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第5話

Author: すねん
冷たい手術台に横たわりながら、絵里はどうしても三年前の夜を思い出してしまう。

あの晩、彼にすべてを捧げた。

北斗は、大切なものに触れるみたいに、そっと絵里の身体に口づけを落とした。

ふたりがひとつになった瞬間、彼は息を弾ませ、耳まで赤く染めていた。

限界まで理性を抑えてくれて、痛くしないようにと、どこまでも優しかった。

何度も何度も、優しく抱きしめ、深くキスを重ねながら、ふたりで未来の話をしたこともある。

「まだ早いよ。今、お前には子どもを産ませたくない。

何年か経ったら、お前に俺の赤ちゃんを産んでほしい。

できれば女の子がいいな。絵里みたいに、賢くて綺麗な子を。

俺の人生に必要なのは、お前だけなんだ。

俺の子どもの母親は、絵里しかいない」

そんなふうに誓ったのに、結局、心の底から絵里を愛してくれることはなかった。

すべては嘘だった。

彼は約束を破り、絵里の一途な想いを裏切った。

――だから、もう彼のために子どもなんて産まない。

麻酔が効いていて痛みはないはずなのに、命がひとつ消えていく感覚だけがはっきりと伝わってくる。

お腹が、急に空っぽになった。

心まで、ごっそりと空洞になったようだった。

北斗は今ごろ、詩織のお腹の子を大切にしているのだろう。

だからきっと、彼女のそばにいると思っていた。

けれど、彼が戻ってきたのは、私たちの家だった。

掃除もせずに放置したままの寝室は、まるで嵐の後みたいに荒れている。

北斗は、目を赤くして床に膝をつき、割れてしまった写真立てを何度も組み直そうとしていた。

でも、どれだけ拾い集めても、すべては元に戻らない。

「絵里……」

絵里が部屋に入ると、彼はそっと手の中のガラス片を置き、そのまま絵里を強く、強く抱きしめた。

滲む声には、珍しく切羽詰まったような色が混じっている。

「どうして俺たちの写真が壊れたんだ?結婚式はうまくいくよね……?」

絵里は一瞬だけ、呆然とした。

あんなにも結婚を嫌がっていたはずなのに、今はまるで本気で不安がっているように見える。

演技――そう思いながらも、絵里もまた、何も言わず彼の芝居に付き合う。

そっとしゃがみ込んで北斗の顔を両手で包み込み、優しく微笑んだ。

「写真は、私がうっかり落として割っちゃったの。

でも大丈夫。元のデータがあるから、新しいのを注文しておいた。

ずっと準備してきた結婚式だもの。私たち、こんなに愛し合ってるのに、うまくいかないはずないでしょ?」

「うん、きっと幸せな結婚式になる」

北斗はさらに絵里を強く抱きしめて、その力は、まるで彼女を壊してしまいそうなほどだった。

まるで、本当に絵里のことを誰よりも大切に思っているみたいに――

「絵里、なんだか最近痩せた?」

腕の力はどんどん強くなる。

しばらくそうしてから、やっと絵里を解放した。

「ちゃんとご飯食べてる?

お昼は何が食べたい?俺が美味しいものを作るから」

絵里が返事をする前に、北斗のスマホが鳴った。

また「ドイツのお客さん」からのメッセージだ。

【北斗さん、お腹が痛いの。会いに来てくれない?】

北斗は一瞬だけ眉をひそめ、すぐに【今日は無理だ】とだけ返信する。

【今、絵里さんと一緒にいるの?まさか……本当に絵里さんを好きになっちゃったの?】

バレないように、彼は急いで打ち込む。

【そんなわけないだろ!

今となりにいるだけで、うんざりするくらいなんだ。

お前のほうが大事に決まってる。今すぐ会いに行くよ】

――「うんざりするくらい」って、彼も本当にご苦労さまね。

思わず、絵里は苦い笑いを浮かべた。

じっと北斗のスマホを見つめる彼女に、北斗は不安げな視線を投げる。

けれど、どうせ絵里はドイツ語が分からないと思っているのか、すぐにいつもの落ち着いた様子を取り戻した。

「ごめん、ドイツとの取引がまたトラブルで。会社に行かなきゃいけないんだ。お昼作ってあげられなくて、ごめん。

夜は早く帰るから。

今夜は早めに帰ってくるよ。美味しいもの、作ってあげるから」

「うん。じゃあ、夜は苺ケーキ作って」

絵里はそっと微笑み、半ばうつむき加減のまま、その目には冷たい色が宿っていた。

北斗は絵里をもう一度、ぎゅっと抱きしめてから、何度も振り返りつつ家を出ていった。

北斗が車を出したちょうどそのとき、絵里のスマホに一本の電話がかかってきた。
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