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第82話

Auteur: 佐藤 月汐夜
  突然の話に怒った清墨は背筋を伸ばして、「あなた、何を話しているのですか?私は雅彦の友人で、昨日桃の手術をしたのは私の母です。母に頼まれて桃の回復状況を見に来たんです」と言った。

 梨は最初、目の前の男性を雅彦だと思っていたが、清墨の説明を聞いて、少し気まずくなった。

 「あ、すみません。本当に失礼しました。どうぞこちらへ」

 彼女は少し顔を赤らめた。すぐに清墨を桃の病室に案内した。

 桃は食事をしていた。しかし、体調があまり良くないうえに、朝雅彦と喧嘩してしまったため、彼女はイライラしていた。そのため、食欲はまったくなかった。

 ただ、お腹の子のために無理に食事をしていた。

 入ってくる清墨を見ると、桃は少し驚いた表情を見せた。「あなたは?」と尋ねた。

 清墨は今までの事情を簡単に説明した。桃は清墨が昨日自分を救った医師の息子であることを知り、感激の気持ちを抱いた。「あなたのお母さんのおかげで、今日はだいぶ良くなりました。本当にありがとうございました!」

 それを聞いて、清墨は微笑みながら、「いいえ、とんでもないです。命を救うことが医者の天職です。それに親友の雅彦に頼まれたから、桃さんを見捨てるわけにはいかないんです」と言った。

 さっき梨の話を聞いて、桃は昨夜雅彦がそばにいなかったことに不満を持っていることが分かった。だから、雅彦の友達として、桃に昨夜雅彦がしたことを説明しなければならない。

 そうでなければ、昨夜雅彦はかなり苦労をしたが、人に認められないし、文句を言われるのはあまりにも気の毒だった。

 桃は彼の話を聞いて、驚いた表情を見せた。

「昨夜、雅彦様が医師を見つけてくれたの?」

 清墨は軽く頷いた。「その通りです。雅彦が頼まなければ、既に引退した母はどうしてもここにくるはずないでしょう」

 桃は複雑な気持ちになった。本来、彼女は雅彦が冷酷で彼女の命を気にしないと思っていたが、今清墨の話を聞いて、自分が勘違いしていたのかもしれない。

 桃が何か考え込んでいる様子を見て、清墨はお大事にと言って病室を出て行った。

 梨が彼を外に見送った。雅彦に強い好奇心を持っている梨は、つい口を開いて「清墨さん、雅彦さんって、実際はどんな人なんですか?」と尋ねた。

 その返答に窮した清墨は少し考えてから、「雅彦は君が想像しているような悪い
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