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月落ち星散り、恋絶え想い尽き
月落ち星散り、恋絶え想い尽き
Auteur: 田菜緒

第1話

Auteur: 田菜緒
中村千穂(なかむらちほ)が18本目の論文を発表したとき、またも「盗作」の疑いが持ち上がり、ネット上で大きな炎上が起きた。

怒った人々は彼女の家に押しかけ、「常習的な盗作者!」と叫びながら石を投げる者もいた。投げられた石が当たり、千穂はけがをした。

血だらけで倒れ、危ない状態だった千穂を助けたのは、加藤勇輝(かとうゆうき)だった。勇輝は千穂を、兄の加藤海斗(かとうかいと)が働く病院に運んだ。

病床に横たわり、千穂はぼんやりとした意識から幾分か回復し、まさに口を開こうとした瞬間、勇輝と海斗の会話を耳にした。

「千穂はこの3年間で99回もネットいじめに遭い、今回は命まで狙われた。

今やネット上では誰もが千穂を盗作者だと思い込んでる。今の千穂は周囲から嫌われてる。

勇輝、これからも伊織のために千穂の研究や論文を盗み続けるつもりか?」

千穂は頭が真っ白になった。幻聴かと思ったが、すぐに勇輝の声が再び聞こえた。

「千穂のAI研究が完成し、伊織がスターAIチャレンジで大賞を取ったら、俺は千穂と結婚して一生かけて償うつもりだ」

「ここまでひどいことをしておいて、結婚で償うというのか?まさか本当に千穂のことが好きになったのか?」

勇輝は首を横に振り、苦笑いを浮かべた。「千穂は伊織よりも頭が良く、才能もある。AIの分野で研究を続けていけば、いつか伊織を追い越してしまう。

だから千穂を家庭に縛り付けて、主婦として家事や育児に専念させれば、その問題は永遠に解決する」

「千穂を縛りつける最も確実な方法は、家事と育児に追い立てて、専業主婦に変えてしまうことだ。だが、勇輝、後悔はしないのか?」

「後悔しない」

千穂は心臓を見えない手で握りつぶされるような痛みを感じた。

3年間、機械を変え、研究場所を変え、あらゆる方法を試しても、なぜ小林伊織(こばやしいおり)に研究成果を盗まれ続けたのか、今ようやくわかった。勇輝が伊織を助け、自分の研究と論文を盗んでいたのだ。

海斗が千穂の額の傷を消毒し、3センチほどの裂傷を縫う準備を始めた。

しかし勇輝は麻酔注射を止めた。「麻酔は脳に悪影響がある。千穂が最後の研究がまだ終わっていないから、このまま縫ってくれ」

海斗はほとんど意識のない千穂を見て言った。「麻酔なしで縫うのはかなり痛い。起きたら耐えられないかもしれない」

勇輝は強く言った。「大丈夫、押さえておくから」

そう言うと、勇輝は千穂をベッドに固定し、頭をしっかり押さえた。

海斗が針を持って近づいてくるのを感じ、千穂は恐怖で目を見開いて、何とか声を出そうとした。

その瞬間、勇輝は素早く彼女の口に手を当て、急いで言った。「千穂、今から額の傷を縫うんだ。でも病院は麻酔が足りなくて、痛いけど我慢して。我慢できなかったら、俺の手を噛んでいいから」

そう言うと、勇輝は海斗に合図を送った。

額に激痛が走り、針と糸が皮膚を貫く感覚が千穂の全身に広がった。

すべてが勇輝の仕業だったと思い知らされた。

千穂は激しい憎しみにかられ、勇輝の手の甲を血が滲むまで噛みついた。

勇輝は痛みで顔をゆがめたが、千穂に優しく声をかけた。「千穂、あと少しだからね」

千穂の目から涙があふれた。勇輝の演技は完璧で、もうどちらが本当の彼なのか、わからなくなっていた。

縫合が終わると、千穂は病室に移された。勇輝は海斗と一緒に部屋を出て、手の手当てに向かった。

心が折れた千穂は携帯電話を取り出し、国際電話をかけた。

「颯太、ブリティア王国に行ってあなたの会社で働くことにするわ」
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