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act0:【愛執】愛するものにのめり込みすぎて心が離れられないこと

작가: 相沢蒼依
last update 최신 업데이트: 2025-07-30 06:09:01

 さっき室長から渡された大判の茶封筒を手に、地下二階にある自分の部署に向かうべく、階段を下りていく。

 稜が所属していた前の事務所が会社に圧力をかけてくれたおかげで、遠くの支店か関連企業に出向する予定だったのに、銀行の本店に残ることができた。

『すげぇ事件起こしてくれたよな、まったく。ウチの銀行のいい恥晒しだぜ。いっそのこと、相田が刺されて死ねばよかったのに』

 そんなふうに噂されていることを知っているし、もっと酷い言葉で罵られているのも、自然と耳に入ってきた。同じ職場に勤める者として、俺の存在は気味の悪いものとして受けとられて、当然のことだと思う。

 それに職場だけじゃない。俺の実家や親戚関係すべてに、迷惑が掛かってしまった。報道関係者が一斉に押しかけたせいで、迷惑をかけてしまったんだ。

 コンクリートに反響する靴音を聞きながら地下二階に辿り着き、一番奥にある扉に手をかける。【お客様相談センター対策室】という真新しいプレートを見やり、微苦笑しつつ中に入った。

 地下二階なので、当然窓がない。だだっ広い空間に、普段使われない物が入っている段ボールが四隅に山積みとなっていて、空いたスペースに机が一つだけポツンと置かれている職場は、正直気が楽だった。

 銀行内ではどこに行っても、好奇の目に晒されてしまうから――。

 俺の今の立場は、お客様相談センター対策室室長補佐という、どこか偉そうな肩書になっている。センターに入る全国からの電話の内容を吟味し、それをまとめ上げて俺の上司にあたる、室長に手渡すというのが仕事なのだが。

 そのまとめあげた書類に、上司がきちんと目を通しているのかわからない。結果になって返ってこない上に、それ以上の仕事を求められない。意味があるのかわからない仕事を、穴倉のような場所で淡々と行う毎日に、飽きが来ないと言えば嘘になる。

 銀行が俺を依願退職させるべく、こんな場所に閉じ込めているのもわかっている。だがそんな理由で、辞めるわけにはいかない。挫けるわけにはいかないんだ。

 こんな俺を愛してくれる人が、傍で応援しているのだから。

「……っと、稜に頼まれたモーニングコールの時間を忘れないように、アラームをかけておかないと。窓からの景色がないだけで、時間の感覚がおかしくなっているし」

 くたびれた椅子に腰かけたら、ギギッという今にも壊れそうな音が耳に入って
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  • 欲しがり男はこの世のすべてを所望する!   第二幕プロローグ③

     ――それから季節は巡り、三年の月日が経つ……。「克巳さん、聞いてよ。どうして俺が参院選に出ることが、週刊誌にバレちゃったんだろ」 伸ばしていた髪をばっさりとカットし、オーダーメイドの濃い目の色したスーツを身にまとった稜が、煩わしそうな表情を浮かべて、パイプ椅子に座る俺を見下してくる。渋い顔をしていなければ、ビジネススーツのモデルとして、直ぐに仕事ができそうだなと思った。「お手伝いをしてくれた人で、口の軽い人間が混じっていたのかもな。ひとりひとりを問い詰めて、誰がリークしたのか吐かせてやろうか?」 稜の出馬を快く思わない、対抗勢力の仕業の可能性もあるので、注意するに越したことはない――今回の選挙で後ろ盾となる政党の幹部と打ち合わせのために、ホテルで会食をしたのだが、そこを二流の週刊誌にスクープされてしまった。『スキャンダル発覚か!? 葩御稜が○△党の幹部とホテルで密会、その後客室に消えて――!?』  手にしていた週刊誌を、両手で引き裂いてやる。有りもしない事実を並べ立てた記事を元に、出版社に抗議しなければと考えた。 参院選出馬を目論んでいた稜に合わせて、勤めていた銀行を一年前に依願退職した。モデルの仕事をこなしつつ、ニュースキャスターやリポーターをして、時事ネタの勉強を欠かさずしてきた彼を、自分なりに支えてきたつもりだ。「ドSの克巳さんが手を下したら、みんなが逃げちゃうって。ヒーヒー言わせるのは、恋人の俺だけにしておいてよ」 こういう軽口を叩くところは相変わらずなれど、今までの経験から知性を手に入れた稜は、一皮むけてさらにカッコよくなってしまった。 長い髪を切ったおかげで、端正な顔立ちが露わとなり、尚さら人目を惹く存在になっただけじゃなく――バラエティー番組で見せていたチャラチャラした印象を一切封印し、報道番組で展開させる理論武装を兼ね備えた毒舌ぶりは、老若男女を問わずに人気が出てしまった。(その人気も参院選に出るために、稜が頑張って築きあげてきたものだけど……) 視聴者の人気同様に一生懸命に仕事に打ち込む姿を見て、番組関係者からもたくさんの応援がなされた。 俺のせいで番組を降板する形となった稜を、最初のうちは人気を盛り返すためだけに、必死になっていると思ったらしい。しかし番組で真剣に仕事をする彼を見て、少しずつ声をかけるスタッフが増え

  • 欲しがり男はこの世のすべてを所望する!   第二幕プロローグ②

     生死の境を彷徨った俺。一時、意識不明の重体から危篤になったんだよと、悲壮な顔をした稜が教えてくれた。 俺を刺した男はその場で現行犯逮捕され、傷害事件として立件されたのだが、供述が二転三転したせいで無差別な犯行として、ニュースで流れたのだった。「済まない……。恋人の俺が刺されてしまったせいで、芸能活動を自粛しなきゃならないなんて。君はただ、傍にいただけだというのに」「いいってば、俺のことは気にしないで。むしろ、チャンスだと思ったからさ」 飾り気のない病室の中なのに、稜の周りを取り囲む空気が違って見える。印象的に映る眼差しはヘコむことをまったく感じさせず、逆に静かに燃えている感じに見えた。「……チャンスって、どこが?」(稜の出番が、減ってしまったというのに――)「夢の実現に向けてこれからは、報道番組みたいなものに出演していこうと思う。だから世の中のことを、今よりもさらに深く知らなきゃいけないだろうし、それに伴った最低限の知識も必要でしょ。夢を叶えるために俺はやるよ」「稜、君は――」「痛い思いをさせてゴメンね。それに見合うだけの大きな夢を、克巳さんに見せてあげる。だからこれからも、俺の傍にいて……」 こうしてピンチをチャンスに変えた稜は宣言通り、報道系の番組を中心に出演していった。ときには災害現場まで赴きリポーターを勤め、危ない橋を渡ることもしばしばあったせいで、俺の心配は尽きることがなく、ハラハラさせられっぱなし。 俺が愛した綺麗な華は、その色を変えても艶やかさはそのままに、テレビで大々的に活躍していったのだった。

  • 欲しがり男はこの世のすべてを所望する!   第二幕プロローグ

     克巳さんと過ごす時間は、俺にとってはとても大切なもの。芸能人という肩書きがあるせいで、彼に気苦労させているところがあるのにも関わらず、一途に愛してくれる克巳さんを同じように俺も愛した。「久しぶりのオフだね、稜」「たった一日だけど、克巳さんと二十四時間一緒にいられると思ったら、すっごく興奮して鼻血が出そうだよ」「……サービス精神が旺盛なのは知っているけれど、嬉しさを鼻血で表現するのは笑えないな」 新幹線に乗って京都に向かおうとしていた俺たちは、大通りを仲良く並んで歩いていた。「え~っ、わかりやすいと思ったのにさ。他になにを言ったら躰中に湧いて出てくるこの喜びを、克巳さんにうまいこと表現できるかなぁ?」 克巳さんの顔を下から覗き込んでみたら、一重瞼を細めて苦笑いを浮かべる。(――俺ってば、おかしなことでも言っちゃったかな?)「稜はいろんなドラマに出て役者をやっているんだから、上手に表現できないんて、名前が廃るかもしれないね」 その言葉に、ちょっとだけカチンときた。「克巳さんとの恋愛は、お芝居なんかじゃない。リアルなんだよ、リ・ア・ル! 心のままに思ったことが、俺の素直な気持ちなのにさ」 口を尖らせて怒ってみせたら、カバンを持っていない手が、俺の頬にやわやわと触れてきた。 冬空の下、寒風で冷え切った肌に、克巳さんの温かさがじわりと伝わってきて、イライラしていた気持ちが、瞬く間に消え失せていく。「ふふ、稜が真剣な顔して怒ってる顔。久しぶりに見たかも」「酷い……。怒った顔を、笑いながら見つめるなんて」「だって、久しぶりじゃないか。こうやってのんびりと並んで、歩きながら話すことが。稜の顔がテレビじゃなく、直に拝めるんだ。いろんな表情を生で見たいと思う気持ちくらい、少しはわかってほしい」 言いながら俺の頭を撫でて、軽く躰をぶつけてきた。ぶつけられた衝撃は強いものじゃなかったのに、心がくるんと一回転する。 照れた顔を見られたくなくて、道路のむこう側を見た。タクシーを待つ、まばらな人ごみが目に留まる。駅に向かうのに、タクシーを使おうとしていたので、混み合っていない様子に安心した。「タクシーに乗ったら、この手を握りしめてあげるから、いい加減に機嫌を直して」 そっぽを向いた俺の耳元で、変な交渉を始める克巳さん。そんな交渉に、簡単に乗りそうになる俺

  • 欲しがり男はこの世のすべてを所望する!   act0:【愛執】愛するものにのめり込みすぎて心が離れられないこと

     さっき室長から渡された大判の茶封筒を手に、地下二階にある自分の部署に向かうべく、階段を下りていく。 稜が所属していた前の事務所が会社に圧力をかけてくれたおかげで、遠くの支店か関連企業に出向する予定だったのに、銀行の本店に残ることができた。『すげぇ事件起こしてくれたよな、まったく。ウチの銀行のいい恥晒しだぜ。いっそのこと、相田が刺されて死ねばよかったのに』 そんなふうに噂されていることを知っているし、もっと酷い言葉で罵られているのも、自然と耳に入ってきた。同じ職場に勤める者として、俺の存在は気味の悪いものとして受けとられて、当然のことだと思う。 それに職場だけじゃない。俺の実家や親戚関係すべてに、迷惑が掛かってしまった。報道関係者が一斉に押しかけたせいで、迷惑をかけてしまったんだ。 コンクリートに反響する靴音を聞きながら地下二階に辿り着き、一番奥にある扉に手をかける。【お客様相談センター対策室】という真新しいプレートを見やり、微苦笑しつつ中に入った。 地下二階なので、当然窓がない。だだっ広い空間に、普段使われない物が入っている段ボールが四隅に山積みとなっていて、空いたスペースに机が一つだけポツンと置かれている職場は、正直気が楽だった。 銀行内ではどこに行っても、好奇の目に晒されてしまうから――。 俺の今の立場は、お客様相談センター対策室室長補佐という、どこか偉そうな肩書になっている。センターに入る全国からの電話の内容を吟味し、それをまとめ上げて俺の上司にあたる、室長に手渡すというのが仕事なのだが。 そのまとめあげた書類に、上司がきちんと目を通しているのかわからない。結果になって返ってこない上に、それ以上の仕事を求められない。意味があるのかわからない仕事を、穴倉のような場所で淡々と行う毎日に、飽きが来ないと言えば嘘になる。 銀行が俺を依願退職させるべく、こんな場所に閉じ込めているのもわかっている。だがそんな理由で、辞めるわけにはいかない。挫けるわけにはいかないんだ。 こんな俺を愛してくれる人が、傍で応援しているのだから。「……っと、稜に頼まれたモーニングコールの時間を忘れないように、アラームをかけておかないと。窓からの景色がないだけで、時間の感覚がおかしくなっているし」 くたびれた椅子に腰かけたら、ギギッという今にも壊れそうな音が耳に入って

  • 欲しがり男はこの世のすべてを所望する!   毒占欲番外編:ゲイ能人の護身術

    *** 芸能人(ゲイ能人)である俺は、この世界で生きていくため、護身術を身につけている。それは汚い芸能界で、世渡り上手にやっていくためにだけど――プライベートのオンオフなんて、あるがないの如し。どこにいてもウザいくらいに、人の視線が俺自身を追ってくる。 今だって克巳さんと楽しくランチしているのに、気がついたらコッソリと撮影されている。『葩御稜がどこどこで、男と食事してるよ!』 なぁんていう情報をネットで流すバカが、実際に何人もいる。それゆえに芸能人に限らず一般人に対しても、注意が必要な身分なんだ。(だからこそ、護身術を使わなきゃならない……) その人が放っている雰囲気や喋り方、服装や小道具に至るところまで瞬時に確認して、人柄を判断していた。「忙しいときにごめんね、克巳さん。モーニングコール、すっごく助かったよ♪」 目の前に用意されているのは、美味しそうに湯気を立てているコーンスープ付きの、熱々のステーキ定食だった。ぱくりとお肉を一口食べる。 ジューシーな肉汁が、ぶわっと口の中に広がっていった。うーん、至福のひとときと言ったところだ。「正直あれは、モーニングコールとは言えないだろ。ただの長電話になっていたし」 克巳さんが仕事中だとわかっていたけど、朝方帰宅したせいで、絶対に起きることができないであろうと予測した俺は、モーニングコールを午前11時半にお願いした。「だって、克巳さんの声を聞いていたかったんだもん」「嘘つきだな、本当に。あと五分、いや十分寝かせてくれって言って、無駄に時間を食うように、ひたすらウダウダしていただけじゃないか。困ったコだ」 日替わりランチ弁当のご飯を美味しそうに頬張りながら、くどくど文句を言われてしまった。 だけどそんな迷惑そうな顔も、大好きな恋人だと素敵に見えちゃうから不思議。ずっと見ていたいからって写真を撮ったら、すっごく怒らせちゃうかもね。「しょうがないでしょ。克巳さんがもっと優しい声で起こしてくれたら、一発で目が覚めたのにさ。『起きろ稜、遅刻するよ』なぁんていう、色気のない起こし方じゃダメなんだってば♪」 耳元で囁くような愛の言葉なら、一気に覚醒できちゃうよ。ま、違った意味でだけど――。「ふう……。職場から電話をかけてる時点で、そんなワガママはお受けできません。それよりも、時間は大丈夫なのか?」「

  • 欲しがり男はこの世のすべてを所望する!   毒占欲番外編:モテ星座

    「もぉ、俺ってば無能すぎっ。全然上手くいかない……」 珍しく愚痴る稜を、キッチンから眺めてしまった。 綺麗な顔を歪めながらソファに座り、手には台本を持っている。どうやら今回のドラマの役柄が、相当難しいらしい。そんな疲れている彼にコーヒーを淹れるべく、キッチンでお湯を沸かした。 リビングにはいつも以上に花が飾られていて、その鮮やかさに目が奪われてしまう。先日誕生日だったこともあり、ファンや芸能関係者から、たくさんの花束が贈られた。 過去のことは何処へやら――今や稜は、マルチタレントとして大活躍中。歯に衣着せぬ物言いや現場をうまく盛り上げるところが評価され、テレビで彼を見ない日がないくらい、人気を博す存在となっている。「稜、大丈夫か? ほらコーヒー淹れたから、気分を変えたらどうだ」 お気に入りのマグカップに甘めのカフェオレを作り、そっと手渡してあげた。「ありがと克巳さん。戴きます」 嬉しそうにほほ笑むと、すぐに口をつける。「んんっ! 美味しい♪ やっぱり克巳さんが淹れてくれるのって、すっごく最高だよ。癒されまくり」「さっきの俺と、どっちが最高?」「ブッ!!」 稜は口元を押さえつつ頬を少しだけ赤くさせながら、じと目で睨む。俺としては疲れて返ってきたトコを癒すべく、稜を迎え撃ってあげただけなのだが。 隣に座り込み、手に持ってる自分のコーヒーを一口飲んでから稜の頭を引き寄せ、零れないようにしっかり彼の唇をしっかり塞ぎ、ブラックコーヒーを飲ませた。 鼻先に漂うシャンプーの香り。まだしっとりと髪が濡れていて、妙に艶っぽく見える。「う……んぅ、にがぁい」「これで君のカフェオレが、もっと甘くなるだろう?」「余計なおせっかい、すぐするんだから。もぉ♪」 唇を尖らせて文句を言ってるが、目がしっかりと笑ってる。どうやら機嫌が直ったようだ。 安堵のため息をついてもう一口コーヒーを飲むと、テーブルに置いてあったスマホを手に取り、真剣な顔でなにかを読む。「台本を読まなくて、大丈夫なのか? 難しい役柄なんだろう?」「まぁね。でも今は気分転換するよ。克巳さんがいい感じで、空気を入れ替えてくれたからさ」 俺の肩に頭を乗せて、鼻歌混じりにスマホを見やる。最初の内は、大層ご機嫌な様子だったのに。「なんだかなぁ……。書いてあることが当たってるだけに、びみょー」

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