極道と、咲き乱れる桜の恋

極道と、咲き乱れる桜の恋

last updateLast Updated : 2026-04-12
By:  桜立風Updated just now
Language: Japanese
goodnovel18goodnovel
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1 rating. 1 review
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強い悲しみを背負う極道  西龍会 若頭 西門龍之介にしかどりゅうのすけ33歳 ✖ 逃げてきた訳あり風俗嬢 滝川桜たきがわさくら23歳 父親の借金のかたに風俗店に売られ、客を取らされそうになって逃げてきた桜が迷い込んだのは、その風俗店を取り仕切る極道の敷地だった… ぶつかった拍子にアスファルトに叩きつけられ、怪我をして絶体絶命の中…桜は、若頭である龍之介の住まいへと連れて行かれる。 風俗店からは逃げてきたけれど、結局知らない極道に自分の心も体もいいようにされるのだと、桜は絶望するも…2人は意外な朝を迎える。 面白くないのは、風俗店を取り仕切る若頭補佐の弟、蔵之介。 それは、龍之介の勝手な振る舞い、売れそうな風俗嬢を持っていかれた怒りだけではないようで… 匿われるうちに知る、龍之介の悲しみの理由と決められていた未来。 暗い生い立ちのなか生きてきた桜に、初めて芽生えた恋心は…龍之介の心は。 それぞれの背負う生い立ちと、出会ってしまった2人の切ない恋のゆくえを描く極道恋物語。

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ぴこぴこ
ぴこぴこ
ストーリーがしっかりしている。 続きが早く読みたいです。
2026-03-24 21:23:38
3
0
54 Chapters
1.逃げる
「良かったよぉ…良かった。久々にマジになっちゃった!君、きっと売れっ子になれるよ」あられもない格好で、奥のバスルームに消えていく店長。………今だ!シャワーを出す水音を聞いて…私は最初で最後のチャンスだと確信した。そして次の瞬間…ピンク色のカーテンを翻して走り出した。…暗くて狭い廊下を走り抜けると、それぞれの個室にかけられた薄いカーテンがはためく。ブルーやオレンジなど…色とりどりだったことに初めて気づいた。誰にも会わずに受付にたどり着き、一瞬後ろを振り返ったが…走り抜けた私に気づく人はいない。ドアを開け、地上へ続く階段を勢いよく駆け上った。苦しいほど上がる息が、さらに上がる。ハァハァと漏れる息、心臓の鼓動がこれでもかと早まって…やがて、止まるかと思うほど。最後の一段を上がると、目立つことしか考えていない下品な看板が目に入る。上下する胸に手を当て、息を整えながら…それを蹴り飛ばした瞬間、駆け上がってきた階段の下から声が聞こえた。「…おい!チェリー!どこいった?…トイレか?」店長だっ…!左右を確認し、人が少ない方に走り出した。できるだけ遠くに…追い抜く人にギリギリぶつからないように…自分はこんなに足が速かったのかと、不思議に思った。2度とあの店に戻らないように…あの地下の部屋に、足を踏み入れないように……路地を曲がったのは、男のいやらしい目と女の軽蔑した視線がまとわりつくのを避けたいからではなかった。確かこの近くに、痩せたおばさんがやってる店がある。名前は知らない…でもそこは、カフェなんて洒落た店ではなくて、コーヒーを飲ませる店だ。お酒なんて出さない、喫茶店。なんかあったら頼ってきな…って、言ってくれた。そうだ…あのおばさんの店に行こう。私は今、まさに助けを必要としている。これ以上暗闇に落ちていかないように…私をこの世に、引っかけておいてくれるフックのような人の助けが。闇雲に走って、走って。…やがて覚えのある道に出た。そこの路地を曲がれば、確かおばさんの喫茶店に行ける…「…きゃっ…!」スピードを落とさずに曲がった小道で、ドンッと誰かにぶつかってしまった。その拍子に、砂利を含んだアスファルトに投げ出される。「…コラァッ!前を見て歩かんかいっ!」野太い男の怒鳴り声がして、反射的に体を縮めた。立ちはだかる数人の男たち。…あんまりか
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2.招かれる
「ここは俺だけのスペースだから、気にするな」 連れて行かれたのはやたら高い塀の向こうに建つ、大きな屋敷。 門を抜けた目の前にある大きなドアからは入らず、脇にあるドアから中に入った。 「シャワーを浴びて、砂利を落としてきな」 「はぁ…」 連れてこられた以上、言うとおりにするしかない。…それに、傷を負ってばい菌でも入って、万が一にも病院に行かなければならなくなったら困る。 保険証は家だ。逃げたことを知ったら、きっと父親がアパートに来る… …裸のような格好で走り回って雨にも濡れ、冷え切っている。体を温めなければ、風邪を引いてこじらせないとも限らない。 案内されるまま足を踏み入れたのは、バスルームというより温泉…と言った感じの広いお風呂だった。湯船に並々とお湯が沸いている。 呆気ないほど簡単にミニドレスを脱ぎ、シャワーを浴びながら、逃げ出す前に店長にやらされたことを思い出した。 …汚い…欲望にまみれた男の体…力まかせに、手に石鹸をなすりつけた。 あの店は…店舗型の風俗店だ。客を取る前に腕前を見ると言われ、店長の体をモデルに、言われるままローションを塗りつけてマッサージさせられた。 「…痛っ!」 手に残る感触を洗い流したくて、つい力を入れてゴシゴシ洗おうとした。するとピリっとした痛みが走り…手に擦り傷ができていることに気づく。 「…やだ、私、あちこちすごい…」 擦りむいていたのは膝だけではなく、足のスネも肘も太腿の外側も…薬が必要なほどの傷。 シャワーの熱さに飛び上がった。 「ねーちゃん、バスローブ羽織って出てきな。傷の手当てをしてやるから」 ドアの向こうから声がして…ゾッとした。 …ここに来たということは、この後…店長にさせられたことと同じこと…いや、もっと屈辱的なことをさせられるのだろう。 「顔が…レベチだけどね」 私を担いだ男は、ため息が出るほどの美男だったが…男なんてどうせみんな同じ。 小さくつぶやいて…言われた通りバスローブを羽織った。 「…怪我ってのはな、ばい菌を排除して、侵入させないこと。…それだけだ」 フローリングの広い洋間。 フカフカのラグにテーブルがあり、そこに包帯やガーゼが置いてある。 「とは言っても、ここでやるのは昔ながらの応急処置。絆創膏を貼ってじっと待つ…なんてことはやらねぇぞ」 自分の前に
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3.連れ去られる
それは…1ヶ月ほど前のこと。「え…現場で怪我をした?」『あぁ…やっと仕事にありつけたんだけどよぅ…健康診断ってのがあって、それで、悪い病気が発見されたんだよ。…もう、ショックでさ…お前には、知らせねぇつもりだったんだけどな?』父のしゃがれた声の向こうから、街の雑踏を思わせる音が聞こえる。…携帯を買ってやったのに、それはどうしたのか。「病気って…どんな?」『今は…わかんねぇよ。家に診断書があっから…』要するに、生活費を工面しろ、ということだと理解した。「とりあえず、少しお金送るから」『なんだよ、来てくれねぇのかよ』「だって…アキちゃんは…?」『知らねぇよ、前に出てったきり、戻ってこねぇ』まずい状況だと思った。異常な寂しがり屋の父には絶えず恋人がいる。…途切れると、たった1人の娘である私にすがるのだ。…すぐに不機嫌になって、モノに当たり散らし、最後は私に殴りかかる。ろくな男ではないが、背が高く、整った顔立ちの父は、昔からひどく女にモテて…それだけが取り柄だったのに。「私は…仕事もあるから」行きたくない、父の家になんて。…もう実家なんかではない。嫌な思い出しかない家だ。母が突然失踪し、父と2人暮らしになったのは、小学6年生の頃。それまで家のことも子供のことも、すべて母に任せきりで遊び歩いていた父と、いきなり2人にされて…父は私を家政婦のように扱った。家事一切を押し付け、うまくできなければ平気で頭を叩く。失敗すれば頬を平手打ちして…暴力で娘を支配したのだ。高校も、行かせてもらえなかった。担任から三者面談や進路についての話を求められても、父は学校に行くことなく、電話口でこう言っただけ。「中学を出たら働かせる」…子供だった自分に、父親の決定を覆すことなどできず、ただ…そうするしかなかった。卒業すると、工場のようなところに働きに行かされた。…家を出られるのは嬉しくて、初老のおじさんやおばさんに、それなりに可愛がられたけれど…給料はすべて父親に搾取された。お金を持てない自分に、父親の元から逃げ出す考えなど浮かばず…父の不機嫌に翻弄され…殴られ、生傷だけが増えていった。それでも…ある時気づいたのだ。父親にはいつも恋人らしい女の人がいて、よく家に連れてきていた。…大人の男女の交わりという、嫌な場面を目にすることもあったけれど、恋人とう
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4.預かる
「い…いえ、友達に、連絡をして…」「どうやって連絡をする?」「あ、直接訪ねます」言ってから、お金がないと言ったばかりだと気づいた。「下手な嘘はつくな。行くところがないなら…一緒に来てもらう」手首を掴まれ、部屋の外へ出る。広い廊下には、見たことのある絵画や複雑な模様が描かれた骨董品が、バランスよく飾られていた。龍之介はある部屋の前で立ち止まり、ドアをノックした。…瞬間、甲高い女性の笑い声と「…誰?」という男の声がする。「…俺だ。昨日拾った女だが、こっちで預かるから、そのつもりで…」言葉を遮るように、ガチャ…っとドアが開き、半裸の男が出てくる。ドアの端にいたせいで、桜には部屋の中が見えた。大きなベッドに、横たわる女性。そしてこの男は、昨日「蔵」って呼ばれた人だ。「…なんでその子にこだわるわけ?」「別にこだわってねぇ。…ただ、Black Roseの従業員は22までの女って決めたはずだ。この子は23、それから、自分の意思で働くと決めた子以外は取らねぇってことになったろ」「ふーん…」すると、中にいる女性から「まだぁ…?」という艶めかしい声があがった。「…るせぇなっ!話をしてる時に声をかけんなって言ってんだろっ」半裸の男は明らかにイラついた表情になり、部屋の中に入っていった。 …次の瞬間、晒した肌を服で隠した女性がドアの外に出てくる。「蔵のバカっ!もう誘ったって来てあげないんだからっ!」機嫌を損ね、女は追い出されたらしい。蔵と呼ばれた男の背中に描かれた龍も、イラついた表情をしているように見える。「蔵…訳アリの女じゃねぇだろうな」「龍には関係ねぇだろ」うんざりした様子で出てきた男に釘を刺す龍之介。面白くなさそうな男の視線は、桜にも下りてきた。「あの…龍之介さんには、少しだけお世話になりますけど、すぐに自立するので…」目が合ったので、そう言ってみた。それに、あの風俗店を取り仕切るこの男に話を通してもらえるなら、店長から逃げ隠れしなくてすむ。用心するのが父親だけなら、助かるのだ。「すぐに自立?そんなもん…させてもらえるのかねぇ…」男は腕を組み、桜に流し目を注ぐ。「それに龍之介さん?まさか、自己紹介したのか?…この男が?」笑っちゃうねぇ、というわりに、男の目は笑っていない。龍之介はそんな様子を気にすることなく「話は通
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5.マンションへ
「少し、こうしてうずくまってれば、治ります…」深呼吸をして…これまでの、数少ない楽しかった風景を思い出して…そうだ、さっきの…穏やかでお洒落で清潔な街の雰囲気、あれをもう一度頭の中に描いて…「…お前、普通じゃないな」目の前に黒いスラックスが立ち、目線を合わせるように腰を落とす。「どうしてこうなる?理由は何だ?」「男の人の不機嫌な雰囲気が、苦手なんです」「…俺か」悪かった、と…肩に触れる手を、桜は反射的に払いのけた。「…自分で、立ちますから」よろめきながらも自力で立つ桜を、座り込んだまま見上げる龍之介。「たいしたもんだ。…この俺の手を、乱暴に叩くとはな」「別に、誰の手でも関係ありません。…私は、生きていくために、いろんなことを乗り越えなきゃいけないから…」立ち上がった龍之介を、桜は強い目で見上げた。「だから…あの、いただきます」唐突にピザを口に運ぶ桜を見て、龍之介は面白いものを見たように笑いだした。 その笑顔は素の表情からは想像できないほど柔らかく、優しく…桜に、秘めた宝物を見たような気持ちにさせた。「俺は一旦戻るが…お前は外へ出るな」「はい…」あちこち包帯やらガーゼをしている。そんな姿で、歩き回ろうとは思わない。「それと、この後カズって男が来る」携帯の画面を桜に向け、そこに映る男の顔を見せる龍之介。「こいつだけは、玄関まで入る。それ以外は絶対に入れないよう、コンシェルジュに伝えるからな」「わかりました」…もう龍之介さんはここへは来ないのだろうか。ふと、寂しさを覚えた。「多分、1週間くらいで大丈夫だと思うので」「…何が」「怪我が治るまで…」父に殴られて、生傷が絶えなかったから、怪我がどれくらいで落ち着きそうなのか…わかる。…1週間後には、ここを出なくちゃならない。その時には、少しお金を借りるようだろうか。また、借りを作るのは嫌だけど…「先のことは考えなくていい」龍之介の大きな手が、自分の頭を撫でる。「お前は、ここにいればいいんだ」そんな言葉が、心と体の傷を癒すなんて…きっとこの人にはわかっていない。龍之介が出て行って、1人になった20畳のリビングは広すぎた。大きな窓、革張りの白いソファ、ガラスのダイニングテーブル…白い壁にかかる、幾何学模様の絵画…こういう部屋を、モデルルームみたいな部屋というの
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6.悪魔との決別
これは…普通じゃない。抱きしめる腕の力が徐々に強まり、背後に回った手が、背中を擦る。髪から首筋…やがて桜の唇を求めるように、冷たい龍之介の唇が移動して…傷に痛みが走った。「…悪かった。痛かったか」体を離し、のぞき込む瞳が、自分を見ていないような気がする。「大丈夫、です。あの、龍之介さんこそ…」欲情やいたずら、興味で抱きしめたわけではない。そこに、向けられたことのない深い愛があるような気がした。「大丈夫ですか?」もしかしたら、自分を通して誰かを見ているのではないか。そう考えれば、妙に優しい視線や、自分をそばに置く理由がわかる気がする。「…大丈夫だ」龍之介は桜をベッドに寝かせ、毛布をかけてから、おでこにかかる髪を避けてやり…部屋を出ていった。龍之介は日に1〜2度マンションを訪れ、桜の傷の具合を確かめては帰っていく日を繰り返した。ダブルベッドは、買い変える必要はないと言った。…見たところそう古くはないし、きっととても高価なものだ。「…嫌じゃねぇのか?」「…正直、こんなに寝心地のいいところで寝たことなかったので…」「…そうか」龍之介は桜の頬を撫で、何かを我慢するような表情を浮かべ、時々キスをしてきた。唇の傷が治るのを見ながら…そのキスも少しずつ長くなり…纏う甘い雰囲気に、桜の心にも熱い何かが灯る気がした…それでも、それを認めてはいけない気もしていた。やがて…初めに宣言した通り、1週間を過ぎる頃には必要なくなった怪我の手当。桜は思い切って龍之介に言った。「いろいろ、お世話になりました。そろそろ、アパートに戻ります」「…は?」眉間にシワを寄せ、意味がわからない…という表情をされ、こちらこそ意味がわからない。「アパートに戻れば、父親と顔を合わせる可能性はありますけど、職場に連絡しなきゃならないし、保険証とか携帯も部屋に残してきてますから」「それなら俺も同行してやる」「龍之介さんが…?」正直、心強い。でも…誰かを信じて頼って、自分1人で生きていけなくなるのが怖い。「…1人で大丈夫です」できるだけ強いまなざしを向けて言ったつもり。「今日も、寝るまでそばにいてくれるんですか?」「居てやるよ。…じゃないと俺が気になってしょうがねぇ」何でもない顔をして寝室に向かうけれど、その低い声にドキドキする…桜が横になるのを待ち…上
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7.龍之介の想い
「桜を見に行ったのは父親に会うためだったのか」「そうです。…すいません、付き合わせました」窓の外を向いたまま、こちらを見ようとしない桜。グレーのパーカーと、揃いのハーフパンツにスニーカー、そしてキャップ…という格好は、俺の周りにいる女が着ない服だった。体を動かすわけでもないのに、女がどうしてスニーカーを履くのか。スカートではなく、ニットではなくハーフパンツでパーカーなのか、俺には全くわからない。なのに…そんな格好をしていても、小刻みに手を震わせて涙をぬぐう姿は、守ってやりたい儚さであふれている。桜の木にかこつけて父親をおびき寄せ、一発殴って絶縁宣言をしてやろうという魂胆は見抜いたが、きっとそんな反撃は初めてに違いない。少し手を貸してやったが…気は晴れただろうか。後部座席に並んで座り、桜の方にやや体を向け、腕と足を組む。…パーカーとかいう色気の欠片もない服を着ているのに、桜を抱き寄せたい衝動にかられた。けれど…簡単に触れてはいけない。なかなか、自制はきかないが。「うわぁ…桜並木ッスよ!…見事ですねぇ」運転席の和哉が感激の声を上げ、そちらを向いた桜の口元が見えて、ほんのり笑ったのが見える。ふと……桜と初めて会った夜のことを思い出した。あの日…青白い肌を薄い布で覆い、雨に打たれた桜の姿は…幻想的だった。…何人かが不思議な顔で桜を見ていたのは、美しいからだけではないことくらい、俺にだってわかる。…街灯に浮かぶ顔は、あの頃の彼女にそっくりで…気づいたら、傘を捨て…抱き上げていた。まさかまた、会えるなんて…触れられるなんて…冷静を装いながら、どうしても桜に視線が絡みつく。痛々しい傷…特に女の顔には慎重になってしまった。…極道に助けられるということがどういうことか、桜は覚悟していたのだろう。包帯やガーゼに覆われた体だというのに、震える手で俺の服を脱がそうして…久しぶりに体が熱くなりかけた。けれどあいつを失って、完全に消えた俺の中の火は、簡単についたりしない。悲しみを癒すために抱こうとした女は、灯りかけた俺の中の火を大事にしてくれたけど…結局ダメだった…男としての機能を失うほど、それほど…愛していたんだ。…百合。俺の、半年だけの妻。あの日…桜を見た蔵之介も、驚いた顔をしていた。組員たちも、百合を知っている者は全員、蔵之介と同じ表情をす
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8.アルバイトを始める
「あの…この先の話をしたいんですけど、今夜はもうこちらへは来ませんか?」「先の話?」「怪我も治ったし、アパートの後始末もしてもらえてありがたいんですけど、私はもうここにはいられないので…」桜の言葉に、眉間にしわを寄せ…固まる龍之介。「アルバイト、探します。とりあえず」「仕事なんかしなくても、金なんか出してやる」「そういうわけにはいきません…」ひょんなことで助けてもらっただけで、赤の他人に違いない。龍之介さんとの関係に何の名前もないなら、頼るわけにはいかない。「友達…」ボソッとつぶやかれ、2度見しそうになった。整った顔立ちの極道、大人の男に、友達なんて言葉…似合わな過ぎる。「ふふ…っ!友達って、龍之介さんが言うと面白いです…!」つい、素直に反応してしまい、切れ長の瞳に睨まれてしまった。「友達なら、金がなきゃ助けるだろ。部屋を貸したり、飯を食わせたり」「そうですね…でも知ってます?友達には、してもらったことを返さないと、上手く付き合えなくなるんですよ」中学生の時…出かけたきり父が戻らなくて、友達に助けてもらったことがある。でも…借りたお金をいつまでも返せなくて、友達は離れていった。「俺は、その辺の友達とは違うから大丈夫だ」「…だとしても、私…働きます。家を借りられるようになるまで、ここにいさせてもらうだけで十分です」先にソファから立ち上がったのは、その方が龍之介は部屋を出ていきやすいと思ったから。きっと…今夜龍之介はここへ戻らない。このマンションに移って数日たつけれど…彼は決して、桜と一緒に夜を過ごさなかった。それはきっと…ほかに行くところがあるということ、そして待つ人がいるということ。いつか口走った名前を思い出す。百合…確かにそう言った。それは…花の名前でないなら女性の名前に違いない。「バイトが決まったら、お知らせします」なるべく明るく言ったつもりだった。でも龍之介の表情は晴れない。よほど心配されているのかと思うものの、その理由について疑問を抱いてしまう。今までは怪我をしていたからこその心配だとわかる。でも…もうその傷は治り、何の心配もない。それなのに…友達、とまで言って、自分を助けようとしてくれるのはなぜなのか。誰かを助けた覚えも感謝された経験もない桜は、首をひねるばかりだったが…きっと妹とか、同情とか…そんな
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9.花のプレゼント
9花のプレゼント「…酒屋?」「はい。駅前の…ちょっと裏に入ったとこにある大きな店構えの、酒屋です」「酒なんて…重てぇだろ」多分オーナーと同じ心配をしているとわかって少しおかしくなった。「…なんだよ」「いえ、こう見えて、結構力はあるので大丈夫です…って言いたくて」携帯に何度も連絡が入っていることに気づいて、慌てて連絡を返すなり、マンションにやってきた龍之介。アルバイトが決まって、早速仕事をしてきたため、連絡に気付かなかったと説明した。「…ちょっと、聞いてもいいか?」龍之介は冷蔵庫からビールを出して飲み始めた。「どうしたんですか?」桜は何か作ろうとキッチンに立つ。冷蔵庫からハムときゅうりを出して千切りにし、卵を溶いて一緒に炒め、味を整えてから粉チーズを振る。そして自家製の鶏ハムに、ミニトマトを添えて…サッと出てくる料理に、感心して桜を見上げる龍之介。「お酒を飲み終わったら、何かご飯ものを…」言いかけて、長い時間ここにいるわけではないかもしれない…と思う。「…惚れる…」ボソッとつぶやいた言葉は、桜の耳には届かなかった。「…あ、先の話、でしたっけ?」「あぁ。もしかして…夢とかあるのか」「…そうですね。花屋さん…」突拍子もない言葉に、ビールを飲みかけた龍之介の手が止まる。その姿勢のまま…視線が落ちてきた。「今まで…1日を無事に過ごす事で必死だったので、気付かないふりをしてました。…お店を持ちたいです。花屋さんと併設したカフェ…とか」「花が好きなのか?あとなんだ、コーヒーとかも?」「花は…野生の草花が生い茂る田舎で育ったので、好き、というより見えないと不安になります。コーヒーは、好きってわけじゃなくて、人が集まる場所って意味で…」笑いながら答える桜。「…どうしてそんなこと聞くんですか?」「それは……これからも、支援したいと思うからで…」ビールが入ったグラスを傾け、少し照れくさそうに言う龍之介。「まぁいいや、お前も飲めよ」「あ…はい」どうしてそんなに支えようと考えてくれるのか。…聞きたい言葉をしまって、代わりに自然とこぼれてしまう笑顔を龍之介に見せた。「ワインを飲ませてもらって…いいですか?」龍之介に支えたいと言われるのは、戸惑うけれど、やっぱりとても嬉しい…明日もアルバイトだと告げると、龍之介はいつもの
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10.龍之介の事情
「Black Roseのあたりに深夜もやってる花屋があったな。そこへ寄ってくれ」 「へい。かしこまりました」 眠った桜に後ろ髪を引かれながら…エントランスで待つ和哉の車に乗り込む龍之介。 「てもあの…大丈夫ッスかね…」 「なにが」 「いや、龍之介さんがこの時間にあの辺に行くと…志田川組の奴らと顔を合わせて、ドンパチになるんじゃないかと」 そうか…まだ和哉にも言っていなかった。ふ…っと鼻で笑い、足を組む。 「大丈夫だ。…もうすぐあの辺は、西龍会が仕切ることになるからな」 「えぇっ!…マジッスか?すげぇ…だとしたら、俺らもいろいろやりやすくなります」 そうだよな…と、心の中で思う。 今まで、ちょっと顔を突き合わせれば、すぐにいざこざが起きていた界隈だ。そのわりにうちが管理する店も多くて、和哉や下の連中はやりにくかっただろう。 「…俺、買ってきましょうか。 Heart Barの愛ちゃんですか?…だったらピンクのバラがいいっすよ」 「いや、自分で行く」 後部座席から降りると、和哉は慌てて追ってきて、観葉植物や鉢植えの花を買い漁る俺を不思議そうに見た。 「車に積め。全部だ」 「へ、へい!」 もう一度マンションに戻るよう言ったところで…和哉もどういうことか察したらしい。 何も言わなくても、音を立てないよう注意しながら、部屋に運び入れるのを手伝ってくれた。 朝起きて、この草花を見てどんな顔をするか…それから買い占めた赤いバラの花束も。 想像して頬が緩む。 「やっぱし…ほの字なんッスね」 笑顔で言う和哉は、百合のことを知っている。いなくなって、俺が再起不能になったことも。 俺は…和哉の笑顔に、答えられなかった。 「…おかえり。ちょっと遅かったんじゃない?」 屋敷に着いて、自分のテリトリーに入ってホッとしたところで…赤いガウンを羽織った女が現れた。 「麗香、来てたのか」 「約束の日だから、一応ね」 「あぁ…それなら毎度悪いが…」 麗香ならそれだけ言えば伝わるはずだ。 …なのにこの日は、ソファに座った俺の膝の上に乗り、首に両腕を絡ませてくる。 「…おい!」 体を離そうと動いたのを利用して、俺の手を胸の膨らみに押し付ける。 そしてガウンを脱いだ。 「すげ
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