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117:夜の出来事

last update Date de publication: 2025-11-28 11:35:09

※R18シーン

 智輝が結菜にプロポーズしてから、数日後のこと。

 樹をホテルのベビーシッターに預けて、2人はスイートルームに立っていた。

「結菜。君とこうして触れ合えるなんて、夢のようだよ」

「私も……。まさか一緒になれるなんて、少し前までは思ってもいなかった」

 2人は自然と抱き合う。互いに伝わる体温が、何よりも愛おしい。

 結菜が智輝の胸に頭を擦り付けると、心臓の音がとくとくと聞こえてきた。

「結菜……」

 智輝の吐息が結菜の頬にかかる。近づいてきた唇を、結菜は目を閉じて受け入れた。

 最初はついばむように。ちゅ、ちゅとリップ音を響かせて。次に偶然を装って、智輝の舌が結菜の唇を割り開く。

「んっ」

 5年ぶりに味わう口づけは、どこまでも甘い。絡まる舌は熱くて、結菜は夢中で彼の舌を吸った。

 舌の裏の敏感な部分を突かれて、結菜はびくりと身を震わせる。そんな彼女を押さえつけるように、智輝はキスを深めた。

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    「あの子だけ、この家で瞳の色が違う。いつかそのことで、結菜さんと柚葉ちゃんが疎外感を感じて、気に病んでしまうのではないかと」 鏡子の告白に、結菜は目を見張った。 完璧を求める彼女が、そんな些細な感情の機微を気に留め、孫や嫁の心を案じていたなんて。「でも、杞憂でしたね」 鏡子は、柚葉が走り去った扉の方へ視線を向けた。「あの子は、少しも卑屈になっていませんでした。ただ、お姫様になりたいという純粋な気持ちから、違いを悔しがっていただけ。結菜さんが愛情たっぷりに、まっすぐに育ててくれたおかげです」 その眼差しに、かつて結菜を震え上がらせた「氷の女帝」としての冷たさは少しもない。 そこにあるのは、家族を深く慈しむ、一人の祖母としての温かい愛情だけだった。(この人は、きっと……) 結菜の胸の奥に、温かいものが込み上げてくる。(元々、こういう優しい人だったんだ。桐生家という大きな家と、会社を守るという重い責任を果たさなければいけないという思いが強すぎて……心を武装していただけで) 冷たい仮面の下に隠されていた、不器用だけれど深い愛情。 今はもう、大人になった智輝が立派に会社を切り盛りしている。 結菜という妻を得て、孫が2人もいる。どちらもとてもいい子だ。 エドワードが療養先から戻り、相談に乗ってくれる。 それらのお陰で、鏡子は重責を下ろせた。 だからこそ彼女は素顔を見せている。 それに気づけたことが、結菜は何よりも嬉しかった。 結菜が温かな眼差しで微笑み返すと、鏡子もまた、ふっと口元を緩めた。「結菜さん。先ほどのネックレスだけでなく、私のコレクションで気に入ったものがあれば、遠慮なく言ってください。差し上げますよ」「えっ! そんな、とんでもないです!」 結菜は慌てて両手を振った。 鏡子は少しだけ苦笑する。寂しそうでもあり、納得したような笑みだった。「私はもう、引退が近い

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     黒い布地の上に鎮座していたのは、大粒の宝石があしらわれたネックレスだった。 透き通るような深い琥珀色。光の加減で黄金色にも、濃いチョコレート色にも見える、神秘的な輝きを放っている。「これが、トパーズという宝石です」 鏡子がネックレスをつまみ上げると、金のチェーンがしゃらりと軽やかな音を立てた。 窓からの光を反射して、トパーズが柚葉の顔を優しく照らす。 光は柚葉の瞳に差し込んで、彼女は少し眩しそうに目を細めた。「わぁ……」 柚葉の瞳から涙が引いた。代わりに、好奇心と感嘆の光が灯る。 小さな口をぽかんと開けて、目の前で揺れる美しい宝石にすっかり夢中になっていた。「きれいでしょ? 柚葉ちゃんの瞳は、この宝石と同じ色をしているのですよ。とても高貴で、美しい色だわ」「ゆずのおめめ、これとおんなじ?」「ええ、そうよ。だから、泣く必要なんてどこにもないの」 鏡子の優しい言葉に、柚葉は自分の目元を小さな手でこすった。 トパーズのネックレスに向かって、おずおずと手を伸ばす。「これ、ゆずの?」 純粋な欲求に、結菜は慌てて口を挟んだ。 子供には明らかに高価過ぎる品物だ。「こら、柚葉。そんな高価なもの、おねだりしちゃ駄目よ」 しかし鏡子は結菜を制するように軽く手を上げると、柚葉に向かって微笑んだ。「今はまだ、柚葉ちゃんには少し大きすぎるわね。でも……」 鏡子はネックレスを小箱に戻し、パチンと蓋を閉めた。「あなたがもう少し大きくなって、素敵な大人の女性になった時、お祝いにプレゼントしましょう。それまで、ばぁばが大事に預かっておくわ」 その提案に、柚葉の顔がぱあっと明るく輝いた。 涙の跡が残る頬を上気させ、満面の笑みを浮かべる。「ほんと!? やくそくだよ、ばぁば!」「ええ、約束です」 柚葉は鏡子の首に小さな腕を回し、ぎゅっと抱きついた。

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    「魔法の飲み物……」 樹はもう一度、カップの中のキャラメル色の液体を見つめた。 確かに魔法みたいだ。あんなに乾燥した草みたいな茶葉が、お湯とミルクでこんなに甘くて美味しい飲み物に変わるなんて。 樹は今まであまり紅茶を飲まなかったけれど、すっかり虜になってしまった。 それに、ひいおじいちゃんの顔色も、さっきよりずっと良くなっている気がする。 本当に魔法みたいだった。「ひいおじいちゃん、元気になった?」 樹が尋ねると、エドワードは力強く頷いた。「ああ。樹が一緒に作ってくれたからね。100人の医者よりも、この1杯のミルクティーの方がずっと効き目があるよ」「ほんと? やったあ!」 樹はクッキーをかじり、ミルクティーをごくりと飲んだ。  甘いクッキーとミルクティーの組み合わせは最高だ。口の中が天国みたいに幸せな味で満たされる。「樹」 エドワードが、少し真面目な顔をして名前を呼んだ。「今日は美味しい紅茶をありがとう。私はもう年寄りで、ベッドで休む日が増えてしまうかもしれない。でもね、樹がお兄ちゃんとして立派に成長していく姿を見ることが、今の私にとって一番の元気の源なんだよ」 エドワードのしわだらけの大きな手が、樹の小さな手をそっと包み込んだ。  少しごつごつしているけれど、とても温かくて安心する手。樹の大好きな手だ。「だから、お父さんやお母さんの言うことをよく聞いて、柚葉のことも守ってあげるんだよ。立派な、桐生家の男としてね」「うん! ぼく、お兄ちゃんだもん。柚葉のことも、ひいおじいちゃんのことも、ぜったい守る!」 樹が元気よく宣言すると、エドワードは声を上げて笑った。「ははは! それは頼もしい。次はロイヤルミルクティーではなく、普通の紅茶の淹れ方を教えてあげようか。ティーポットに茶葉とお湯を入れて、茶葉を踊らせるんだ」「ちがう淹れ方もあるんだね。そっちも美味しそう! また明日も、一緒に作ろうね!」「ああ、約束だ」 キッチンに、幼い男の子と老紳士の温かな笑い声が響く。  窓の外には、冬の柔らかな日差しが降り注いでいた。カップから立ち上る紅茶の甘い香りが、二人を優しく包み込んでいる。 樹は心の中で、小さな決意を固めた。  もっともっと練習して、1人で完璧なロイヤルミルクティーを淹れられるようになろう。  ひいおじいちゃんを元気

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    「違うだろう。私はただ、お前や雅臣くんや智輝に、幸せになってほしかったのだよ」「……!」 鏡子は絶句した。 幸せになってほしい。そんな素朴な願いが、尊敬する父の口から飛び出るなんて。「お前の伴侶に雅臣くんを選んだのは、彼が優しい心の持ち主だからだ。お前のビジネスの手腕と、雅臣くんの優しさ。夫婦の力が合わされば、いい未来を掴み取れると思った。……現実は、そこまで上手くいかなかったかもしれないが」 エドワードは苦く笑った。「あの…&

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     エドワードの登場に、その場の空気が、一瞬にして凍りついた。 先ほどまで智輝を糾弾していた役員たちが、まるで幽霊でも見たかのように目を見開き、一斉に椅子を引いて立ち上がる。その動きは、まるで軍隊の号令にでも従うかのように、一糸乱れぬものだった。 彼らは皆、若き日のエドワードのカリスマ性と厳しさを知る世代。その創業者を前に、彼らは会社の重役ではなくただの平社員へと戻っていた。 鏡子もまた、完璧なポーカーフェイスを崩していた。信じられないものを見たように唇をわずかに開く。(お父様がなぜ、ここに……?)

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     樹は結菜から取り上げられて、桐生家に引き取られる。その後、樹がどういう扱いを受けるかは想像に難くない。智樹自身が通ってきた道なのだから。(それだけは、絶対にさせない) 結菜に全てを話すしかなかった。自分の置かれた状況も、彼女たちを守るという決意も。彼女に信じてもらうしかない。 智輝は、テーブルの上に放り出してあった車のキーを掴むと、部屋を飛び出した。自らハンドルを握ってアクセルを踏み込む。夜の闇に沈む海辺の町を、彼の車は一直線に結菜のアパートへと向かった。 アパートの前に車を停め、部屋の明かりがついているのを確認すると、彼は一

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  • 氷のCEOは、愛の在処をもう知らない   101

     智輝は、これが母によって周到に準備された、一種の劇場なのだと瞬時に悟った。議題も役員たちの発言も、結末も、全ては鏡子の描いた脚本通りに進むのだろう。これは会議などではない。自分を断罪するための、罠だ。 議長席に座る最古参の役員が、重々しく口を開いた。「では、これより臨時取締役会を始める。本日の議題はただ一つ――桐生CEOのプライベートに関する、一連の由々しき報道についてだ」 その言葉を皮切りに、役員の一人が手元のタブレットを操作した。プロジェクトルームにいる智輝のモニターに、ある週刊誌の電子版記事を共有する。『名門・桐生財

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