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act:ゲイ能人・葩御稜として③

Author: 相沢蒼依
last update Huling Na-update: 2025-07-24 18:34:54

 稜が『大事なことをテレビで暴露するかもしれないよ♪』というメッセージを送ってきたせいで、どうにも気になった俺は銀行を休み、テレビ局の裏口で待機していた。ここで待機していても、彼に逢えるかどうかわからない――表の玄関から出てしまったら、そのまますれ違いとなってしまうだろう。

 マスコミがおもしろおかしく誇張をした報道のせいで、世間の目がまだ稜に対して冷たい視線を向けている最中に退院。その後、芸能界に復帰するために迷惑をかけた関係各所に、謝罪行脚をしていると電話をもらったきり、連絡が途絶えてしまった。メールをしても返事が来ず、自宅に赴こうかと思ったときに、待ちに待ったメッセージが着て。

『こんなに、しっぺ返しを食らうとは思わなかった。毎日お偉いさんに頭を下げる日々に、正直疲れ切ってしまったけど、何とか頑張るから』

 これを読んで、稜が住んでいるマンションに向かう足が止まってしまった。いつも明るく振舞う彼が弱音を吐いている姿に、今直ぐに駆けつけたくなったけど、俺が行ったところでなにができるだろうかと……。

 逢いたい気持ちをぐっと堪えて、メールの返信をすべく文章を考える。彼にこれ以上の負荷がかからないように、当たり障りのないものにしなければならない。

『あまり無理せずに頑張るんだよ。応援してる』

 たったこれだけを打ち込むのに、えらく時間がかかってしまった。本当はもっと伝えたいことがあったり、聞きたいこともあったせいで、長い文章を打ち込んでしまった。本当に稜については、貪欲な自分。そこから不要なものを一気に削除し、ここまで短いものに直して送信した。

 これの返事が来たのが送信した、一週間後の昨日だった。ありがとうの言葉と一緒にテレビ出演のことが書いてあり、復帰の目途が立ったことに安堵したのだが――稜が出演するという番組をスマホに映して、画面を食い入るように眺めた。久しぶりに目にする彼の姿に、胸が痛いくらいに高鳴る。

(また少しだけ、痩せたんじゃないだろうか。ほっそりして見えるのは、小さい画面で彼を見ているせい?)

「やっと、君に逢えたというのに――」

 カメラ目線でこちらを見る視線と俺の視線は、残念ながら絡んでいないんだね。

 君が見つめる先にいるのは、目の前の司会者とテレビ画面のむこう側にいる、視聴者なのだから。俺を魅了したその笑みは、たくさんの人を惹きつけるだろう。

「……あんなに、近くにいたのに――」

 病院に毎日通ったせいか、一気に離ればなれになってしまった距離感を、改めて思い知ってしまった。

 魅惑的な微笑を時折浮かべながら、背中まで伸びた髪をかき上げる仕草で思い出す。不安そうな顔した彼を抱きしめ、よく頭を撫でてあげていたことを。

 傷ついた稜を少しでも癒してあげたくて、やってほしいことを訊ねたら。

『克巳さんの大きな手で、頭を撫でてほしい……』

 頬をちょっとだけ赤く染め、小さな声で頼んできた。ほほ笑みながら二つ返事でOKし、稜を抱き寄せてゆっくりと頭を撫でる。瞳を閉じてされるがままでいる姿に、彼の中にある傷の深さを考え、それ以上は手を出さずにいた。ただひたすら、頭を撫でてあげて――。

 時折指に絡む柔らかい黒髪に、何度もドキドキしたっけ。黒水晶のような輝きを持つ瞳と同じくらい、稜の髪は俺の心を惹きつける道具になっている。

 そんなことを考えつつ、画面に映る彼の髪を人差し指で撫でてみた。触れたいと思えば思うほどに、そこには温もりがなく無機質なままで落胆を隠せない。

 小さなため息をついてやり過ごし、改めて画面を見たら、先ほどまで浮かべていた稜の笑みが一転、悲壮な雰囲気を漂わせながら唇を震わせる演技に、思わず微苦笑した。

『っ……ごめんなさい。昔のことを思い出したら、涙が出てしまって』

 掠れた声で告げた途端に、零れ落ちる涙。俺以外の人間は、これに簡単に騙されると推測される。しかし目は嘘をつけない――君のその瞳は涙で濡れているけれど、獲物を狙うような眼差しは、強い光を放ったままでいるから。

(――稜、君って人はどこまですごいんだ)

 あんな事件を起こしたあとに出る、お昼の生番組。テレビ局としては間違いなく、それをネタにして視聴率をとろうとするだろう。

 だけど全部承知の上で、正々堂々と登場しながら笑みを振りまき、司会者のふたりを翻弄しながら、絶妙なタイミングで涙を流して番組の流れを、見事に自分のものにしてしまうなんて。

 ハンカチで涙を拭いながらも、隙を窺う視線が目に映り、声を立てて笑ってしまった。

 この番組を見ている人たちは今頃、彼に同情して心を寄せている頃か。事件を知っているからこそ、彼の生い立ちを見聞きして、さらに同情を深める――。

 だが、これだけじゃ終わらなんだろう? 泣き落としている今の様子は、さしずめ野菊やクロユリみたいな華かもな。艶やかさはないけど、しっかりとした存在感はある。しかし……。

(稜、そこからどうやって、いつもの大輪の花を咲かせるんだ? 人を惹きつけて止まない葩御稜の姿を、どうやって見せてくれる?)

『今まで、育ててくれた恩がありますから。だけどソレのおかげでこっちの世界に足を踏み入れて、同じような手を使って、仕事をすることを学ばせてもらいましたからね。怨んでいたのは、最初の頃だけだったなぁ』

 肩を揺すって笑い出す稜に、司会のふたりはポカンとした表情を浮かべた。さっきまで涙を流していたというのに、この変わりようはさすがに、ついていけないのかもしれない。

 俺も、随分と翻弄されたもんな――。

 目に映る、司会者と視聴者に向かって放たれる満面の笑み。ただ華やかというだけじゃなく、目の離せない何かを漂わせているせいで、つい見入ってしまうんだ。

 綺麗な大輪の花が咲いたその姿を閉じ込めたくて、スマホを胸元に押しつけた。

 残念ながら、綺麗な君を俺の独り占めにはできそうにない。圧倒的な存在感と光り輝くその姿を見たら、俺だけじゃなく他の人だって、君に手を出すだろう。

 大輪の花びらを散らしながら、人々を魅了しやがてまばゆい光を放つ、星になるのかもしれない。

『克巳さん俺はね、アナタに二股かけられるような安い男じゃないの』

 以前、吐き捨てる様に告げられた言葉を、今さらながらに痛感している。芸能界に復帰するのには、俺の存在は荷物にしかならない。付き合ったところでデメリットしかないし、足を引っ張ることになる。

「……身を引くなら、このタイミングがベストだろう」

 それに稜の活躍を影ながら応援するのも、案外悪くないかもしれない。表の玄関から出たならメールで別れを告げ、裏口から出てきたのなら直接顔を突き合わせて、別れを切り出そう。

 別れると決心したくせに胸が軋むように痛んで、涙が出そうになった。

 奥歯を噛みしめて顔をあげたら、目に飛び込んできた真夏の青空。容赦なく照らし出す太陽はまるで、稜が浴びていたスポットライトのようだ。

 突然現れた彼との出逢いから今までを、ぼんやりしながら思い出していたら、ギギッという音が耳に聞こえてくる。つられるようにそこを見たら、扉からひょっこり顔を出した稜と目が合った。

(直接、別れを告げなければならないのか――)

 胸に押し当てていたスマホをスラックスのポケットに滑らせ、笑みを浮かべてみせる。たぶんこれが稜に見せる、最初で最後に見せる笑みになる。

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