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第2話

Author: ちょうどいい
私を掴む手には力がこもっていて、その瞳には隠しきれない焦りが浮かんでいた。

彼がなぜ焦っているのかなんて、痛いほど分かっている。

陣内グループの資金は、海市の財界にとって喉から手が出るほど欲しいものだった。

私がどちらにつくかで、商工会の会長の座が決まる。

その時、宴会場の扉が開かれ、隼人の表情がぴたりと固まった。

現れた人物を見た瞬間、前世の怒りが胸の奥から一気に込み上げてくる。

私は隼人を見つめ、冷たく笑った。

「隼人、冗談なんて言ってないわ。

あともう一つ、伝えておくことがあるわ。

本日をもって、私は隼人との婚約を解消する」

隼人は意外そうに目を見開き、眉をひそめた。

だが、すぐにその視線は会場に入ってきた明音の方へと移った。

「光希、そんなわがままはもうよせ」

彼は私には見向きもせず、ずっと明音のことばかり見ていた。

「明音はただの後輩で、今回の婚約式も、気晴らしに来ただけだ」

あまりにも当然のように言うものだから、逆に笑えてしまった。

10年ものの付き合いで、自分の婚約式に呼ぶほどの仲だ。

前世で、まさにこの日、明音が弱々しく「気分が優れない」と言い出し、隼人は一晩中彼女のそばにいた。

そして、婚約者である私は会場中の笑い者になった。

「光希?」

隼人が探るように声をかけたが、私が黙り込んだままなのを見て、入り口の方へと歩いていった。

彼は足取りも軽く、自分でも気づいていない笑みを浮かべ、自然な仕草で明音の肩を抱き寄せた。

明音は彼の隣に寄り添い、微笑んでいた。

「光希さん」彼女が遠くから私に向けて、穏やかな声で挨拶する。

隼人は彼女を連れて近づいてくると、何か思い出したように言った。

「そうそう光希、明音は優秀だし、今後俺の秘書になってもらう予定なんだ。

会社の事は心配するな。彼女がいれば、お前も楽になる」

つまりは、私に口を出されたくないのだ。

彼の緊張した瞳を見るに、拒絶されて、彼らの関係を壊されるのが怖いのだろう。

私はグラスを手に取り、淡々とした笑みを浮かべた。

「ええ、勝手にどうぞ」

隼人は、これほどあっさり納得するとは思わなかったのか、呆然とした。

「なら……」と、彼は様子を伺いながら続ける。

「明音と先に一曲踊ってもいいか?」

彼は私を挑発しているのだ。

前世だったら、そんな態度に泣き出し、お願いだから行かないでと縋っていた。

でも今は、滑稽でしかない。

「好きにすれば?」

隼人の表情が硬くなる。

それでも最後に不機嫌そうに鼻を鳴らし、明音を連れて去っていった。

私は相手にしなかった。

その時、気弱そうな声が、すぐ耳元で弾けた。

「うわ、言い返し方がうまいな。ちょっとコツを教えてくれないか?」

温かな吐息と一緒に、爽やかなミントの香りがふわりと漂う。

顔を向けると、輝く瞳と目が合った。

正人がいつの間にか近づいて、尊敬の眼差しを向けている。

「……人と話す時は、もう少し距離を取った方がいいって教わらなかった?」

私はすっかり呆れてしまった。

彼はキョトンとすると、自分の立ち位置を確認した。

それから慌てて半歩下がる。「あ……ごめん。君みたいに話せたらいいなと思って」

そう言いながら、また少しだけ身を乗り出してくる。

「そうじゃないと兄さんがうるさいんだ。お前はまともに話すこともできないのか、って」

そう話す彼の目には恨みはなく、ほんの少しの寂しさが宿っていた。

まるで、理由も分からないまま叱られている子犬のようだ。

胸がキュッと締め付けられた。

兄に押さえつけられていなければ、正人だってもっと自由に生きられたはずなのに。

前世では、最後には兄に利用される形で、あの事件に巻き込まれてしまった。

もちろん、今の彼はそんな未来を知らない。

「大丈夫。コツなら教えてあげられるわ」

彼の目が急に輝き、何かを言いかけたときだ。

「光希さん」

どこからか柔らかな声が割り込んできた。

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