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第3話

作者: ちょうどいい
明音はグラスを片手に私の前に現れ、うっすらと微笑んだ。

「乾杯しましょう!隼人さんと、末永くお幸せに」

優雅な振る舞いだったが、その瞳の奥には一瞬、挑発めいた色がよぎった。

私はグラスを受け取らなかった。

「千葉さん」私は彼女を見つめ、一語ずつはっきりと言い放つ。

「望み通りになったなら、もうそんな白々しい芝居はやめたら?」

明音の笑みがぴたりと固まった。

「光希!」

いつの間にか駆け寄ってきた隼人が、明音の肩を抱き寄せる。

「なんて心の狭い女だ!せっかく挨拶に来てくれたのに、その態度はなんだ!」

言葉と同時に、私を突き飛ばそうと腕を伸ばした。まるで私が明音に危害を加えるのを防ぐかのように。

周囲は皆、面白半分に見ているだけで、私に手を差し伸べる者は誰もいない。

私は思わず身を強張らせた。

その時、すらりとした影が、私の前へ飛び出した。

正人が両腕を広げ、私を庇うように立つ。

「か……彼女をいじめるな!」

隼人は呆れたように正人を見下ろし、鼻で笑った。

「どこの馬の骨かと思えば……お前みたいなのがヒーロー気取りか?」

周囲からくすくすと笑い声が漏れる。

正人は耳を真っ赤にしたが、道を開こうとはしなかった。

「腰抜けが、無理してヒーローごっこか?」

隼人の声はさらに冷たさを増す。

「兄にすら相手にされていない分際で、偉そうな口を叩くな。

女を庇えば、自分がまともに見えるとでも思ったのか?」

傍らで明音が口元を押さえ、くすりと笑った。

正人は肩を激しく上下させ、何か言い返そうと口を開くが、言葉は喉に引っかかったまま出てこない。

やがて彼は拳を強く握り締め、勢いよく腕を振り上げた。

「ふざけるな!」

その瞬間、明音が悲鳴を上げ、隼人の背後へ隠れる。

会場は一気に大混乱に陥った。

私はその隙に正人の袖を掴み、彼を会場から引きずり出した。

彼は文句をぶつぶつ言いながらも、おとなしく私の後ろをついてきた。

背後で隼人の怒り狂う声が聞こえた。

「光希!今ここから出れば、グループ間の提携は即刻打ち切るぞ!」

私は振り返らなかった。

宮本グループのエネルギー事業は、ここ数年ずっと陣内グループの資金に支えられている。

契約解除?好都合だ。そのまま阿部グループへ切り替えればいいだけだ。

オフィスへ戻る道中、正人はずっとうつむいたままだった。

髪は乱れ、シャツの袖が破れ、擦り傷から少し血が滲んでいる。

オフィスに入るなり、彼は低い声で言った。

「ごめん……」

「君の大事な式を、めちゃくちゃにしてしまった」そこで言葉を切り、喉仏が小さく上下する。

「知ってるよ……彼が好きなんだろ」

最後の言葉はひどく小さく、隠しきれない寂しさが滲んでいた。

救急箱を取ろうとした私の手が止まる。

隼人が好き?

私は淡々と笑い、消毒液と綿棒を取り出した。

「謝らないで。むしろ感謝しているのよ」

あの時、彼がいなければ今日の騒動をどう収めていいのかわからなかった。

正人が顔を上げ、不思議そうな目をした。

何か言おうとした矢先、スマホが鳴った。

チラリと画面を見ると、明音がSNSを更新していた。

写真の中の彼女の手首には、キラリと光る真珠のブレスレットがつけてあり、『先輩からのプレゼント。すごくお気に入り』と書いてあった。

そのブレスレットには見覚えがあった。宮本家に代々伝わる家宝だ。

前世では、結婚式当日にこっそり彼女へ渡していたものだ。

どうやら今回は、私が自分から頭を下げて戻ってくるのを、焦りながら待ってるらしい。

私は無表情で彼らのアカウントをブロックした。

ふと顔を上げると、正人はまだそこに立っていた。

うつむいたまま、ソファの房飾りを指先でいじっている。

そんな彼を見て、心の中にふと良案が浮かんだ。

「だけど」私はゆっくりと言った。

「今日、恥をかかされたのは事実よ」

正人がビクッと顔を上げ、不安そうな眼差しを向けた。

「償ってもらいたいんだけど、いいわよね?」

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