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第1327話

Penulis: 夏目八月
さくらは邪馬台の夫への手紙に、皇太妃と潤の入内のことは書かなかった。玄武の心を乱すわけにはいかなかった。

その代わり、玄武からの手紙が第二戦の勝報と共に届いた。清和天皇は特にさくらを召し出し、その手紙を手渡した。

さくらには分かっていた。玄武が意図的に天皇の手を経由させたのは、夫婦間に隠し事などないという意思表示だった。

表面的な取り繕いではあったが、天皇の機嫌を明らかに良くした。前回のような作り笑いではなく、「邪馬台の戦況を案ずることはない。勝利は近い」と告げたのだった。

退出したさくらは慈安殿へ向かい、太后に安否を伺いつつ、恵子皇太妃と潤の様子も見に行った。

だが潤と小正には会えなかった。二人は大皇子の学友として、書院での講義に参加していた。

講師も相良左大臣に替わっていた。

以前、天皇が要請した際は体調不良を理由に辞退したのに、潤の入内と同時に快諾したのだ。明らかに上原洋平への敬意からの決断だった。

天皇は不快感を覚えたものの、結果として得るものは大きく、黙認することにした。

恵子皇太妃にも会えなかった。太后の話では、淑徳貴太妃の御殿を訪れているとのことだった。

「まあ、あの子ったら」太后は目を細めながら言った。「昔は反りが合わなかったのに、今じゃ姉妹のよう。実の姉も顧みない薄情者だこと」言葉は厳しくとも、唇の端に浮かぶ笑みは隠しきれないほど優しかった。

さくらも笑みを返した。「そう深い確執があったわけでもありませんもの。一緒にいれば言い争いもしますが、離れていれば自然と懐かしくなるものです」

太后は眉間を軽く揉みながら、疲れの色を滲ませた。「まったくね。家族とはそういうものよ。時には目障りで、かと思えば恋しくなる」

「はい」さくらは軽く相槌を打ち、話題を変えた。「潤くんは太后様にご迷惑をおかけしていませんでしょうか?もし言うことを聞かないようでしたら、どうかお叱りください」

潤の話題に移ると、太后の表情が和らいだ。「あの子が何の迷惑を?こんなに分別のある子は見たことがないわ。礼儀正しく、でも卑屈でもない。よく育てられたものね」

さくらの心配を察したのか、太后は優しく微笑んだ。「安心なさい。私がいる限り、大皇子も手出しはできないし、書院では相良左大臣が目を光らせているわ」

「はい、太后様がいらっしゃれば、何の心配もございません」
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