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第1641話

Author: 夏目八月
大将たちは直ちに諸将を召集して軍議を開き、同時に密偵を放って引き続き探らせた。より確かな情報を手に入れた上で、都へ急使を送り、朝廷に援軍を要請せねばならない。

夜、叔母の日南子がさくらの部屋を整えてくれた後も、二人は長らく語り合った。

日南子はさくらを「あまり気を落とさず、前を向くのよ」と慰めてくれるが、彼女自身が何度も顔を背けては涙を拭っている。

さくらはそんな叔母に寄り添いながら、こうしてやり直すことができて本当に良かった、と心から思った。まだ多くのことを、取り戻せるのだから。

翌日、佐藤大将は軍令を発した。全将兵に持ち場へ戻って練兵に参加し、城壁を補強、城にはからくりを仕掛けるよう命じたのだ。

さくらはこの機に乗じて、外祖父に自分と棒太郎も練兵に参加させてほしいと願い出た。

だが、佐藤大将は断固として首を縦に振らない。「お前がここへ着くより先にお前の母親から文が届いておってな。くれぐれもお前を戦場に立たせるでないと、きつく念を押されておるのだ」

「戦場に立つわけではありませんわ。ただ、皆さんと一緒に体を動かすだけです」祖父の態度が頑ななのを見て、さくらは微笑みながらその腕を揺する。「外祖父様もご存知でしょう?私が武芸を嗜んでいることは。でも、所詮は山の中に籠っての稽古でしたから、実戦さながらの組み討ちや乱戦は経験したことがないのです。少しだけ鍛錬させていただくのです。見聞を広める、良い経験とお考えくださいな」

大将は都へ戻る道すがら梅月山にも立ち寄ったことがあり、さくらの師匠から、彼女の武芸はなかなかのものだと聞いていた。

だが、それが本当に「なかなかのもの」なのか、それとも師匠がお情けでそう言っただけなのかは、実際にこの目で見なければわかるまい。

しかし、武の道を選んだからには、少しでも多くを学んでおくことに越したことはない。天の御仏のご加護で、その技を使う機会などないに越したことはないが、人の一生とはかくも長いものだ……

今や彼女が上原家にとって唯一の娘であり、家には頼る者のない母と義姉たちがいることを思うと、さくら自身が少しでも見聞を広め、視野を開き、心を強くし、己を固めることは、確かに必要なことだろう。

そう考え至ると、佐藤大将はもう反対しなかった。さくらが男装し、棒太郎と共に兵営での特訓に参加することを許したのだ。

もちろん
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