LOGIN強い悲しみを背負う極道 西龍会 若頭 西門龍之介にしかどりゅうのすけ33歳 ✖ 逃げてきた訳あり風俗嬢 滝川桜たきがわさくら23歳 父親の借金のかたに風俗店に売られ、客を取らされそうになって逃げてきた桜が迷い込んだのは、その風俗店を取り仕切る極道の敷地だった… ぶつかった拍子にアスファルトに叩きつけられ、怪我をして絶体絶命の中…桜は、若頭である龍之介の住まいへと連れて行かれる。 風俗店からは逃げてきたけれど、結局知らない極道に自分の心も体もいいようにされるのだと、桜は絶望するも…2人は意外な朝を迎える。 面白くないのは、風俗店を取り仕切る若頭補佐の弟、蔵之介。 それは、龍之介の勝手な振る舞い、売れそうな風俗嬢を持っていかれた怒りだけではないようで… 匿われるうちに知る、龍之介の悲しみの理由と決められていた未来。 暗い生い立ちのなか生きてきた桜に、初めて芽生えた恋心は…龍之介の心は。 それぞれの背負う生い立ちと、出会ってしまった2人の切ない恋のゆくえを描く極道恋物語。
View More「桜……」 覗き込む鏡の向こうに、愛しい人の姿。 「龍之介さん……」 振り向いた桜に、目を細める龍之介。視線を横に流し、らしくもなく、下を向く。 「綺麗すぎて、直視できねぇな。ホント……こんなに綺麗な女、初めて見る」 顔立ちから、黒いタキシードが似合うと言われたのだろう。 背中に特徴的なデザインが描かれたスーツがよく似合う。 「そっちへ行ってもいいですか?」 「あ、そりゃ……もちろん」 龍之介は両手をスラックスのポケットに入れ、落ち着かない様子だ。 彼に近づこうと方向転換するため、長い裾を持ち上げる桜に気づいたらしい。 龍之介は慌てて自分から桜に近づいた。 「あぁ、そばにいると緊張する。……ほら」 桜の手を自分の胸元に当て、龍之介は困ったような視線を送る。 「……龍之介さんだって、カッコよすぎて、私もですよ?」 彼の両手を自分の鎖骨の下あたりに持ってくると……龍之介はニヤリと笑う。 「ほんとだ……!」 笑い合う2人に、撮影スタッフが声をかける。 「風もなくてちょうどいいので、撮影を始めましょうか!」 「「はい、よろしくお願いします」」 偶然、ハーモニーを奏でる2人の声…… 窓の向こうで桜の花びらが揺れた。 ホテルの前は、見事に満開の桜が咲き誇り、チラチラと雪が舞うように花びらが散り始めている。 「……綺麗」 ほんのりピンク色の桜と青空……そして葉の緑が、美しい自然の色を描いていて、桜の心に忘れられない思い出を積み重ねていく。 「あ…!いたいた!」 遠く、真理と美紀の声が聞こえて、桜は振り返った。 そこには、蔵之介や昭仁、斎藤や義母の姿も見える。 「まま、ぱぁぱ……」 真理に抱かれた龍桜。ちゃんとタキシードを着せてもらったようだ。 2人に向け、手を伸ばす龍桜を、そっとしゃがんだ真理が手放す。すると龍桜は、おぼつかない足取りながら、よたよたと走り出した。 「……龍桜!」 ドレスやタキシードが汚れるのも構わず、2人は龍桜に視線を合わせるようにその場にひざますき、手を広げた。 よたよたした足取りが、やがて小走りになる。手を前に出して、危なっかしい足取りに、桜も龍之介もハラハラと目が離せない…… 「キャッ…!」 龍桜が転んでしまった。
「龍之介さん……もう起きたんですか」「うん……嬉しくて、よく眠れなかった」メンズスーツブランドMatusiro.Hommeのプレ公開ショーから日を置かず、桜と龍之介は東京から少し離れた場所のシティホテルに宿泊している。今日は、ウェディングフォトの撮影会。結婚式をしたい、という桜のひとことで、龍之介があっという間に決めてしまったプランのテーマは「桜」「桜の花びらが舞う中で結婚式の写真を撮ろう」と、桜前線を追いかけ、この町にやってきたのだ。「お天気はどうだろう……」ベッドから降りてカーテンを開けてみれば、見事なまでの青空……「龍之介さん……持ってますね?」「ん?何をだ?」「今日はいいお天気だから、運を持ってるな、って!」良いことは全部、龍之介さんのおかげ。悪い事が起こったら、それは半分こ。いつの間にかそんな考え方になっていた。「そういうの、持ってるっていうのか……」はてな顔がキュートで、桜は自分から龍之介に抱きついた。キスをねだり、熱くなる龍之介を受け入れようとして……「ダメです、龍之介さん!カメラマンさんを待たせちゃう」スッと離れ、お先に……とシャワー室へ向かう桜。いつもなら龍之介に先を譲るが、今朝の私にはやることがたくさんあるのだ。「……煽っといて、放置?」熱っぽいまなざしで桜を追うも、シャワー室には鍵がかけられて開かない……「もぅ………っ!今夜覚えとけよっ!」髪をかきむしる龍之介だった。入れ替わりに龍之介をシャワー室へ押し込み、桜は大きな鏡の前に座る。この日のために龍之介が通わせてくれたエステサロンから、たくさん受け取った化粧品の数々……今日使い切っておしまいだ。「化粧水は……たっぷりと、手のひらにとって、なじませる。その後、コットンに浸してはり付けて、しばし時間を置く……」担当のエステティシャンに基礎化粧品の使い方を教わって実行している。普段も同じようにやるといいですよ、と言われたけれど、龍桜の世話が忙しくてそれどころじゃない……!シャワーを終えて、龍之介がやってきた。桜は顔に乗せていたコットンを慌てて取る。「……なに焦ってんの?」「だって、コットン顔に乗せて……変でしょ?」「全然。桜なら、キュウリとか梅干しとか、何をはり付けてても可愛いわ」そんなものはり付けません……と言いながら、腰のあたりをバシっ
始まりこそ派手な演出だったものの、その後は大人の男をイメージしたブランドだからか、比較的静かにショーは進んでいく。龍桜が座っていてくれないので、後ろに人がいない事を確認して立って見ていた。それは、すごいとか圧巻とか……言葉を超えたステージだった。こんなに心臓が高鳴ったのは生まれて初めてで、なんとかなだめようと自然に胸元に手を置いてしまう。「落ち着いて……私……あの人は龍之介さんで、私の、旦那さんなんだから」コソコソ、自分にだけ聞こえるようにつぶやいた言葉の先に、龍之介が見える。片側に長めの前髪を垂らし、もう片側はピッタリと撫でつけたヘアスタイルは、誰もが似合うものじゃない。西門龍之介という強烈な個性がそれを可能にしていると理解できる。中央に堂々と立つ、ひときわ背の高い人……少しメイクもしているのだろう。いつも以上に目力が強く、妖しい雰囲気で……私の夫だなんて、信じられない。惚れ直す、というのはこういう事をいうんだと思う。ステージを踊るように歩く龍之介を瞬きも忘れて見ていた。やがてステージ裏に引っ込み、やっと少し、心臓の高鳴りから解放されてホッとする……他のモデルたちも下がり、しばらくの暗転のあと、照明と音楽の雰囲気が明らかに変わったステージ。……またも息を呑む。柔らかい照明に照らされたステージに、白いスーツを着た龍之介がゆっくりと歩いてくる。髪は前髪を幾筋かハラリとおろしたヘアスタイルに変わっていて、手には大きな花束……白いスーツ、いや……あれは、結婚式で新郎が着るような、タキシード?中のベストはグレーで、ジャケットは少し長めのデザインで、とてもよく似合う。龍之介が結婚式を挙げたいと言っていたことを思い出した。あんな姿で私の隣に立ってくれるとしたら……「……素敵」見惚れているうちに、ショーはすべて終わったらしい。スタッフが呼びに来て、龍之介の楽屋に向かった。以前の麗香の一件以来、桜がステージを見に来ると、龍之介はこうして必ず楽屋に呼ぶようになった。その上、誰からの差し入れも食べず、桜に手渡される弁当を待っているのだから可愛らしい。そうなれば、桜も腕によりをかけて作り、張り切って持ってくる。この日は鮭とたらこのおにぎり。そして卵焼きとソーセージと、手作りのピクルスだ。「……2人とも、ホールの中暑かったろ?気持ち悪くな
「……しっ!」「な、なんですか、こんなところで?!」今日、美紀がカフェにやってくることは、桜に昨日のうちに聞いていた。プレショーの本番を来週に控え、今日も舞台装置の確認と衣装、立ち位置などの決定をして……椎名社長に送ってもらった。カフェの近くで降りたところで……美紀が生垣を曲がってこちらにやってくるのが見えたのだ。そこで、とっさに思いついたこと……「驚かせてごめんな。今日桜と、どんな話をしたのか教えてくれよ」何か言いたそうで、言い出せない桜が心配で聞いたこと。けれど美紀は、眉間にシワを寄せ、険しい表情になる。「……そんなの、いくら旦那さんでも、第三者にホイホイ言うわけないじゃないですか。……私達の結束は、鉄より硬いんですから」両手を握り合わせ、美紀は俺に向かって笑顔を見せる。「俺たち夫婦の絆はダイヤモンドより硬いぜぇ……なぁ、教えてくれよ。桜、なんか言ってたろ?結婚式の話ばっかりして、龍之介がうぜぇとか」「あぁ…!言ってましたね!」「……………え、まじ?」軽くショックを受ける俺を、楽しそうに手を叩いて笑う美紀。ダメだこりゃ……と、聞き出すのを諦めかけた時だ。「帰ったら話をしてくれると思いますよ?……意外な話だとしても、ちゃんと最後まで聞いてあげてくださいね?」「……意外な話って、?」「例えば、その……」うまい例えが出なかったらしく、美紀はジリジリと後ずさっていき、気づけばかなり離れてしまっていた。「龍之介さん…!頑張ってくださいね」……気になりすぎるんだが。美紀を捕まえたものの、結局、何の情報も得られなかった。結婚式はしなくていいという本音がどこにあるのか、探りたかったのだが。美紀に手を振り返して、カフェの裏から家に入った。「おかーしゃぁい!」ドアが開く音で、部屋から龍桜が飛び出してきた。帰ってくるだけで毎回ものすごい喜びようでとても嬉しい。「ただいま、龍桜!」パッと抱き上げ、ぐるんと一回転してやって、部屋に入る。ダイナミックな動きが楽しかったのか、もう一回とねだられた。「おかえりなさい。……龍之介さん」「ただいま」桜が顔を出し、すぐにその顔を見つめた。……何か言いたいことがあるか、自然と表情から探ってしまう。「あの、龍之介さん……後でちょっと、いいですか?」「あん?あぁ…もちろん!」良かっ
「ここは俺だけのスペースだから、気にするな」 連れて行かれたのはやたら高い塀の向こうに建つ、大きな屋敷。 門を抜けた目の前にある大きなドアからは入らず、脇にあるドアから中に入った。 「シャワーを浴びて、砂利を落としてきな」 「はぁ…」 連れてこられた以上、言うとおりにするしかない。…それに、傷を負ってばい菌でも入って、万が一にも病院に行かなければならなくなったら困る。 保険証は家だ。逃げたことを知ったら、きっと父親がアパートに来る… …裸のような格好で走り回って雨にも濡れ、冷え切っている。体を温めなければ、風邪を引いてこじらせないとも限らない。 案内されるまま足を踏み入れた
「良かったよぉ…良かった。久々にマジになっちゃった!君、きっと売れっ子になれるよ」あられもない格好で、奥のバスルームに消えていく店長。………今だ!シャワーを出す水音を聞いて…私は最初で最後のチャンスだと確信した。そして次の瞬間…ピンク色のカーテンを翻して走り出した。…暗くて狭い廊下を走り抜けると、それぞれの個室にかけられた薄いカーテンがはためく。ブルーやオレンジなど…色とりどりだったことに初めて気づいた。誰にも会わずに受付にたどり着き、一瞬後ろを振り返ったが…走り抜けた私に気づく人はいない。ドアを開け、地上へ続く階段を勢いよく駆け上った。苦しいほど上がる息が、さらに上がる。ハァ
「桜を見に行ったのは父親に会うためだったのか」「そうです。…すいません、付き合わせました」窓の外を向いたまま、こちらを見ようとしない桜。グレーのパーカーと、揃いのハーフパンツにスニーカー、そしてキャップ…という格好は、俺の周りにいる女が着ない服だった。体を動かすわけでもないのに、女がどうしてスニーカーを履くのか。スカートではなく、ニットではなくハーフパンツでパーカーなのか、俺には全くわからない。なのに…そんな格好をしていても、小刻みに手を震わせて涙をぬぐう姿は、守ってやりたい儚さであふれている。桜の木にかこつけて父親をおびき寄せ、一発殴って絶縁宣言をしてやろうという魂胆は見抜いたが
これは…普通じゃない。抱きしめる腕の力が徐々に強まり、背後に回った手が、背中を擦る。髪から首筋…やがて桜の唇を求めるように、冷たい龍之介の唇が移動して…傷に痛みが走った。「…悪かった。痛かったか」体を離し、のぞき込む瞳が、自分を見ていないような気がする。「大丈夫、です。あの、龍之介さんこそ…」欲情やいたずら、興味で抱きしめたわけではない。そこに、向けられたことのない深い愛があるような気がした。「大丈夫ですか?」もしかしたら、自分を通して誰かを見ているのではないか。そう考えれば、妙に優しい視線や、自分をそばに置く理由がわかる気がする。「…大丈夫だ」龍之介は桜をベッドに寝か
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