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第10話

Auteur: 明日
彼はゆっくりと、自分の心の軌跡を語り始めた。

最後に、こう問いかけてきた。

「もし最初から、俺がこんなふうに歪んだ心を持つ変質者だと知っていたら……お前は、それでも俺と付き合ってくれただろうか?」

私は真剣に考え、首を横に振った。

「いいえ。私はただの普通の人間で、人を救う力なんて持っていない」

結局、人が変わろうとするなら、自ら救うしかない――そういうことだ。

清司は笑いながら、ぽろぽろと涙を流した。

そして真剣な顔で私に謝罪し、まだこの世界を一度も見られなかった私たちの子供にも詫びた。

彼がそれを後悔しているかどうか、知ろうとは思わなかった。

ただ、不思議なほど心が軽くなっていた。

長く私を縛ってきた問題が、ようやく完全に終わった。

清司は離婚に同意し、弁護士に依頼して協議書を作らせ、財産の三分の二を自ら私に譲ると言った。

その話は篠原家の年長者たちを騒がせた。

彼が事件に巻き込まれたときは誰ひとり声をかけなかったくせに、自分たちの利益が絡むと、途端に動き出す。

だが、清司は強硬な手段でその連中をねじ伏せた。

――たとえ身体が不自由になっても、息がある限り、自分のことに口出しさせはしない。

私はそれを、当然のように受け入れた。

手にした金の大半を両親に渡すと、両親は少しずつ胸を張れるようになった。

彼の事情を聞いた両親は感慨深げに息をつき、それから真顔で忠告してきた。

「次に婿を選ぶときは、まず相手の両親がまともかどうかを見るんだよ。加藤おじさんの息子なんて悪くない。30前後で、未婚で、しっかり者なんだ」

私はただ笑って答えず、一人で身辺を整え、両親に別れを告げた。

この数年の結婚生活は、ずっと私を家の中に閉じ込めていた。今こそ、この広い世界を見に行きたい。

後で聞いたところによると、清司は帰国したらしい。

家の年長者たちはまだ欲を捨てず、自分の手駒を彼のそばに送り込み、何とかして利益を得ようとした。

だが、今の彼は檻を失った獣のようで、他人を傷つけることを楽しみ、周囲の人間を疲弊させていった。

それ以降のことは、私の知ったことではない。

私は魂に導かれるまま、幻想的で美しい北極へ向かった。

果てしない氷原と、きらめくオーロラをこの目で見た。

澄み切った冷たい空気を吸い込み、頭は冴えわたる。

トナカイやホ
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