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第5話

Author: 甘くないこぐま
「あなた!」

健吾の妻の叫び声に、祐介は振り上げた手を止めた。

健吾の胸へ飛び込み、けがはないかと必死に確かめる彼女を、祐介は呆然と見つめた。

「お前……結婚していたのか?」

健吾は笑って妻の肩を抱いた。

「俺の妻だ。もうすぐ子どもも生まれる。星奈とは仲がいいから、今度二人で遊びに来てくれ」

祐介の表情が次々に変わった。

自分が、私と彼の関係を誤解していたと気づいたのだ。

今さら気づいたところで、何になるのだろう。

私はもう死んでいる。

祐介は適当な口実をつけ、田舎をあとにした。

そして、車を飛ばして自宅へ戻った。

長い間待っていた芽衣は、彼を見るなり嬉しそうに手を引き、椅子へ座らせた。

「祐介の好きなものを作ったの。たくさん食べてね」

祐介はどこか上の空だった。

芽衣は不満そうに唇を尖らせた。

「祐介、機嫌が悪いの?私の料理、おいしくなかった?」

祐介は「いや」と首を振った。

「おいしいよ」

祐介は自分が甲殻類アレルギーだということも忘れ、芽衣のためにエビ料理を食べやすいよう取り分けてやった。

しばらくすると、祐介の手に赤い発疹がいくつも浮かんだ。

彼は薬を飲んでくると言い、食卓を離れた。

寝室へ戻ると、すぐにアレルギーの薬を飲み、一番下の引き出しを開けた。

そこから書類袋を取り出した。

中に二人分のブライダルチェックの結果が入っていることを、私は誰よりもよく知っていた。

期待せずにはいられなかった。

祐介が、自分には子どもをつくれると知ったとき、どんな顔をするのか見たかった。

祐介は袋から、自分の検査結果を取り出した。

結果を見るなり、床にへたり込んだ。

物音を聞いた芽衣が、すぐに駆け込んできた。

「祐介、どうしたの?」

祐介は顔を上げた。その目はわずかに潤んでいた。

「俺には……子どもができる。あの子は、俺の子だ」

芽衣の表情がこわばった。

「その結果、星奈さんが偽造したのかもしれない」

祐介の表情に、初めて冷たさが混じった。

「星奈はそんなことをしない。たしか、あのとき検査結果を出したのは芽衣の叔父さんだったな。個人のクリニックなら誤診もあり得る。すぐ専門医の診察を予約して、もう一度検査を受ける」

芽衣は途端に慌てた様子を見せた。

祐介のスマホを奪おうとしたが、突き放された。

「祐介、痛い……」

だが今度ばかりは芽衣を取り合わず、すぐに専門医の予約を取った。

「芽衣、今は疲れている。少し休みたいから、出ていってくれ」

芽衣は不満そうに寝室を出ていった。

祐介は力なくベッドにもたれた。

そして、何度も私に電話をかけた。

けれど、私のスマホは電源が切れたままだった。

今度はLINEを送り始めた。

【星奈、早く帰ってきてくれ。もうココに謝れとは言わない。戻ってくれさえすれば、何でも話し合おう】

【星奈、俺が悪かった。家に帰ってきてくれ】

祐介は一晩中、ほとんど休むことなく私に連絡を続けた。

翌朝、珍しく芽衣の朝食を用意しなかった。

「星奈を捜しに行く」

芽衣は露骨に不機嫌な顔をした。

「行かないで。祐介、私と盛大な結婚式を挙げるって言ったでしょう。だから――」

言い終わらないうちに、祐介のスマホが鳴った。

彼は通話ボタンを押した。

「警察です。30分ほど前、故障したエレベーターの昇降路から、救助隊が女性の遺体を収容しました。所持品の中から、高梨星奈さん名義の運転免許が見つかっています。確認したところ、最後に通話した相手があなたでした。亡くなった方をご存じですか?」

祐介の手からスマホが落ちた。

顔から血の気が引いていた。

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