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第1633話

Penulis: 夏目八月
まさか望月が、再び宰相夫人を仲立ちに立てて来ようとは、思いもよらなかった。しかも今回は、彼自身も一緒だった。

彼が持参した贈り物は、卓いっぱいを埋め尽くした。高価な品こそないものの、そのひとつひとつに、彼の真心が込められているのが見て取れた。

彼の俸禄は決して高くない。聞けば、故郷の屋敷や店を売り払い、ようやく都に家を一軒手に入れたばかりだという。

宰相夫人は言った。「姫君様。私も、彼にはもう何度も諦めるよう説いたのです。ですが、この方はどうにも諦めが悪くて……それで、これが最後と、一緒について参りました。こうしましょう、お二人で直接お話しなさいませ。もし本当にお気持ちがないのでしたら、きっぱりと断ってくださればよいのです。それで彼も、諦めがつくでしょう」

確かに、はっきりさせるのも良いだろうと思った。そうでなければ、私の頭の中に、時折彼の面影が浮かぶのを止められそうにない。

宰相夫人は庭を散策するという口実で席を外し、私と彼、望月が客間に残された。侍女たちは皆、扉の外で控えている。彼女たちの顔に浮かぶ、期待と喜びに満ちた表情が見えた。

他の者はともかく、両星は長く私に仕え、一緒に承恩伯爵家へ嫁ぎ、そして共にそこを出て新しい屋敷で暮らしてきた。彼女は私が生涯を孤独に過ごすことを望んでいないのだ。

彼女はいつも言う。「天の下の殿方が、皆心無い薄情者というわけではございません」と。

私が口を開く前に、望月の緊張した、早口な声が響いた。「姫君様、先に私からお話ししてもよろしいでしょうか」

彼に目をやると、顔は赤く、耳の付け根まで染まっている。もともと肌が白いせいか、その赤面した顔を見ていると、まるで羽で心臓をそっと撫でられるような、不思議な感覚に陥った。

「望月殿、どうぞ」私は視線を逸らし、心の動揺を隠した。

彼の視線が、私の顔に注がれているのを感じる。私は彼と目を合わせず、ただ茶碗を手に取り、茶を飲むふりをしながら、彼の話に耳を傾けた。

「私が姫君様をお迎えしたいと願うのは、かつて母を救い、身を寄せる場を与えてくださった恩に報いるためではございません。私は……私は、あなた様を、お慕いしております」

彼がそこまで言った時、私は素早く彼に目を向けた。その頬は、まるで夕焼けのように真っ赤に染まっていた。そして、私自身の頬も、燃えるように熱い。彼のこと
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