Se connecter麗香に言われて出かけた桜が屋敷に戻ってきたようだ。……遠目に俺を見て、立ち尽くしている。「帰りは夜になる」すれ違いざま声をかけると、弾かれたように、通り過ぎる俺を振り返る桜。…優しい視線を感じる。…しばらくして、今度は俺が振り返った。白いワンピースの裾を揺らし、薄茶色のロングヘアをなびかせて歩く桜を、俺は花を愛でるような気持ちで見つめた。……齋藤という松白屋の専務と会ってきたのだろう。麗香にそう言われたときは、ただの嫉妬が心に渦巻いた。まるでガキと一緒だ。「ちゃんと、話をしよう。龍之介」桜が出ていって、麗香に腕を掴まれた。まだ、桜との未来を諦めてはいなかった。この時は……まだ。「親に、式の日取りを決めろって言われてる」「蔵之介を諦めて……組のために俺と結婚するって決めたのか」「うん。決めた」……深いため息を漏らす俺に、麗香がこれ以上ない本音を打ち明けた。「やっぱり似てるから。蔵之介の面影を乗せて、龍之介を見てる。多分それで私…結婚生活やっていける」「俺は桜以外、抱けねぇぞ」本音に本音をぶつければ、麗香は諦めたような笑みを浮かべた。「適当に欲望を発散する手助けをしてくれたらいいわ」「そんなこと…ごめんだな」「…ひど」本気で言っているわけではないことはわかったが、俺がどこまで譲歩するか確認している気がした。「計画的離婚についてはどうだ?式を挙げて1年後までに志田川の組織を変えるつもりだ。うちの後ろ盾がなくてもやっていけるようにする」「…うちの組長がどう言うか…」「組織を強くして、文句なんかねぇだろ」タバコに火をつけ、唇の端で咥えながら続けた。「志田川組を独立させたら、さらに1年後までに、俺たちは離婚」「晴れて、桜ちゃんのもとに行けるってわけ?」「うちの組織と組員、蔵之介の力があれば可能な計画だ。お前に話をつけたら、うちの組長に伝えようと思っている」自分の質問に答えない俺を見上げ、意味深に笑う麗香。「……桜ちゃんを離さないつもり?」「どうしてそんなことを聞く?」「あの子のためにならないからよ」…それは何度も頭をよぎったことだった。離してやるのが桜のためで、自分のような極道のそばに置くことは、静かな幸せから遠ざけることだと…十分すぎるほどわかっている。過去……百合にも同じことをした。結果あいつは病気になり、
「家庭環境に恵まれず、進学を断念したり夢を諦める若者の支援をしています」「そう…なんですか。あの、麗香さんとは……?」「松白屋のお客さまです。そのお付き合いで担当者が何度か櫻川へ行ってまして、あなたの美しさに魅了されたようです」意外な話の流れに、頬を染める桜。「いえ、私なんてまったくの素人で…お恥ずかしいです」「担当者が麗香さんにあなたの話を聞いて…私に伝えてきました。それで、あなたを指名して櫻川へ行ったのですが…」担当者は、齋藤がボランティア活動をしていると知る、数少ない人物だったそうだ。桜はちょこんと頭を下げる。「すみません。私は櫻川に出なくなったあとでしたね…」齋藤は緊張をほぐすように笑った。「桜さんに支援が必要な時は、ぜひ連絡をしてください。私は社会的立場もあり、決して怪しいものではありませんから」「…はい」ありがとうございます…なんて言っていいのか。桜の迷いに寄り添うように、齋藤は明るく言った。「さぁ、冷めないうちにコーヒーとケーキをどうぞ」齋藤は、押し付けがましさがなく、終始落ち着いた紳士で、育ちの良さを感じさせる人という印象。そんな彼との間に不思議な縁があることがわかったのは、コーヒーを飲み終えた頃のこと。「櫻川の前は、どんな仕事をなさってたんですか?」「室井酒店というお店で働かせてもらってました」「……室井?」ふと考え込み、齋藤は愉快そうに言った。「もしかしたらオーナーは、室井昭仁…ですかね?」「え、昭仁さんをご存知なんですか?」「はい。大学の同期で、今も連絡を取り合ってますよ」携帯に収められた写真を何枚か見せてくれた。それはよく知る昭仁に間違いない。「恋人ができたって言ってたなぁ…」…美紀ちゃんのことだ。なんだかとても嬉しくなった。「一緒に働いていた女の子のことです。美紀ちゃんと言って、とても優しい人で…」「…そう!それならぜひ今度、4人で食事でもしましょう!」「はい、ぜひ!」2人に会えるとしたら、こんなに嬉しいことはない。坂上や父親が雲隠れしている今、1人で出かける事も2人に会う事も危険かもしれないが……。齋藤と別れ、屋敷に向かう。出てきた時と同じ裏門に近づくと、中にいた男性が桜に気づき、門を開けてくれた。「和哉さん、ありがとうございます」「おかえりなさいまし…桜さん」「あ
「どうしてお前が勝手に決める……?」「櫻川を私に任せるって言ったのは龍之介でしょ?せっかく大企業の御曹司と接点ができたのに、これをビジネスに変えなくてどうするのよ」「その御曹司とやらに、どうしても桜を会わせると言うなら、俺も同席する」「だめよ」2人のやり取りをハラハラする思いで見守る桜。…龍之介さんにこんな風に意見ができるのは、麗香さんと…蔵之介さんくらいだろう。「龍之介が出ていったら、櫻川は西龍会と繋がってるって思われるわ。あの店は、もう私のものよ?西龍会とも志田川とも一線を引いた……私の店なの」そこまで言われ、さすがの龍之介も黙った。「確かに経営は譲った。それぞれの組がバックにあるなんて知られちゃあ、うまくないわな」こちらに視線をよこす龍之介に気づき、桜も隣にいる龍之介を見た。……どことなく悲しそうに見えるのは、気のせいだろうか。「桜ちゃん、裏の門から出て…大通りにある『川北珈琲』って店に行ってくれる?そこで齋藤専務が待ってるから」「はい…わかりました」そう答えたものの、そんな大企業の偉い人が、自分にどんな話があるというのだろう。「齋藤専務…すごくいい人よ。…とは言っても、坂上の裏の顔を見抜けなかったんだから、信用できないか…」裏門まで送ってくれた麗香が、桜の肩に手をかけながら自嘲気味に笑う。桜も曖昧に笑顔を返して、門を出ようとした時…「桜ちゃんは、もっと外の世界を知った方がいい」「……え?」「龍之介のことが好きな気持ちはわかる。……でも、あいつと一緒にいるってことは、わかるでしょ?普通の幸せから遠ざかることなんだよ?」もしかしたら、麗香さんは。「2人の邪魔をするつもりはない。でも龍之介は……最終的に私に任せて」「それは……どういう意味ですか?」「もう1人、支えてくれる人を作っておくの。龍之介と別れたあとに、支えてくれる……男を」返事を待たず、行きなさい…と、そっと背中を押された。若い衆の1人が飛んできて、門を開け、通してくれた。振り返った麗香の顔は…決して意地悪なわけではない。多分今の自分と同じような表情。どうしようもなく悲しくて、どこか諦めがまじって……さっき龍之介さんも、同じような表情をしていたっけ。喉の奥に涙のかたまりを秘めながら、桜は言われた通り大通りに出た。川北珈琲というカフェは、すぐに見つかっ
「私は、こっちで寝かせてもらいますね」 柔らかい毛布を手に、ソファに座る桜。 「ダメだ。…こっちへ、ベッドへ来いよ」 「ダメです…」 頑なな表情…そんな顔をされればされるほど、俺の心は燃えていくのに。 「麗香を気にしてるのか?」 細い手首を引くと、瞬間的に抵抗されたが、力の差があるのはわかりきっていること。 「だったら心配するな。…俺が愛しているのは桜だと知っている。あいつに邪魔はさせない」 引き寄せ抱きしめれば、その力は呆気なく抜けていく。…キスをかわし、唇の柔らかさに、己を見失うのは容易かった。 「龍、いるの?」 しばらくして、背中越しに麗香の声が聞こえた。…ドアの鍵は閉まっている。リビングのソファに桜が着ていたドレスをかけておいたから…彼女がここにいることはわかるはずだが… 「…ねぇ、龍?…ちょっと、話できない?」 コンコン…っとリズミカルにノックされ、それが妙に…自分に火をつけた。 「あの…出た方が良くないですか?私も、麗香さんに挨拶をしないと…」 「…そんなの、いいから」 細い肩に口づけながら言う。手は脇の下からのびて、柔らかな双丘を揉みしだいていた。 ぷっくりと固くなった頂を指でつまめば、必死に声を押し殺し、桜はゴクリと喉を動かす。 声を我慢する仕草が、さらに俺を滾らせた。…足の間に指を滑らせれば、すでに潤みきっている。…まだ続くノックの音を聞きながら…中指で何度か擦ってやれば、桜は自分から足を開き、腰をくねらせた。 「桜…欲しいか…」 耳にキスをしながら吐息で問いかけたのは、聞き耳を立てる麗香に聞かせないため。 「…んっ…んあっ…」 抵抗なく俺の指を呑み込む彼女の秘部は、先端の突起が存在を主張していて… 「龍之介、桜ちゃんもそこにいるの…」 聞いたことのない麗香の暗い声…それを聞いて、俺は後ろから自身を桜に突き立てた。 感じやすい桜を頂点に持っていくのは簡単だ…律動を繰り返しながら、固くなった突起を撫でてやれば… 「…んっ…んんっぅ…ッ」 瞬間的に、撫でている手とは反対の俺の手を取り、指先を口に入れる桜。 キュッと噛みながら、達する彼女の妖艶な美しさに、自分もたまらず愛を放った。 …気づけばノックは止み、静かになっている。 俺たちは裸のま
「…龍之介さんが身につけていたものだから、大切にしたいんです」「…俺の…?」「はい。…別れる覚悟だったのに、今でもこんな風に顔を合わせて、お世話になって…自分の弱さが情けないです」目を伏せた桜の頬に赤みが差し、ここがどこなのかも忘れて手を伸ばす龍之介。「…おっと、お触りはお断りしてますよ?西門さま」サッと手首を取り、有無を言わさない表情で麗香が睨んできた。龍之介はそんな彼女を無視し、桜に顔を向ける。「…桜、水割りを…」「あ…この子、源氏名をつけたんです。本名を知られすぎたら、何かと危ないと思って…」麗香とは、この数日ろくに話をしていない。引き続き櫻川の事務所で寝泊まりする桜のボディーガードとして付き添っているからだが…「…それじゃ百合ちゃん、後をよろしくね」「…百合?」立ち上がる麗香に、龍之介は厳しい視線を向ける。他でもない…百合とはどういうことだ。もう1度呼ぼうとして、先に他の客に呼び止められているのを見て諦めた。…話はあとにするか。「…麗香との結婚式、白紙に戻したって?」他のホステスと話していると思っていた蔵之介は、いつの間にか一部始終を聞いていたようだ。水割りを飲み干し、グラスを桜に渡しながら、蔵之介はからかうような目を向ける。「あぁ。式は形式的なもので、俺たちは本当の夫婦になるわけじゃないって、あいつには再三言ってるんだが…」桜の視線を避けたいのと、この話題を終わりにしたいのと、そばに置きたいのと。複雑な思いがまじりあい…龍之介はテーブルを挟んで前に座る桜を呼び寄せる。「真ん中に座ってよ。…俺も大事なお客だからね?」ソファの真ん中を叩き、龍之介の隣に座ろうとした桜を蔵之介が呼ぶ。…俺の複雑な思いに気付かれたのかもしれない…「麗香さ、龍之介と結婚するって言ってたけど?」「…は?」「桜ちゃんを保護して、事務所に泊まった最初の夜、俺らを一緒に帰したろ?その時、覚悟を決めたって言ってたよ」桜にも聞こえるように、わざと真ん中に座らせたな…蔵之介とは桜抜きでいくらでも話す機会はあるというのに。「そうか。だが俺は願い下げだ」「わかるけどさ、事態は複雑になってるってことだぜ?…わかってる?」お前が麗香を女として微塵も見ないからこんなことになった…と言いたいが、人間の心を都合よく操れるはずがないことは、自分でもよくわかっ
「…いきなり働かせるって…ねぇ?」麗香は少し困ったように、龍之介を見た。「そうだな。まずは手と足の怪我を治せ。話はそれからだ」「ありがとうございます…」「…は?」ペコリと頭を下げる桜に、首を傾げた龍之介。認めたつもりはなかったらしい。「盗まれて、美紀ちゃんにお金を返せなくなったんです。父に居場所を知られて…迷惑をかけるといけないから、酒屋は退職しました。…だから」「だからじゃねぇだろ。夜の商売なんかじゃなくて、もっとこう…昼間の仕事をだな、」「昨夜、私の安全を考えて、酒屋のオーナーが泊めてくれたんです。でも父が現れたことで、辞めることは決意してました。…2人には絶対迷惑をかけたくなかったから、何も言わないで出てきて…でもお金を借りっぱなしで、出て行きづらくて…キャッシングして美紀ちゃんに少しだけお金を返しました。…だから、遊んでなんていられないんです」ここ、櫻川のホステスなら、今すぐ仕事に就くことができると思った。ホステスが1人失踪したと龍之介も言っていた。麗香もいるし、すぐに働くには最適な場所だ。「そうは言ってもな、まずはひざの怪我を…」「はい。傷は以前ほどひどくないので、あさってにはきっと、治ります。そしたら働いていいですか。…麗香さん、ご指導よろしくお願いします」まだ顔色も戻らないながら、人の恩に背きたくないと強い思いを抱く桜に、龍之介は苦笑いしつつ胸を熱くした。「…私が泊まるからいいのに」櫻川の営業を終え、麗香が事務所に戻ってきた。龍之介は奥に備え付けられた簡易的なベッドを整え、自分はそばにあるベッドで横になるつもりのようだ。桜を呼び、手を貸して寝かせようとしている。「いや、それじゃ何かあった時守れねぇだろ。麗香は蔵之介と帰れよ」「まぁ、そりゃそうか」龍之介に意味深な視線を送られ、麗香はそっとため息をついて、蔵之介のそばに行く。「夫婦は一緒に帰ったら?…泊まるのは俺でよくねぇか?」「は…?ふざけんな」半笑いで言う蔵之介の肩を強めに押し、2人を事務所の外に出し、龍之介は…ドアの鍵を閉めた。「…さて」スラックスのポケットに両手を入れ、小動物を愛でるような甘い目で近寄ってくる。「今回の件、なんで俺に一番に知らせねぇんだよ」「それは…タイミングです。今日、坂上さんとご飯食べたあと…連絡するつもりでした」けれどこ







