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第262話

Author: 月影
紗希は乃亜の泣き声を聞き、胸が締めつけられるような思いだった。すぐに手を伸ばして彼女を抱き締めた。

「乃亜……」

慰めの言葉は喉元で詰まり、一言も出てこなかった。

自分でさえこんなに苦しいのに、乃亜はその千倍も万倍も苦しんでいるだろう。それはいったいどれほどの痛みだろうか!

彼女がかけようとしたどんな言葉も無力に思えた!

傍らで職員が困り顔で言った。

「お二人、ご遺体を霊安室へお運びしなければなりませんので、長くここに留まることはできないんです!」

彼らは数多くの遺族を見てきた。中には悲しみに暮れる人もいれば、無表情な人もいた。

だが目の前のこのお嬢さんの泣き方は、とりわけ人の心を揺さぶり見ているだけで胸が苦しくなるものだった。

彼らはもう少し時間をあげたいと思ったが、規則だから仕方がなかった。

乃亜は手を上げてそっと涙を拭った。そうすれば、おばあちゃんの顔をもっとはっきりと見られる。

ゆっくりと手を伸ばし、そっと、ぱっちりと見開かれた祖母の目を閉じた。そして優しく囁くように声をかけた。

「おばあちゃん、安心して大丈夫よ。この恨みは、私が晴らしてあげるから!」

ほんの少し前まで、祖母の目は鈴のように大きく見開かれていた。彼女は未練を抱えたまま死んだのだ。

彼女は考えずにはいられなかった。最期の瞬間、祖母はきっとこう思っていたのだろう。自分が育てた孫娘が、どうしてここまで愚かな恋愛脳になってしまったのか?男のためにここまで貶められても、まだそばにいようとするなんて。

それとも、育てた孫娘がここまで侮辱されても反撃すらしないなんて、臆病なのか、それとも馬鹿なのか!そう思っていたのかもしれない。

何を考えていたにせよ、おばあちゃんの死は全て彼女のせいだった。間接的にとはいえ、彼女がおばあちゃんを死に追いやったのだ!

彼女は罪人だ!

彼女は一生、自分を許すことはできない!

紗希は胸が引き裂かれるような痛みを感じ、乃亜の傍らで涙を流していた。

彼女はかつての自分を思い出していた。

大切な人たちが次々と去って行ったあの日々を。

彼女はこんな生死の別れは、もう何度も経験してきた。

傍らの職員は乃亜の様子を見て、鼻の奥がツンとなった。

先ほどまでは、悲痛なほど泣き叫んでいたが、今は涙を堪え、強がっている様子がかえって彼女の深い絶望を表
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