくのかを、私なりに見守っていきたいと思います。小さい頃からよく私に甘えてくれましたね。多分、今でも甘えることはあるよね。それがなくなってしまうのは寂しいけど、結婚してもずっと桜のお姉ちゃんであることに変わりはありません。だからいつまでも頼ってね。最後に家族みんなへ。畑山家の次女に生まれて本当に良かったです。今日までありがとうございました」 鼻をすすりながら、ようやく楓は手紙を読み終えた。招待客の中には、もらい泣きをする者もいる中で、拍手喝采で披露宴は無事に終わりを迎えた。 その後も楓と涼太にとってはハードスケジュールで、同級生たちの集まりや職場の同僚の集まりにはしごして、今日の出席のお礼に対する挨拶回りを行った。ファミレスや居酒屋など、それぞれが集まっている場所を何か所も移動している
「俺と結婚してください」 恋人である光島涼太からのプロポーズはシンプルではありながらも、ストレートなものだった。畑山楓にとって、爽やかながらも真っすぐに暑い涼太の眼差しは眩しいものだったが、断る理由など当然あるはずもなかった。「はい……よろしくお願いします」 個室のイタリアンレストランという雰囲気が、二人だけの空間を演出している。 男らしい大きな手で涼太がケースから婚約指輪を外し、楓は右手薬指に指輪をはめられた。「どう?」 キラリと光るダイヤモンドは小さいながらも存在感を放っている。楓はニコニコしながら、その指輪を涼太に見せた。「最高だよ、楓」「ありがとう、涼太」 楓は優しく微笑んだ。 大学卒業後に入社した大手広告代理店『広文堂』の総務部社員として勤務をして五年目の春であるこの瞬間、楓は人生の変化が訪れた時であった。自分は総務部で働き、恋人の涼太は同じ会社の営業部で日々顧客と向き合う営業マンとして働いている。 総務部は事実上営業部のサポートを担当する部署であり、必然的に楓と涼太は一緒に仕事をする機会が多かった。どちらからともなく声を掛け合うようになり、仕事においてもお互いに信頼を寄せていたことで、自然な成り行きで交際が始まった。 年齢は涼太のほうが三歳年上で、入社当時はそれこそ楓が敬語を使っていたが、月日と共にそれもなくなり、すっかりタメ口で会話をし、同僚たちからもまるで同期入社のようであると言われるほどだった。 婚約から結婚式までは、あっという間の一年半だった。 楓は早くに父が亡くなり、今は市役所の地域振興課の係長を務める母の真由美が、女手一つで楓と楓の姉、妹という三姉妹を育て上げてきた。 涼太が結婚の承諾のために畑山家を来訪した時には、真由美、三歳上の姉である茜、三歳下の妹である桜という女家族が出迎えたほどだった。 三姉妹の真ん中であることから、比較的幼少期から自由奔放な性格で、基本的には自分で何でも決めることが多かった。そのため家族たちも、楓の結婚にはそこまで大きな驚きを見せることはなかった。 一方涼太の実家は、小さい規模ながらも長年地元密着の企業として名高い印刷会社『光島印刷』を経営していた。涼太は一人息子であったが、社長であ