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第6話
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死んだ私に愛を語っても意味はない 第18話
電話を切ると、周作は勢いよく点滴の針を引き抜き、橋本さんの制止を振り切って無理やり外に出た。そのままタクシーに乗り込み、警察署へ向かった。警官はひと包みの品を周作に手渡した。彼はそれを手にしたまま、しばらく呆然と見つめていた……続けて警官が口を開いた。「奥さんを殺害した主犯は江崎夕子という人物で、彼女が橋本浩太（はしもと こうた）に奥さんを尾行させ、その後わざと車を橋の下に突き落として、事故死に見せかけたのです。容疑者の供述によれば、この浩太は夕子の従兄で……」「夕子のはずがない。あなたたち……何かの間違いじゃないのか？」周作は顔を青ざめさせ、思わず反論した。この時でさえ、彼はなお夕子をかばおうとしている。その後、彼が呟いた。「だから、俺が彼女を殺したんだ……」その後の声はあまりにも小さくて、はっきりとは聞き取れなかった。警官はうなずいて言った。「遠藤さん、江崎さんはすでに自白しています。彼女の供述によると、あなたと一緒になりたいがために、奥さんを殺害したとのことです。橋本浩太さんについては、ギャンブルで借金を抱えており、江崎さんが事がうまくいったら600万円を渡すと約束していたそうです」周作は何も言わず、顔色を青ざめさせ、悲しげな表情で私の遺品を見つめている。何を考えているのかは分からない。警官はいくつか慰めの言葉をかけた後、先にその場を去った。周作はゆっくりと警察署を出た。ちょうど入口に着いた時、スーツを着た中年男性が近づいてきた。「遠藤さんですか？私は江崎夕子さんの弁護士ですが、よろしければどこかでお話しできませんか？」周作は顔をこわばらせ、冷え切った口調で言った。「無理だ。用があるならここで言え」弁護士は気まずそうに笑いながら言った。「実はですね、江崎さんがあなたに示談書を書いてもらえないかとお願いしていまして」そう言って一歩前に出た。「示談書があれば、江崎さんの量刑に有利に働く。そうすれば刑も軽くなる可能性があります」周作はそれを聞くと、目に怒りの光が走った。彼は突然足を振り上げ、弁護士を蹴り倒した。弁護士は立ち上がろうともがいたが、再び周作に蹴り倒された。彼は冷たい目で弁護士を見下ろし、一語一語嚙みしめるように言った。「夕子に伝えろ。罪を犯したなら、その代償を払うのが当然だ！俺はあらゆる
死んだ私に愛を語っても意味はない 第17話
葬式の後、周作はいつも通り毎日決まった時間に会社に現れていた。一見普通に見えるが、その「普通」にはどこか不気味な雰囲気が漂っていた。例えば毎朝、彼は私が生前に用意していた服に着替える。食事の準備も橋本さんに以前と同じようにと指示し、食べ物の盛り付けや料理の種類まで、私が生きていた時に用意していたものと完全に同じにするよう細かく指定した。たとえ味が全然違っていても。時には、多忙な会議の合間に、彼は突然秘書の晴美を呼び止め、私から電話や届け物があったかどうか、小声で尋ねるようになった。周作の口調はとても優しく、顔には期待が浮かんでいて、以前のような苛立ちは微塵もない。晴美が慎重に「彼女はもういない」と伝える度に、彼は冷たい視線で彼女の言葉を遮った。そして、もう二度と鳴ることはない私の携帯電話に頻繁に電話をかけ、まるで私が本当に聞こえるかのように、空気に向かってささやき始めた。かつてはいつも忙しかった彼が、今では退社時間になると慌ただしく家に帰るようになった。彼は私の大好きな百合の花を買い、使用人に私の好物である辛い料理をいくつか用意させる。彼自身は辛いものが食べられないのに、食卓にはいつも私の好きな辛い料理が並んでいる。食事の時には、私の空いている席に食器を並べ、この世にいない私に優しく料理を取り分けながら、静かにこう話しかける。「これはお前の大好物の牛肉だよ。たくさん食べてね。今日は唐辛子を多めに入れてもらったんだ」この光景に橋本さんたちは不気味に思いをしたが、声を上げることはできなかった。彼の一挙一動には優しい情愛が溢れ、まるで本当に愛する人と一緒に食事を楽しんでいるかのようだ。私は静かにその光景を見つめているが、胸の奥には言い表せない感情が渦巻いている。この場面を何度も思い描いたことはあったが、現実になったことは一度もなかった。今こうして目の前にしてみると、かえって皮肉に感じられる。しかし他人の目には、周作は情に厚く義理堅い男に映っている。そして私だけは、その愛情を享受できない可哀想な女ってことよ。彼の狂気じみた様子を見て、誰もが彼は正気ではないと思っている。仕事を失いたくないだけだから、誰も私がもうこの世にいないという事実を口に出そうとはしなかった。夕食が終わると、周作は酒棚から一本のワインを取り出し、階段
死んだ私に愛を語っても意味はない 第16話
周作は疲れた表情を浮かべていた。状況をまだ飲み込めていないせいか、警察の言葉にもまったく冷静さを崩さなかった。しばらくして、彼はゆっくりと口を開いた。「誰が殺したんだ？」二人の警官も周作があまりにも冷静すぎることに気づき、彼の反応をじっと見つめて何か手がかりを探ろうとしていた。しかし周作はただ静かに彼らを見つめ返すだけで、本当にただの傍観者のようだ。「犯人についてはまだ調査中です。いくつかお伺いしたいことがあります。奥様が事件に遭われた当日の朝、あなたはどこにいましたか？」警官は厳しい表情で聞いた。周作はわずかに眉をひそめ、その質問に少し苛立っているようだ。「休んでいた」彼の口調には一切の感情の起伏がなかった。警官たちは互いに視線を交わし、明らかに周作の回答に不満を感じている様子だった。さらに問い詰めた。「遠藤さん、あなたは前日に友子さんと口論したそうですが、その後、奥さんがいなくなったことに気づいて、探したり警察に届け出ようと思わなかったのですか？」警察に？私は冷笑した。あの人が警察に捜索願を出すなんて、あり得ないでしょ？警察が私の死体を発見しなかったら、1年連絡がなくても、彼は何も気にしないはずだわ。「いいえ」彼は首を振り、淡々とした口調で答えた。警官はさらにいくつか質問を重ねたが、やはり有力な手がかりは得られなかった。最後に警官は仕方なく一枚の写真を取り出し、彼に差し出した。「遠藤さん、この人物をご存知ですか？」あの写真を見たとき、身体が思わず震えが止まらなくなった。あの凶悪な目、絶対に忘れられない。周作が彼を認識し、犯人を見つけてくれることを期待している。だが、周作は写真を一目見ただけで首を振り、「知らない」と否定した。知らない？でもあの日、病院で、あの男が周作を見たときの視線には、どこか馴染みのある者が宿っていた……警察はため息をつき、写真をしまって名刺を一枚置いた。「では、何か思い出したらご連絡ください。ご遺体については、特に問題がなければ、署名のうえ火葬してもらっても大丈夫です」周作は黙ってうなずいた。午前、彼に付き添って警察署へ行った。明子はすでにそこで待っており、昨日と同じ服を着たままで、顔色は憔悴しきっており、隣の女性警官にずっと支えられている。周作を見ると、彼女の目には一瞬、憎
死んだ私に愛を語っても意味はない 第15話
周作が突然ベッドから飛び起き、携帯を握りしめ、声が嗄れる。「本当か？本当に彼女なのか？」電話の向こうでは、重苦しい声が返ってくる。「遠藤さん、ご愁傷様です。至急警察署までお越しください」電話を切った後も、周作は携帯を握り続け、まるで魂を抜かれたようにベッドに呆然と座っている。警察署に到着し、周作が安置室に入ると、パンという音と共に明子の強烈な平手打ちが彼の頬に叩きつけられた。不意を突かれた周作はよろめき、2歩後退してようやく体勢を立て直す。周囲の警官たちもこの突然の出来事に驚き、互いを見合わせる。空気が一瞬で張り詰めた。目を赤く腫らし、涙で顔を濡らした明子は、目の前の男を憤怒の眼差しで睨みつける。「周作、あんたよ！あんたが友子を殺したの！」彼女は叫びながら周作を激しく押した。「友子は無事だって言ったじゃない！あの遺体は彼女じゃないって言ったじゃない！説明してよ、なぜ彼女がそこに横たわってるの？夫として、これが彼女への接し方？なぜ死んだのがあんたじゃないの？なぜ！？」明子の悲痛な叫びを聞きながら、私の胸も何度も刺されたように痛む。彼女を抱きしめ、「大丈夫」と囁きたくなる。でも今の私にできるのは、ただ一緒に泣くことだけだ。周作は無表情のまま立ち尽くし、明子の暴力的な行為を受け入れている。警官が二人を引き離すまで、彼はようやく我に返り、一人の警官に向かって震える声で尋ねる。「いったい…どういうことだ？」「遠藤友子さんの死因は溺死です。外傷は見当たりません。自殺か他殺かは現在調査中です」それを聞いた明子は涙声で訴える。「絶対に自殺じゃない！事件の前日まで、彼女は『外の世界を見たい』って言ってたのに……突然なんてありえない！」警官は丁寧に答える。「全力で調査しますので、ご安心ください」周作の視線は遺体の変わり果てた顔に釘付けになり、ただ静かに見つめ続ける。表情は虚ろだ……明子は涙を拭い、怒りに震えながら周作に詰め寄る。「周作、あんたには心がないの？妻の死に、一滴の涙も流せないの？あの時……オリエンテーリングで彼女にあんたを助けさせるべきじゃなかった。あんたがその場で死んだら良かった。そうすれば、彼女は……」周作は突然明子の方に向き直り、言葉を遮る。「どういう意味だ？」彼の目には驚きと困惑が浮かんでいる。「
死んだ私に愛を語っても意味はない 第14話
周作は段ボール箱の存在にも目もくれず、淡々とネクタイを外し、水を注ぐ。だが、グラスが唇に触れる前に――その表情が一瞬で曇った。彼の視線を追うと、段ボール箱の中に、私の衣類や洗面用具、電子機器が詰め込まれていた。まるで私の痕跡をこの世から消し去ろうとするかのような残酷な梱包の仕方がされていた。その時、夕子が車椅子を操ってエレベーターの前から現れ、得意げな笑みを浮かべながら言った。「周作、やっと帰ってきたのね。ずっと待ってたのよ」周作は彼女を冷たく見つめ、怒りを含んだ声で言った。「これは一体どういうことだ？」夕子は気にも留めない様子で、段ボール箱を指差した。「ああ、これのこと？もう離婚するでしょ？だったら彼女のものなんて残しておく必要ないと思って。だから、使用人に片付けさせただけよ」彼女は当然のことのようにそう言い、まるでこの家の女主人のような態度を取っていたが、周作のますます険しくなる表情や、突然握りしめた拳にはまったく気づいていない。彼は一つの段ボール箱の前に歩み寄り、私の服を一着手に取り、複雑な表情で見つめた。そして、突然顔を上げ、鋭い視線を夕子に向けた。「誰がそんなことしていいと言った？」夕子は彼の突然の怒りに驚き、少し口ごもりながら答えた。「わ、私は……こうした方がいいと思ったの、どうせ離婚するだし……」「出て行け！」周作が怒鳴り声を上げ、手にしていた服を地面に叩きつけた。「ここはお前を歓迎しない。さっさと俺の前から消えろ！」夕子はその剣幕に怯えて顔面蒼白になり、慌てて車椅子を操って後退した。だが、立ち去る前に彼女はギフトボックスを一つ手に取り、得意げな様子で周作に見せつけた。「周作、これ見て。友子のクローゼットで見つけたのよ。オーダーメイドのメンズスーツよ。もう彼女を探す必要なんてないと思うわ。もしかしたら今ごろ、愛人とどこかでのんびり楽しんでるかもしれない！」私は怒りに震えながら夕子を睨みつけ、飛びかかって平手打ちを食らわしてやりたい衝動に駆られた。しかし、どうすることもできず、ただ立ち尽くすしかなかった――彼女が私に罪を被せるのを、無力に見ているだけだ。周作はそのギフトボックスを見つめ、目に一瞬複雑な感情がよぎった。次の瞬間、彼は勢いよく顔を上げ、怒りに燃える目で叫んだ。「黙れ！出て行け！」私に
死んだ私に愛を語っても意味はない 第13話
電話を切ると、彼は夕子の方へ向き直った。顔に残る不機嫌そうな表情はまだ完全には消えておらず、口調にはわずかに冷たさが滲んでいた。「夕子、俺は警察に行かないといけない。君は家でゆっくり休んでくれ」「友子に何かあったの？」それが錯覚だったのかは分からないが、夕子がそう尋ねたとき、彼女の目は明らかに泳いでいた。周作の顔に嘲りの色が一瞬浮かび、鼻で笑った。「あいつが？むしろ本当に事故に遭えばいいのに」こんな時まで、まだ私を呪うなんて……一体どれだけ私のことを嫌って、私が幸せになるのがそんなに気に食わないのか。私は周作への嫌悪感を押し殺しながら、彼について警察署へ向かった。警察署の入口に着いたところで、ちょうど明子も到着した。元々折り合いの悪かった二人は、この時さらに一言も交わさず、そのまま警察署の中へと向かった。中に入るとすぐに、警官が二人を遺体確認の部屋へ案内した。警官は遺体にかけられていた白布をゆっくりとめくりながら言った。「遠藤さん、楚山さん、こちらの遺体が友子さんかどうか、ご確認ください」目の前の光景は、息を呑むほど衝撃的だった。遺体は長時間水に浸かっていたため、ひどく水で膨張して、顔のあちこちにはすでに腐乱が始まっていた。耐えがたい死臭が消毒液の匂いと混ざり合い、吐き気を催すほどだった。明子の顔色は一瞬で青ざめ、震える手で慎重に白布の端をめくりながら、遺体の細部に目を凝らした。ついに、彼女の視線はかすかに見えるその傷跡に留まり、声は涙を含んで震えた。「と……友子だ！」周作の落ち着いた表情もこの言葉を聞いた瞬間に変わった。彼はゆっくりと近づき、視線をその傷跡に落とし、目に一瞬の動揺が走った。だがすぐに、何かを思いついたように、突然遺体の手を掴み、注意深く確認した。そして、彼はふいに笑い、目の動揺も冷静さに戻った。「これは友子ではない」私は少し驚き、なぜ彼がそこまで確信しているのか分からなかったが、彼が突然口を開いたことで、ようやく理解した。「彼女は母親からもらったブレスレットをとても大事にしていて、決して身から離さなかった。この人はブレスレットをしていない。だから友子じゃないんだ」そうだ、そのブレスレットは母が私に遺してくれた唯一のものだ。けれど、彼にはわからないだろう。この世にいない私が、どうして
