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検索結果に出てきたのは、日本での奏に関するさまざまなニュースばかりだ。マイクはふと思いつき、剛の名前を入力した。すると一連の関連記事が表示された。最新の記事には、黒いスーツを着た剛が花屋で菊の花を買っている写真が載っていた。その姿はどう見ても葬儀に参列するためのものだ。まさか、それは奏の葬儀なのか。マイクは記事の日時を確認した。昨日の出来事だと記されていた。ということは、奏は昨日亡くなり、その情報が今日国内へ伝わったということか。マイクは記事をスクリーンショットにして子遠へ送った。子遠からは長い沈黙を示すかのような句点だけの返信が届いた。一郎はニュースを見るなり、すぐさまY国行きの航空券を購入した。瞳はまず、とわこの番号に電話をかけた。そのときアメリカは深夜だった。とわこは半錠の睡眠薬を飲んで、ぐっすり眠っていた。瞳の最初の電話はつながらなかった。胸が締めつけられる思いで、彼女はもう一度かけた。これほど大きなことが起きてしまった以上、とわこにはすぐに知らせなければならない。三度目の着信で、とわこは目を覚ました。時計を見て不思議に思いながら電話に出る。「とわこ、奏が死んだ!国内のニュースで大騒ぎになってる!」瞳の声は震えていた。「Y国で亡くなったらしいの。もちろんニュース上の話だけどね。しかも記事は文字だけで、写真はなかった。一郎はもうY国に飛んでる。あなたはどうするの……」とわこは暗い部屋の中で呆然とし、言葉より先に涙がこぼれた。「とわこ、聞いてる?」返事がないため、瞳は声を強めた。「奏が死んだ?死んだって言ったの?」彼女はスマホを握りしめ、素早くベッドから起き上がり、部屋の灯りをつけた。「そう、国内のニュースはそう報じてる。真相はY国で確認しないと分からないけど」瞳は続けた。「一郎からの報せを待ってみたら?」「彼が死ぬなんてあり得ない……剛とは仲が良かったはず……子遠もそう言ってた。彼とは長い付き合いで、一郎よりも前から知ってたのよ……そんな相手がどうして奏を殺すの……」とわこは泣きながらベッドを降り、急いでクローゼットに向かって服を探した。「とわこ、落ち着いて。フェイクニュースの可能性もあるわ。奏は危険を見抜けないほど愚かじゃない。あんなに鋭い人が、そう簡単に死ぬはず
「あるメディアに情報源を問い合わせたんだ。すると内部の人間からの話だと言う。どんな内部の人間かとさらに聞いたら、彼らもまた伝聞だって答えた」子遠はそう言って大きく息を吐いた。「彼らはAモーニングが先にこのニュースを出したから、後を追って報じただけらしい。Aモーニングのほうは、Y国に駐在している記者から送られてきた情報だそうだ」最初、子遠はこのニュースを信じたくなかった。だがY国からの情報だと聞いた瞬間、雷に打たれたような衝撃を受けた。「つまり本当だって言いたいのか?」マイクの顔は青ざめ、信じられない思いでいっぱいだった。とわこは今回一緒に帰国していなかったが、このニュースが広まればすぐに彼女の耳に入る。彼女はいま必死に奏を探そうとしている。その彼女にこんな知らせをどう伝えろというのか。「遺体を確認していない以上、本当だなんて断言できない」子遠は苦しげに言葉を継いだ。「ただ、本当にY国にいる可能性が高くて、そのY国から情報が流れてきた。だから落ち着いていられないんだ」「落ち着け。俺が今すぐY国のニュースを調べる」マイクはそう言って電話を切った。蓮はずっとリビングにいた。マイクの会話を最初から聞いていた。水を吹き出したときから耳をそばだて、何が起きたのか知りたくて仕方がなかった。「どうしたんだ?奏がY国にいるんだろ、奏に何かあったのか?」マイクが電話を切った途端、蓮が問いかけた。子遠の言葉までは聞こえなかったが、マイクがY国の名を出したので、奏に関わることだと察した。「国内のメディアがみんな奏の死を報じている。ただ真実かどうかは分からない。だから俺がY国のニュースを調べるつもりだ」マイクは自室へと足早に向かっていった。「頭が痛い!とわこがこのニュースを知ったら、どれほど悲しむか。今回のケンカは、とわこが隠し事をしたせいで誤解を生んで、それで株を手放す事態になったんだ」「とわこはずっと後悔してる。その誤解を解かないまま、もし彼が死んでしまったら、きっと一生苦しむだろう」マイクはさらに言い足した。蓮は奏の死を聞いた瞬間、表情が凍りついた。気持ちは複雑だ。どれほど奏を嫌っていても、母と妹たちのことを考えれば、生きていてほしいと願わずにはいられなかった。マイクが部屋に入ると、蓮も自分の部屋へ戻った。ノートパソコンを
「わかったわかった、君の言う通りだよ。でも本当にY国へ行くつもりか?」マイクの顔は険しい。「あの国はあまり安全じゃないぞ」「資料を調べたけど、あなたが言うほど怖い場所じゃないわ。子どもの前でそんなこと言わないで」彼女は子どもが心配するのを恐れていた。「わかった、もう黙るよ。とにかく気をつけてくれ」「護衛を連れて行くわ。私は奏を探しに行くのであって、死にに行くんじゃない」マイクはうなずいた。「もし彼を連れ戻せたら、君たち二人は少し反省すべきだな。毎回ケンカのたびに天地がひっくり返るような騒ぎを起こして、君たちは耐えられても子どもはどうだ?周りの友達……例えば俺はどうなんだ?」「私たちだって好きでケンカしてるわけじゃないのよ。辛いのは私たちも同じ」「だったらケンカをやめればいいだろ!株を手放したから何だ。相手は黒介っておバカで、弥じゃないんだぞ。子遠も言ってただろ、他にも資産はたくさんある。君と子ども三人を養うくらい問題ないって。俺から見れば、君たち夫婦は普段の生活が贅沢すぎて、ちょっとした打撃に耐えられないだけだ」「文句を言うなら私だけにして。奏のことを悪く言わないで」とわこは奏が誰かに責められるのをどうしても許せなかった。「まだ庇うのか。あいつのあのひどい性格は、君が甘やかしたせいだろ!」マイクはぼやいた。「食べないなら外で待ってて。食事の邪魔しないで」とわこは彼を睨んだ。マイクはすぐに口をつぐんだ。日本。豪華なヨーロッパ風の別荘の中。すみれの頬は赤らみ、ワイングラスを掲げて副社長や数人の投資家たちと祝杯をあげていた。「誰が想像したかしら。たった一年で奏が没落するなんて」すみれは一口ワインを含んだあと、視線が鋭くなった。「次はとわこの番よ」「もともと奏とは競合関係じゃなかっただろう」「でもあの男、とわこのために私を殺そうとしたのよ」長い間屈辱を押し殺してきたすみれの胸には、鬱憤が渦巻いていた。「すみれ、油断は禁物だ。奏は確かに株を譲渡したが、あの頭脳さえあればいつでも復活できる。資金調達して新しい事業を立ち上げるのなんて造作もない」投資家が口を開いた。「もし彼が私のところに来たら、喜んで投資するつもりだ」「ふん、夢を見るのは勝手だけど、そううまくはいかないわ」すみれはグラスを置き、スマホを手に取
奏は死なない。とわこも死なない。彼女は絶対に弥の企みを成功させたりしない。気持ちを落ち着けてから入院棟に向かうと、ちょうどマイクが二人の子どもを連れて結菜の病室から出てくるところだった。「ママ!」レラがとわこを見つけ、大きな足取りで駆け寄ってくる。とわこは両腕を広げ、娘を抱きしめる。「ママ、会いたかった!ママは私のこと考えてくれてた?」レラは甘えるようにとわこの胸に顔を埋める。「もちろん考えてたわ。帰ってこなかったら、ママが迎えに行くところだったの」とわこは娘の柔らかい頬に軽くキスをする。「ママ、結菜に会ったよ。結菜ね、パパが本当のお兄さんじゃないって知って、泣いちゃった。でも私たちが慰めてあげたの。退院したら一緒に住もうって言ったよ!」「いいわよ。でもその前に、ママはパパを探しに行かないと」とわこは正直に話す。「ママ、これからY国に行くの。パパが見つからなくても、必ず一か月に一度は帰ってくるから」「一か月に一度って、一年でたった十二回じゃない!もしパパがずっと見つからなかったら?」レラの唇がしゅっと尖る。とわこは一瞬言葉を失う。「もし年末まで見つからなかったら、その時はいったん探すのをやめるわ」「ママが探さなかったら、パパはもう二度と戻らないってこと?」レラの胸に寂しさが広がる。せっかくパパのことを認められたのに、幸せを感じる間もなくまたいなくなってしまった。やっぱり自分はパパを持てない運命なのか。「レラ、その質問には答えられないの。パパはもう大人だから、子どもじゃない。帰ってくるかもしれないし、二度と戻らないかもしれない」とわこはぎこちなく笑い、「さあ、ご飯を食べに行きましょう」と話題を切る。四人は病院近くのレストランに入る。蓮が鞄から金色のトロフィーを取り出し、とわこの前に差し出す。「ママ、これあげる」受け取って見ると、そこには「ハッカーカップ優勝」と刻まれている。「出場を断ったんじゃなかったの?」とわこは驚きを隠せない。「でも先生に説得されて、決勝だけ出たんだ」蓮は目を伏せる。「蓮、すごいじゃない!最初の資格テストだって、実力で突破したんだもの。パパの力なんて関係ない」とわこはトロフィーを胸に抱きしめる。「ママは誇りに思うわ!」「ママ、私も将来すごい人になる。ママに誇りに
結菜の目からたちまち涙があふれる。「受け入れるのは辛いだろうけど、心配しなくていい。たとえ君が奏の実の妹でなくても、彼の君への想いは変わらない」真はティッシュを取り出して彼女の涙を拭う。「結菜、泣かないで。実のおばさんじゃなくても私はあなたが大好きよ」レラは涙ぐむ結菜を見て胸を痛める。「お兄ちゃんも退院したらうちに住むって言ってたよ。みんなあなたのことが好きなんだから」レラの幼い張りのある声を聞いて、結菜の涙は止まる。「私も……好きよ。でもやっぱり奏のことが気になる。彼、まだ会いに来てくれてない」「彼は見つかってないんだよ」レラが答える。「ここにいることを知らないみたい。携帯もつながらないって」その言葉を聞き、結菜は再び涙を流す。「結菜、今の姿を見られるのが怖いって言ってたよね。今はちゃんと療養しなさい。元気になったら、とわこが奏を連れて来るよ」真がもう一度涙をぬぐう。「どうしていなくなっちゃったの。危ない目に遭ってないかな」結菜は不安でいっぱいだった。「どうしてこんなことに。もう子どもじゃないのに、どうして行方不明になっちゃうの」「うちのママと喧嘩して出て行ったんだよ」レラは自分の理解の範囲で理由を口にする。「でも私は悲しくないよ。前は毎日大好きって言ってたのに、今はどこに行ったのか分からないんだもん、ふん」結菜はレラのむっとした顔を見て、泣きたくても涙が止まった。とわこは病院へ向かう途中、マイクから「もう病院に着いたよ」というメッセージを受け取る。彼女が駐車場に車を停めてドアを開けると、すぐ目の前に誰かの姿が立ちはだかる。「とわこ、今までお前がこんなに陰険で卑劣だって気づかなかったな」弥は一晩ほとんど眠れていなかった。逮捕を免れるために、彼は仕方なく自分が毒を盛ったと認めるという偽りの供述をする。それを受けて警察は接近禁止命令を出し、弥は黒介に近づけなくなる。近づけば逮捕される身だ。彼は自分が署名した後の結果を想像しておらず、後悔しても取り返しがつかないと知る。「弥、陰険さならあなたの足元にも及ばないわ」とわこは彼を押しのける。「今は黒介に近づけない。禁令に三度違反したら正式に逮捕される。あなたがあの屋敷を売った金をまだ使い切ってないだろうけど、刑務所では遊べやしないわ」「余計な心配をするな
その名前を耳にした瞬間、とわこの胸に強烈な既視感が押し寄せる。確かにどこかで聞いたことがある。だがすぐに顔と名前が一致しない。「思い出した!」彼女は小さく叫んだ。「みんな剛さんって呼んでいた人!」「そう、その高橋剛だ」「私、あの人のことが嫌いで、奏にももう付き合わないよう言ったの。だから彼は私をすごく憎んでる。前に女の人をよこして、奏から離れろって言われることもあったの」ここでとわこは深く息をつき、「もし奏が本当にあの人のところにいるなら……私が取り戻すのは無理かもしれない。剛は、私と彼が犬猿の仲なのを知ってる」子遠は難しい表情を浮かべる。「今の問題は取り戻せるかどうかじゃなくて、彼がどこにいて、無事かどうかなんだ。もし剛のところにいても、元気に暮らしてるならそれでいい」「うん。彼の居場所が分からないとしても、どの国にいるかは知ってる?」とわこはさらに問い詰める。「剛は世界中で投資していて、定住地がない。でも起業したのはY国だ」子遠の声が慎重になる。「もしY国に行くなら、一人で行かない方がいい。あそこは法律も治安も国内と違う。行くなら必ず護衛をつけるんだ」「分かったわ」病院。マイクが二人の子どもを連れて結菜の病室に入ってくる。子どもたちが中へ入ると、マイクは真と一緒に廊下へ出て容体を尋ねた。「今は安定している。ただ、今後拒絶反応が起こる可能性はある」真は静かに答える。「あんなに痩せていて、別人かと思った」マイクは目を伏せた。驚いたのはマイクだけではない。蓮とレラもまた、衝撃を受けていた。二人はベッドの傍らで結菜の顔をじっと見つめ、彼女かどうかを確かめている。「蓮、レラ。会いに来てくれて嬉しい。二人とも、ずいぶん背が伸びたね」結菜は声を震わせながらも喜びを隠せない。姿は変わってしまったが、その声は変わっていなかった。「結菜、どうしてこんなに病気がひどくなっちゃったの。すごく可哀想だよ!」レラの顔がくしゃりと歪む。「どうして早く言ってくれなかったの。そうしたら、もっとたくさん会いに来れたのに」「二人に心配をかけたくなかったの。私は、君たちが毎日楽しく過ごしてくれるのが一番だから」結菜は隠していたことを後悔していない。「結菜、退院したらママと一緒に住もう。結菜が本当のおばさんじゃなくても、ママが絶
