LOGIN昨夜は飲みすぎた。
いや、正確には“朝まで飲んで、今ようやく意識が戻った”と言うべきか。
ベッドの中で響くスマホの着信音が、頭蓋の裏側をカンカン叩いてくる。
画面には「しずか」。
こんな時間に……?
珍しいというほどじゃないけど、嫌な予感しかしない。
「……なに? こんな朝早くに……飲みすぎて頭痛いから手短にね……」
『ようこ……あんたね……世間一般では“夕方”って言うのよこの時間は。これだからフリーライターは……まあいいわ。会わせたい男がいるの』
しずかから“男”なんてワードが出るとは思わなくて、私は一気に目が覚めた。
ー
しずかの部屋の玄関を開けると、まず驚いたのは部屋の“綺麗さ”だった。
……ここ、本当にしずかの部屋よね?
段ボールも服も、変なオブジェみたいなゴミの塔もない。
先日までの残念感が一掃されている。
「それで!? 男って!? 彼氏!? セフレ!? それとも……つまみ食いのお裾分け!?」
勢いのまま問い詰めると、しずかは大きくため息をつく。
「全部不正解よ。私をなんだと思ってるのよ……」
「だってさぁ、こんなに綺麗にしてくれる男でもできたのかと思ったのよ」
「これは“お隣さん”よ。まあ、そのお隣さんの話なんだけど……」
お隣さん?
ああ、しずかが前からたまに話していた“あのおっさん”か。
話を聞きながらも、私はあまり期待していなかった。
どうせ冴えない中年だろうと思っていたから。
「……会ったことはないけど、ただのニートのおっさんなんでしょ? 食指は動かないかなあ」
「話聞いてた? あんたにエサを与える話なんてしてないから。
ようこ……あんたワンオペで大変って言ってたし、ちょうどいいかと思って。“職場体験”。」
ああ、そういうことか。
ただでこき使える荷物持ちってわけね。
「……でもおっさんなんでしょ? 私より体力なかったら荷物持ちが荷物になっちゃうじゃん?」
しずかは、隣の部屋──ヤスタカの部屋の壁を見て、小さく苦笑した。
「いやぁ……体力は……有り余ってるみたいよ……」
ああ、その言い方。
壁越しに“聞こえてた”ってことね。
私は、一瞬だけ興味が芽生えた。
ー
「はじめまして。ヤスタカと申します」
現れたのは、白髪混じりの髪、深めのほうれい線。
いかにも“年相応”の見た目の男。
だけど不思議と、嫌な下心みたいな目はしていなかった。
「しずかから話は聞きました。でも大丈夫?
フリーライターって、書くより走る仕事のほうが多いのよ?」
「しばらく助手としてよろしくお願いします」
私が半ば睨むように問いかけても、怯むどころか素直に頭を下げる。
そういう素直さは悪くない。
「じゃああなたのことはヤスタカでいいわね。敬語はいらない。
呼び方も好きにして。ようこでもようこ様でも」
「わかったよ、“ようこ様”!」
なんで“様”つけたのよ。
でも……この軽さは嫌いじゃない。
しずかは呆れた顔でぼそりと漏らす。
「……あんたたち、距離の詰め方バグってるわね……」
いや、たぶんこの男は相性がいいんだろう。
“仕事の相性”という意味でね。
ー
ヤスタカを連れて2週間。
荷物持ちとしては合格。
いや、それ以上に――クリエイターとしての熱量が異常だ。
私が言ったことはすぐ吸収するし、構成もそこそこ理解してる。
いわゆる“伸び代の塊”。
この業界では珍しいタイプ。
(性知識ゼロの童貞に広い世界を教えるみたいな……そんなワクワク感があるのよね)
そう思っている自分に気づき、こっそり頬が緩んだ。
ー
「おい、そこにいるのはようこか!」
競馬専門のフリーライター、あい。
情熱がそのまま人格になったみたいな女。
"今話題の調教師"の取材、いるかもとは思っていたけど……
「まあいるわよね。あんたも取材?」
「いや、私が見に来たのはあの仔馬だ!」
指差す先にいる仔馬の血統を、私は知らない。
専門外だし。
代わりにヤスタカが答える。
「あの子、あの馬の初子ですよね? 配合も面白いし成長曲線も……」
一瞬で、あいが喰いついた。
「おお! 分かる! そうなんだ、この配合がね――」
私は苦笑して割り込んだ。あいの大声に周りの目が集中していたからだ。
「あい。周り見なさい。彼はヤスタカ。私の助手」
「そうか! ヤスタカ殿、よろしく! では私は行く!」
疾走していくあいを見送りながら、ヤスタカは呟いた。
「情熱的すぎるというか……なんというか……」
私は思わず笑ってしまった。
ー
取材も終えて、記事も納品した。
じゃあ飲むしかない。
「カンパーイ!!」
気分が良すぎて一杯目から飛ばしまくった。
「いやあ今回は助かったわ! 私の奢り! 飲め飲め!」
「なんで一杯目からベロベロなんだよ……」
「楽しく飲もうよ♡ それとも私のおっぱい飲む?」
これは……まあ、打ち解けた証拠だと思ってほしい。
「ごめん。俺には可愛い彼女がいるから。彼女以外の肉塊に用はない!」
「ちょっと……肉塊とは失礼な……これでも“出版業界のお偉いさん”界隈では評判の揉み心地よ?」
私は両手で胸を持ち上げてドヤる。
ヤスタカは、お酒のせいかなんなのか、顔を赤らめて視線を逸らす。
「お、おう……そうか……突然とんでもない爆弾入れてくるな……」
言い合いながら飲む酒は美味しい。
そして、徐々に……話題は、あいへ。
あいの文章が不安定な理由も、彼女の潔癖さも、
ヤスタカには驚くほどちゃんと理解できていた。
この男は、本質を見る目がある。
そして酔いも回り、会話はだんだん“危険な方向”へ。
「いろはちゃんとは毎日なの? 48で絶倫って本当?」
「なんか……隙あらば搾ってくるんだよ……可愛いだろ……」
(……ああ、これはやばい。
豹変するタイプじゃないにしても……
酔ったらタガが外れる系の男か)
私は酔いと好奇心に背中を押されて、
“つまみ食いするか”という悪魔の囁きに抗えなくなる。
すぐ隣が“そういうホテル”なのも背中を押した。
ヤスタカは、酔ってはいるものの自分の足で歩いてチェックインした。"そういうホテル"だとわかっているのかいないのか……
──なにが引き金だったのか、うまく説明できない。
ただ、あの瞬間のヤスタカは、獣みたいに静かで、
それでいてどうしようもなく激しく、そして優しかった。溢れる情熱を宿しながらも慈しむかのように肌を寄せる。
私は途中から意地も計算もぜんぶ捨てていた。
だって、勝てない。
どれだけ余裕ぶっても、あの男は無自覚に決定打を打ってくる。
記憶がところどころ飛んでいる。
最後のほうなんて、まともに息も吸えてなかった。
気づけば私の意識は、
──落ちた。
完全に。
闇に沈む直前、腕の中で感じた温度だけが残っている。
「……くそ、悔しい……」
負けたという事実だけ、はっきり覚えている。
ー
朝。
目を開けた瞬間、まず見えたのは天井ではなく、
うつ伏せで眠るヤスタカの背中だった。
(……距離、近っ……)
肌と肌のあいだに残る熱が、あまりにも生々しい。
喉が乾く。
記憶も、体の感覚も、全部“昨夜の結果”を物語っていた。
「……私、気絶したんだわ……本気で……?」
認めたくなかった。
女としてのプライドがギリギリのラインで引っかかってくる。
こんな負け方、人生で初めて。
しかも相手は、それを自覚していないタイプの男だ。
「……ふざけないでよ……ほんと……悔しい……」
顔を両手で覆った。
見られたくなさすぎる。
そこへ、寝返りの気配。
ヤスタカがゆっくり目を開け、私の方を見る。
「……ようこ?」
彼と目が合う……いつもの私ならここで艶っぽく笑みを浮かべて余裕のピロートークをするところだ。
だけど今日は違う。完全敗北した私に余裕なんて無い。
「ヤスタカ……今はあんまり見ないで……」
彼は少し勘違いをした。どうやら彼の中で“私を無理やり連れ込んだ”と思ったようだ。
「すまん!酔ってたとはいえ。若い女性と……こんな……すまん!」
こんな時でも彼は誠実だった。この状況を“ラッキー”の一言で切り替えられる男ではなかった。
「謝らないで、ちゃんと合意の上だから……見られたく無いのは……気恥ずかしさ……というか……負けた悔しさというか……」
今、私の顔は耳まで真っ赤だっただろう。だから見せたくないだけだった。
「いや、でも……」
心底申し訳なさそうに土下座する中年。そそるじゃない……
私は彼に跨り唇を塞いだ。
これはリベンジの合図ではない。心が彼の誠実さと色気と情熱に惹かれてしまった決定的な証拠だ。
「もし……悪いと思うなら……“コレ”で払ってくれないかしら?」
私はゆっくりと……腰を深く沈めていった……
ピンポーン 私、“まあや”は、山奥の一軒家のチャイムを鳴らす。 ネットでこんな噂を耳にしたからだ。 人里離れた山奥に住まう、トップクリエイター集団の事を。 曰く、このハウスに入れば成功は約束されたようなものだと…… 例えば、視聴回数数百程度の動画のアカウントが日本でわずか数%の上位配信者に食い込んだとか。 ただ、悪い噂もある。 曰く、その団体の代表は、若い女性クリエイターを金で集めて性的に搾取していると…… 成功と性交を天秤にかけて……やかましいわ! こほん……つまり、私でもワンチャン成功できると言うこと!歌い手として! とはいえ、田舎から出てきてまた山奥の田舎に来ると言うのは正直複雑です。 でもそんなことは言ってられない。 動画で予習した限りでは、この巨大な日本家屋の中にとんでもない最新設備が備わっているとか。 だけど、設備だけで成功できるほどこの業界は甘く無い。なにか特別なノウハウが?いや、そんな怪しげなセミナーみたいな……歌い手として名をあげるのに、精神論のノウハウなんて学んでいる暇はない。 悪い方の噂にはちょうどいい田舎具合なのでしょうけど…… あれ?これは……早まったかも…… 成功したい一心であまり考えずに来てしまった…… そんな事を考えていると、玄関が開けられた。 しまった!チャイムを押していたんだった!「はーい。あなたがまあやさんね? ヤスタカ……代表から聞いてるわ。才能のありそうな歌い手なんですって?上がって。 ああ、私はしずか。小説家よ」&n
こんにちは、りえです。 皆さん私のことをチョロい女だと思っているようですが、そんなことはありません。 私だって、それなりに経験を積んだ大人の女です。 ほ、本当です!信じてください!ヤスタカさんが異常なんですよ! ー「さあいろは、帰りましょう」 ここは高校の教室。授業も終わり、部活に入っていない私といろはは帰る準備を整えていました。 そんなとき、いろはのスマホにLINEが……「ごめーんりえ!この間のおじさまからお誘い来ちゃった♡」「またですか?最近特に多くないですか?」 私の言葉に不思議そうな顔をするいろはは、確かに最近毎日学校終わりに誰かの元に行ってしまう。 なにやら2人の会話に齟齬を感じたいろははこともなげにこんな言葉を言い放ちます。「ああ違う違う。最近また人数増えちゃってさ。ローテーションしても毎日でも時間が足りなくて♡学校終わりから回らないと全員と会えないんだよね♡」 私はジト目でいろはを見ます。「回るって……ああそうですか。私には関係ありませんが、病気やトラブルは勘弁してくださいよ?」 何の話かといえばいろはのセフレの話です。 このいろはという子は、初体験は小学校、中学卒業の頃には経験人数が3桁に及び、女子高生というブランドが付いてからは加速度的に人数が増えていっています。 その間、“彼氏”と呼ばれる相手も何人かはいたようですが、彼女の性欲と多様なSEXへの探究心は、1人の男の背中には重過ぎるのです。 よって、“彼氏っぽい男”は絶えずいるのですが、いろはとしては1人に絞る気はないようです。前
いろはです。私の原点を語るとしましょう。 私の原点。即ちヤスタカさんとの出会いから、私が私になったと言えます。 それまでの私を語るには……BAN待ったなしの条例違反です。 ー 都内のソープランド。私の職場です。 経緯はアレですが、SEXが好き過ぎる私には天職でした。 今日も順調に趣味と実益の両立です♡「いろはちゃん。今日のラストは新規で90分、オプションは即尺とマットね。ラストだから延長ガッポリ稼いできてよ」「はーい♡私、明日休みなんで閉店朝でもいいですか?♡」「む……オプション追加できたらな?」「任せてください!タマタマも財布も空にしてやりますよ!♡」 ー「初めまして、いろはです♡」「初めまして、ヤスタカです。きょ、今日はよろしくお願いします」 ベビードールに身を包み、三つ指をついて出迎える私。 恐らく風俗経験が乏しく緊張が伺えるその人は40代後半といったところでしょうか。 白髪混じりの髪と、苦労を物語るほうれい線が浮かぶ顔。 身長はそこそこ高いし筋肉もありそうですが、“使うための筋肉”のようです。 ガテン系によくあるオラ付きが見えないことから製造工場勤務といったところでしょうか。「んふ♡緊張してるんですか?身構える必要ありませんよ♡どうかリラックスしてください♡良かったら敬語も無くして欲しいです。無理にとは言えないですけど……」 私は、相手が不慣れと見るや早速あざとく親密度を改ざんします。 少し悲しげな表情で上目遣いで“可愛いお願い
朝は驚いた。“私たちはみんな壊れている”。そう突きつけられた。ううん、突きつけられるまでもなく、このハウスが異常なのはわかっていたこと……だけど、ああもハッキリ言われると考えざるを得ない。思えば私はこんなんだったっけ?ヤスタカに恋して、ヤスタカについてきて、ヤスタカと交わって……これだけなら普通の恋愛。けどその間に7人もいるのは確かにおかしい……気がする……そんな関係も朝の話でどうなるやら……なんて思っていたけど……「ちょっとめぐみ……あなたここの倫理観に物申してなかった?なんで今日の今日で参加してるのよ……」夜。ここはヤスタカの部屋。朝の話で参加者が減ればヤスタカを独占できるかも、なんて思ったのに……「あははは……いやぁ普通じゃないとは思ってるのよ?けどまぁそれはそれ。“だからしない”とはならないわよ。気持ちいいSEXは別腹みたいな?あん!♡」「めぐみ、集中しろよ。全力が見たいんだろ?」「あ!そ、そう!遠慮しないで!ん!ん!♡あ、これヤバい!奥!潰れちゃう!あ"〜!」もう……ヤスタカの全力……私がお願いしようと思ったのに……というか、なんで全員いるのよ。朝あんな空気になってもすることはするとか……みんな性と思想が乖離しすぎよ……
「ん、ん、ん、そう……そこ!もっと……強く!」「くっ……!まだ!?ちょ……休ませて……」私は、男の人が崩れていく表情が好き。もちろん行為自体も大好きだけどね。でもハウスに住んでから、ちょーっと物足りないのもホント。ー「ふぅ!ようこちゃん……良かったよ」ベッドでうつ伏せになる男。タバコをふかす角度、満足げな表情と間。私はまだ足りないくらいだけど……でもこれくらいが“普通で日常”。大人の……恋愛ゲーム……気絶する方が、私の遍歴の中では異常事態。ヤスタカはバグね。「ふふ……そう?ありがと。じゃ、私は帰るわね?また連絡ちょうだい♡」「ああ、じゃあこれ、タクシー代。また連絡するよ」そう、これこれ。ドライでウェットな余裕ある大人の会話。そして私は余裕のある大人の女。妖艶で性剛で自由に生きる大人の女。ー「あ!あ!強すぎ!あ!あ!あ〜!♡……もう……無理……」バグには連戦連敗。なんならヤスタカも狙ってるわよね。ほんと、嫌な男。「あ、ようこ……またか……」
今日もハウスは通常運行。(これが通常?そんなわけない……はずよね?)不健全どころか、ハウスに来る前より健全だ。夜中に仕事をする人間が激減。朝起きて、ご飯を食べて、仕事して、夜はみんなでまったりと過ごす。夜型の多いクリエイター集団でこれは、なんなら一般家庭より健康的でしょう。(字面だけは……ね……)健康な大人の男女が交わるのも普通。むしろ、何もない方が不健全じゃないかしら?(そう思ってしまう自分がおかしいんでしょうね……本当は)大人数が暮らせばそういうことも……致し方ないんでしょうね。(致し方ない?普通は1対1。じゃなかったかしら……)……まあ、気を失うのが日常なのは、少し危険な香りがしなくもないけど。(うん、これは流石にアウト)ー「みんなおはよう!めぐみはさっきぶりだな」ヤスタカの、静かな朝の空気を切り裂く声。いつも思うけど、この人いつ寝てるのかしらね。ショートスリーパーってやつ?「おはよう。今日は朝ごはんの当番私だからね。他のみんなは?あいの拘束、ちゃんと解いてきた?」一時期少し悩んでたみたいだけど、すっかり晴れやかになって……罪悪感は消えたのかしら。ううん、違うわねこれは。抱えたまま前を向いている……そんなとこ







