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第1124話

Author: かんもく
とわこは即座に首を振った。「ただ、R国にはもう居づらくなっただけ」

「どうして居づらくなった?」奏がさらに問い詰める。

「この前、あなたが真に会ったって話してくれたでしょ。それからというもの、昼寝のときも夜寝るときも、真と結菜の夢ばかり見るようになったの」そこまで言うと、声が詰まった。「本来なら新婚旅行は楽しいはずなのに、夢から覚めるたびに胸が締めつけられるの」

奏は彼女を腕に抱き寄せ、優しく慰めた。「そんなこと、俺に言ってくれればよかったのに」

「言ったって、あなたまで辛い思いをするだけよ」かすれた声でとわこは答える。「奏、少し経ったら、また一緒に蓮に会いに行きましょ。この数日ちょっと疲れたの」

「わかった」彼は即答し、「じゃあ、後で蓮にビデオ通話して、ちゃんと説明してあげて」

「うん」

彼女は午後に瞳と街を歩いて買った品を、袋からひとつひとつ取り出した。

子どもたち用の服や、お菓子もいくつか。

レラは新しい服をちらりと見たあと、とわこの手を引き、うれしそうに言った。「ママ、サプライズを見せてあげる!」

とわこはすぐに表情を整え、「どんなサプライズ?」と返す。

レラはローテーブルの方へ走り、そこからバナナを一本取り出すと、遊んでいた蒼のところへ行き、マットの上から抱き起こした。

「お姉ちゃんの手にあるバナナ、見える?食べたい?」レラは蒼をしっかり立たせると、すぐに数歩下がり、「こっちに来たら、バナナあげるよ」と言った。

そうか、これがサプライズってこと?

まさか、もう蒼が歩けるようになったの?

蒼はレラの手にあるバナナをじっと見つめ、くりくりとした瞳を輝かせた。

小さな拳をぎゅっと握り、腕を伸ばし、真剣な表情でレラに向かって一歩を踏み出す。

まだ小さい彼の足取りはおぼつかない。一歩ごとにふらつく体を見て、とわこの胸は締めつけられた。

「心配いらない。転んだって痛くないから」奏が口を開く。「午後、自分で果物皿まで歩いてバナナを取ろうとしてたんだ」

「ふふ、食いしん坊ね」その言葉を言い終わるか終わらないかのうちに、“ドスン”と蒼は見事に転んだ。

幸いリビングにはカーペットが敷かれているので、大きな怪我にはならない。

とわこが、泣きそうにうつ伏せになっている息子を抱き起こそうとすると、奏に制される。

「早く立って」レラはバナナ
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