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死亡率99%の悪役令嬢ですが、好感度50を外すと全員が壊れます
死亡率99%の悪役令嬢ですが、好感度50を外すと全員が壊れます
Autor: なつめ

世界設定、詳細設定や、登場人物プロフィール

Autor: なつめ
last update Fecha de publicación: 2026-08-06 22:34:44

舞台

魔術王国レオルディス。

王侯貴族、聖職者候補、騎士、魔術師が集う王立アルセリア学院を中心に、王宮、大神殿、魔術塔、北方要塞、敵国、世界の管理領域へ舞台が広がります。

原作乙女ゲームの題名は、

『花冠のレガリア――聖女は五つの愛を選ぶ』

ただし転生したのは発売版ではありません。

開発途中で破棄された最高難易度版、

〈ナイトメア・マスターズビルド〉

です。


好感度システム

0~19 排除域

攻略対象がリディエラを敵、犯罪者、異端、障害と認識します。

暗殺、処刑、逮捕、社会的抹殺が発生します。

20~39 警戒域

監視、尋問、試験、証拠捏造、行動制限が増加します。

40~60 生存域

比較的安全です。

ただし、イベント一つで二十以上変動することがあります。

61~79 執着域

過保護、嫉妬、交友制限、秘密裏の監視が始まります。

80~99 監禁域

攻略対象ごとに異なる幽閉ルートが発動します。

100 終端愛情

本人の理性より、ゲームが規定した狂愛行動が優先されます。

心中、時間停止、国家封鎖、大量粛清などへつながります。


生存ポイント

リディエラの初期値は100。

以下で減少します。

ミッション失敗

強制イベントからの逸脱

攻略対象の死亡

重要人物の役割放棄

原作に存在しない選択

ゲームマスターへの反抗

ゼロになると、世界が彼女を死亡させるための強制イベントを発生させます。

死亡時は生存ポイントを大量消費し、直前の時点へ一度だけ戻れることがあります。

ただし周回を重ねるほど、肉体へ痛みと記憶が残ります。


ランダムミッション

難易度は五段階。

白:日常

青:対人

紫:危険

赤:致死

黒:必ず誰かが損害を受ける

代表例は以下です。

王太子を泣かせろ

毒を一口以上飲め

妹を守れ

妹から嫌われろ

騎士を置き去りにせよ

聖職者へ存在しない罪を告白せよ

魔術師に計算不能を証明せよ

密偵を裏切れ

攻略対象の一人を選べ

愛する者を殺せ

正しい悪役令嬢へ戻れ

などです。


主人公

リディエラ・オルヴェイン

年齢:17歳

身長:164cm

立場:オルヴェイン公爵家長女/王太子の婚約者

髪:青みを帯びた長い黒髪

瞳:淡い琥珀色

前世:榛名依子、二十九歳の会社員

前世

支配的な母親と、家庭内の問題から逃げ続ける父親のもとで育ちました。

母親の機嫌を損ねると、無視、侮辱、食事を与えない、私物を捨てるなどの罰を受けました。父親からは「お前が我慢すれば済む」と言われ続けました。

成人後、依子はようやく、

相手が怒っていることと、自分が間違っていることは同じではない。

と理解します。

性格

冷静沈着で観察力が高く、攻略や恋愛へ躍起になりません。

冷遇されてもすぐ感情的にはなりませんが、耐えられることと傷ついていないことは別です。自分の痛みを軽視しやすい危うさがあります。

一方、他人が支配される場面には強く反応します。

相手が王太子でも、騎士でも、聖職者でも、間違った行為を愛情として受け入れません。


愛されメインヒロイン

ミレシア・オルヴェイン

年齢:16歳

身長:157cm

立場:オルヴェイン公爵家次女/聖女候補

髪:淡い蜂蜜色

瞳:澄んだ空色

姉に虐げられながらも姉を庇う、清らかなメインヒロイン。

誰にでも優しく、失敗しても許され、危機には必ず誰かが駆けつけます。

彼女の生存率は常に100%。

毒は偶然入れ替わり、刃は寸前で折れ、崖下には足場が現れます。間違った選択肢が存在せず、何をしても攻略対象の好感度が上がります。

リディエラを庇う言葉を口にしますが、その庇い方によって周囲がさらに姉を憎むことが多くあります。


攻略対象詳細プロフィール

1.ティルヴァン・エルグレード

年齢:18歳

身長:184cm

立場:レオルディス王国王太子

髪:白金

瞳:濃紺

初期好感度:34

感情を表へ出さない、完璧な王太子。

相手を大切に思うほど、予定、交友関係、護衛、生活場所を管理しようとします。本人はそれを「守ること」だと信じています。

低好感度ルート

リディエラを王国の危険因子として合法的に処刑します。

高好感度ルート

白い離宮へ幽閉し、彼女のために王位も国も捨てます。

リディエラとの対立

「殿下が不安であることは否定しません。ですが、その不安を鎮めるために私の自由を奪うのは、正しい愛し方ではありません」

好きなもの

雨音、整った書類、静かな音楽。

苦手なもの

予測不能、秘密、涙。

危険兆候

口調が穏やかになるほど、逃げ道を塞いでいる。


2.ヴァルシェ・ネイグラン

年齢:19歳

身長:190cm

立場:近衛騎士団長嫡男/学院騎士科首席

髪:暗い赤褐色

瞳:灰緑

初期好感度:17

寡黙で実直な騎士候補。

幼少期、命令に従って妹のそばを離れた結果、彼女を失いました。そのため守る対象の意思を無視し、自分の視界から外さないことを正義と考えます。

低好感度ルート

リディエラを犯罪者として逮捕し、抵抗すれば斬ります。

高好感度ルート

王家と騎士団を裏切り、彼女を北方要塞へ連れ去ります。

リディエラとの対立

「命を守るためなら、本人の意思は無視してよいのですか。それは人を守っているのではなく、失う恐怖から逃げているだけです」

好きなもの

馬、硬いパン、夜明け前の訓練。

苦手なもの

香水、言い訳、無力感。

危険兆候

「命令してください」と言わなくなる。


3.セフィラン・アウレクシス

年齢:18歳

身長:179cm

立場:大神殿次期教皇候補

髪:淡い金茶

瞳:紫灰色

初期好感度:51

慈悲深く、相手の心を読むことに長けた聖職者。

苦痛や罪悪感を本人より先に言語化し、自分だけが理解者であると思わせます。救済によって相手を依存させる危険性に気づいていません。

低好感度ルート

リディエラを異端者として裁きます。

高好感度ルート

彼女を聖女として神殿地下へ封じ、永遠に自分だけが告解を聞きます。

リディエラとの対立

「私の痛みを説明する権利まで、あなたに渡した覚えはありません」

好きなもの

古い祈祷書、薬草茶、告解。

苦手なもの

沈黙による拒絶。

危険兆候

本人に代わって感情や罪を語り始める。


4.イェルク・ローディアス

年齢:17歳

身長:176cm

立場:王立魔術院長の養子/魔術科特待生

髪:青銀

瞳:黄緑

初期好感度:62

人間関係を数式として扱う天才魔術師。

予測不能な感情を嫌い、計算できないものを排除しようとします。リディエラだけが予測を外すため、強い執着を抱きます。

低好感度ルート

彼女を世界の不具合として消去します。

高好感度ルート

学院の時間を止め、二人だけの不変の世界へ閉じ込めます。

リディエラとの対立

「事故が起きない世界と、生きられる世界は同じではありません。あなたが失敗を恐れるために、私の未来を止めないでください」

好きなもの

未解決術式、砂糖菓子、規則性。

苦手なもの

騒音、接触、予測不能な親切。

危険兆候

彼女の行動を計算せず、記録だけする。


5.ネレス・カルヴァディン

年齢:20歳

身長:181cm

立場:外国商家の留学生/情報屋

髪:黒に近い濃紫

瞳:金褐色

初期好感度:8

軽薄で冗談好きな青年。

実際は敵国の密偵であり、暗殺、偽造、情報操作に精通します。序盤からリディエラを殺害対象として監視しています。

低好感度ルート

毒、刃、事故偽装によって彼女を殺します。

高好感度ルート

死を偽装し、名前、身分、人間関係を奪って国外へ連れ去ります。

リディエラとの対立

「私を助けるために、私の名前も生活も奪うのですか。それは救出ではありません。あなたが選んだ場所へ、私を移すだけです」

好きなもの

賭け事、偽名、辛い料理。

苦手なもの

本名、借り、無償の善意。

危険兆候

冗談をやめ、質問へ正直に答える。


6.ザフィル・レイヴァート

年齢:22歳

身長:187cm

立場:王立学院臨時監察官

髪:灰黒

瞳:薄い青銀

好感度表示:〈観測不能〉

攻略対象一覧にも設定資料にも存在しない監察官。

無愛想で、事実と行動を重視します。リディエラの不自然な回避行動に早期から気づきます。

当初は彼女を「過去にも現れた異常人格の一つ」として観察し、死ねば次の人格が入る交換可能な存在だと考えています。

リディエラにその考えを否定され、一人の人間として向き合うようになります。

リディエラとの対立

「次が来るから、この私を失ってよいという考え方は、あの人と同じです」

好きなもの

苦い珈琲、事実、壊れた時計。

苦手なもの

誘導尋問、自己犠牲、決められた結末。

危険兆候

システムには一切表示されない。


サブキャラクター

フェルニカ・ロウゼ

十九歳。リディエラ付き侍女。

過去のリディエラから暴言、罰金、長時間労働を受けていました。転生後の謝罪もすぐには信じません。

リディエラが許しを求めず待遇改善を続けたことで、最初の現実的な協力者になります。


バルネア・キルシュ

十七歳。侯爵令嬢。

リディエラの取り巻きだった少女。強い者へ従う現実主義者で、主人公の変化を最初は弱体化と捉えます。

後に社交界の噂、貴族令嬢の証言、資金の流れを調べる情報担当になります。


ディネル・フォルガ

十八歳。生徒会書記。

極端に存在感が薄い青年。会議、事件、証言をすべて手書きで記録しています。

人々の記憶が書き換えられても、自分の記録だけが変わらないことに気づきます。


ユディト・メルカーダ

二十九歳。学院医務室の女医。

毒物、記憶障害、魔術による肉体変化を調査します。

リディエラの身体に、本人が経験していない古い傷や毒物反応が残っていることを発見します。


ロディマス・エルグレード

十五歳。第二王子。

兄ティルヴァンを尊敬する一方、彼の完璧さと支配性を恐れています。

兄に守られることで自分の選択を奪われてきた人物です。


ヴェルダ・サイネス

三十二歳。現聖女。

穏やかで慈悲深い女性ですが、個人の幸福より神殿制度を優先してきました。

ミレシアを後継者に選びながら、徐々に神殿の「決められた聖女像」へ疑問を持ちます。


オルザード・ケルナン

五十一歳。王立魔術院長。

イェルクの養父。世界の異常を研究しています。

人間を研究材料として扱う点で、初期のザフィルと似ています。


カルディナ・レイヴァート

二十七歳。王宮記録局員。

ザフィルの姉を名乗りますが、戸籍上の血縁は存在しません。

ザフィルの過去を成立させるため、後から配置された人物である可能性があります。


エネファ・オルヴェイン

四十三歳。リディエラの実母。

娘を王妃にすることだけが愛情だと信じています。

条件付きの承認、比較、無視によって、幼いリディエラへ歪んだ価値観を教え込みました。


ガルディオ・オルヴェイン

四十八歳。オルヴェイン公爵。

家庭内の異常を知りながら、政治と家名を優先しました。

二人の娘を王位継承争いの駒として扱います。


ネフィラ・エルデン

十六歳。平民出身の給費生。

原作では名前もない背景人物。リディエラが最初に救う「死亡予定者」となります。

後に学院の平民生徒をまとめ、ゲームの主要人物だけでなく、名もない住民にも選択権があると証明します。


ガレク・ヴォルシア

三十六歳。学院警備隊副長。

原作では誘拐事件の責任を負わされ処刑される人物。リディエラの介入で生存し、警備記録の改変を調査します。

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Último capítulo

  • 死亡率99%の悪役令嬢ですが、好感度50を外すと全員が壊れます   第27話 ロディマスは兄を怖がっている

     ロディマスを探すことに、リディエラは少し迷った。先王妃アリエネの葬儀や老犬ルーディの夜について聞いたばかりで、さらに王太子の内側を弟から引き出せば、結局は黒ミッションのために弱点を集めることになる。今朝決めたのは、泣く理由を作るのではなく、泣いても困らないと思える状況を探すことだった。そのために弟の秘密を利用するのなら、選択肢を閉じた意味がない。リディエラは黒い帳簿へ、「兄の傷ではなく、弟自身が兄との関係をどう感じているかだけを聞く」と一行書き、学院北側の小さな射場へ向かった。 午後の射場には乾いた草の匂いと弦が空気を切る短い音が漂っていた。ロディマスは王族用の練習区画で一人、標的へ矢を射ていたが、放たれた一本は中心からわずかに右へ外れた。白金の髪の少年は「外した」と低く呟き、次の矢を取ろうとして入口のリディエラに気づくと、明るい青の瞳を露骨に細めた。前に資料室で話した時より警戒が強く、弓を下ろしながらも自分から近づこうとはしない。「今度は何を聞きに来た」「少しだけ、お話しできればと思って」「兄上のことなら嫌だ。母上のことも、ルーディのことも話しただろ。あれ以上、兄上の弱みを教えるつもりはない」 返事は取りつく島もなかったが、それは当然の拒絶だった。ロディマスの立場から見れば、婚約者でありながら兄の過去を調べ回っているリディエラが、何かに使うため弱点を探しているように見えてもおかしくない。黒ミッションを抱えている以上、「絶対に利用しない」と将来まで保証することにもためらいがあったが、少なくとも今日ここへ来た目的だけは違う。リディエラは標的と少年の間を避け、射線から十分離れた場所に立った。「殿下を傷つける材料にするつもりはありません」 ロディマスの眉が動いた。「……兄上を?」「はい。今日は、あなたがお兄様といる時にどう感じているのかを聞きたいのです」「僕の気持ちを知って、どうする」「今は何もしません。ただ、殿下が誰かを守ろうとする時、守られる側にはどう見えるのかを知りたいと思いました。話したくなければ、ここで終わります」 風が射場を抜け、積まれた藁束を乾いた音で擦った。ロディマスはすぐには答えず、矢筒へ戻した矢羽を指先で整えながら、何度かリディエラの顔を確かめる。やがて彼は近くの長椅子へ腰を下ろし、弓を隣に置いた。話すと決めたというより、ど

  • 死亡率99%の悪役令嬢ですが、好感度50を外すと全員が壊れます   第26話 王子を傷つければ簡単なのに

     目を覚ました時、窓の外はまだ朝になりきっていなかった。薄い雲の向こうから青白い光が差し、寝台の天蓋と床の境目を曖昧にしている。昨夜の雨は止んでいたが、窓硝子には水滴が残り、暖炉の灰からは湿った薪の匂いが漂っていた。リディエラは上掛けの中で一度深く息を吸い、視界の隅に残っている黒い表示へ目を向けた。〈黒ミッション残り時間:48時間00分00秒〉 数字が切り替わり、〈47時間59分59秒〉へ変わった。その下に見慣れない白い枠が開き、黒い画面の中央へ細い銀線が走る。これまでにはなかった項目が、命令ではなく助言を装うように静かに浮かんだ。〈推奨攻略〉〈先王妃アリエネ関連イベントを使用してください〉 リディエラの指先から、眠気が消えた。昨夜、ティルヴァンと向かい合って食事をしたばかりだった。香りの強い根菜を最後に食べる理由を聞き、雨の日を好む理由を聞いた。先王妃についてどこまで知ったのかと問われた時にも、彼が今その話を聞きたいかを確かめ、本人が「今日はいい」と答えたところで止めた。それを遠回りだとでも言いたげに、黒い画面がさらに広がった。〈推奨選択肢〉〈A:母親の死を責める〉〈B:無実の侍従を処刑した罪を指摘する〉〈C:母親の遺品を破壊する〉〈D:自身が理解者であると告げる〉 最初の3つを読んだ時には、嫌悪より先に身体が強ばった。だがDへ視線が移ったところで、リディエラはかえって長く画面を見つめた。一見すると、4つの中で最も穏やかだった。責めない。壊さない。罪を突きつけない。ただ、自分だけはあなたを理解していると伝えるだけだ。 孤独だったのですね。泣けなかったのですね。母上を失って苦しかったのでしょう。他の者には分からなくても、私は分かります――そんな言葉を柔らかな声で並べればいい。暴力も毒も使わず、相手を抱き締めるような形で心の奥へ入っていける。 セフィランの顔が浮かんだ。怒ってしまったのですね。妹を羨ましいと思ったのでしょう。愛されたいだけなのではありませんか。本人より先に感情へ名前をつけ、救いたいという善意で出口を狭めていく。Dは、それと何が違うのだろう。 自分だけが理解していると宣言するには、まずティルヴァンが何を感じているかをこちらで決めなければならない。母を失って悲しい。告発した侍従のことで罪悪感がある。誰にも弱さを見せられず孤独だ

  • 死亡率99%の悪役令嬢ですが、好感度50を外すと全員が壊れます   第25話 婚約者を知ろうとしなかった女

     王宮の小食堂には、雨の匂いが薄く入り込んでいた。 夕方から降り始めた雨が、高い硝子窓を細かな指先で叩いている。外はすでに暗く、庭園に並ぶ魔術灯だけが濡れた石畳へ青白い光を落としていた。 長い食卓の中央には、白い花と銀の燭台。 料理は2人分。 王も王妃もいない。 今夜は、王太子とその婚約者が今後の学院行事について確認するための、形式的な夕食会だった。 少なくとも表向きは。 リディエラはティルヴァンの向かいに座っていた。 濃紺の正装。 白金の髪。 背筋はいつも通り真っ直ぐで、ナイフを持つ角度まで乱れがない。 ティルヴァンは食事中もほとんど音を立てなかった。 給仕が皿を下げる時には僅かに身体を引き、次の皿が置かれる位置を見ずとも把握している。 それを見ながら、リディエラは不意に気づいた。 自分は、この人が食事をするところを何度見ただろう。 婚約したのは幼い頃だ。 王宮の晩餐。 公爵家での食事。 学院の茶会。 隣へ座った記憶はいくつもある。 それなのに。 彼が何を先に食べるか。 何を残すか。 熱い物と冷たい物のどちらを好むのか。 食事中に話す方なのか、静かな方なのか。 そういうことを、過去のリディエラはほとんど覚えていなかった。 覚えているのは別のことばかりだ。 王太子妃らしい姿勢。 失敗しない食器の扱い。 隣国の令嬢より豪華なドレス。 母エネファが認める髪型。 ティルヴァンが婚約を解消しないために、どう振る舞うべきか。 ずっと隣にいたはずなのに、彼を見ていなかった。 見ていたのは、彼の隣に立つ自分だった。「食欲がない?」 ティルヴァンの声で、リディエラは顔を上げた。「いえ」 皿を見る。 白身魚と香草。 半分ほどしか食べていない。「少し考え事をしていました」「毒のこと?」「今日は違います」「では、魔術灯?」「それも違います」 ティルヴァンの視線が一度、リディエラの顔を確かめるように動く。「珍しいね」「何がでしょう」「君が考えていることを、こちらから当てなくても答えるのが」 責める調子ではなかった。 ただ、過去との違いを記録するような言葉。「隠す必要のないことでしたので」「隠す必要があることは、まだ多い?」 黒ミッション。 システム。 好感度。 先王妃の記録。

  • 死亡率99%の悪役令嬢ですが、好感度50を外すと全員が壊れます   第24話 先王妃の死

     旧王妃庭園へ続く渡り廊下の手前で、リディエラは足を止めた。 視界の隅では、黒い表示が時刻を刻み続けている。〈推奨接触時刻まで:08分42秒〉〈対象:ティルヴァン・エルグレード〉〈対象は旧王妃庭園へ移動中です〉 あと8分。 このまま進めば、会える。 システムがわざわざ時間と場所を指定したということは、そこにティルヴァンを泣かせるための何かがあるのだろう。 亡き母の庭園。 十一歳で失った王妃アリエネ。 母の死後も涙を見せなかった少年。 老犬の亡骸の前で、「僕が悲しめば、皆が困る」 と口にしたという記憶。 そこまで材料が揃えば、何をすればよいかは想像できる。 母親の話をする。 葬儀の日を尋ねる。 泣かなかった理由を問う。 昔の傷を丁寧に撫で、閉じ込めてきたものが溢れるまで待つ。 優しく行えば、暴力には見えない。 けれど目的は同じだ。 涙を得るために、相手の最も痛い場所へ触れる。 ネレスの言葉が蘇る。 ――一番触れられたくない傷を探して、そこを抉ればいい。 リディエラは旧王妃庭園へ続く扉を見た。 白い石造りの廊下。 先には王宮警備兵が2人立っている。 通ろうと思えば通れる。 王太子の正式な婚約者であるリディエラには、その資格がある。「お嬢様?」 後ろからマルタの声がした。「参られないのですか」「……今日はやめます」 システム表示が明滅する。〈推奨接触時刻まで:07分56秒〉 命令ではない。 推奨。 ならば従わなくても、今すぐ失敗にはならない。「別の場所へ行きます」「どちらへ?」「王宮記録局です」 マルタの目が僅かに見開かれた。「先王妃陛下について、もう少し確認します」「殿下へ直接お尋ねにならないのですか」「本人へ尋ねる前に、私が何も知らなさすぎます」 自分が知りたいからと、本人にすべて説明させる必要はない。 公開されている記録から確認できるところまでは、自分で調べる。 そのうえで、なお本人へ尋ねる必要があるのか考える。 リディエラは踵を返した。 背後で推奨時刻だけが減り続けている。 王宮記録局は、王城西翼の古い棟にあった。 白亜の華やかな中央宮殿とは違い、灰色の石壁に細い窓が並ぶ実務的な建物だ。扉の上に王冠と羽根筆を組み合わせた紋章が掲げられている。 入口で身分を確認

  • 死亡率99%の悪役令嬢ですが、好感度50を外すと全員が壊れます   第23話 王子の涙を売る商人

     資料棟を出た時、時計塔は15時12分を指していた。 旧王妃庭園へ向かうよう示された時刻は16時10分。 視界の隅には、別の時間が減り続けている。〈黒ミッション残り時間:66時間49分37秒〉 リディエラは回廊の途中で足を止めた。 ティルヴァンの母アリエネが亡くなったこと。葬儀でも泣かなかったこと。母の老犬が死んだ夜、「僕が悲しめば、皆が困る」と口にしたこと。 知ってしまった。 だが、その知識を使うつもりはない。 旧王妃庭園で亡き母の話を故意に持ち出し、老犬の記憶へ触れる。泣いてもよいと優しく言いながら、涙が出るまで傷を撫で続ける。 そんなことをすれば、黒い表示は喜ぶかもしれない。 リディエラは嫌だった。 ただ、嫌だという感情だけで残り時間は止まらない。 もう一つ確かめたいことがある。 どこまでが無効で、どこからが「本人の感情」と判定されるのか。 身体を傷つけることは無効。薬も、魔術による強制も、演技も無効。 では、偽りの知らせによって本気で悲しませた涙はどうなる。 他人から誘導された感情でも、本人が本当に悲しめば有効なのか。 そんな境界を尋ねる相手として、一人だけ思い浮かんだ。 最も相談したくない男でもあった。 ネレス・カルヴァディン。 好感度11。未だ排除域。 毒を盛り、殺す理由を教えず、価値がある間だけ生かすと言った青年。 同時に、人間がどこで傷つくかをよく知っている。「マルタ」 少し後ろを歩いていた侍女が顔を上げる。「はい」「東棟へ寄ります」 マルタの表情が露骨に曇った。「ネレス様ですか」「おそらく」「またお茶を?」「飲みません」 即答すると、彼女は少しだけ安心したようだった。「人の多い場所で話します。前と同じように、少し離れていてください。ただし、私が杯に触れたら来てください」「今回は杯に触れないとおっしゃったばかりでは」「念のためです」「分かりました」 以前より、彼女は質問するようになった。 それが嫌ではなかった。 東棟の談話回廊は、午後の講義を終えた生徒たちで賑わっていた。 香辛料を練り込んだ焼き菓子の匂い。異国語の会話。窓のない回廊を風が通り、吊るされた布飾りを鳴らしている。 ネレスは、以前と同じ奥の席にいた。 今日は3人の男子生徒を相手に、札を使った遊戯をしている

  • 死亡率99%の悪役令嬢ですが、好感度50を外すと全員が壊れます   第22話 涙を見せない王子

     旧王妃庭園へ向かうまで、まだ数時間あった。 黒いミッションは、視界の隅で時間を削り続けている。〈残り時間:69時間14分08秒〉 リディエラは表示を閉じた。 焦れば、傷つく言葉を探し、過去を暴き、泣くまで追い詰める方へ傾く。それをしないと決めたのなら、まず知るべきは「どうすれば泣くか」ではなく、「なぜ泣かないのか」だった。 王立アルセリア学院の中央資料棟には、王家に関する公刊記録も保存されている。 王太子の生い立ちそのものは秘密ではない。 むしろ、王位を継ぐ者の歩みとして積極的に残されていた。 リディエラは司書へ申請し、宮廷年報、王都新聞の縮刷版、学院行事記録を閲覧机へ運んでもらった。 高い窓から射し込む朝の光。 遠くで頁をめくる乾いた音。 黒い革表紙の宮廷年報を開く。 最初に出てきたのは、六歳のティルヴァンだった。 公式晩餐へ初めて出席した日の記録。〈王太子殿下は幼少ながら終始ご立派な態度を保たれ、諸侯の挨拶へ一人ずつお応えになった〉 添えられた記録画には、小さな白金の髪の少年がいる。 大人用の椅子へ座れば足が床へ届かないほど幼い。 それでも背筋を真っ直ぐ伸ばし、膝の上へ両手を置き、正面を見ている。 笑っていない。 怯えてもいない。 子どもらしい退屈さすら見えない。 次は八歳。 外国使節団を迎えた時の記録だった。〈殿下は使節の母国語による挨拶を披露され、両国友好の象徴として大きな称賛を受けられた〉 写真のティルヴァンは、やはり同じ顔をしている。 唇の角度まで整っているように見えた。 十歳。 王太子として初めて民衆の前で短い演説を行った。〈未来の王としての責任をすでに深く理解しておられる〉 どの記録も褒めている。 泣かなかった。 取り乱さなかった。 怯えなかった。 失敗しなかった。 そのすべてが、美徳として同じ方向へ積まれていた。 リディエラは紙の余白へ簡単に書き留める。 六歳――公式晩餐。 八歳――外国使節。 十歳――初演説。 すべて「落ち着いていた」「立派だった」「年齢以上」と評価。 子どもらしい感情が記録されていない。 羽根筆を止める。 記録にないことと、存在しなかったことは違う。それでも、周囲が何を価値あるものとして残したかは分かる。 感情を抑えられる王子。 乱れない

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