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第1274話

Penulis: 佐藤 月汐夜
永名が正成の訴えを聞いて、初めて気づいた。自分が長男に目を向けていなかった間に、麗子がこれほどまでの悪事を働いていたのだと。

麗子は病床にある正成を日常的に罵り、暴力を振るっていただけでなく、彼の周囲に腹心をつけて監視させ、永名のもとに助けを求めることもできないようにしていた。

正成は身体が不自由のため、抵抗する力もなかった。ただ、黙って耐えるしかなかったのだ。彼は袖をまくり、永名に見せた。殴られてできた傷跡が痛々しく並んでいる。

それを見た永名の中で、麗子に対するわずかな同情の気持ちは薄れ、代わりに正成を長年放っておいたことへの罪悪感が込み上げてきた。

長男はすでに身体を壊しているというのに、自分はろくに気にもかけず、むしろ彼を苦しませる結果になっていた――父親として、あまりに失格だった。

もしかすると、自分は初めからずっと、父親としての責任を果たせていなかったのかもしれない。二人の息子が互いに争ってきたことも、自分に責任がないとは言えないのだ。

「それで……お前はどうしたいと思っている?」永名は少し間を置いて、正成の意見を聞こうとした。

なにしろ、捕まった相手はかつて正成の愛人でもあった。もしかすると、まだ情が残っているかもしれない。

「……一度、彼女に会わせてほしい」

正成は深く息を吐いた。彼と佐俊の母との関係は、もともと報われないものだった。

家では麗子に「無能だ」と罵られ続け、居場所を失っていた彼は、家そのものから逃げ出したい気持ちを抱えていた。

そんなとき、佐俊の母と出会った。彼女は麗子とは正反対で、こぢんまりとした美しさと優しい物腰を持ち、彼に「男としての誇り」を思い出させてくれた。

正成は既婚者であることを隠し、彼女を追いかけた。やがて彼女は妊娠し、正成は一度は麗子と離婚するつもりだった。だが、麗子はそれを知ると彼を脅した――離婚などしたら、永名にすべてをばらすと。菊池家の後継争いのために正成が過去に犯した「汚れ仕事」まで。

弱みを握られた正成は身動きが取れず、事実を佐俊の母にも隠したまま関係を続けていた。だが結局、麗子が人を使ってこのことを言いふらし、すべてが世間に知られてしまった。

逃げるように、佐俊の母は海外へ発った。それきり二度と戻ることはなかった。

――結局、すべては自分のせいだ。彼女を裏切り、傷つけた。やっと
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