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第960話

Auteur: 夏目八月
三姫子に会うと、彼女はただ一言。「佐藤大将に関わることなら、一刻の遅れも許されません。すぐに参りましょう」

北條守が刑部に連行されて以来、夕美は落ち着かない様子で、実家にも助力を求めたが、三姫子に断られていた。

これは両国間の重大事であり、一介の婦人如きが介入できる問題ではないと。

とはいえ三姫子は人を使って様子は探っており、北條守は刑部で特別な待遇を受け、苦痛も受けていないことは確認していた。

そのことを夕美に伝えると、彼女は三姫子の前で不平を漏らし始めた。せっかく玄鉄衛の指揮官になれたというのに、今度は葉月琴音の件で投獄されてしまったと。穂村夫人がこの縁談を持ちかけたことも、実母がこれを承諾したことも、すべてを恨んでいるかのようだった。

三姫子は夕美を諌めた。事あるごとに人を恨むのではなく、自分で責任を持つべきだと。

義姉の怒りを見た夕美は黙り込み、将軍家に戻ったものの、家政には一切手をつけず、舅の北條義久に任せきりにしていた。そのことは世間の物笑いの種にもなっていた。

将軍府に到着した三姫子は、すぐに夕美に全ての下人の身分証文を持ってくるよう命じた。

用途を尋ねる夕美に、三姫子は北條守を救う方法を探ると簡潔に答えた。詳しく聞こうとする夕美に、三姫子は焦りを見せながら言い放った。「後で説明するから、今は言う通りにして。急いで」

夕美は仕方なく身分証文を探し出して渡すと、自室に引き下がった。

三姫子は身分証文に目を通し、さらに執事を呼んで下人たちの素性を尋ねた。特に葉月琴音の世話をしていた者たちについて重点的に調べた。

概要を掴んだ後、今度は門番を呼び出して尋問した。

ここ数ヶ月の出来事として、平安京からの国書到着から今日までの期間を調べれば、より正確な情報が得られるはずだと考えた。この期間に異常がなければ、さらに過去に遡ることにした。

門番は下人の出入りを記録していた。時には怠けて記録を省くこともあったが、おおよその記録は残っていた。

門番の記録を確認したが、三姫子は特に問題を見出せなかった。奥向きの女中たちは買い出しの者を除いて、めったに外出していなかった。

小姓に関しては、安寧館には配置されていなかった。

執事の話によると、暗殺未遂以降、葉月琴音は小姓の安寧館への立ち入りを一切禁じていた。荷物の運び入れすら、彼女の立ち会いの下
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