ANMELDEN衝撃的な閃きから一夜明けた朝。
差し込む光は昨日と同じはずなのに、胸の奥だけが妙にざわついている。
これから俺に何ができるのか──不安と期待が同時に膨らむ。
ピンポーン。
インターホンに乗ったしずかの声は、明らかにくたびれていた。
『はい……なに?あんた達揃って……まあいいわ。鍵は開いてるから入って……』
女性の一人暮らしとしてはだいぶ無防備だが、
これが“残念美人”と呼ばれるゆえんでもある。
ー
リビングに入ると、しずかはノートPCに顔を近づけ、
キーボードを叩きながら眉間にしわを寄せていた。
くたびれたスエットに着古したインナーは首元が伸びきって、肩の片側がわずかにずり落ちている。
見えてはいないが、その奥のラインが想像できるくらいには緩んでいた。
世間から“天才美人小説家”なんて呼ばれているくせに、生活態度は壊滅的だ。
「……汚いな……」
「はい……たしか二週間前には掃除したはずなんですけど……」
段ボール、緩衝材、包装紙。
そして玄関の隅には──なぜかパンツ。
俺は思わず眉をひそめた。
「しずか……忙しいのはわかるが、掃除くらいしてくれよ……家事代行の金取るぞ……」
「いいじゃない。知らない人に荒らされるくらいなら、知ってるおっさんに下着漁られる方がまだマシよ」
冗談なのか本気なのか、その判定すら面倒だ。
ただ、漁る必要はない。自然と落ちているから。
俺は思わず声を荒げた。
「掃除させろ!座る場所もない!」
こうして突発の大掃除が始まった。
ー
掃除の途中、ふとベッド脇のキャビネットが目に入る。
「ここ、触ったことないな……どうせ中もぐちゃぐちゃなんだろ」
軽い気持ちで手を伸ばした瞬間だった。
「駄目っ!!」
いつになく大きな声で、しずかが俺の前に飛び込んできた。
頬は赤く、目は潤んで、荒い呼吸。
伸びたインナーの隙間からちらりと見えた細い布地は、今日の彼女がどれほど余裕のない状態かを雄弁に語る。
「しずかさん……女の子の“パンドラの箱”、ですよね?なのでヤスタカさん、そこは他人が触ってはいけないんです。察しなくていいのでわかってください」
いろはが静かに微笑む。
しずかは歯を食いしばり、小さく震える声で言った。
「いろは……喋ったら……わかってるわよね……」
中身については追及しないことにした。
死ぬほど面倒くさそうだから。
ー
一通り片付いた頃、いろはが時計を見て叫んだ。
「もう!お部屋の掃除に来たんじゃないんです!バイトの時間です!」
慌ただしく靴を履き、走り出す──かと思いきや、
ドアから顔だけ戻して爆弾を落としていく。
「しずかさん!二人きりだからってヤスタカさんに手を出しちゃダメですからね!」
走り去る背中に、しずかの反論が追いつかない。
「出さないわよ!こんなおっさん趣味じゃ……!ないわけじゃないけど!
手を出すほど飢えて……るけども……ケダモノじゃないんだから、私!」
真っ赤になりながら言う姿は、怒っているようで泣きそうにも見える。
ー
ソファに座り直したしずかは、俺を睨むように見て言った。
「で?お金死ぬほどあるくせに、なんでいろはちゃんにバイトさせてんの?」
「俺だって働かなくていいって言ってるんだけどな。
『結婚してるわけじゃないから』って言うし」
いろはの稼ぎはすべていろはのもの。
彼女がくれた“生活費”は、丸ごといろは名義の口座に積んである。
しずかはそこに踏み込みすぎない。
その線引きが、長い友人関係でも崩れない理由だ。
「で?この“天才小説家様”の時間を奪ってまで何がしたいの?」
「ああ、"残念天才小説家様"にお願いがあって……」
俺が言い切る前にしずかが割って入って睨みつける。
「あんた……それが人にモノを頼む言い方?」
「……お前の方こそそれが男の前に出る格好か?」
座る時にずれたのだろうか。伸び切ったスエットが引っ張られ、ブラもパンツも見えてしまっている。
指摘されたしずかは顔を真っ赤にして、言い訳にもならない言い訳を始めた。
「み……見せてんのよ!あんたみたいなおっさん、こんな美人の下着が見れるんだから感謝なさい!」
「残念だったな!俺には可愛い彼女がいるからな!大体お前の下着なんてそこらに落ちてて普段から見放題だろ!ハンカチと同等だよ!」
「よく言うわね!あんたが掃除した後っていつも下着が減ってるんだけど!?いらないなら返しなさいよ!」
「人聞き悪いこというなよ!お前がそこかしこに捨てておくから減った気がしてるだけだろ!」
……いかん……つい熱くなった……しずかと話しているといつもこうだ。
話題がパンツなのに艶っぽくならないのはしずかの残念さの為せる技だな。
しかし今回は真面目な相談だ。ここは俺が一歩引こう。
「真面目な話だ。お前の見識を借りたいんだ。“何か”を創るために」
真正面から言葉を置く。
しずかはようやく真剣に目を向けた。
「ふうん。“小説”を書きたいわけじゃないのね?」
「しずかの仕事ぶりは尊敬してる。でも俺がやりたいのは別の形だと思う」
「……まあいいわ。面白い子がいるの。会ってみなさいよ」
ー
「フリーライターのようこさん、ですか」
晩御飯を作りながら、いろはに話す。
「ライターは色んな現場に行くからな。“職場体験”としては最適だろ」
「助手として同行……ですね。ヤスタカさんらしいです」
今日の晩御飯はカレーだった。
2人並んで「いただきます」と声を合わせる。
パク……モグモグ……
──そのあとに続く音が、おかしい。
ジー……パク……チュプ……
俺がカレーを食べているのに、
いろはは俺の“別の部分”を食べている。
「なあいろは。美味しいけど……肉、入ってなくないか?」
「チュ……プハッ!あ、あれ?解凍したままレンジに入れっぱなしだったかも!」
いろはは悪びれもせず笑って、また足元に潜り込んでくる。
「ここにソーセージありますよ……ペロリ。ヤスタカさんも食べます?」
「絶対に嫌だ……!」
「そうですか。切り分けるつもりだったんですけど……」
「発想が怖いわ!」
「ところでヤスタカさん。十五センチって、ソーセージですか?フランクフルトですか?」
「知らん!測ったの!?」
「チュ♡ 私レベルになると見ただけでわかるんですよ?」
そのまま、再び舌が這う。
俺の呼吸に合わせ、いろはの肩がわずかに上下する。
甘い匂いと体温が、足元から這い上がってくる。
「そ、そうか……すごいな……早く食べないと冷めるぞ…?」
「冷めるどころか……どんどん熱く、硬くなってますよ。安心してください♡」
その声音はいつものいろはより、
少しだけ必死に聞こえた。
隙あらば──いや、隙がなくても求めてくる。
ここ最近のいろはは明らかに“攻め”の姿勢だ。
理由なんて深く考えない。
恋人同士なんて、こういうところも含めて普通だと思っていた。
幸い、最近は体力が満ちすぎているくらいだ。
いろはに求められるのは悪い気分じゃない。
むしろ嬉しい。
いろはも、きっと満足してくれているだろう。それがたまらなく幸せだ。
──この時はまだ。
その“理由”を、何ひとつ疑っていなかった。
ピンポーン 私、“まあや”は、山奥の一軒家のチャイムを鳴らす。 ネットでこんな噂を耳にしたからだ。 人里離れた山奥に住まう、トップクリエイター集団の事を。 曰く、このハウスに入れば成功は約束されたようなものだと…… 例えば、視聴回数数百程度の動画のアカウントが日本でわずか数%の上位配信者に食い込んだとか。 ただ、悪い噂もある。 曰く、その団体の代表は、若い女性クリエイターを金で集めて性的に搾取していると…… 成功と性交を天秤にかけて……やかましいわ! こほん……つまり、私でもワンチャン成功できると言うこと!歌い手として! とはいえ、田舎から出てきてまた山奥の田舎に来ると言うのは正直複雑です。 でもそんなことは言ってられない。 動画で予習した限りでは、この巨大な日本家屋の中にとんでもない最新設備が備わっているとか。 だけど、設備だけで成功できるほどこの業界は甘く無い。なにか特別なノウハウが?いや、そんな怪しげなセミナーみたいな……歌い手として名をあげるのに、精神論のノウハウなんて学んでいる暇はない。 悪い方の噂にはちょうどいい田舎具合なのでしょうけど…… あれ?これは……早まったかも…… 成功したい一心であまり考えずに来てしまった…… そんな事を考えていると、玄関が開けられた。 しまった!チャイムを押していたんだった!「はーい。あなたがまあやさんね? ヤスタカ……代表から聞いてるわ。才能のありそうな歌い手なんですって?上がって。 ああ、私はしずか。小説家よ」&n
こんにちは、りえです。 皆さん私のことをチョロい女だと思っているようですが、そんなことはありません。 私だって、それなりに経験を積んだ大人の女です。 ほ、本当です!信じてください!ヤスタカさんが異常なんですよ! ー「さあいろは、帰りましょう」 ここは高校の教室。授業も終わり、部活に入っていない私といろはは帰る準備を整えていました。 そんなとき、いろはのスマホにLINEが……「ごめーんりえ!この間のおじさまからお誘い来ちゃった♡」「またですか?最近特に多くないですか?」 私の言葉に不思議そうな顔をするいろはは、確かに最近毎日学校終わりに誰かの元に行ってしまう。 なにやら2人の会話に齟齬を感じたいろははこともなげにこんな言葉を言い放ちます。「ああ違う違う。最近また人数増えちゃってさ。ローテーションしても毎日でも時間が足りなくて♡学校終わりから回らないと全員と会えないんだよね♡」 私はジト目でいろはを見ます。「回るって……ああそうですか。私には関係ありませんが、病気やトラブルは勘弁してくださいよ?」 何の話かといえばいろはのセフレの話です。 このいろはという子は、初体験は小学校、中学卒業の頃には経験人数が3桁に及び、女子高生というブランドが付いてからは加速度的に人数が増えていっています。 その間、“彼氏”と呼ばれる相手も何人かはいたようですが、彼女の性欲と多様なSEXへの探究心は、1人の男の背中には重過ぎるのです。 よって、“彼氏っぽい男”は絶えずいるのですが、いろはとしては1人に絞る気はないようです。前
いろはです。私の原点を語るとしましょう。 私の原点。即ちヤスタカさんとの出会いから、私が私になったと言えます。 それまでの私を語るには……BAN待ったなしの条例違反です。 ー 都内のソープランド。私の職場です。 経緯はアレですが、SEXが好き過ぎる私には天職でした。 今日も順調に趣味と実益の両立です♡「いろはちゃん。今日のラストは新規で90分、オプションは即尺とマットね。ラストだから延長ガッポリ稼いできてよ」「はーい♡私、明日休みなんで閉店朝でもいいですか?♡」「む……オプション追加できたらな?」「任せてください!タマタマも財布も空にしてやりますよ!♡」 ー「初めまして、いろはです♡」「初めまして、ヤスタカです。きょ、今日はよろしくお願いします」 ベビードールに身を包み、三つ指をついて出迎える私。 恐らく風俗経験が乏しく緊張が伺えるその人は40代後半といったところでしょうか。 白髪混じりの髪と、苦労を物語るほうれい線が浮かぶ顔。 身長はそこそこ高いし筋肉もありそうですが、“使うための筋肉”のようです。 ガテン系によくあるオラ付きが見えないことから製造工場勤務といったところでしょうか。「んふ♡緊張してるんですか?身構える必要ありませんよ♡どうかリラックスしてください♡良かったら敬語も無くして欲しいです。無理にとは言えないですけど……」 私は、相手が不慣れと見るや早速あざとく親密度を改ざんします。 少し悲しげな表情で上目遣いで“可愛いお願い
朝は驚いた。“私たちはみんな壊れている”。そう突きつけられた。ううん、突きつけられるまでもなく、このハウスが異常なのはわかっていたこと……だけど、ああもハッキリ言われると考えざるを得ない。思えば私はこんなんだったっけ?ヤスタカに恋して、ヤスタカについてきて、ヤスタカと交わって……これだけなら普通の恋愛。けどその間に7人もいるのは確かにおかしい……気がする……そんな関係も朝の話でどうなるやら……なんて思っていたけど……「ちょっとめぐみ……あなたここの倫理観に物申してなかった?なんで今日の今日で参加してるのよ……」夜。ここはヤスタカの部屋。朝の話で参加者が減ればヤスタカを独占できるかも、なんて思ったのに……「あははは……いやぁ普通じゃないとは思ってるのよ?けどまぁそれはそれ。“だからしない”とはならないわよ。気持ちいいSEXは別腹みたいな?あん!♡」「めぐみ、集中しろよ。全力が見たいんだろ?」「あ!そ、そう!遠慮しないで!ん!ん!♡あ、これヤバい!奥!潰れちゃう!あ"〜!」もう……ヤスタカの全力……私がお願いしようと思ったのに……というか、なんで全員いるのよ。朝あんな空気になってもすることはするとか……みんな性と思想が乖離しすぎよ……
「ん、ん、ん、そう……そこ!もっと……強く!」「くっ……!まだ!?ちょ……休ませて……」私は、男の人が崩れていく表情が好き。もちろん行為自体も大好きだけどね。でもハウスに住んでから、ちょーっと物足りないのもホント。ー「ふぅ!ようこちゃん……良かったよ」ベッドでうつ伏せになる男。タバコをふかす角度、満足げな表情と間。私はまだ足りないくらいだけど……でもこれくらいが“普通で日常”。大人の……恋愛ゲーム……気絶する方が、私の遍歴の中では異常事態。ヤスタカはバグね。「ふふ……そう?ありがと。じゃ、私は帰るわね?また連絡ちょうだい♡」「ああ、じゃあこれ、タクシー代。また連絡するよ」そう、これこれ。ドライでウェットな余裕ある大人の会話。そして私は余裕のある大人の女。妖艶で性剛で自由に生きる大人の女。ー「あ!あ!強すぎ!あ!あ!あ〜!♡……もう……無理……」バグには連戦連敗。なんならヤスタカも狙ってるわよね。ほんと、嫌な男。「あ、ようこ……またか……」
今日もハウスは通常運行。(これが通常?そんなわけない……はずよね?)不健全どころか、ハウスに来る前より健全だ。夜中に仕事をする人間が激減。朝起きて、ご飯を食べて、仕事して、夜はみんなでまったりと過ごす。夜型の多いクリエイター集団でこれは、なんなら一般家庭より健康的でしょう。(字面だけは……ね……)健康な大人の男女が交わるのも普通。むしろ、何もない方が不健全じゃないかしら?(そう思ってしまう自分がおかしいんでしょうね……本当は)大人数が暮らせばそういうことも……致し方ないんでしょうね。(致し方ない?普通は1対1。じゃなかったかしら……)……まあ、気を失うのが日常なのは、少し危険な香りがしなくもないけど。(うん、これは流石にアウト)ー「みんなおはよう!めぐみはさっきぶりだな」ヤスタカの、静かな朝の空気を切り裂く声。いつも思うけど、この人いつ寝てるのかしらね。ショートスリーパーってやつ?「おはよう。今日は朝ごはんの当番私だからね。他のみんなは?あいの拘束、ちゃんと解いてきた?」一時期少し悩んでたみたいだけど、すっかり晴れやかになって……罪悪感は消えたのかしら。ううん、違うわねこれは。抱えたまま前を向いている……そんなとこ







